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旅行を終えてみた

ガイの指示はともかくティールちゃんの指示は無視することに決めた。



「せっかく書いてもらって悪いけどガイについて熱心に語り合ってもな。よし、ここはお互いの好きなところを言い合うというのは」



「カップルらしいことかもしれませんが、もの凄く恥ずかしいですよ?」



変装を解いてベッドの上でリラックスしているセシリアから反論される。

確かに今更って感じもするしな。



「そうだな。俺はプロポーズの時にセシリアに言い切ってるからな。ガイの指示通り今日はもう宿部屋でごろごろしようか」



夕食も偶には宿主に頼んで適当に作ってもらおう。

そういうサービスもやってるって受付した時に言っていたし。

何となく方針も決まったのでベッドにダイブ。



「私もヨウキさんの好きなところはお付き合いする時に話しましたね」



寝転がっていたらセシリアから嬉しい昔話を振られた。

俺が二回目の告白をした時の話だな。



「今でも胸の中に残ってる」



「記憶しているなら頭ではないですか」



「あの日言われて胸が高まった感触が……」



「そういう意味でしたか」



今思えばソレイユが来て危機感迫っての告白だった。

今しないとって思ったんだ。

いつまでもセシリアが待ってくれるなんて自分の都合の良い考えだって。



「いつでも告白する心構えはできていたんだよなぁ」



「急に何の話ですか」



「いや、ちょっとこっちの話」



「ここで止めたら気になるので話してもらいたいのですが」



ゆったりと横向きに寝ていたセシリアが起き上がり、こちらのベッドに上がってきた。

いやいや、シングルベッドに二人は密着度が……。



口をへの字にして顔を近づけてくるセシリア、好きな所を言い合うよりも恥ずかしいんだが。



惚れた弱みかこれ以上のだんまりは不可能と判断し、当時の心境を立ち上げることにした。



「実はソレイユにセシリアを盗られると危機感を感じていつまでもセシリアが待っててくれるなんて都合の良い話だと感じて告白したっていう……」



これって女性からしたらどうなんだろ。

勢い任せかよってがっかりさせるパターンになるのかな。

言い切った後、バツが悪くて顔を逸らしてしまう。



「そうだったんですね……って、何故顔を逸らすんです」



「セシリアをがっかりさせたかなーって思って」



「がっかり、私がですか。何故?」



おや、思っていた反応と違う。



「どんな理由であれヨウキさんが私を選ぼうと決心してくれたんですよね。がっかりとかありませんよ」



「セシリアー!」



抱きついてしまった。

いや、こんなこと言われたらさ。

一緒のベッドで寝ているんだよ、近距離なんだよ!

 


