家族について話して見た
「おつかれハピネス……痛っ」
本日三度目の蹴りをくらった。
今回は膝裏ではなく脛だ。
地味に痛くて蹴られた部分を押さえて座り込む。
「ぬぉぉぉぉ、脛は良くないぞ脛はぁぁぁ」
「……丸投」
「そうですね。ハピネスちゃんに解決を任せてヨウキさんは遊びに行ったようなものでしたからね」
セシリアも擁護してくれない寂しさを感じながら、悶え苦しむ。
肉体的にも精神的にも痛い。
だけどあそこはハピネスの見せ場だろう。
「適材適所ってやつだ」
「言葉の使い方間違ってますよ」
「……無能」
精神的ダメージは増すばかりだ。
「ヨウキ様はハピネスたちの保護者かと思っていたのですが」
ソフィアさんから疑問を投げかけられる。
保護者っちゃ保護者だ。
三人が俺を追いかけてきた時は働き口見つかるまで四人で暮らそうと本気で思ってたし。
俺の予想以上に三人とも自立していったからなぁ。
魔王城では上司だったけど……追いかけてきたくらいだし最低限敬われていたと思いたい。
それを直接聞くのはどうも乗り気にならない。
「……視線」
「ああ、悪い」
思わず視線を向けてしまった。
ハピネスに聞いたところでいつもの調子で漫才が始まるだけだな。
「俺は保護者というよりはまとめ役みたいなものです。デュークはしっかりしているし、ハピネスも自分の将来を見据えて行動しています。シークもあんな感じですがやる時はやるんで」
本当にどうにもならなくなった時は相談して来いって感じかな。
いや、結構相談に乗ってるよな俺。
綺麗に着地できてるかは別だけど。
「ヨウキさんは何だかんだで面倒見が良いですよね」
「まあ、それ程でも」
「……感謝」
「なぬ?」
ハピネスが感謝しているだと。
いつもの流れなら皆無とか言いそうだが。
それなりに感謝している部分もあるということか。
「ヨウキさんには不思議な魅力があるんですよ。それをハピネスちゃんも感じ取っているのではないですか」
セシリアもそれとなくフォローしてくれた。
おそらく、俺が今納得できていない表情をしていたからだ。
だってさぁ……。
「自分で言うのも恥ずかしい話だけど俺って威厳とかないよ?」
「ヨウキさんの良いところはそういうところですよ……」
「何処!?」
セシリアさん、言葉にしてくれないと俺わからない。
ハピネスも笑ってないで説明してくれ。
「ハピネスちゃんだけでなくデュークさんもシークくんもヨウキさんのことをきちんと信用していますよ。だから、安心してください」
「いや、根拠を知りたい」
「根拠ですか……言葉で表せませんね」
「セシリアが導くのを放棄した……だと」
気になるけどセシリアで無理ならもう何ともならないから諦めよう。
俺の言葉で表せない魅力は謎のままだ。
「まあ、俺の魅力の話は置いといて。保護者の話に戻すけど。昔から上司と部下で家族みたいな関係だったから。尚のことお互いの成長に敏感なんだよな」
「……同意」
「ミネルバに住み始めてから環境含めて色々と変わっていって。祝福や相談をしたりされたりしてるから。着々と自分の道を歩み始めてるなーって実感してる」
「……同意」
「家族って気付かない内に成長してることがあるし。戸惑うこともあるけど……そこは馬鹿騒ぎして盛り上がれば良いかなって」
「……同意」
「さっきからずっと同意だけどどうした?」
俺の意見に賛同し過ぎてて怖いぞ。
セシリアも何度も頷いてるし……俺そこまで良いこと言ってないからな。
「でも、セシリアと家族になる時はもっと別の祝い方を考えないとな」
「何故でしょうか」
「セシリアと馬鹿騒ぎってこう……発想がさぁ」
イメージが湧かない。
デュークたちなら酒場で飲み会するか、家で飲み会するかだ。
だけどセシリアとはさ。
「大人の雰囲気ある個室のある店で思い出に残るようなことをしたい」
