元ライバル候補の本音を探ってみた
あんなに黒雷の魔剣士の正体が知りたい、思惑は何だと盛り上がっていたのにな。
現在、二人は何とも言えない気まずさを感じているようで。
肩幅が明らかに狭まっているが大丈夫だろうか?
あと、邪魔じゃないし。
「いやいや、邪魔なんかじゃないって。なあ、セシリア?」
「はい。夕食は人数が多い方が楽しいですから。くつろいでもらって構いません」
俺とセシリアは歓迎モードだ。
正体ばれたんだったら気にする必要はないし。
しかし、二人はそんなに簡単に割り切れないらしく。
「こんな重大なことをさらっと発表されてくつろげるわけがありません」
「あああ……手が震えてペンが持てない。僕は情報記者として失格かもしれないです」
「そんなもんかねぇ……」
「そんなもんかねぇって。貴方は本当に……」
プルプルと体を震わせているソレイユ。
俺に不満があるらしい。
「自分が黒雷の魔剣士で僕たちの捜査に付いて来てどういう心境でしたか? いや、そもそも黒雷の魔剣士の真意を探るとか言って誘ったのは貴方でしたね。そんな人のことを馬鹿にするようなことを貴方は……」
「俺も自分の正体を知られないように必死だったからな。お前、しつこかったし。ああでも言わないと振り切れないと思ったんだよ」
ソレイユは中々鋭いところがあるのであのまま誤魔化していたらボロが出そうだったからな。
まあ、最終的に黒雷の魔剣士が俺という方程式を立てられなかったけど。
「それでも僕は許せません。僕にとって黒雷の魔剣士は憧れた存在なんです」
なんか話がおかしな方向に……って、そうか。
「僕が一時期ミネルバを騒がせた蒼炎の鋼腕です」
「えっ、そうだったんですか」
反応したのはウッドワンだ。
この中で知らないのはウッドワンだけだしな。
おい、片手にペンを持ってるぞ。
復活したのか、良かったな。
つーか、そんな僕の正体は……という感じで言われても。
「知ってる」
「えっ……」
「お前が蒼炎の鋼腕だってことはセシリアに婚約迫った時に知った」
「そんな馬鹿な……僕はばれないように細心の注意を払っていたはずだ」
信じられないと驚いているな。
だが、どれだけ気をつけていようが俺の捜査からは逃れられん。
ましてや、俺の真似してセシリアに婚約迫るとかさ。
当時は熱も入ったし、隠し通せるわけがない。
「それがお前の憧れた黒雷の魔剣士の力だっ!」
びしっ、と決めてやった。
「……積もる話は夕食後にしましょうか」
「わかったよ、セシリア」
「黒雷の魔剣士さんはセシリアさんに頭が上がらないっと」
余計なことをメモるなよウッドワン……。
セシリアの一言によりソレイユも黙ったので、夕食の時間になった。
セシリアの料理はとても美味しい。
もっと盛り上がっても良いはずだ。
それなのにこの食器の音しかしない食卓なのは何故だ。
食べる時は無駄な会話をしないのはマナー。
わかっている、わかっているけど……。
「セシリア、このサラダの味付け気に入った」
「そうですか。ヨウキさんの好みの味付けと覚えておきましょう」
「ハピネスが味付け手伝ったのはこっちの料理でしょ」
「どうしてわかったんですか!?」
「セシリアの料理は食べ慣れてるし。俺の好みだから」
ハピネスの味付けが悪いというわけではない。
そういうもんだと理解してもらいたいな。
レイヴンでもハピネスが作ったのはどれかと聞いたら答えられるだろう。
最早、そういう域に達しているのである。
「そうですか……では、今後はばれないように味付けを工夫することにします」
「なんで!?」
「味付けに飽きられてしまっては困りますから。常に胃袋を掴んで置かないと家庭で優位に立てなくなるので」
「俺の胃袋が逃亡することはないと考えても良いと思うよ」
「だからといって今の腕前で満足する気にはなりませんよ」
セシリアは向上心を忘れない、さすがは聖……。
「今、良からぬことを考えましたね」
「何故分かるんだ……」
「あの、やっぱり僕たち邪魔じゃないですか」
「取材したいという気持ちと二人っきりにしなければという義務感に挟まれて感情がぐちゃぐちゃになりそうです……」
ソレイユとウッドワンはやはり居心地が悪いらしい。
うーむ、これはあれだな。
「慣れてくれ」
「無理です!」
ソレイユにキレられた。
こいつ、冷静な頭脳派タイプじゃなかったっけ?
