式場で働いてみた
ウェスタの疑いが晴れて数日が経った。
……こっちが勝手に勘違いしていただけなのだが。
劇団に入るかどうかハピネスはまだ悩んでいるらしい。
そんな姿を見てレイヴンも悩んでいるらしい。
実際に会って話したわけではなく、デュークとシークからの情報だ。
これ以上は二人の問題なのであとは頑張れという話。
相談されたらもちろん応じるが……。
連絡がないので何とも言えない。
セシリアとも会ってないし、ハピネスが歌う会場の準備とかは大丈夫なのか。
俺も食事等の担当を名乗り上げたので余裕ぶってられないけど。
まずはクレイマンがいない穴を埋めるために今日もギルドで働かないと。
そう思い黒雷の魔剣士スタイルでギルドに来たのだけれど。
「おらおら、おせーぞ」
「はい、副ギルドマスター」
「サイン漏れてんじゃねーか。しっかりしろ」
「すみません、副ギルドマスター!」
「式神に仕事量、正確さで負けんじゃねぇ。ギルド長に掛け合って給料引いて俺に割り増しさせんぞ」
「頑張ります。見捨てないでください副ギルドマスター」
クレイマンが復活してギルドは中々の地獄絵図になっていた。
怪我治って良かったなという気持ちと少しは手加減してやれという気持ちが半分ずつくらい。
まあ、俺は仕事に来たのでクレイマンがいるなら、いつも通りクレイマンのいる受付へ行く。
「随分と現場復帰が早いじゃないか。もう少し時間がかかると思っていたんだがな」
「おう。俺ももう少し治療院でゆっくりする予定だったんだけどな。この前、ソフィアが令嬢を連れてきたんだよ。勇者パーティーの僧侶ってのはすげーわ。全く動けねぇ状態から辛うじて動くくらいには回復したぜ」
「おいおい……」
それってまだ入院してた方が良いんじゃないか。
セシリアの治癒魔法が周りより優れているとはいえ、明らかに無理してるだろ。
「万全ではない状態で職場復帰か。そんなことでは治療院に逆戻りになるぞ。ここは自分の同僚と部下。そして、この黒雷の魔剣士に任せておけ!」
びしっとポーズを決めて言い放つ。
職員も手を止め、おぉ……とリアクションし、俺の意見に同意するような視線を向ける。
決まったと思ったのだがクレイマンは面倒臭そうにため息をつき、一言。
「俺も休みてーけどよ。子どもの成長した姿を見せられてベッドの上で寝てるわけにはいかねーだろ。頑張ってる間くらいは格好いい大人の背中を見せてやらないとな。子どもにとって身近にいる大人は親だしな」
クレイマンの言葉でギルドが静寂に包まれた。
仕事の相談をしていたギルド員、依頼の打ち合わせをしていたパーティー、酒盛りしていた冒険者。
黒雷の魔剣士ですら何も言えなくなった。
それだけの力がクレイマンの言葉にはあったからだ。
クレイマン……これが父の魅せる背中ってやつか。
「おい、何だよ急に静まり返りやがって。仕事しろ仕事。騒ぐ奴は騒げ。打ち合わせ止めてんじゃねーよ。お前も棒立ちになってんな。依頼受けに来たんだろう。ほらよ」
クレイマンが依頼の書かれた用紙を投げてきた。
黒雷の魔剣士指名依頼だ。
俺への指名依頼か、難易度の高い依頼なのだろう。
しかし、依頼を迅速かつ完璧にこなす黒雷の魔剣士にかかればどんな依頼でも……。
「イベントスタッフとして希望だと。おい、クレイマン。これは本当に俺への指名依頼なのか」
どんなイベントなのか知らないが黒雷の魔剣士を呼ばねばならない程のものなのか。
まさか、貴族が集まるパーティーの護衛任務とか。
「おう。色々あって建物が壊れたらしくてな。ようやく修繕されたらしくてよ。それで建物が新しくなったってことで記念に何かやるらしいんだわ。その補助を頼みたいって話だ」
「場所は……勇者夫婦が結婚式を行った式場か」
ミラーが暴れたのが原因か。
被害なく止められなかった俺にも原因がある。
他にもユウガたちや蒼炎の鋼腕、騎士団もいたんだけどな。
あれは仕方ないって。
式場の復活は今後結婚式を挙げるカップルにとって必要不可欠。
手伝わない理由はない。
