吸血鬼に相談してみた
「これは……シアが直接話したいみたいだね。二人とも少し後ろを向いていてくれるかな。それともう城の中に入るのだし仮面を取っても良いだろう」
「そうだな。そろそろ暑くなってきたし」
「長時間付けていると蒸れてきますね」
後ろを向いて仮面を取る。
久々に外気に触れた……涼しい。
セシリアも仮面を取って手でパタパタとあおいでいる。
被ったままで運動したからなぁ。
セシリアから亀の被り物を受け取りしまったところで振り向くと。
「こんばんは」
シアさんが立っていた。
待ってくれ、俺とセシリアが被り物を取ってから何秒経ったよ。
毎回思うけど、どういう仕組みなのか教えてくれないかな。
「こんばんは、今日はお世話になります。セシリア•アクアレインです」
「ご丁寧に。カイウスの妻、シアです。いつも迷惑をかけてすみません」
「それでシア。あんなに出たいアピールをしてきたんだ。挨拶だけが目的ではないね?」
「はい。二人の事情はカイウスの背中越しに聞いていたので。せっかくですし城にある服や小物を使ってみてはどうかなと」
「服や小物とは……?」
どういうことかと二人に尋ねてみたところ。
カイウスが始めた仕事にシアさんも関わっており。
この城には沢山の着替えや恋人への贈り物の品々が保管されているんだとか。
そこにはシアさんがデザインしたアクセサリーや服もあるらしい。
老若男女問わず人気なんだとか……すごいなシアさん。
そんな人気商品の数々をせっかく逢引なんだからといくつか選んでお互いにプレゼントしてみたらという提案だった。
「いやいや、申し訳ないよ」
「そうですね。私たちだけ特別というわけにはいきません」
「まあまあ、そう言わないで下さい。ヨウキさんはカイウスの数少ない友人なんです。お祝いとして受け取ってもらいたいんです」
やんわりと断ろうとしてもシアさんの押しが強い。
ここはカイウスに何とか言ってもらえれば……。
「シア、二人のために何かしてあげたいという気持ちはわかる」
おっ、カイウスが説得に入ったな。
シアさんが反論しようと頬を膨らませてカイウスを見る。
このまま言い合いになるのは申し訳ないが。
「ここは男女で別れて助力しようじゃないか。待ち合わせは最上階の部屋だ。鉢合わせに気をつけて行動するように。先に準備ができた方が鐘を鳴らして合図するということでどうかな」
シアさんの案に賛成かよ。
むしろ、色々と付け足してきやがった。
むっとしていたシアさんの表情が満面の笑みに変わった。
「やっぱりカイウスは私の味方ですね。改善案も出してくれるなんて」
「君の出した提案が良いものだったからね。私がしたことなんて大したことないさ。さあ、行こうか」
「俺たちの意思は」
「無視なんですね」
俺はカイウス、セシリアはシアさんに連れられていった。
「で、ここはなんだよ」
「まずは着る服から選ぶと良いかと思ってね」
「ここは劇場の衣装部屋か?」
種類が豊富過ぎて手に負えないぞ。
スーツだけでどうしてこんなに種類があるんだ。
集まり事によって着る服の決まりかなんかあるのか。
「まあ、いつも通りかな」
「普段着ていない服なんて着たらさ。その服に着られてる感が出て変に見えそうだし。無難にズボンとシャツとスカーフで」
「甘いな」
着ようと思った服を手に取ろうとしたらカイウスに腕を掴まれた。
えっ、これじゃあ駄目なのか。
「逢引とは特別な事情で会うことのできない者たちが秘密裏に会う大切な行事。そこに特別性を求めず普段着で向かおうとするとはね」
「うっ、それはそうかもしれないけど。俺たちはほら、その気になれば割と簡単に会えるし」
度々屋敷に侵入し、会ってるからな。
そこまで現実味のある逢引だと考えなくても。
「私が与えたせっかくの舞台を利用しようとは思わないのかい。婚前旅行、良いじゃないか。結婚を間近にしての旅行。きっと二人の記憶に残るだろう」
今のところ無人島で一泊、仮装して観光地堪能しかしてない。
記憶には残りそうだ、インパクトが強すぎてな。
「素敵な思い出を作る大事な好機。君は冒険せず無難に済ませようとしている。彼女への対応としてそれは正解なのかな?」
「確かにそういうのをセシリアは望んでいないと思う。俺はセシリアの想像の上を行かなくちゃならないんだ。無難なんて言葉は似合わないな!」
そうだ、これは逃げだ。
無難に行こうとするな、ヨウキとしての道を行け。
俺は持っていた服を全て所定の位置に戻した。
「それで良い。さあ、君はどういう道を選ぶ」
「最上階で夜景が綺麗なんだろう。似合わないかもしれないけどさ。偶にはびしっと決めたい」
「そうかい。ならこんな感じで行こうか」
カイウスにおすすめされた服装にしてみる。
薄紫のシャツにワインレッドのジャケットに黒いズボン。
鏡を見てにやりと笑うとそこには魔族っぽさが出ている一人の男がいた。
魔族っぽいというか魔族なんだけど。
それ以上に思うことがあるわけで。
「おい、これどう見ても悪い男じゃねえか。女性を誑かしている悪役が鏡に写ってるぞ」
「普段の君を見せても仕方ないだろう。好いている者との二人きりの夜なんだ。少しは悪い男になってみるのも良いんじゃないかってね」
「いや、俺ってそういう感じじゃないし」
「彼女はやり過ぎると持ち前の世話焼きな性格が出てしまうみたいだからね。ぎりぎりを攻めてみると良いよ」
ぎりぎりって何だよ。
セシリアの説教が入らないくらいにってことか。
どんな俺になれば良いんだ。
「最初は世間話から始めるんだ。緊張がほぐれてきたら少しずつ彼女の話に移行して褒めていこう。彼女が照れ始めたら軽くアプローチをかけるのが良いかな」
「その助言通りに実行できるか疑問だ」
「そこは君の努力次第さ。私の言う通りにしなくて良いんだ。主導権だけは握るようにしないと。あと、さりげない気遣いをして優位性を維持するんだよ。相手にこの人なら任せても大丈夫っていう安心感を与えてあげないと」
「それ一番難しいかもしれないわ」
俺、やらかした回数多すぎてセシリアが安心してくれる状況になるって考えにくいんだけど。
ムードで何とかなるかね。
「弱気になってはいけない。君は自分の世界に引き込むのが上手い。胸を張り自信持って行動すれば大丈夫さ」
「そ、そうかな」
「ああ、それじゃあ服装は決まったから次は贈り物だね。演出も考えないと」
そんなこんなでカイウスのありがたい助言を聞いた俺は準備万端で最上階の部屋へ向かった。
鐘が鳴っていないのでセシリアの準備はまだ終わっていないということか。
「あっ」
「えっ」
カイウスに案内されて部屋に入ろうとしたら、ちょうどセシリアの支度も終わったらしく廊下を歩いてきた。
ただ……格好がまさかのカジュアルスタイル。
いつもならワンピースタイプのドレスを着てくるところなのに。
薄い水色のシャツに桜色のコート、茶色のズボン。
普段のイメージと違った服装だ。
「とにかく部屋に入ろうか」
「そうですね」
服装の件は驚いたがここはほんの挨拶みたいなもの。
本番はここからだ。