俺とセシリアは仲良く、二人は気まずそうにしながら、夕食を終えた。
「私は片付けをするのでごゆっくり」
「俺も手伝うよ」
「ヨウキさんはお二人の相手をしてください。色々と説明不足ですし。私がいない方が話も進むでしょう。何かあれば呼んで下さい。くれぐれも暴走しないように」
最後、俺に釘を刺してセシリアは皿を持って台所へ。
俺一人で説明か……ウッドワンは何とかなりそうだけどさ。
「……」
「何か?」
ソレイユの目が怖いんだけど。
獲物を見る目だよ、あれ。
ヨウキとして説明したって受け入れないだろう。
「ちょっと待ってて」
「逃げる気ですか。セシリアさんに僕たちの相手をと言われたばかりでは?」
「うるせーな。着替えてくるだけだよ」
勢いつけたほうが良いからな。
自室にこもり着替えて準備完了。
「ふっ、戻って来たぞ」
黒雷の魔剣士登場だ。
そもそもこいつらが会いたかったのはヨウキじゃない。
黒雷の魔剣士のことを知りたくて今日行動していたのだから、黒雷の魔剣士として会う方が良いだろう。
さあ、何でも聞くが良い。
「……まさか、そうくるとは思っていませんでしたよ。どこまでも貴方という人は僕の想像の斜め上を行きますね」
「黒雷の魔剣士の考えを簡単に推理できるとでも思ったのか。この俺も甘く見られたものだ」
「黒雷の魔剣士さん……取材しても良いですか」
ウッドワンも黒雷の魔剣士なら取材しやすいらしい。
俺は椅子に座り、二人の話を聞くことにした。
「では、質問させてもらいます。黒雷の魔剣士さんは何故、黒雷の魔剣士さんになったんですか」
「ふっ、愚問だな。気がつけばなっていた。それだけのことだ」
「成る程……屋根を走る姿を目撃することが多いです。何か理由は」
「今では正体を知られてしまったが……神出鬼没で正体不明の方がかっこいいだろう。帰る場所を悟られるわけにもいかないのでな。緊急時の移動手段として使っていた」
「ありがとうございます。最後にセシリアさんに一言お願いします」
「セシリア、レッドボアは最高に美味かったぞ……」
「やっぱり貴方ふざけていますよね!」
またもやソレイユがキレた。
今のセシリアへの一言は間違っていない。
サラダも美味かったけど、やはりレッドボアは格別だった。
「ぐっ、精神的に参っていた時、何故僕はこのような人に憧れを抱いてしまったのでしょう」
「簡単な話だ。それはお前の中にも溢れんばかりの厨二オーラが宿っていたということさ」
「ことさ、ではありません。全く、このような人のために時間を割いて僕は何をしていたのやら」
「そうだな。お前は何がしたかったんだろうな」
結局、ソレイユの目的は何だったのか。
セシリアに未練はなさそうだ。
黒雷の魔剣士の正体を知りたかった、いや、それも違う。
「また妙な言い回しで僕をからかうつもりでしょうか。何度も同じ手を使うのは芸がないですよ」
「お前はセシリアを諦めていないヨウキって男が自分の敵わなかった黒雷の魔剣士にどこまで噛みつくか見たかったんじゃないのか」




