調査してみた
さて、三人でハピネスのためにウェスタのことを調査することに決めたわけだが。
「具体的にどうやって調査するかだな」
「そんなの簡単じゃないっすか。隊長の姿を消す魔法で忍び込んで探れば良いんすよ。絶対にばれないし、一人の時なら何か弱みを見せるかもしれないっす」
デュークがかなり現実味がありリスクの少ない作戦を提案してきた。
確かにその作戦ならバレることなく、怪しまれずに調査を行うことができる。
だが、この面子がそろっているのにそんな方法でこそこそ行くのはちょっとな。
「ここは真っ正面から行く作戦でいこう。もし、俺の勘が外れていたら……ただの不法侵入者になってしまう。デューク、俺はな……このタイミングで失敗してセシリアを悲しませるわけにはいかないんだ」
「悲しませるっていうかいつもセシリアさんは頭を悩ませてるって感じっすけどね」
「同感ー」
「止めろお前ら」
事実を伝えるんじゃないよ。
最近は落ち着いているはずなので大丈夫だ。
でも、申し訳ない気持ちになったから今度お菓子を差し入れよう。
「ま、まあ……俺のことはともかく。ハピネスのために正面突破するぞ!」
「了解っす」
「わかったー」
二人とも良い返事だ。
では、早速出発……いや待て。
「よし、まずは急に行くのも失礼だし手土産を買ってから行こう」
「そこからっすか」
「礼儀は大事だ。覚えとけシーク」
「はーい」
「こんなゆるい感じで大丈夫なんすかね……」
デュークが心配しているようだが大丈夫だろう。
「揉め事請負人の俺と元祖相談役のデュークがいれば大体何とかなるって」
「揉め事請負人て……隊長は揉め事活性役っすよ」
「おい、人を問題悪化させるやつみたいな言い方するな」
俺はそこまで酷くないからな。
「ねーねー、僕はー?」
シークが俺の腕を引っ張り自分の二つ名を聞いてくる。
浮かばなくて言わなかったのがお気に召さなかったらしい。
シークの二つ名って急に言われてもなぁ。
なんか目立った実績あったっけか。
「う、うーん……よし、思いついたぞ。シークは飛び級薬師だな」
「飛び級って何さー」
「子どもなのに頭が良いって感じだよ」
言葉の使い方間違っているけど、シークはそこまで気にしない。
「ふーん、隊長も僕の頭の良さがわかってるんだねー。なら、僕は飛び級薬師でいいよーん」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びをアピールするシーク。
変な方向に拗ねなくて助かったな。
こうして愉快な三人組の俺たちはお菓子を買ってから、ウェスタのいる劇団へと向かった。
「これはこれは。ハピネス様のご家族のヨウキ様ではないですか」
突然の来訪にもウェスタは丁寧に相手をしてくれた。
手土産を渡すと頭を下げ、今日はどのような用件でと聞いてくる。
まさか、貴方が怪しいので調査に来ましたとは言えない。
ハピネスを勧誘している劇団がどのようなことをしているのか気になり、家族総員で観に来ましたと説明。
どうぞご覧になってくださいと言われたので施設内をうろつくことに。
さて、観察の時間だ。
ウェスタは案内役として先導するらしい。
説明を聞きながら違法奴隷はいないか、虐げられている者はいないかと目を配らせて確認する。
感覚強化は……個人情報も考えて最終手段ということで。
「隊長ー、あれ楽しそうじゃなーい?」
「ん、ああ。空中ブランコか。こういうところじゃ定番だろ。隣のやつは……へぇ、風の魔法で打ち上げたボールを足場を頼りに跳んでいって取るのか」
土の魔法で作ったブロックが積み上げられていて、それを足場にすると。
身軽さが求められるようだな。
万が一落ちてもいいように地面には柔らかい枕が大量に敷き詰められている。
これで衝撃が吸収できるのかね。
「楽しそうだから行ってくるねー」
「あっ、おい!」
俺の制止を聞かずにシークは走っていった。
次は僕ねーと言い、周りは困惑しながらもボールを打ち上げる。
持ち前の身軽さを発揮してシークはどんどん跳び回りボールを簡単に取った。
そのままくるくると宙返りして着地を決めると周りから歓声と拍手が。
これには案内をしていたウェスタも驚いていたな。
まあ、シークに負けていられないとデュークも張り切っていたが。
剣に火や水の魔法を纏わせての剣舞でそんなんじゃ甘いと指導していたし。
現役騎士団が本気で剣の扱いについて語るとかさ。
しかもデュークの剣の腕前はかなりのもの。
