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恋人と無人島に来てみた

「無人島だな」



「無人島ですね」



俺とセシリアは無事に無人島に到着した。

ユウガとミカナが過ごした無人島。



俺たちはユウガのようにトラブルを呼び込む力は持ち合わせていないので晴天だ。

ここで何をすれば良いんだろう……?



「取り敢えず着替えましょうか。ヨウキさんの装備と私の法衣はこの綺麗な海に合っていませんし」



それはつまり水着になるということですね。

もちろんと二つ返事で了承。

その辺に落ちていた流木と布で仕切りを作って着替える。



こんな時にと水着を持ってきておいて良かったぜ。

さくっと着替えてセシリアを待っていると。



「お待たせしました」



仕切りから姿を現したセシリアは確かに水着を着ていた。

淡い緑色の水着に……水色の上着に麦わら帽子。



とても似合っており目の保養に……なんてな。

まずは褒めよう。



「すごく似合ってる」



「ありがとうございます。正直言ってあまり着る機会がないのでどういう反応をされるか不安でした」



速攻で褒めたのは正解だったな。

無人島とはいえ海は海、二人きりで全力で遊んで時々イチャつくというのが定番か。



ゆっくりボール遊びでもと考えているとセシリアから袋を手渡される。

これは何だろう。



「それではまず食料の調達に入ろうと思います」



「えっ!?」



現地調達するのか。

夜になったら俺がひとっ飛びして適当に買ってこようと思っていたんだが。



「こまめな水分補給を忘れず、体調が悪くなったら報告してください。私は魚を狙いますので」



お互いに頑張りましょうとセシリアは去っていった。

うーん、これはセシリアの癖かな。



旅をしていた時はセシリアが食料問題を解決していたんだし。

ま、こういうのも良いかね。



「セシリアが海なら俺は森かな」



旅行に来てすぐ別行動になったけど……食料を調達してセシリアに褒めてもらおうか。

意気揚々と森へと入った俺だが。



「狩りをするのも有りだけど……俺、そういうの詳しくないんだよな」



血抜き解体なんてできないよ。

魔王城にいた頃はデュークが覚えていてシークとハピネスを連れて狩りに行っていたな。



俺は引きこもっていたから、食う担当であまりにも申し訳ないので料理していたっけ。

駄目だな、仕留める自信はあるけどセシリアが魚を調達してくれるんだし。



「野草や果物を探すってことにするか。まあ、そっちも素人だけど」



専門知識なんてない。

どうしようか……シークよ力を貸してくれ。

俺は祈りを込めてシークからの贈り物を取り出す。



「よっしゃ!」



中身はシークお手製の図鑑だった。

見やすい絵に効能、食用かどうかと似た植物との見極め方が載っている。



番外編として果実についても載っているので役立つな。

シーク、良い仕事だ……けどな。



「痛い目に遭ってる俺の絵はいらん……」



例えばカムシ草という草は間違って食べると酷い掻痒感に襲われるらしい。

カムシ草の説明が書いてある近くに痒みに苦しむ俺の絵が載っている。



他にも辛くて火を吹いてる俺、痺れてる俺、涙が止まらなくなってる俺等。

毒性のある植物の絵は決まって俺が体を張って説明しているのだ。



「間違って食べたらどうなるか、結果がわかるから絶対に採取しないぞ。ありがとうなシーク、帰ったら覚えておけよ」



シークのおかげで食料調達は上手くいった。

図鑑で確認する度にイラッとしたけどな。

二人なら充分すぎるくらいの野草と果物を持ってセシリアのところへ戻る。



椅子に座って足をぱたぱたさせて……なんて仕草をしているわけではなく。

きりっとした真剣な表情で竿を見つめている。



そして竿に反応があると見逃さず、見事に釣り上げた……お見事。



「あれ、ヨウキさん。早かったですね」



釣り上げた魚を籠に入れて声をかけてきた。

ぴちぴちと魚の跳ねる音が聞こえるんだが。

俺が探索していた一時間弱で何匹釣ったんだ。



「ああ、まあね。シークがくれた図鑑が役に立ってさ。……そこそこイラッとしたけど。見てみる?」



「そうですね、気になります」



セシリアに図鑑を渡すと竿を置いて読み始めた。

最初は首を傾げていたが、ページをめくっていくと口を押さえて笑いを堪えている。



我慢の限界に達したのか笑い声が漏れる。

まあ、こんなん笑うよな。



「……っ、お返し、します。ふふっ」



「笑ってもらえて絵の中の俺も体を張った甲斐があるよ」



「すみません、良くないですよね……」



「いや、シークも猛毒とか死に直結しそうな効果があるやつは絵にしてないからさ。変な効果あるやつは全部描いてあるけど」



「涙が止まらなくなってるヨウキさんの絵が私は新鮮で」



「あの感動をもう一度っていう台詞があるやつか。まじでふざけてるよね、シークのやつ」



俺の泣き顔の絵の横に台詞が書かれているのだ。



「シークくんに慕われている証拠でもありますよ。こんなに何種類もヨウキさんの絵を描くなんて」



「ごめん、そうだよねって言えない」



明らかな悪ふざけにしか見えないもん。

ひとしきり笑った後、セシリアは釣りを再開。

俺も参加したいが釣竿なんて持ってきてない。



「糸と針は余ってるので竿を自作してはどうでしょう」



「成る程」



その辺の棒に糸を針をくくりつけて完成。

……こんなんで釣れるのだろうか。

一応、セシリアの横に立って釣り開始。



「まさかセシリアと旅行するってなってさ。初日に無人島で釣りするとか正直思ってなかったよ」



「私もですよ」



海に来たんだし砂浜で遊ぶとかさ。

イメージ的にはボール遊び、水のかけ合いとか。

現実はサバイバルのため食料調達。



「私はこの旅行、どうなれば正解なのかわからないんです。でも、絶対につまらない、何も残らない旅行にはなりません。ヨウキさんと一緒ですから」



突然の甘い発言に力が抜けて竿が落下しそうになった。

最近、セシリアは不意打ちが多い気がする。



「無人島で二人並んで釣り糸を垂らすのも私たちらしいと言いますか」



「それはわかる。こういう穏やかな時間、セシリア好きでしょ」



「ヨウキさんもですよね」



セシリアと付き合う前から部屋で紅茶を飲みながら談笑するのが好きだ。

セシリアもそうなんだろうと感じていた。



「穏やかな時間も好きですが私の想像を容易に超えてくるヨウキさんの作る景色も好きですよ」



「やり過ぎた場合は?」



「それは……聞かなくてもわかっているのではないですか」



「それもそうだな。じゃあ、セシリアはこの旅行で何かしらの騒動に巻き込まれたいとか考えてるの。俺が水面に向かって台詞決めたら実現するけど」



「いつからそんな力をヨウキさんは発現してしまったのでしょう」



「結構前、宿暮らしをしていた頃かな。鏡に向かって今日は最悪の一日になるぞって口走ったら、まあえらい目に遭いまくったよね」



テンション上がって色々と台詞叫んでてやってしまったんだよな。



「ヨウキさんのその行動の理由が理解できません」



「大丈夫、今思い返したら俺も理解できないからさ。でも、考えてみたらあの日がユウガと本格的に絡むきっかけになったのか」



「気になるので詳しく聞かせてもらっても良いでしょうか」



「ああ、実はさ……」



思い出話に花が咲いている間、空気を読んでくれたのか。

俺の竿にもセシリアの竿にも当たりが来ることはなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あたりが来ないのが良いことか微妙ですね。 読み返ししようかな。
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