演劇を観てみた
夜に何かあったかっていうと何もなかった。
うん、何もなかったよ。
「何もなかったんだ……」
「ヨウキさん。窓を開けて朝日を浴びるのは構いませんが部屋を借りたのですからしっかり掃除しないといけませんよ」
「うん、わかってる」
「わかっているのなら良いのですが……何故、悲しげな雰囲気を出しているんです」
それは俺が一緒の部屋で寝たのに何もしなかったヘタレだからだよ。
腕枕くらいすれば良かった。
無駄に寝不足なんだけど。
「何とか挽回しないと」
「挽回とは。私の知らない間に何か……」
「違う違う。大したことじゃない。いや、大したことかもしれないけど。誰かに迷惑を……かけたけども何というか」
このままでは誤解されてセシリアの説教が始まってしまう。
説明の仕方が分からず誤解されたまま終わると焦ったが、その焦り方だと問題なさそうですねと言われてしまった。
セシリアは一体何処まで俺ことを把握しているのだろうか?
もやもやしつつ、掃除を終わらせて荷物をまとめて城を出ることに。
「おや、もう行ってしまうのかい」
「ゆっくりしてもらっても良いんですよ」
なんて二人から言われたが次の目的地があるからとあまり長居せずに別れた。
カイウスからは別れ際に変に気負うことはないとこそっと助言された。
心配させたかな、そんな素振りは見せなかったはずなんだけど。
「セシリア、俺ってさ。良いところを見せようと気負ってるように見える?」
「ヨウキさんは力むと空回りすることが多いですよね。旅行中、変な失敗をしていませんし考えすぎかと」
「そっか」
念のために忠告しただけだったのかね。
まあ、今までの行動が俺の信用につながっているわけだからな。
この辺でやらかすかもなんて思われてしまったのか。
「気をつけとくか」
「何をですか」
「こっちの話。それで演劇って何処で観れるの?」
「この辺だと……」
セシリアに地理情報を聞いて飛び立つ。
演劇か、あまり観ないから楽しみだな。
飛んでる最中、セシリアと雑談していたら幼少の頃に何度か家族で観に行っていたらしい。
まあ、ミネルバならそういう娯楽も多いし当然か。
俺だって最低限のマナーくらいわかる。
問題は何を観るかだよなぁ。
考えている内に近くの町に到着した。
ここで問題発生。
「目立ってるな」
「目立ってますね」
亀と天狗はブライリングしか通用しないようだ。
めちゃくちゃ目立っていて指差されてひそひそ話をされるレベル。
これは良くないぞ……。
「この町はタリス。交易都市で商人が集まりその分娯楽が多いので問題ないと思ったのですが良くないみたいですね」
「だな。普通の変装にしようか」
「逆に注目を集めていますからね。先に宿を取りましょうか」
「三日目にしてようやく宿を利用するのか」
一日目無人島で野宿、二日目知り合いの城で一泊、三日目宿。
どんな旅行を俺たちはしているんだ。
セシリアに負担をかけていなければ良いんだけど。
心配しつつも近くの宿を取りお着替え。
俺はともかくセシリアがばれないか心配だ。
どうするか……そうだ!
「その格好は何ですかヨウキさん」
「セシリア•アクアレインお嬢様を護る護衛に変装してみた」
「私が護衛を連れて演劇に行っている状況が注目を集めてしまうので普通の格好をしてください。私は……これで大丈夫ですよ」
帽子に眼鏡といつもの変装でいくのか。
まあ、ばれてももう覚悟は決まってるし。
楽しむのを目的にして行こう。
宿を出てセシリアの案内で劇場へ向かった。
「どうやら一番人気の演劇の講演時間に間に合ったようです」
「本当か、ついてるな俺たち」
「はい。入場券を購入して劇場内に入りましょう」
セシリアに手を引かれて劇場へと走る。
演目題名は君とこれからもか、題名だけじゃどんな物語なのか想像できないな。
劇場内は広くたくさん椅子が並んでいるのだが満席状態だ。
もうこれで四回目だとか、絶対に感動するからとか。
観客の声を聞くに名作間違いなしの作品みたいだ。
「楽しみだな」
「そうですね」
小声でセシリアとひそひそ話をしていたら演劇が始まった。
主人公とヒロインがすれ違いながらも最後にくっつくという物語だ。
主人公が本当に好きなのは誰なのか、友人に諭されるシーン。
殴ってもらって目が覚めたと行動に移る主人公。
サブヒロインとの決着、ヒロインの元へ向かい告白する。
ずっと側にいてほしい、結婚しようとプロポーズしてくっついて終了。
大雑把な流れはこんな感じで演劇が終わった感想は。
「これ知ってるうぅぅぅぅ!」
聞いたことがあったよこんな話。
何処の勇者と幼馴染の話だ。
というか恋愛相談に乗り主人公を殴りつけ、彼女を大切している友人が一人って混ぜてんじゃねーよ!
同一人物じゃないから、何人かの話だから。
「ヨウキさん、落ち着いてください」
「落ち着いてられるか。あのサブヒロインは完全に……」
「周りの目があるので名前は伏せてください。ただでさえ注目を集めているのですから」
セシリアに口を押さえられて冷静になる。
演目は終わったがまだ完全にお客さんが引いたわけでない。
何人か残っている人がいて何事かとこちらを見ている。
そうだったな、ちょっと取り乱しすぎた。
でも、サブヒロインの扱いも許せねぇよ。
終盤の展開でサブヒロインに恋愛感情ではなく母性に惹かれていたというシーンがある。
それってつまり……。
「何か?」
「いえ、何でもないです」
その辺掘り下げたら雰囲気悪くなりそうだから言わない。
これは俺の心の内に秘めておこう。
それにしても学園前で告白したってところも一緒だったな。
そのラストシーンで大体のお客さんは感動して泣いていた。
俺たちは実際に見ていたからこそわかることがある。
「演劇用に少し盛られてたよな」
「……はい。間違いありません」
ヒロインはともかく主人公がなぁ。
ユウガはそこまでうじうじしてない。
一度決めたらまっすぐ行きすぎるくらいに直進するから。
その辺が演劇用な感じがした。
「これって二人が協力したんだろうか」
「そんな話は聞いていませんが。勇者様がお受けになったのかもしれません」
「ミカナは受けなさそうだもんな」
二人が結ばれるまでの話とか。
まあ、二人とも有名人だから悪いとは言わないけど。
せめてノンフィクションでやろうぜ。
所々、観ていてツッコミたくなる衝動を必死に押さえてたんだからな。
「俺は民衆に真実を届けたい」
「言い方が怪しいので止めてもらえますか」
「国民は騙されている」
「勇者様とミカナの話についてですよね……?」
「もちろん。まずは腹ごしらえをして作戦会議をしよう」
「私は食事のみ参加でお願いします」
そんな会話をしながら移動していると劇場に羨望の視線を向ける子どもたちがいた。
身なりからして孤児だろう。
演劇に興味があるが観に行けないというやつか。
「お金が集まりやすい町ってそれなりに貧富の差ってやつが出るもんなぁ」
「どうかしましたかヨウキさん」
「ちょっとお節介ってやつをしようと思ってさ」
フィクションじゃなくてノンフィクションを語ってやろうじゃないの。




