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元部下に心配されてみた

ハピネスは俺とセシリアの結婚式を心配してくれている。

さて、どう答えるべきかな。



楽観的に考え過ぎているのは良くない。

心配されているのだから、不安を煽る発言も控えたいし……。



返す言葉に悩んでいるとセシリアから目配せが……そうだな。

弱気になるなんて俺らしくない。



「ふっ、ハピネスよ。俺を誰だと思っている。俺はお前の元上司で今まで数々の問題に直面しても解決してきた男だぞ。それに……セシリアと一緒なら大丈夫。二人で何とかするさ」



「私はあまり根拠のない発言しないのですが。ヨウキさんとなら不思議と大丈夫かなって思えるんです。という訳で私たちのことは心配しなくても大丈夫ですよ」



「そうそう。いざとなったら空で……」



「それは最終手段ですね」



「おっ、採用してくれるんだ」



「冗談ですよ」



そりゃそうだよねと言い二人で笑い合う。

うん、何があったって何とかできるってなったわ。



ハピネスも俺たちのやり取りを見て安心してくれただろう。

表情を窺ってみると……あれ、安心した顔じゃないな。



口を開けてぽかーんとしている。

滅多に見れない顔だ、レイヴンに見せてやりたい。

いつもみたいに成る程とか言って欲しいんだけど。



想定外のリアクションを取られかける言葉が見つからない。



「ハピネスちゃん、どうかしましたか?」



心配になったのかセシリアが声をかける。



「……忘れ物」



「忘れ物か。レイヴンのところか?」



「……肯定」



レイヴンのところに忘れ物ねぇ。

忘れるような物は持っていってないと思うんだけど。

つまり、忘れたのは物ではないということか。



これは何忘れたのか掘り下げるのは野暮ってやつだな。



「そうか。じゃあ、今日はこれで解散で良いか」



「……感謝」



「気にすんな。行ってこい」



ハピネスはセシリアに頭を下げて騎士団本部へ戻って行った。

おい、俺には挨拶なしか。

感謝って言ってたし、そこまで気にすることではないけどさ。



「ヨウキさん。ハピネスちゃんの忘れ物とはそういうことですよね」



「ああ、そういうことだ」



言葉にするまでもない。

ちょっと二人きりになりたかったってだけの話だろう。

レイヴンは仕事があるんだし、長居はしないと思うけど。



「さて、中途半端な時間になっちゃったけど。俺たちも解散する?」



「ヨウキさんが解散したいのなら解散でも構いませんが」



「俺はもうちょい一緒にいたいかな」



「私は今日一日は一緒にいても良かったのですが。ヨウキさんがそういう気分なら仕方ありませんね」



「一日に変更で」



調子の良い俺である。

しかし、昼食も食べ終わり夕食には早い。

何処かへ出かけようっていうのも微妙な時間帯だ。



いつも通り家でセシリアの淹れた紅茶でも飲みながら、談笑かな。

ワンパターンと言われてもそれが一番の幸せだから良いのさ……。



「ん?」



セシリアと家に向かっている途中でお土産屋さんが目に付いた。

婚前旅行でブライリングに寄った時、アルビスの施設で物作り体験をやっていた。



俺たちは参加しなかったけどお互いに贈り物を作って渡すってやつだ。



「なあ、セシリア。今日は何かを作ってみようかと思う」 



「作る……ああ、成る程。そういうことですか」



セシリアも俺の視線が店に向いていたことで意味がわかったらしい。



「ヨウキさんには貰いっぱなしな気がするので良い機会になりそうです。では、材料を購入しましょう」



「ああ。お互い何を作るかは秘密で」



「そうですね。秘密でいきましょう」



二人で材料購入のために店へと入る。

自分で言い出したのはいいが……何を作ろうか。

セシリアは布と糸がある場所へ行ってしまった。



俺が今までやってきたことというと。

ガイを色々な石像にしてきたことが第一に浮かんでくる。



でも、俺の美術作品て大体不評なんだよなぁ。

裁縫はできなくもないけど。

セシリアも裁縫出来るんだよな。



絶対に俺より上手いだろうし、どうしても比べてしまうことになる。

