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劇団長の話を聞いてみた

「最初は小さな劇団でした。街から街へと移動してお客様を楽しませていたんです。理解を得られていたかと聞かれると微妙ですね」



「理解って何でー?」



「戦争中ということでそんなことをする暇があるなら戦いに行けと言われたこともあったんですよ」



シークの疑問にウェスタは答える。

成る程、それで相当苦労したってことか。



「私はそれでもこの活動を続けました。勇者様方が必ず平和に導いてくださると信じていたからです。平和になった世の中で我々のような存在は必要になると。少しずつ受け入れられてきたところで……妻に逃げられました」



「まじっすか。軌道に乗ってきたところだったんすよね」



「ええ。妻もよく我慢してくれました。私が悪いんです。娘には沢山苦労をかけましたね。元々、身体が弱いのに無理をさせて。それでも私は商売で身につけた接客の技と出し物の発想を武器に頑張っていたんですよ」



「成る程なぁ。でも、それと笑い方に何の関係があるんだ」



「仲間が増えると交渉することも増えてね。どんなに疲れていても娘にそんな素振りは見せまいと笑顔を張り付けていたんです。そしたら娘が言ったんですよ。その笑顔が怖いって。どうやら私の作り笑顔は完成され過ぎていたみたいで幼い娘には怖かったようでして……それならと笑い方を変えてみたんです」



その結果、何かを企んでいるような含みのある笑顔になってしまったらしい。

当時のウェルディさんは怪しい笑顔をとても気に入ったらしく、ウェスタも悪くないと思い使い続けている。



ウェルディさんから良い加減、普通に笑えと前々から言われているらしいがウェスタは変える気はないそうだ。



初心を忘れない、娘にもう迷惑をかけないようにと自分への戒めにしているとか。



「つまり、その笑顔はわざとやっていて特にやましいことを考えているわけではないと」



「その通りでございます」



怪しい笑みを浮かべてウェスタは頭を下げてきた。

成る程、そういうことか。

……やっちまったぁぁぁぁぁぁぁ!

ただ、娘想いの優しい父親だったよ。



「ちょっと相談する時間をください」



少し離れて三人で円陣を組んで相談することに。

怪しんで調査しに来たのにこんなオチがつくとはな。



「さて、こんな話を聞いてしまったわけだが」



「隊長、人を見かけで判断するのは良くないっす」



「デューク兄の言う通りー」



最初に俺への批判から来るか。

まあ、今回のことの始まりは俺がウェスタの笑顔を疑ったからだしな。



「わかってるよ。でも、お前らだってハピネスのためってことで付いてきただろう。結果、ウェスタは全く問題はなかった。確認できて良かったじゃないか」



「まあ、そうっすね。人柄も悪くなさそうですし。調査してやばそうな雰囲気もなかったんで」



「僕もその辺がわかって安心したかなー」



もし、ハピネスがウェスタのところに行っても大丈夫そうだと。

他に確認することはないかな。



「あ、あのー」



相談中、控えめにウェスタが声をかけてきた。



「実はハピネス様の件とは別でお願いしたいことがありまして」



頼み事があるらしい、ハピネスとは別の案件か。

俺たち三人で解決できることなら良いのだが。

円陣を解いてウェスタの話を聞くことにする。



「えっと……娘についてなのですが。治療や本人の努力もあってか自由に動き回れるようになりまして。私の仕事の手伝いをしたいと。先程、素晴らしい動きをしていた御二方に娘の指導をお願いしたいのです」



成る程、ウェルディさんのためにデュークとシークに稽古をつけて欲しいと……俺は?



