元部下たちと遊んでみた
セシリアに婚前旅行の予定を丸投げしたダメな俺。
独身をあと少しで卒業するということで……。
「おらぁ、そっちに行ったぞー!」
俺は黒雷の魔剣士ではなく、ヨウキとして依頼を受けていた。
村の畑を荒らしに来るというパープルボア。
俺の嗅覚をもってすれば森にいようがすぐに見つかる。
名前の通り、身体が紫で毒々しい色合いだがきちんと調理すれば美味しい……らしい。
今回は単独ではなく、頼れる仲間たちと一緒だ。
「はいはい、わかったっすよ」
俺が追い詰めたところでデュークが退路を塞ぐ。
「……拘束」
ハピネスが魔法で足止めをして。
「ばいばーい」
シークが木の上から強襲。
上手い具合に急所にダガーを刺せたらしく、パープルボアは悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
「おっしゃー、依頼達成だ」
「楽勝っすね」
「……同感」
「相手にならなーい」
この程度の相手なら余裕だな。
「いやー、急に呼び出して悪かったな」
討伐対象のパープルボアを引きずりながら、三人にお礼を言う。
予定があるんじゃないかと思っていながら誘ってみたら全員空いていた。
珍しいこともあるもんだ。
「別にいいっすよ。偶には四人で集まるのも悪くないっす」
「……同感」
「僕もー」
やはり、こいつらは最高のやつら……なんだけど。
「なあ、なんでパープルボア俺一人で引きずってんの?」
「ちょっと訓練し過ぎて腕がだるいんすよ」
「……華奢、細腕」
「僕、薬草調合の時に使う乳棒より重たいもの持てなーい」
……ほらな、最高のやつらだろ。
昔みたいに三人で結託して俺を小馬鹿にしてくるところまで変わらない。
そうかよ、そっちがその気ならこっちにだって考えがあるぞ。
「デューク……訓練し過ぎで疲れているなら、イレーネさんにエルフ流のマッサージでも頼んでおいてやろうか?」
「えっ!?」
「ハピネス……華奢な細腕が持てない原因なら鍛えてやるぞ。ムキムキになった腕でレイヴンと腕を組むのも良いんじゃないか。レイヴンだって鍛えているんだしお似合いだぞ?」
「……強化、拒否」
「シークはあれだな。そんなに薬草調合がしたいならティールちゃんとフィオーラちゃんと仲良くやったら良いぞ。話も弾むだろうし」
「え、えーっとー……」
デュークは何を思い出したのか全身を触っている。
何もないことに安心し、ほっとしているんだが……何をされたんだ。
ハピネスは普通に拒否ってきた。
レイヴンと腕を組んだ感触を思い出しているのか、自分の腕をふにふにと触っている。
シークは……苦労しているらしい。
困った表情のシークなんて滅多に見ないのにな。
あははー……と笑って誤魔化してきたんだけど上手く笑えていない。
……みんな色々と抱えるようになったんだなぁ。
魔王城で引きこもっていた時は訓練して遊んでばっかだったけど。
「俺たちって良い成長してるよな」
「隊長が一番成長してるっすよ。引きこもり卒業!」
「……逆玉」
「友達もたくさん増えたよねー」
「よし、ハピネスだけお仕置きな」
逆玉とか言うなや。
こっちだってきちんと稼いでるからな。
身分は……あれだけど財力なら頑張ってるんだからな。
セシリアの預金とか知らないから、強く言えないけど。
「……変態」
「うわっ、隊長変態だったんすか」
「変態だー変たーい」
「お前らの団結力はどうして俺を馬鹿にしてくる時に一番の力を見せるんだろうな」
もっと別の時に使って欲しいんだが無理なのか。
俺の呆れた視線に三人が反応、目だけで会話をし始めた。
俺の前でひそひそ話は意味をなさないからな。
付き合いの長いこいつら三人は妙な対策をしてくる。
視線だけの話し合いが済んだらしく、デュークが口を開いた。
「やっぱり隊長は変態ということで意見が合致したっす」
「何の相談だよ!」