同じ土俵で戦うのは無理だ。

絵を描くっていう手もあるが。



「これは……」



俺が目に付けたのは勇者様結婚記念品と書かれた木彫りの人形だ。

ユウガとミカナの人形が手を取り合っている。



かなり手の込んだ人形だな……って値段もそこそこするよ。



「人形かぁ……」



絵を描くのはどうかと思ったけど、人形もありだな。

地道に彫るのは時間がかかるけど。



風の魔法を精密にコントロールできれば早いペースで制作ができるはず。



大丈夫だ、その辺のコントロールの自信はある。

美術センスが問題なだけだ。



肩肘を張らずに少し力を抜いて作れば良い物ができる。

俺は覚悟を決めて材木を買った。



セシリアも買い物を済ませたようで二人で我が家へと帰った。



「何を作るかはお楽しみということですね」



「ああ、俺は二階の部屋に引きこもるから」



「私は一階の個室で作業しますね」



同じ家にいるのに分かれて行動する。

これも相手を驚かす……喜ばせるためにだ。

部屋に入り材木を片手に風の魔法を発動。



「ふっ、俺にかかればこの程度造作もない」



俺の手には精巧に作られたセシリアの人形が握られていた。

今まで作ってきた美術作品はケチをつけられてきたが、これは間違いなく完璧だと確信できる。



色がつけられないのは残念だがかなり精巧に作ったつもりだ。

セシリアも満足してくれるだろう。



「よし、あとはセシリアに渡すだけ……」



ここで俺の良心が痛んだ。

今頃セシリアは俺のために何かを作っている頃だろう。

裁縫関係は魔法で時短なんてできない。



片や魔法でぱぱっと作り、片や手作業でじっくり作っている。

これで満足して良いのか俺。



「駄目だな。楽して作ったプレゼントなんてセシリアには渡せない」



もっと手の込んだ感じにしよう。

大体、セシリアの人形一体では寂しすぎる。



店で見たユウガとミカナの人形みたいにツーショットでいこう。

俺とセシリアが手を取り合っている……いや、店で見た物のまま作るのは芸がない。



ユウガたちのは結婚記念品だったな。

だったら、俺はセシリアとの出会いでいこう。

魔王城でもう良いんだと生を諦めた俺に手を差し伸べてくれたセシリア。



この構図でいけば間違いないはず。

早速、作業に取り掛かってみたが……普通に立っているだけの人形よりもポーズをつけた方が難しい。

より繊細なタッチが求められるな。



「あれから色々あったなぁ」



魔王城での出会いから本当に色々なことがあった。



「今思えばセシリアに説教されすぎだよなぁ、俺」



最近は減ったけど以前は行動に問題があり過ぎたのかよく正座をしていた。

セシリアが前屈みになって何が良くなかったのか、厳しく優しく叱ってくれていたっけ。



最近は俺も落ち着いてきたのか正座の機会が少なくなった。

いや、良いことなんだけどさ。

ちょっと寂しくも思ったり……なんてな。



「困らせていたことは良い思い出じゃないよな」



ぶつぶつと呟きながら作業をする。

今日は独り言が多い、思い出に浸っているからかな。

こうして考え事をしながら作業するのは良くない。



何故かというと無意識に進めた結果、取り返しのつかないことになっていたりするからだ。



「やっべ……」



テーブルの上の完成品は俺の予定とは違うものになっていた。

しゃがみ込んでセシリアを見上げる俺と手を差し伸べるセシリアを作っていたはずなのに。



どうして正座している俺と前屈みになって人差し指を立てて説教しているセシリアの人形を作ってしまったのか。



「無意識って怖い……」



きちんと集中して作らないと駄目だろう。

早く作り直さないと。

あたふたしているところで扉がノックされた。



「ヨウキさん、まだ作っている最中でしょうか。私は少し早く完成したので夕食の支度も終えたところなんですけど」



「ええっ!?」



そんなに時間が経ってたのか。

思い出に浸りながら集中しすぎた結果だろう。

どうしよう、せっかく夕食を作ってもらってまだ食べないとか言えない。



完成してないとも言えないし……最初に作ったセシリア人形だけにしよう。



「ごめん、今行く!」