「そ、そうっすか……それくらいなら全然、構わないっす、よ」



「う、うん……僕も……協力、するよ」



こいつら俺だけ頼まれてないことに笑いを堪えてやがるな。

確かに俺だけここに来て何の動きも見せていない。



できないわけじゃないぞ、俺だって動ける。

でも、ここでそれを主張するのも格好悪いというか何というか。



「俺は見学していようかな」



そんなこんなでシークとデュークによる指導が始まった。

指導場所は先程通った稽古場だ。

ウェスタが娘さんを連れてきて動き方等を教える。



俺は舞台袖で見ているだけ、監督状態。

肝心の成果はというと。



「本人のやる気に問題はない。体の動かし方も間違っていないな。幼い頃から劇団員の動きを見ていたからだろう……でもなぁ」



残念ながら体からついていってない。

病弱と聞いていたがそれが原因かね。



おそらく、本人がイメージしている動きと実際の動きにかなりの差があるのではないか。

シークもデュークも頑張っているけど難しそうだ。



「娘はどうでしょうか」



俺の横には一緒にウェルディさんを見守っているウェスタの姿もある。

どうって言われても。



「まずは体を鍛えるところからだと思う。基礎的な問題だ。そもそもいくらシークやデュークの動きが良かったとはいえ、顔見知りの劇団員に教えてもらった方が良いかと」



それができないのかもうやったのか。

俺の質問にウェスタはゆっくりと口を開いて答えた。



「もちろん、劇団員にも娘の指導はさせました。しかし、娘は幼い頃、病弱だったためか体力がなくて」



「なら走り込みからだな」



「もちろん、娘は毎日取り組んでいます。体作りはしているんですが」



「努力が足りていないか単純に向いていないかだな」



センスがなくても毎日やり込めばそれなりにできるようにはなる。

血の滲むような努力をすればな。



ただ、ウェスタの娘さんが目指しているものによる。

ウェルディさんは果たして何になりたいのだろうか。

結局、あまり成果が見られないままで休憩に入る。



先程、俺を笑っていた二人は今後の指導方法について真剣な顔で話し合っていた。



「筋肉が足りてないっすね。単純な走り込みと鍛練だけでなく色々と項目を追加すべきっす。食事の改善も考えて……」



「デューク兄、適切な睡眠を取るのも必要だよねー。精神的負荷をかけ過ぎないのも大事だから、癒し効果のあるハーブ茶を調合しておくよーん」



「そうっすね。……ところでシーク、筋力増強の手助けになる薬なんかはあったりするっすか」



「うーんとねー」



「おい、そこまでにしとけ」



薬に頼ろうとしてるんじゃないよ。

シークのことだから危険な代物ではないと思うけど。

別に病気ではないのだから、そういうのは使わない方向にしような。



「でも、隊長。正直言ってかなり厳しいっすよ」



「僕の見た感じだとねー。最近、体を動かすようになったのかなーって」



デュークもシークも難しいと。

これはどうしたものかな。

ウェルディさんはやっぱり無理かと落ち込んで部屋にこもってしまったようだし。



「隊長。こういう時こそ隊長の出番っすよ」



「は?」



このタイミングで俺にパスってどういうことだよ。



「うんうん。女の子を慰めるのは隊長の仕事だよねー」



おい待て、いつから俺の立ち位置ってそういう感じになったんだ。



「二人共、本気で言ってるのか。俺は厨二な言動やら奇抜な発想やら思いつきの行動やらで恋人から何度も説教を受けるような男だぞ。落ち込んでいる女の子の介抱ができるわけ……」



「ここで何もしない方がセシリアさんは怒ると思うっすよ」



「うっ……痛いところ突いてくるな」



確かにここで何の行動も起こさない方が良くない。

行動の内容にもよるけど何もしないっていうのはな。



「隊長の出番とうらーい」



「……わかったよ」



ウェスタにも確認を取ってから娘さんの部屋へ。

シークとデュークはウェスタも仲間に入れて練習方法について会議するとか。



本当に俺一人で突撃するのかよ。

まあ、ここまで来たら覚悟は決める。



「ふっ、俺の力を見せてやろう」



緊張をほぐすために軽く厨二になって部屋へと向かった……のだが。

立ち直りが早く、部屋から出てきたところでばったり。

やはり、俺に相談役なんて回ってこないのか。



「あっ、すみません。すぐ稽古場に戻るので。父さんに呼んでくるように言われたんですよね」



俺と会って慌てている。

いや、別に稽古の催促に来たわけではないのだが。

何と答えるべきか……深く考えるなんて俺らしくないな。



「俺は何か悩みがあるんじゃないかと君の相談に乗るために来たんだ」



おい、初対面でこれは完全に怪しいやつだろ。

我ながら失敗したと思う。

しかし、俺の言葉に戸惑いを見せつつも。



「……入ってください」



部屋に案内されることになった。

相談役、俺で良いのか。

ここまで来たらやるだけなので部屋に入る。



お互い椅子に座って準備は整った。

さて、何についての相談なのか。



「あの……先程の稽古見てましたよね。私の動きはどうでしたか」



まず、そこから入るのか。

うーん、ここは正直に伝えた方が良いのかな。



「ああ、見ていたよ。俺は冒険者で身体を鍛えてるんだけど……君は身体の鍛えが足りないかな」



「やっぱりそうですよね。父さんや劇団員のみんなのおかげで体を動かせるようになってから、毎日訓練しているんですけど。中々、思うようにいかなくて」



「体を動かせるようになったのは最近?」



「はい。勇者様によって魔王が討伐されてから父さんたちの活動が認められて始めて……治療のためのお金が貯まったと泣きながら父さんに抱きしめられたのがついこの間のことなので」



もちろん、完全な寝たきりとかではありませんでしたと付け加えるウェルディさん。

短期間であれだけ動けるようになったと考えるとすごい。

だが、それなりの動きができるくらいでは無理だ。



「今、俺の連れ二人が君のための訓練内容を考えている。それを毎日、取り組めばまあ……少しずつ結果は出てくるよ」



「少しずつではダメなんです。私はすぐに父さんの役に立ちたい!」



語尾が強いよ、ウェルディさん。

大人しそうな印象だったのだが、父さん大好きっ子なのか。



頭の中にティールちゃんが出てきた。

いや、ガイは父親じゃないな、もっと違う関係だ。

二人のことは関係ないから置いておいて。

ここまで焦っている理由はなんなのか。



「すぐではないといけない理由があるのかな」



「はい。このまま私が役に立たないままだと……父さんが入れ込んでるハピネスっていう歌い手が入ってきて私はいらない子になってしまいます」



そこに繋がるのかよ!

というか、ハピネスが入ったとしてもウェルディさんがいらない子にはならないと思うんだが。



父さんっ子だからか、変な方向に思考が向いているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] この話を読んでいたら、広告にこの小説の漫画が出てきてある意味感動したw
[良い点] ええ話やぁ…。゜(゜´ω`゜)゜。 [一言] いやホント、そこに繋がるのかよw 入れ込んでるのをそっち方面に捉えたのか?w まあ、ヨウキなら問題ないでしょう。今までも数々の相談を受け解決に…
[一言] もう脱ぐしかないんじゃないかな…wktk
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