「えっ、えっ、えっ!?」



急に抱きしめるなんてしないからセシリアも軽くパニックになってる。



普段からもっと大切にしようという気持ちを持って抱きしめていないからこういう反応になってしまうんだろう。



「俺、絶対に幸せにするから」



「その言葉は結婚式の時に取っておいてください」



ツッコミは冷静だった。

そのまま寝ても良かったのだがシングルベッドに二人は狭いということで別れて寝た。



翌日、くじの入った箱に手を突っ込んでみると。



「感触的に最後の一枚っぽいな」



「色々あった旅行の締めくくりですね」



「さて、何が出るかな……っと」



取り出したくじを確認。

そこには相手の嫌がることはしないで適当に楽しめと書かれていた。



「具体的な指示をよこせぇぇぇ!」



俺はくじを放り投げた。

相手の嫌がることはしないなんて常識だわ。

こんなふわっとした指示出さないだろ、普通。



副ギルドマスターとして毎日職員動かしているんじゃないのかよ。

俺が頭を掻きむしりながら悶えていると。



「ふふっ」



セシリアの小さな笑い声が聞こえた。

確かに笑える部分もあったかもしれないけども。



「どうやらこちらが本命みたいですよ」



セシリアがくじの裏側を見せてきた。

そこにはヨウキ様の裁量でお嬢様を楽しませてくださいと書かれている。



これはソフィアさんの指示だな。

だが、俺の裁量でって……。



「よろしくお願いしますね、ヨウキさん」



「あぁ、プロポーズした時を思い出してきた……」



ここに来て最後は俺の手腕が問われることになるなんて。

満足させることができるかという不安が脳裏によぎる。



待て、考え方を変えよう。

これはソフィアさんからの依頼なんだ。

黒雷の魔剣士なら依頼は迅速かつ完璧にこなす。

セシリアを楽しませる、やってやろうじゃないか。



「ふっ、この俺に結婚目前の恋人を楽しませることができないはずがない。任せるが良い」



「……偶には気分が高揚しているヨウキさんに任せてみましょうか」



おや、セシリアからストップが入らない。

良いんだな、厨二スイッチが入ったままで。

この勢いで行ってしまって良いんだな。



「よし、行こう。ここは商業の街だ。セシリアが満足する……」



違うな、これは婚前旅行だ。

セシリアだけを楽しませる計画ではセシリアを満足させることはできない。



「すまない、セシリア。予定変更だ」



「何かありましたか」



「俺とセシリアが満足するものを考えたいと思う」



「……そうですね。私だけが楽しい旅行では思い出にするには寂しいです。一緒に楽しめることを考えて下さい。ヨウキさんならできますよね」



「当然だ。俺はセシリアの恋人だからな」



びしっとポーズまで決めた。

今なら何だってできる。



「そう思っていた自分がいました……」



「どう思っていたんですか」



厨二スイッチは入っていても……違うな。

入っているからこそ俺は良い選択肢を選べたのかもしれない。



セシリアの手を取り、俺が向かったのはお茶っ葉が沢山売られているカフェ。



商売の街だからこそできる品揃え、セシリアが屋敷で淹れているものはもちろん見たことない品種があったりする。



そこにたどり着いたまでは良かった。

しかし、カフェに突入したところで厨二スイッチが切れてしまい。



「ヨウキさんはあの状態になれたりなれなかったりと忙しい方ですね」



「今日は穴があったら入りたい気分になるくらい落ち込んでる」



「そこまでですか」



「俺は正常な状態で正解に辿りつきたかった」



厨二スイッチに、勢いに頼らずにここに来れていたらと思うと悔しい。

逆境を乗り越えるために厨二スイッチを入れるのは良くない。

素のヨウキでセシリアを楽しませないと。



「私は魔剣士さんだろうと先程の状態だろうとヨウキさんはヨウキさんということで納得していますよ。もちろん、不用意に騒動を起こしたりしたらそれなりの対応をしますよ?」



