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吸血鬼の提案にのってみた

「ヨウキさん、棺桶から札が出てきているんですけど」



「ああ、あの札の出方じゃあアルビスの説得は無理だな。納得させるにはシアさんがもっと勢いよくヒュッと札を出さないと」



「そういう問題ですか!?」



札を早く出せば強い肯定を示すことになるからな。

シアさん的にも不本意ってことなんだろうよ。



「カイウス。どうやら君の最愛の人も君の行為を良く思っていないようだよ。今こそ行動を改める時なんじゃないか。恋のキューピッドととしてカップルの想いを背負っていくためにも」



「背負う……私がかい。私はいつも言っているはずだ。背中を押しているだけだと。神でもあるまいし相談相手全員の想いを背負うなんて私には無理な話さ」



「何だと……?」



「いいかいアルビスくん。背負うっていうのはそんな簡単にできることじゃないんだよ。私は昔、自分の軽はずみな行動で一番大事な人を失いかけている。恋のキューピッドと呼ばれようがどんな存在だろうが……寄り添って共に歩いていけるのは一人だけさ。私が背負うのは彼女だけだよ」



かっこいいこと言ってるんだけどなぁ。

アルビスも何も言い返す言葉が見つからないみたいだし。

でも、今の状況考えると。



「背負うってどっちの意味だと思う?」



「……物理的な意味なのか人生的な意味なのかということですね。カイウスさんのことですし、両方の意味でおっしゃっているのではないですか」



「そうかねぇ。シアさんも荒ぶってるし」



棺桶から飛び出したマルの札が左右に揺れている。

何だかんだでカイウスのことが大好きなんだろう。

会った時は大人しそうな人だと思っていたのだが。



「もちろん背負うだけじゃなく私たちは互いに支え合っている存在だ。例えば私がため息をついただけで疲れたの、と心配してくる彼女が愛おしくてたまらない。この前後ろから抱きしめた時なんか、戸惑っていたものの最終的には身を委ねてくれたりね。あとは……」



急に惚気エピソードを暴露し始めた。

普段、そんなにイチャイチャしているのか。



アルビスはこれ聞いていいのか……と耳を塞ぐべきか迷っている。

俺もセシリアも同じ気持ちだ。



「お、おい。良くそんな話を淡々と話せるな。恥ずかしくないのか」



「恥ずかしい……良くわからないな。最愛の人との日々を語ることの何処が恥ずべき行為に繋がるのだろう。堂々と私は話せるよ。私の最愛がどれほど愛おしく可憐な存在かということが!」



はっはっは、と高笑いも決める辺り相当気持ちが昂っているな。

そろそろ止めてやるか。



「カイウス」



「何かなヨウキくん」



「そろそろ止めておこうか」



「何故かな。私にはっ。まだまだっ。話したいことがっ。あるのだけどっ……何だ、体が揺れている?」



「もうシアさんが限界なんだって……」



話の途中から棺桶が揺れ出してバツの書かれた札が何度も往復していたぞ。

今はマルとバツの札がランダムに出てきて、くぐもった声すら聞こえてきている始末。



カイウスは恥ずかしくなくてもシアさんが耐えられなかったということだ。

……シアさん、大変だな。



「おっと、すまないシア。話し過ぎたみたいだ。私たちの胸の底だけに秘めておきたい話があったのかな」



勢いよくバツの札が出てきた。

そういうことじゃないってよ。



「ふむ……ではこの辺にしておこう。さて、これでわかったかな」



「カイウスが愛妻家っていうのは伝わったんじゃないか」



「愛妻家という一言で片付けてしまって良いのか悩みどころですけど」



セシリア、わかるけど堪えよう。

ツッコミ入れたらキリが無い。

シアさんが帰ったら話し合いするだろうからな。



「……これで僕が納得するとでも」



「納得するしないの問題じゃないのさ。愛し方は共に歩む者の数だけあるんだからね。例え君に理解されなくても私の愛し方は変えないよ。まあ、彼女が本気で嫌がっているのなら私も考えるが……」



