元部下を心配してみた
「さて、俺の作った人形を見て笑ったのか……正直に答えろシーク!」
「笑ったよーん」
「やっぱりかぁぁぁぁぁ!」
説教シーン人形を作って数日後。
俺はシークのリアクションが気になったのでアクアレイン家の屋敷を訪れていた。
セシリアは残念ながら仕事でいないらしい。
俺の癒しが……仕事なので仕方がないと割り切る。
それよりも今はこの無礼な元部下をどうするかだ。
一度逃げたらその身軽さを利用してどこまでも逃げるので今は襟首を掴んで宙吊りにしている。
さて、どうしてくれようか……。
「そういえば今日はティールちゃんやフィオーラちゃんと一緒じゃないんだな」
シークを巡って争っている二人の姿が見えない。
いつもならシークの隣は渡さないと言わんばかりに追いかけているのに。
「ティールちゃんはハピネス姉から仕事を教わってるよー。今日は抜け出せないんじゃないかって話してたなー。フィオーラちゃんは今日来てないからわかんなーい」
「そうか」
珍しいこともあるもんだな。
いや、この前のハピネスの一言が効いているのか。
……あり得る話だな。
「みんな大変なんだなぁ」
「隊長みたいに頭の中が常にお花畑じゃないと思うよーん」
「そうか、そんなに俺と一緒に全力ダッシュがしたいのか。今日は久々に一日特訓してやろう」
「それはいーやーだー」
このまま襟首を掴んで近くの森にでも連れて行ってやろうかと本気で考える。
しかし、俺には気になっていることがあった。
ハピネスを誘っているウェスタという男。
俺の疑い過ぎなのかどうも怪しい。
裏で何かやっているんじゃないかと。
あの笑みがどうも胡散臭くてなぁ。
ああいう笑い方だという可能性もある。
ハピネスの選択がどうなるかわからないけどさ。
家族として行動しても良いのではなかろうか。
「……シーク、修行はなしだ」
「修行はってことは他に何かするんでしょー」
察しの良いことで。
「良くわかったな。実はハピネスの歌が評価されてある劇団に誘われている。俺はそこの団長ウェスタがどうも胡散臭くてな。ハピネスがどうするかは置いておいて事前に調べておこうと思うんだが」
「へー、さっすがハピネス姉だね。ハピネス姉のためなら手伝うよー」
シークも乗り気と、これで準備は整った。
気分屋なシークがハピネスのためとはいえ、一発で手伝うと言ったんだ。
大人な隊長がご褒美をやろう。
「よし、まずは俺の行きつけのケーキ屋でケーキを奢ってやろう」
「やったー」
子どもらしく喜ぶシーク。
おい、嬉しいからって腕を振り回すな。
「あぶっ!?」
宙吊り状態のままだったため、シークの振り回した腕が俺の顎に当たる。
痛みにより顎を押さえて悶絶。
「あははー」
急に腕を離したのに特に転ぶことなく着地したシークは悪びれることもなく、俺を見て笑っている。
やっぱりこいつにきつめの修行を与えてやろうかな。
痛みに耐えながら、本気で迷った俺であった。
「あれ、閉まってるな」
隊長ごめんねーの一言で仕方なく許した俺はシークを連れてアミィさんとマッスルパティシエ、アンドレイさんの店に来ていた。
いつもなら開店しているのに……新作作成研究のため定休日だなんて。
「隊長ー。ケーキはー?」
「うーむ、間が悪いことに定休日という……」
「えー。僕食べたかったのになぁ」
こればっかりは仕方ない。
まいったな、甘いものはほとんどここで食べていたから、初見の店に入るしかないぞ。
奢ってやると言った以上、前言撤回はしたくない。
「あれ、隊長とシークじゃないすか。こんなところで奇遇っすね」
「あー、デューク兄だー」
シークがデュークに飛び乗る。
おいおい、兜が落ちないようにしろよ。
こんなところで首取れたら大事件だぞ。
「わわっ、ちょっとシーク。危ないから降りるっす」
「はーい」