「任せるが良い。いつも通り最良の結果を出して見せようじゃないか!」
「おー……久々に鬱陶しいな。依頼を受ける気になったなら行った行った。こっちも忙しいんでな」
しっしっと俺を追いやるように手で払うクレイマン。
あの面倒臭いが口癖のクレイマンが忙しいなんて。
前もこんなことあったけど……この仕事モードはしばらく続くんじゃないか。
「よーし。ソフィアの弁当が食える昼時まで気合い入れっか。シエラ、覚悟しとけよ」
「何で私だけ名指しなんですか……」
「そりゃーもちろん俺がお前のために見合いの場を設けてやろうと考えてるからだよ」
「えっ」
「優秀なギルド職員として紹介するからな。それまでに今よりも優秀にならねーとな」
クレイマンのアメによりシエラさんの仕事効率は上がった。
見合いが上手くいったのかは今度聞いてみよう。
目をぎらつかせて仕事するシエラさんに良い出会いがありますように。
そう祈りつつ、俺は式場へと向かった。
道中、特に何かあるわけでもなく式場へ着いた。
ミラーとの戦闘時に壊れた壁は修繕され式場の職員が何人も忙しそうに走り回っている。
俺を見かけた職員が担当を呼んできますと声をかけて走り去り。
少し待つとそれらしき職員が話しかけてきた。
「今回は依頼を受けてくださりありがとうございます」
「ふっ、黒雷の魔剣士は依頼をより好みしないのでな。どんな内容でも迅速かつ完璧にこなしてみせようじゃないか」
「はい、では早速依頼の内容について何ですが……」
スタッフの説明によると俺にしてもらいたいのは防犯確認らしい。
騎士団にも協力してもらったそうだが、ユウガたちの結婚式の時。
俺が独自に動いて捜査していたことをレイヴンが教えたらしい。
その情報により俺へ依頼が舞い込んできたということだ。
侵入しやすそうな場所、警備の穴、その他諸々で助言が欲しいとのこと。
「ふむ……」
俺は顎に手を当てて考える素振りをする。
……どうするかな、普段は感覚強化に頼って捜査している俺。
技術的な助言と言われても正直難しいんだけど。
建物の図面を渡されてどうですかって聞かれても……どう答えれば良いんだ。
考えた結果。
「やはり、図面だけでは見えないものがあるな。邪魔にならないように動くので式場内を見せてもらっても構わないだろうか?」
必殺、現場視察。
それっぽいことを言ってこの場から離脱する作戦だ。
「もちろんです。式場の職員たちに黒雷の魔剣士様へ依頼を出していることは周知してありますので、存分にご覧になってください。控室も用意しておりますのでご利用下さい」
控室もあるのか、昼休憩可能ということだな。
まあ、式場の確認にそこまで時間をかけるつもりはないが。
案内してくれた職員と別れて式場内を見て回る。
忙しなく職員が動いてる中、マイペースに式場をうろつき回る。
図面を見て確認した部屋にチェックを入れる。
確認と言っても潜入できそうな場所、壁の脆さを見るくらいだ。
別に職員の人たちは鉄壁の結婚式場を作りたいわけじゃないはず。
勇者夫婦が結婚式を行った式場っていうことで人気が出る。
しかし、襲撃もあったというマイナス面も目立つ。
だからこそ、改装してイベントをして悪いイメージを払拭したいんだろう。
建物の防犯面の確認を黒雷の魔剣士がやったっていうのも宣伝してアピールするんだろうなぁ。
問題発覚したら俺に飛び火したりして……うん、当たり前だけど真面目にやろう。
「ん?」
僧侶が会場で祈りを込めている。
厄祓い的なやつだろうか。
……いや、それよりも重要なことがある。
「セシリアじゃないか……」
夫婦が愛を誓う場所にセシリアがいた。
こんなところで会うなんて。
というか、祈りに集中していて俺に気づいていないみたいだ。
手を折り重ねて目を閉じているので当然か。
うん、窓から入る日の光がちょうど良い感じにセシリアに当たって神秘的な雰囲気を出している。
気がつけば俺は見惚れていて。
祈りを終えたセシリアが俺に気づき、声をかけてくるまで惚けていた。




