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体験してみた

何故か天狗と亀のプラカードカップル作戦が成功したため、俺たちは普通にデートができる。

何とも良い街だ、ブライリング。



「これで気にすることなく歩けるな」



「ツッコミ放棄ですかヨウキさん。この街の異常性に関して思うことはないのですか」



「……安心して歩けるなら良いかなって」



「この格好で歩いて何も言われない街は果たして安心できると言えるのでしょうか」



セシリアの言い分が正論すぎる。

確かにちょっと不気味だな。

セシリア疑惑の時は騒いでたのに天狗と亀はスルー。

基準は何処なんだ。



「気になるところだけど。今はブライリングを楽しまない?」



歩いている内に謎が解決することもあるし。

害があるわけでもないんだから、そこまで気にする必要もないかなって。



首を傾げるセシリアの手を引いてブライリングを観光する。

やはり、男女を意識している店が多くなったという印象だ。



特に気になったのはある施設だ。



「独り身の方にとっては毒になる可能性がありますことをご了承の上でご入館下さい……?」



どんな注意書きだよという話。

受付はこちらと書かれている建物の近くに何軒も同じ建物が並んでいる。

どういう施設だこれ。



「中々、挑戦的な看板だな」



「どういった施設なんでしょうか」



「気になるし入ってみようか。名前呼ぶ時は念のためにセシリーにしとくよ」



「わかりました」

 


そんなやりとりをしてから建物の中へ。

建物の中は受付がいくつかあり、カップルや夫婦が職員と話している。



周りの壁には他の建物の説明が書かれた看板がかけられていた。

二人で建物内を見渡していると。



「やあ、君たちはこの施設の利用は初めてかな。僕は職員のアルビス。良かったら、一通りの説明と案内をするよ?」



職員だと名乗るアルビスはユウガ並みのイケメンだ。

アンドレイさん並みの白い歯を輝かせた体育会系の好青年って感じ。

説明と案内をしてくれるならありがたいが……。



「まずは俺たちを見て一切の動揺がないってのはどういうことなのか教えてほしいんだけど」



「ああ。ブライリングは結構訳ありのカップルや夫婦が訪れるからね。この街に慣れている人だったら顔を隠している理由を詮索したりはしないよ。恋を実らせ愛を育ませるのがブライリングだからね」