今日のシークは子どもらしくテンションが高い。
いつも追いかけ回されたり、薬の調合を依頼されたりだからな。
俺やデュークの前だし甘えたいのかもしれない。
それにしてもデュークが一人で歩いているなんて珍しいな。
「おう、デューク。今日は非番か。イレーネさんはどうした?」
「イレーネは里帰りの長期休暇を取るために出勤しているっす」
「お前は良いのか?」
「俺は大丈夫っすよ。仕事溜めたりしてないんで」
その言い方だとイレーネさんは仕事を溜めているように聞こえるぞ。
フォローしてやらなくて大丈夫か。
イレーネさんのことを考えたら心配なんだけど。
「そろそろ俺がいなくても安定して動いて欲しいっすよ。これから一緒に頑張るって決めたからこそ、頼りすぎるのは良くないと判断したっす」
「そういうことか」
「デューク兄は厳しいねー」
「俺が厳しくするのはその分期待をしているからっすよ」
その厳しさが優しさなのだと言う。
今頃、イレーネさんはひいひい言いながら仕事をしているだろうな。
「まあ、そんな感じで暇ができたんで隊長のところに顔を出そうかと思って。それで土産でも買っていこうとしてたんすけど」
「そういうことか。でも、見ての通り今日は定休日なんだよな」
「仕方ないっすね。違う店に入るっす。イレーネとの行きつけがあるんで案内するっすよ」
デュークが行きつけに案内してくれることになった。
助かった、これで俺の威厳も保たれる。
……元々あるのかわからんけど。
「良かったなシーク。デュークが彼女との行きつけに案内してくれることになって」
「うん。デューク兄がここで彼女さんといちゃついてるんだなーって思いながらケーキ食べるんだー」
「余計なこと考えないで欲しいっすよ……」
美味いものは余計なことを考えずに食えとのこと。
デュークの案内で歩き、到着。
アミィさんの店からあまり離れておらず、歩いたのは十分ほど。
ケーキ専門店ではなく、カフェ風の店だな。
「デュークもこんなオシャレな雰囲気のある店にイレーネさんを連れてきてるなんて……やるな」
「デューク兄、やるねー」
「シークはともかく、隊長は俺のこといじれないと思うんすけど」
おっと、あまり言い過ぎたら俺がやられてしまいそうだ。
ここからは自重することにしよう。
「まあ、俺の話はまた今度な」
「あっ、逃げたっすね」
「逃亡ー」
「奢るから静かにしてくれ」
四人がけのテーブルに座り適当に注文する。
奢りだからってシークは容赦なく、沢山注文して食べていた。
おいおい、少しは遠慮してくれよ。
「それで、今日の目的はなんなんすか。隊長ならご飯奢るためだけでシークを連れ出したりしないっすもんね」
「まあな。デュークも知ってるだろう。ハピネスが歌声を買われて劇団に誘われてるって話をさ。そこの団長がな、怪しい感じなんだ」
「ふーん。それで調べようってことっすか」
「俺の杞憂なら良いんだけど。ハピネスがどんな選択をしてもいいように陰ながら助力しようかと」
「ハピネス姉のためにー」
シークもハピネスのためならとやる気充分だからな。
デュークは止めた方が良いって言いそうだけど。
俺の行動で何かが悪化するとかさ。
そんな感じで反対しそうな……。
「ハピネスのためっすか。なら、俺も協力するっす」
これは予想外な結果になったな。
少しも考えずに協力することを選ぶなんて。
「デュークなら止めると俺は思ったんだけど」
「まあ、ハピネスのためっすからね。何もなければそれで良いんす。ただ、ハピネスの純粋な歌声を悪巧みに使うとかだったら許せないんで」
「僕もハピネス姉には幸せになって欲しいから、頑張るー」
ハピネスは俺たちの家族だからな。
レイヴンと良い感じになっているところだし。
ハピネスの将来のためにも三人で調査するとしますか。