言い切った後のセシリアの微笑みが眩しい。

うん、わかってるよセシリア。

これからは迷惑をかけないように努力するから。



「セシリアの平和な笑顔のために頑張るよ」



「平和な笑顔とは……?」



何事も平和が一番だ。

深くツッコミが入る前に話題を変えよう。



「うーん、結局のところ俺はこういう時間が一番楽しいんだけど。セシリアはどう?」



「こういう時間とは?」



「紅茶飲みながらの談笑」



やっぱりこれが一番好きなんだよな。

付き合う前も付き合ってからも結婚目前にしても。

セシリアと二人きりで紅茶飲んで談笑するのが一番落ち着く。

時間があっという間に過ぎるくらいに。



「……ヨウキさんは変わりませんね」



「悪いところは直したい」



「無理せずにゆっくりと良い方向に変わっていけば良いかと。これから時間は沢山あるんですから」



「そうだな……」



旅行最終日、こんな感じで終わって良いかな。

無人島に行ってアスレチックで新記録出して逢引して演劇を見て。



どれもこれもセシリアと一緒だから楽しかったけど。

この感じが一番良いんだよなぁ。



気分良く紅茶の味と香りを楽しんでいるとセシリアの表情が変わった。

何か腑に落ちないことがあるみたいな。



「どうかした?」



「いえ、この旅行ももう終わりかなと考えていたんですけど。全部のくじを引きましたよね」



「ああ、そうだな」



手の感触だけじゃ心配だから箱の中を覗いて確認したがソフィアさんたちのくじが最後の一枚だったぞ。



「表裏に指示が書いていたじゃないですか。勇者様のくじの裏って見ました?」



「あっ……」



そういえばあの時、床に叩きつけたんだよな。

回収はしたんだよ。

ただ、まさか裏にも指示があるなんてその時は思ってなかったからな。

今まで引いたくじはきちんとまとめてある。



「上着のポケットに入れてあるからすぐに出せるよ」



「勇者様のくじの裏となると」



「まあ、ミカナだろうな。さて、書いてある内容はっと」



テーブルの真ん中に置いて二人で確認する。

そこには二人の好きな所に行きなさいと書かれており。



「ソフィアさんと一緒か」



「ミカナらしいですね」



ただ、二行目に書いてあったことが俺とセシリアを凍りつかせた。



ただ、火消し役の二人がミネルバからいなくなってちょっと心配だけどね。

遠慮なく楽しんできなさい、と。



「セシリア」



「はい」



「二人一緒にミネルバを留守にしたことなんて沢山あったよね」



「ありましたね」



「ミカナの考えすぎだよね」



「そう思いたいですね」



「そう思いたいなぁ」



二人して紅茶の入ったカップ片手に空を眺める。

今日も空が青い、心無しかデュークの悲鳴が聞こえた気がした。



「お土産を買って帰ろうか」



「そうしましょう」



手早くお土産を買って宿に預けていた荷物を取りに行き帰ることに。

何となくそこそこ急いで帰った、それは正解だったと言える。

だってさ……。



「隊長、イレーネが親に俺を紹介したいから里帰りしたいって言ってきたっす。どうしたら良いっすか!?」



「行ってこい。頑張って認めてもらえ」



「隊長冷たくないっすか。あっ、もしかしてレイヴンからも相談受けてるんじゃ」



「そのまさかだよ!」



旅行から帰ってきた翌日にレイヴンがやってきた。

何でもハピネスの歌に多くの反響があったらしく、有名な劇団にスカウトされているらしい。



レイヴンのためならとハピネスは言っているようだが。



「……ハピネスの歌は俺だけのものにしてはいけない気がする。だが、独占したいという気持ちもあって」



と、話していた。

メイドの仕事はどうするんだよという話だが十日に一回くらいのペースでも良いからと懇願されているんだとか。



「俺もちらっとは聞いたっすけど」



「言っとくけどまだ相談事あるからな」



くじのクレイマンの適当な意見が原因でそこそこの規模の夫婦喧嘩が勃発。



クレイマンは治療院に入院、仕事し過ぎていた俺を今ではギルドが欲しているんだとか。



二人の夫婦喧嘩をクインくんがカイウス口調で止めてしまったらしく、家族全体の雰囲気が変になってるとフィオーラちゃんが話に来たんだ。

いや、俺にどうしろと。



「隊長、ここはセシリアさんに頼るっすよ。旅行で絆を深めてきたんすよね」



「セシリアは一番厄介な案件に当たってるから」



もちろん、相談相手はミカナでユウガについてだ。

今思うと気づくべきだったよなぁ。

ここ最近、ミカナに関してのことを秒刻みレベルで把握しているらしい。



最近のユウガの口癖はミカナもお腹の子も僕が守るから、だそうだ。

愛されるのは嬉しいがちょっとやり過ぎていると。



ミカナからの要請によりセシリアは動けないのだ。

むしろ、俺も協力しないとダメなレベルなやつ。



「次はいつセシリアと紅茶飲みつつ談笑できるかなぁ……」



そう遠くない未来であることを俺は願った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 留守にしてた分、まとめてやってきましたね。 火消し役、大変すぎる(笑)
[一言] 更新お疲れ様です。おそらくこの2人はどうしても騒動に巻き込まれる運命なんだろうなと。 ある意味退屈しない人生だから2人なら大丈夫だよね!(騒動のもとがデカイのは見ないことにして)
[良い点] そこを「俺は知らんぞ!もっとゆっくりしよう!」と出来ないのが二人の良いところだよなぁ。 ミカナにはフラグというものを教えなければいけない。書いたら真実になっちゃうよ!(なお書かなくても略)…
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