シリアスに期待した俺が馬鹿だったわ。
ちょっと真面目な相談かと思った自分を引っ叩きたい気分だ。
こっちは真面目な話をしたい気分だというのに……全く。
「デュークはこれからどうするんだ?」
「急に何すか」
「イレーネさんと仲良く騎士団で働くのかなって話」
「そうっすねぇ……特にやりたいこととかないし。イレーネとこのまま騎士団所属っすかね」
デュークはミネルバに残ると。
「ハピネスはどうだ。レイヴンはハピネスが森暮らしの方が良いって言ったら騎士団長辞めて家でも建てそうだけど」
「……無責任」
「そうか。勤めは果たした方が良いと」
「……当然」
自分を優先するのではなく、役目をしっかり終えてからっていうのがハピネスの意見だな。
レイヴンが聞いたら喜びそう。
「シークは……頑張れ」
「僕だけ質問の仕方が違うー」
「お前はまだ子どもだからな。セリアさんに保護してもらってろ。迷惑はかけるなよ」
「かけないもーん。隊長じゃあるまいしー」
可愛くねぇなこいつ。
まあ、セリアさんならシークを悪いようには扱わないだろう。
ティールちゃんやフィオーラちゃんにクインくんもいる。
同世代の友達もいるから安心だな。
「なんかへーん」
「……病気?」
「いや、避けられない限界ギリギリの戦いに行くのかもしれないっす」
「変でも病気でも生死を賭けた戦いに行くわけでもねーわ。……お前らは良いのかなって思ったんだよ」
「何がっすか?」
「知ってると思うけど俺はセシリアと結婚する。お前らは俺を追いかけてきたわけだろ。なんかこう……今更だけどさ。それで良いの?」
追いかけてきた時は素直に嬉しかった。
その後、勢いでセシリアの屋敷に行ってさ。
ハピネスはメイドになってデュークは騎士になってシークは居候……いや、庭師見習いか。
本来の生き方と違ってるんだが後悔とかないのか。
「何言ってんすか」
「……謎」
「隊長はわかってないなー」
結構勇気出して聞いたのにこの反応。
何だよ、何が悪かったんだよ。
「俺はミネルバに来て良かったっすよ。隊長に再会してまあ、苦労したっすけどその分良い出会いがあって思い出ができたっす。これからもこんな日々が続いても悪くないなって思ってるんで」
「僕も悔しい体験をしたし。追いかけられたりと大変だけど魔王城よりも充実してるから良いかなー。隊長とデューク兄とハピネス姉がいるし」
「……幸福、以上」
「何だそれ」
俺の展開したシリアスはどこに行ったんだ。
全員、現場に不満はないらしい。
俺の考えすぎだったのか。
「そもそも隊長は人の心配している場合なんすかね」
「……結婚、不安」
「セシリア姉が悩んでいたよー」
「あぐぁっ!?」
俺の精神に大ダメージ。
「告白まで時間かけて恋人になってからも苦労かけてプロポーズしておいて結婚に怖気付くとかなんなんすか」
「……ヘタレ」
「ヘーターレー」
デュークはともかく他二人は悪口だからな。
言ってることは正しいので何も言えない。
「いつもの無駄にカッコつける隊長はどこに行ったんすか!」
「厨二は結婚とともに卒業だよ」
「……結婚、変化、駄目」
「ハピネス姉の言うとーりー」
ハピネスとシークにダメ出しされ何も返せない。
セシリアも良い反応してなかったからな。
「隊長……我慢は良くないっす。自分を隠さないでほしいっすよ」
「デューク……結婚する時はな。己を捨てねばならないこともあって」
「……憤怒」
「うわうわ、ハピネス姉から怒りの炎が出てるー」
ここに来てハピネスの怒りを買ったようだ。
いや、なんで!?
「……結婚、変化、駄目」
「それさっき聞いたぞ!?」
「……独りよがり」
「ぐふっ!?」
またもや精神に大ダメージだ。
シークが笑い転げている。
「……一部」
「どういう意味だ?」
ハピネスの言葉は大体伝わるのに今回ばっかりはわからない。
一部って何?