部屋から出てセシリアと一階に降りたら、夕食の準備はもうできていた。



パンにサラダにスープに肉料理……ああ、セシリアの手料理がテーブルの上に並んでいる。

これが天国ってやつか……。



「神様、感謝します」



「祈ることも大事ですが冷める前に食べましょう」



「セシリアにはもっと感謝します」



「神と比べられても困るのですが」



向かい合って椅子に座り夕食を楽しむ。

昼間のあーんを意識してしまい、セシリアの口元に視線を向けてしまうことが何度かあったけど気付かれずに済んだ。

食器の片付けを協力して済ませて……いよいよだな。



「私からはこちらになります」



セシリアが渡してきたのは黒いスカーフだった。

刺繍が施されている……何の柄だろう。



「黒いスカーフにヨウキさんの好きそうな雷を表現して刺繍してみたんですけど……変でしたか?」



そういうことだったのか。

これはつまり黒雷の魔剣士の新しい装備品というわけだな。

セシリアはそこまで考えて作ってくれたのか。



「セシリアありがとう……」



感激して泣きそうだ。

それに比べて俺は……。



「これ俺からなんだけど」



緩慢な動きで人形をセシリアに渡す。



「私の人形……良くできていますね。ヨウキさんが作ったんですか」



「うん。材木を削ったというか彫ったというか」



「……歯切れが悪いですね。もしかして何か隠してませんか」



俺の動揺をセシリアは瞬時に見抜いてきた。

この申し訳なさは隠すことは不可能だよ。



「本当に申し訳ないんだけど。二階に来てくれる……?」



「良いですけど」



セシリアを連れて二階へ上がり個室に入る。

テーブルに載っけたままの作品をセシリアに見せた。



「こんなことあったなぁって思い出に浸りながら作業していたら、予定とは違う物になってさ」



頬を掻きつつ、視線をあちこちに向けながらセシリアへ説明する。

これじゃあ、セシリアも怒るよな……。



セシリアが説教シーンを再現した人形をじっくり見ていると……ふふっ、と笑い声が漏れた。

えっ、笑った?



「ヨウキさんからは私がこう見えていたんですね」



「いや、それはさ」



「悪い意味ではないですよ。本当に良くできているなぁと思って。最初はヨウキさんの奇行に悩まされたこともありましたね」



今となっては懐かしいですけど、と人形を撫でる。

セシリア、怒ってないな。

焦って言い訳しようとしたら思いの外、和んでいる。



「こういう時、ヨウキさんは口うるさいなぁとか思ったりしてないんですか?」



「いや、非があるのはこっちだし。暴走していた自覚があったりで。叱ってくれる存在って大事じゃない」



「ヨウキさんがそう言ってくれると私も安心しましたよ。何でも注意して束縛していないかなって。私だって不安になるんですから」



「セシリアでもそういう気持ちになるんだ」



「なりますよ。……これを見る度にヨウキさんとの日々が思い出せそうですね」



最初は説教されてばかりだったからな。

確かにこれを見れば思い出せるエピソードは多いかもしれない。



「屋敷に持って帰ってお母様に自慢しようと思います。良いでしょうか」



「セシリアが喜んでくれるなら是非」



こうしてアクアレイン家のセシリアの部屋には木彫りの説教シーン人形が飾られることになった。



シークのやつ辺りは見たら絶対に笑うと思うので今度会ったら聞いてみることにする。

笑ったと答えたら……わかるよなシーク?

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― 新着の感想 ―
[一言] その人形一式欲しい。
[良い点] これが見る視点が違うとってやつか… [気になる点] 2話前でレイヴンの所に来た時点で昼時でしたよ? [一言] よし、シーク! 全力でその前振りに乗ってやるんだ! いや、全力で踏み抜くんだ!…
[良い点] 物事は視点によって大きく解釈が変わりますよね。 説教と言えば嫌われ役にもなりやすい役どころですね。 そういった不安も抱えつつも必要ならするところがらしさでもあるのでしょうか。 像にしても…
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