どうかな、私の愛し方は気に入らないかいとシアさんに囁く。

少しの間があって、ゆっくりとバツの札が出てきた。

シアさん、それで良いんだな。



カイウスはどうだい、と余裕の表情。

アルビスはそんなことが……とこぼしてその場に崩れ落ちた。



「ヨウキさん、私たちは何を見せられているのでしょう」



「ブライリングの今後を左右する重要人物による会議ってところだな」



「その解釈が間違っていると否定できない自分がいるのですがどうすれば良いでしょうか」



「無理矢理納得するしかないな」



いい加減棒立ちしている俺たちを気にかけて欲しいんだけど。

そんな視線を感じたのか、先に動いたのはカイウスだった。



「おっとすまないね。君たちはブライリングの観光に来たんだろう。どうだったかな、アルビスくんの施設は。私も少しだけ関わっていてね。満足してもらえたかな」



「俺は楽しかったけど」



「私も充実した時間を過ごすことができました」



「いや、僕が考えているような時間を過ごしてもらうことはできていな……」



「はっはっは、さすがアルビスくんだね。施設を訪れた人を満足させているな。君の評判が落ちることはないのだろう。君のおかげで良い思い出ができた、また来たいと言った声が出ているそうじゃないか」



「それはそうだが……」



「例え君の理想と違ったとしても彼らは満足している。それで充分だろう。大事なのは何か……アルビスくんならこれ以上の説明はいらないね?」



カイウスは恋愛相談以外もいけるんだな。

人生相談も受付したら良いんじゃないかって思っちゃったよ。



「それで君たちはこれからどうするんだい」



「あー、予定だと……逢引する」



「他者にばらしてしまった時点で逢引ではなくなりますね」



「あっ、やべっ……」



やらかした、亀の被り物の中のセシリアはきっと呆れた表情をしているんだろう。

ここは秘密にしなければならないところだったのに。



「それならここにブライリングの逢引おすすめ地形情報誌があるよ」



復活したアルビスがなんか押し付けてきた。

何だよ、逢引おすすめ地形情報誌って。



「これはね、逢引に適した場所を僕が独自に調べ上げた資料をまとめたものなんだ。おすすめの時間帯や人通りの数なんかも細かく書いてあって」



「いや、これ色んな人に配ってるんだろう」



「貰った人方と鉢合わせになる可能性が高いですよね」



「その辺は抜かりなく僕が管理……」



「よし、今日は二人を私の城に招待しよう。泊まるところはまだ決めていないなら、泊まっていくといい」



小声で何やら事情があるんだろうと囁いてきた。

事情ってそこまで深いものではないけど。



顔を隠していたんじゃあ宿を取るのも苦労しそうだ。

せっかくだしカイウスの好意に甘えることにしよう。



「よろしく頼むわ。良いよなセシリー」



「そうですね。お願いします」



アルビスは無視してカイウスについて行くことにした。

あの情報誌って役に立ってるのかね。



疑問に思っている間に城へ到着。

結構広いのに掃除が行き届いてるから不思議だ。



「ところで先程話していたことについてなんだが」



「ああ、逢引の話か。実は……」



カイウスにくじ引き形式での婚前旅行中だということを説明。

くじの指示に逢引と書かれていたと話すと笑い始めた。



「そういうことだったのか。成る程、なら、城の最上階を提供するとしよう。ここ最近でブライリングは急速に発展しているからね。あかりの灯った街の美しい景色を堪能してくれたまえ」



「確かに城の最上階なら誰来ないな。セシリアもそれで良いよね?」



「はい。カイウスさん、ありがとうございます」



「はっはっは、礼など不要……む?」



カイウスからの提案を了承したところで棺桶がガタガタと揺れ始めた。

どうやらシアさんが何か伝えたいらしい。

どうかしたんだろうか……?

活動報告にて海李先生によるキャラデザ公開していますので、よろしければ覗いていってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 逢引おすすめ地形情報誌というパワーワードよw なんて物作ってるんですかアルビスさんw
[一言] さて、シアさんは、何を言い出すんだろうな。
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