「祝う度に格式高いお店に行っていては散財になります。結婚したらじっくりと相談して二人で決めましょう」
セシリアの瞳が光った気がする。
これは財布を握られるパターンだ。
逆らってはいけない……お互いに納得できるような金額交渉にしなければ。
来るべき戦いについて考えていると。
「そうでした。お嬢様も結婚するんでしたね」
懐かしむようにソフィアさんが目を閉じて呟いた。
そういえば、ソフィアさんとセシリアの付き合いがどれくらい長いのか聞いたことないな。
聞いたら答えてもらえるだろうけど……この雰囲気で聞いて良いのかね。
片目を開けたソフィアさんの鋭い視線が俺に突き刺さる。
見定められているような感覚がする。
ここで目を逸らすわけにはいかない。
俺は堂々とプロポーズして良い返事をもらったんだ。
やましい気持ちは皆無と。
目が合っていたのはほんの少しの時間だった。
「……仕事に戻るとします」
ソフィアさんは身を翻して去っていく。
何か言われると思っていたのに拍子抜けだ。
というか保護者の話については納得してもらえたのか。
「最後、消化不良で終わった気がするんだけど」
「私もです。やはりソフィアさん、悩んでいた様子でした。心配です」
二人で頭を捻っている中、ハピネスはというと。
「……成程」
何か一人で納得していた。
どうにも分からないがハピネスにのみ感じた何かがあったということだ。
これ以上ソフィアさんの仕事の邪魔をするわけにもいかないし、移動だな。
「次は……デュークと昼食の約束をしているんだ。会いに行こう」
「準備がいいですね、ヨウキさん。すでに約束を取り付けているなんて」
「ふっ、俺の作戦は先を見越して立てている。安心して付いてくるといい」
そう息巻いてデュークと待ち合わせをしている店へと向かった。
……俺の作戦は完璧なはずだった。
下見を重ねて騎士団の巡回ルートから外れていて個室で話せるという食事所を選択。
これで問題なしと思っていたのに。
「デュークさん。これはどういう会食なのでしょう。話を聞かずに付いてきたのでわかりません!」
「申し訳ないっす。イレーネが勝手について来たっすよ。引っ付いて離れないっす」
まさかの誤算、イレーネさんも一緒。
引っ付いてくるとはなぁ。
相変わらずイレーネさんは読めないわ。
「それで隊長さん。今日はどういう会食なのか教えてほしいですっ。セシリア様もご一緒のようですが。これは何かのお祝いでしょうか」
お祝いではないんだよなぁ。
俺としては祝福してやりたいんだけどデュークがさ。
乗り気じゃない分、どうにか前に押してやりたい。
しっかり者のデュークなら大丈夫と思いつつ、悩みは聞いてやりたくなるのが俺なのよ。
だから、デュークの背中を押してやりたかったのだがイレーネさんまでついてくるとは。
どうしよう、イレーネさんと二人で説得に回るか。
「……同行」
「えっ、デュークさんの知り合いさんですよね。同行って何処へ……デュークさーん!」
ハピネスが俺たちに相談もなしにイレーネさんを連れて個室を出て行ってしまった。
助けを求めていたイレーネさん、ハピネスからは逃れられないぞ。
ハピネスも話したいことがあるんだろう。
「えっと……ハピネスは何しに行ったんすかね」
「デュークのために一肌脱いでやろうってことさ」
「ハピネスもレイヴンとの問題解決していないっすよね。連れ回すのはまずいんじゃないっすか」
「それは俺の案で解決するから問題ない」
「問題ある気がするっす」
残念ながらデュークからの信頼は得られていないらしい。
隊長として残念だが今更作戦変更はしないぞ。
「というかデュークはなんで里帰りに付いて行くのを嫌がってるんだ?」
デュークなら別に良いっすよと承諾しそうなものだが。
「ああ……それはっすね。イレーネが両親からあまり良い見送られ方をされずに里を出てきているからっすよ」
結構重い話が絡んでそうな予感がするんだけど。




