元部下に頼んでみた
「頼むハピネス。協力してくれい!」
「……却下」
「何でだぁぁぁぁぁ!」
セシリアを屋敷に届けた俺は早速、ハピネスに協力を申し出た。
掃除中のハピネスに話しかけた結果がこれである。
せめてもう少し考えてから言えや。
そもそも何でダメなんだよ。
頭をかきむしる俺にハピネスから納得一言が。
「……突飛」
「ああ。突然力を貸してくれって言っても困るわな。……すまないな、ハピネス」
「……不快!」
レイヴンっぽく謝罪したら膝裏を蹴られた。
耐えられずに転んだ、これは俺が悪いな。
「悪かったよ。でも、本当にハピネスの力が必要なんだ」
「……詳細」
俺はまずハピネスにソフィアさんやクレイマン、デュークとイレーネさん、ユウガとミカナの事情を話した。
「というわけでお前に恋愛の歌と家族愛の歌と妊娠した妻への正しい身の振り方こめるべき感情の度合いも含めてについての歌を歌ってもらいたい」
「……最後、理解不能」
「ハピネス。俺はお前の力を過小評価していない。お前ならやれる。自分を信じろ。お前の声には誰かを救う力がある」
「……無効」
簡単に乗せられないか、ユウガだったら効きそうだが。
ハピネスはそんな簡単に引っかかったりしないよな。
俺の言葉が届かない、こういう時に取るべき行動は……。
「ハピネスちゃん。申し訳ありませんが力を貸してもらえないでしょうか?」
「……承諾」
頼れる恋人に任せよう。
良いんだ、どうせ俺の言葉なんかじゃハピネスが動くわけないんだもの。
俺とハピネスとの信頼なんてこんなもんだ。
しょげている俺を見かねたセシリアが気を使ってくれたのか。
ハピネスにこんな一言を。
「ハピネスちゃん。ヨウキさんのこと、信用してますよね」
「……黙秘」
「らしいですよ、ヨウキさん」
「この反応は俺喜んで良いの……?」
心読めるわけでないんだけどな。
まあ、協力はしてくれることになったし良いか。
三人揃ったところで作戦の準備に取り掛かろう。
「さて、ハピネスに歌ってもらうために必要なことは何だろうか」
「……想像、困難」
「急にこちらから提示された種類の歌を歌ってくれと言われても困りますよね」
「だよなぁ」
いきなり挫折。
こんなところで諦めたくないんだが。
「ソフィアさんと話して何か得られるものがないかな」
話聞いてイメージする的なやつ。
「……試行」
「そうですね。何もしないよりは色々と試してみましょう」
「……案内」
とりあえず俺の案が採用。
ハピネスにソフィアさんのいるところまで案内される。
ただ、忘れてはいけないのはソフィアさんももやもやしている真っ最中ということで。
「おはようございます、ヨウキ様」
「おはようございます、ソフィアさん。それで、えっと……」
「何か?」
「いや、今日って大掃除の日……ですかね?」
ソフィアさんが掃除道具を背負って居間を掃除している。
メイド職ここに極まる……どういう歩行技術なのか走っているように見えるのに埃を立たさずに掃き掃除。
俺でも視覚強化しないと見えないレベルの速度でテーブルや窓拭きを済ませているし。
超人的な動きをしているのにメイド服は皺の一つも寄っていない……どういうことだ。
「今日は初心に戻ろうと思い、指示される側の気持ちを知るために屋敷中の清掃しているところです」
「初心に戻るですか……成る程」
その速度で掃除できるメイドは中々いないと思うんですけど。
初心に戻れてないよなぁ、これ。
ハピネスが自分もこのレベルを求められるんじゃないかとそわそわしている。
いや、この動きは無理だって。
「ハピネスも一緒でしたか」
「ソフィアさん。今日一日、ハピネスちゃんを借りても良いでしょうか」
「そうですね。今日はメイド一人抜けても特に問題は無さそうです。構いませんよ。奥様には私から報告しておきますので」
「ありがとうございます」
よし、ハピネスを連れまわせるようにもなった。
これでソフィアさんから話を聞ければ良いんだけど。
「それでは私は掃除に戻りますので」
失礼致しますと言ってソフィアさんは消えた。
見本となるような丁寧なお辞儀をしてから、掃除に戻っている。
待ってくれ、メイドの仕事ってこんなに瞬発力が求められるのか……?
「ハピネス。明日から頑張れよ」
「……不可能」
「ですね。家の屋敷のメイドにソフィアさんの速さを求めるのは難しいでしょう」
難しいというか無理だろう。
どう見ても様子がおかしいので三人で固まってこそこそと相談開始。
「普段のソフィアさんじゃないよなぁ」
「……違和感」
「ソフィアさんが掃除することはありますが。あそこまで本格的にはしませんね。ソフィアさんは屋敷の色々なことを受け持っているので掃除だけに集中できないはずなんですが」
部屋の隅で話し合っていたらセリアさんが入ってきた。
ソフィアさんに話があるっぽい。
「ソフィア。頼んでいた使用人の休暇の調整は終わってるかしら」
「はい。用紙にまとめてあります」
「新人の育成計画と屋敷周辺の警備計画はどうかしら、順調?」
「共に計画書は作成済みです」
「兵士の訓練は……」
「全員、職務に支障を来たさない程度に訓練済みです」
「そう、なのね」
ソフィアさん、働きすぎじゃないのか。
セリアさんも仕事の確認というよりとソフィアさんが心配で様子見に来たのでないか。
「あら。ヨウキくん。来ていたのね。ちょうど良かったわ。三人とも私の部屋に来てくれる?」
お願い、と付け加えられた。
これはソフィアさん関連の相談かな。
セリアさんに付いて行き応接室に入る。
「ありがとうね、ヨウキくん。セシリアとデートに行こうとしていたんでしょ。悪いことをしたわね、呼び止めちゃって」
「いえ、今日はそういうのじゃなくてですね」
「知り合いが困っている状況になっていまして。私たちにできることはないかと模索しているところなんです」
「そうだったの。その困っている知り合いにソフィアは含まれていたりする?」
セリアさんは相変わらず鋭い。
しかし、巻き込んで良いものか……セリアさんも忙しいだろう。
「……現状だとそうですね。どうにかできないかなってまだ動こうとしている段階です」
「そうなの。ソフィアったら旦那さんと喧嘩したみたいだね。珍しく引きずってるみたいで仕事に力を入れて気持ちを発散させてるみたいなのよね」
このままじゃ体調を崩さないか心配なのよ、とやれやれ顔のセリアさん。
やっぱり、さっき様子は普通じゃなかったもんな。
「……安心」
ハピネスもほっとしたらしい。
あの動きを求められるようになったらきついもんな。
「ヨウキくんたちが動いてくれてるなら安心だわ。でも……いや、うーん……」
「お母様?」
何かを言いかけて迷っているセリアさん。
セシリアもどうしたのか気になるらしい。
今の会話で変なところはなかったよな。
「えっとね。ヨウキくんとセシリアにこんなこと言うの酷かもしれないんだけど……聞きたい?」
これはどういう話なんだろう。
酷とはどういうことなのか、セシリアに視線を送ると首を横に振ってきた。
心当たりなしということか、聞くのが怖いな。
でも、聞かないと言う選択肢はないし。
「聞きたいです。な、セシリア」
「はい。私もお聞きしたいです。何の話でしょうか」
「やっぱり聞きたいわよね。えっと……二人の結婚式のことなんだけど。もしかしたらできないかもしれないわ」