役者が涙目だったぞ。
「いやはや……デューク様もシーク様もこのような技をお持ちとは。これでも劇団員は毎日厳しい訓練を積んでいるのですがね」
「まあ、俺たちは育った環境の問題もあるんで」
「そうですか……人材として欲しいくらいです」
「あの二人もそれぞれ仕事があるんで」
デュークとシークまでスカウトかよ。
確かに劇団の演目と合っているからなぁ。
二人とも尊敬の目で見られていたし。
俺だけ何も見せてない。
いや、俺だってシークみたいに身軽に動けるし。
剣じゃなくて拳でいいなら上手い具合に闘っている感じを演出できるからな。
……何だろう、言い訳臭くなり虚しくなった。
「大丈夫ですか。心なしか顔色が優れないような」
「あ、大丈夫です。何ともないんで」
勝手に落ち込んで精神的なダメージを負っただけだ。
心配されるほどではない。
その後ウェスタは団員に呼ばれ、すぐに戻りますので応接室でお持ちくださいと言い去っていった。
「そろそろ頃合いか……」
「隊長が変な顔ー」
「隊長。悪いっすけどクールな探偵顔は隊長には似合わないっす」
「ほっとけ」
思案中の顔に似合うも似合わないもないだろうよ。
会話の内容が聞かれるのは良くないので応接室へ行き、人の気配がないことを確認してから会議を開始する。
「さて、二人とも調査はどんな感じだ」
「そうっすねぇ……団員の人と話してみたっすけどウェスタさんの悪い話は聞かなかったっすよ。病弱の娘さんの面倒を見ながらこの劇団を盛り上げていった苦労人だそうっす」
「そうか。シークはどうだ」
「うーん。飼い慣らされてる魔物が酷い扱いを受けている様子はなかったかなー。見た感じ健康状態は悪くないし変な薬の匂いもしなかったよー」
「デュークもシークも成果はなし……というかさ。ここって何もない健全な劇団なんじゃないか?」
「隊長がそれを言うんすか。最初に疑っていたの隊長っすよね」
「そーだ、そーだー」
「うぐっ……」
正論過ぎて何も言い返せない。
俺が疑いの目を向けたのが悪かったのか。
二人の視線が冷たい。
だが、誰だってあの笑顔を見たら……。
「皆さんお待たせしてすみません。劇団の様子はどうでしたか?」
応接室にウェスタが入ってきた。
用事は終わったんだな。
「あー、俺には劇団の方々が真面目に練習していてプロ意識が高く、団結して盛り上げようと努力しているんだなと思いました」
「俺もそんな感じっすね。厳しく指導したんすけど絶対に技術を吸収してやるぞっていう気概を感じたっす」
「僕もー」
劇団の感触は悪くなかったので三人で感想を述べる。
気を良くしたのか、ウェスタの喜びが顔に出た。
怪しい笑みを浮かべてしまい、デュークもシークもぴくりと肩を動かして反応する。
やっぱり、怪しいよなぁ。
「劇団に好印象を持ってもらえたようでまとめ役として嬉しい限りです。どうでしょうか、ハピネス様をうちの劇団員に預けてもらえないでしょうか」
結局、そこに辿り着くんだよなぁ。
ハピネスの真意が不明なので俺たちだけで判断はできない。
まあ、劇団には何も無さそうだ。
あとはウェスタなんだよなぁ……その怪しい笑みは何なのか。
「失礼します、父さん」
悩んでいたところで応接室に少女が入ってきた。
書類を腕に抱えているな。
年はシークと同じくらいで清潔な白いローブを着ている。
今、ウェスタのことを父さんと言ったな。
「おや、ウェルディ。どうしたんだい。父さんは今お客様と話をしているんだが」
「別のお客様からの書類を受け取り忘れていたから私が届けに来てあげたのに……」
「そうだったのかい、ごめんな。許しておくれよ、ウェルディ」
なんてことない親子のやり取りなのだが、そこで怪しい笑みを繰り出すとは。
娘さんにもその笑みを浮かべているなんて。
俺たちが軽く驚いていると。
「もう、父さんたらまたその顔。良い加減、普通に笑わないとダメだよ」
「おっと。済まないね」
「また変な勘違いされちゃうから気をつけなよ……それじゃあ、私は行くから……失礼します」
俺たちに軽く会釈して応接室から出ていったウェルディさん。
変な勘違い……とは。
「あのー、ちょっと聞いて良いっすかね。普通に笑わないとっていうのはどういうことっすか」
「……少し長くなりますが、構いませんか?」
これ怪しい笑みには事情があったパターンだ。
……やっぱり、俺の勘は外れていたのではないだろうか。
内心そう思いつつ、ウェスタの話を聞くことにした。