「そ、そうなのか……」



結構訪れるのか、恋のキューピッド効果かね。

詮索されないのは助かるけど、街としてそれで良いのかよ。



「治安で困ったりはしないのですか?」



「悪いことをしようとする輩がいたら……僕が黙っていないさ。あとは……恋のキューピッドであるカイウスがね」



カイウスの名前を出した時、アルビスの表情が陰ったんだが……。

何かしらの因縁でもあるのか。



こっちの詮索をして来ないんだから、聞くのは良くないな。

ここは話を進めよう。



「せっかくだから案内頼めるかな」



「ああ、任せてくれ」



爽やかにアルビスはこの施設の説明をしてきた。

ここはカップルや夫婦仲を高めるための施設なんだとか。



ボードゲームやカードゲーム等の娯楽、男女で協力してお菓子屋や小物を作る体験、障害物を突破して走り抜けるアスレチックコースもあると。



「二人で協力してお互いの信頼度が上がったり、意外な一面を見ることができたって利用者から来て良かったという意見が多数挙げられているんだ」



「面白そうだな。セシリー、何処に行こうか」



「そうですね……」



遊園地に来たみたいでテンションが上がるな。

二人で何処に行こうかって悩んで決めて体験か。

これなら男女の雰囲気も良くなるんだろう。



「そうそう。二人でよく相談して決めるんだ。ちなみに人気なのはやっぱり協力してお菓子を作る菓子作り体験かな」



「成る程。菓子作り体験ですか」



「おっ、セシリー乗り気だな。菓子作り体験、やってみようか」



「良いでしょう。私は厳しいですよ。付いてこれますかヨウキさん」



「やってやるさ」



「えっと、君たち。作るお菓子はそんなに難しいものではないから、もっと気楽に……」



アルビスがちょっと困った表情をしているが止められないぞ。

セシリアは決めたら没頭するタイプだからな。



「ヨウキさん、生地の用意をお願いします」

「ベリーの準備はできていますか」

「泡立てが足りないです。私は手が離せないのでやり直しで」

「型の種類が豊富にありますね。悩みます……」



いやー、セシリアから指示が飛んでくる飛んでくる。

セシリアも自分の作業をしながら、よく俺へ的確な指示が出せるよ。



周りのカップルはこうやるんだよーと彼女が教えるとか。

こんな感じかなーって二人で悩みながら作ったりしているんだけど。



まったりもイチャつきもせず、作業の遅れや無駄がないように調理をこなす俺たちを見て周りのカップルは固まっていた。



アルビスに至っては違うよ、これじゃあ先生と助手だよ……と嘆いている。



まあ、周りの反応がどうだろうとセシリアと俺が止まることはなく。



「完成ですね」



顔が見えていなくてもわかる。

セシリアは一仕事終えたと満足した表情でテーブルに並べられたお菓子を見ているはずだ。



「そうだね。作ったのはほとんど焼き菓子だし持ち帰ろうか」



「はい。ですが少々熱が入りすぎたせいで作りすぎました」



確かに持ち帰るにしても多いな。

二人で話しているとアルビスが控えめに会話へ入ってきた。



「ええっと……作りすぎたなら参考にってことで周りに配っても良いかい?」



「私は構いませんが……」



「俺は補助に徹した。セシリーのお菓子が不味いわけがない」



俺は天狗のお面を少しずらして隙間を作り、クッキーを口に入れた。

うん、程よい甘さで美味しい。



「美味いっ!」



俺の一言が合図となり、カップルたちが俺たちのテーブルへと殺到。



美味しいと評判で僕たちもこれくらい美味しく協力して作ろうと燃え出すカップルが続出。



まったりイチャつく空間から一転し、本気のお菓子作りが始まった。

全体的に見て相方の信頼度は高まったと思う。



「違うんだ……確かに信頼度は上がっている。でも、僕の見通しとは方向性が……」



アルビスが周りの様子を見て頭を抱えている。

なんか、悪いことしたかな。

焼き菓子を入れた籠を持って棒立ちする俺とセシリア。

次の施設に案内してほしいんだけど。



「それにしても配った割にはそこそこの量があるよな。食い過ぎ注意とか言わないよね」



「せっかくですから運動していきますか。先程、施設があると聞きましたし」



「よし、案内するよ。付いてきてくれ」



「回復早いな」



さあ、こっちだよとさっきまでの悩みは何処へ行ったのか。

アルビスの案内でアスレチックコースへ向かった。



そこそこ広めの広場に木材とロープで作られたコースがある。

一つだけでなく、何種類かあって難易度が設定されていると。



「ここはベテランのレンジャーに協力してもらって設計した自慢のアスレチックコースなんだ。難易度があって体力に自信のない人から実力のある冒険者でも楽しめるようになっていてね」



確かに周りの利用者の動きを見たら一定のレベルに合わせて作られていることがわかる。

これは面白いな。



「かっこいい姿を見せようと男性陣がはりきって上級者向けのコースを選んで失敗する事例もあるから、コース選びは慎重に……」



「セシリー、今度は俺が魅せる番だな」



迷うことなく難易度が一番高いコースを選ぶ俺。

一周するタイプのコースで時間制限あり。

スタート地点に砂時計があり、砂が落ち切る前に一周すれば良いのか。



登ったり飛び乗ったり走ったりすれば良いだけならいけるいける。

地面に落ちると失格らしい、復帰なしか……やってやるよ。



「ヨウキさん、頑張ってください」



「燃えてきたー!」



セシリアの応援という最強の強化魔法が俺の身体に染み渡る。

やる気に満ちた俺は身体強化は使わず、素の状態でゴール。



砂時計の砂の残り具合からして歴代最速という結果になった。



「そんな、僕の最高記録が軽々と……」



ちなみにこれまでの最速はアルビスだったみたいだ。

俺が軽々と抜いてしまったせいで、少しショックを受けている。

本当、ズルはしてないからな。



「いや、セシリーの応援という最強の強化魔法を俺は使用して……」



「では、私も挑戦してみましょうか」



「よし、頑張れセシリー。偶にやってる模擬戦の成果を試す時だ」



「誰かと戦うわけではないのですが……付き合ってくれているヨウキさんのためにも拙い動きを見せるわけにはいきませんね」



セシリアの挑戦が始まった。

まあ、セシリアも元勇者パーティーの一員なわけだし。

危なげなくゴールしたわけだが。



「いや、セシリーならもっと速くなれるはずだ。縄梯子を登る時とか丸太の橋を渡る時とか迫り来る丸太を避ける時とか。無駄な動きがあるんだ、体勢を崩さずに駆け抜ける。セシリーの持っている能力を駆使すれば可能だ」



俺が熱く語っているとアルビスが今度は教官と弟子ですか……と呟いていた。

アルビスの予定と違っているんだろうが今は構っていられない。



俺の助言を受けて何度か挑戦するとセシリアは速くなった。

アルビスの記録を抜いてしまうくらいに。



「楽しかったですね」



「ああ、満足したな」



「僕の想定とかなり違った楽しみ方をしているようだけどね。君たちが何者なのか知りたくなったよ。自分で詮索しないと言っておいてね」



ははは、と乾いた笑みを浮かべるアルビス。

規格外なことをしたつもりはそんなにないんだが。



「君たちへのおすすめの施設は何処だろう……ってあれは」



アルビスの視線の先にはカイウスの姿があった。

カップルの相談に乗っている。



相変わらずだなぁ……ところでどうしてアルビスのカイウスを見る目が燃えているように見えるのかね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この2人は……。 [一言] いいぞ、もっとやれ(・∀・)
[一言] 新連載「天狗と亀の先生と助手、時々教官と弟子」 を楽しみにしています!(始まらないと思いますが!)
[一言] まぁ、(この二人なら)そうなるな イチャイチャよりも訓練感が前に出てくる。君たち普段の方がイチャイチャできてない?
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