恋人と相談してみた
何でこうなった?
「どうぞ、おかわりもありますから」
自分の家で恋人がご飯を用意してくれていた。
こんな誰もが羨むような現実なのにさ。
テーブルには四人分の食事が用意されている。
俺とセシリアの分と……ソレイユとウッドワンの分である。
いや、石化していたらセシリアが用意した食事が冷めてしまいます、お二人もどうですかなんて言うから。
「今、飲み物を持ってきますね」
そう言ってセシリアは台所へ。
セシリアがいなくなったところでソレイユが口を開いた。
「今日、僕もウッドワンさんも来る予定ではなかったのに僕たちの分の食事がある。これは遅れてくる黒雷の魔剣士の分なのでは……」
「な、成る程。それは頂いても良いんですか。黒雷の魔剣士さんの夕食が……」
「セシリアさんがおかわりもあると言っていたので大丈夫でしょう」
ここまできてまだ斜め上の推理をしている。
まあ、俺としては好都合なので盛り上がっていてほしい。
適当に抜け出して黒雷の魔剣士として登場し、厨二で切り抜ける。
完璧な作戦だ。
でも、料理の量は確かに疑問だな。
「俺も飲み物運ぶの手伝ってくるわ」
二人にもっともらしい説明をして台所へと向かう。
セシリアがちょうど飲み物をコップに汲み終えていたので理由を聞いてみることに。
でも、その前にあれだわ。
「今日はありがとう」
「驚きましたか?」
「予想外だったよ。でも、俺が泊まりの依頼とかに行ってたらどうしてたんだ?」
「大丈夫ですよ。ソフィアさんからクレイマンさんがヨウキさんが仕事し過ぎだから一旦止めると愚痴をこぼしていたという情報を入手したので」
「ああ、そういう……」
嫁に愚痴らせる程、俺はクレイマンの仕事を増やしていたのだろうか。
依頼を達成するのって良いことじゃないの?
やり過ぎも良くないということか。
「それで今日は驚かせようと合鍵を使って家に入りハピネスちゃんと夕食を作って待っていたんですが。まさか、ソレイユさんとウッドワンさんと一緒にいるとは思いませんでした」
「ちょっと色々あってさ」
「色々……ですか」
セシリアの目が鋭くなった。
これは俺が何かやらかしたと思われているな。
……やばいよ、また説教コースだ。
「違う違う、やましいことは何もしてないから。セシリアに迷惑かけるようなことは本当にない!」
「必死過ぎて逆に怪しく見えてしまいますね」
「いや……ところで随分と料理多めに作ったんだね」
「露骨に話を逸らしましたね。まあ、事情は後で聞くとして……今日はレイヴンさんが合流予定なんです。騎士団の仕事で遅くなるみたいですが」
どうやら多いなと思っていた料理はレイヴンの分だった。
ソレイユ、これは推理できないわ。
「二人に料理を出したのでハピネスちゃんは食材の買い出しに行きました」
「ああ、足りなくなったのか」
「ついでにレイヴンさんを迎えに行ってくると」
食材の買い出しの方がついでなんじゃないのか、ハピネス。
しかし、この後レイヴンも来るのか。
さっさと二人を追い出さないと鉢合わせになるぞ。
「それで二人はどうしてヨウキさんと一緒に行動していたのでしょう。偶然とは思えませんが……説明してくださるんですよね?」
セシリアの笑顔が怖い。
断るわけないですよね、と顔に書いてある。
これは誤魔化すの無理だわ。
これまでのあらすじを洗いざらい白状することに。
まあ、秘密を守るために行動したのであって誰にも迷惑とかかけてないし。
正座することはないよね。
俺は今日一日の流れを説明した。
「……といった事情でございます」
「そういうことですか」
「俺としては黒雷の魔剣士として現れて上手い具合に誤魔化そうかと。俺がいないのはまあ……買い出しに行った的な?」
そんな感じの作戦でいこうかと。
ふっ、相変わらず俺の作戦は完璧だな。
厨二スイッチが入りかけたところでセシリアに腕を掴まれた。
「えっ、何事」
「お盆を待ってください」
「あ、はい」
説教モードが抜けていないセシリアの圧にあっさりと敗北した俺は言う通りにお盆を運ぶ。
片腕はセシリアに掴まれているので、四人分のコップが乗っているお盆を片腕で……意外ときつくね?
これが黙って行動したお仕置きなのだろう。
そう思いつつ、二人の待つ居間へと戻った……いや、待て。
セシリアさん、どうして腕を掴んでいた状態から腕を組む形にしてるのさ。
そんなことしたら……。
「遅かったですね……えっ?」
「何かありま……」
ほら、二人が俺らを見て固まっちゃったよ。
俺も固まりたいんだけど、どういうこと。
「セ、セシリア……?」
「このお二人なら大丈夫かと」
「いや、大丈夫って」
「もう指輪も受け取っているんですし、公表は時間の問題です。勇者様にばれて大きな問題になっていないのですから、信頼できる方の前で隠す必要はないかと」
確かに一番の障が……壁はユウガだった。
そこを突破したらもう安心と。
いやいやいや、そんな簡単な話にして良いの。
俺の表情を見て悟ったセシリアがぽつりと。
「……ここまで来て人目を気にし、ただの友人の振りをするのも辛いんですよ?」
ちらっと俺が贈った指輪を見せてくるセシリア。
今日、さっきまではめてなかったと思うんだけど、いつの間に。
というか恋人以上嫁未満のセシリアにここまで言わせてまだ誤魔化すとかさ。
そんな鶏肉野郎に俺はなりたくないわけで。
「ふっ、ここまで言われたら仕方ない。教えてやろう。俺が黒雷の魔剣士でセシリアにプロポーズしたヨウキだ」
びしっとポーズを……両手が塞がっていて決められない。
何ともしまらない俺である。
セシリアも横で笑っている始末、何度も俺と行動しているんだしポーズ決められなかったことがわかっているんだろう。
さて、もう何が何だかわからないといった表情の二人。
どっちが先に正気を取り戻すか。
次期領主で元勇者パーティーの一員のソレイユ、領主になったらもっと驚くことあるだろ。
これくらいで口を開けてフリーズするな。
ウッドワンも記者だったらガンガン質問して来いよ。
目の前にお前の大好きなネタがあるぞ。
「中々二人とも正気に戻らないな」
「思っていた以上の衝撃だったようですね」
「料理冷めない内に食べちゃう?」
「少し冷めてしまっているみたいです。温め直しましょうか?」
確かに台所で話し過ぎたのかさっきまで器から出ていた湯気が消えている。
セシリア特製のミルク煮が……。
「いや、セシリアの料理なら少し冷めていても美味しいでしょ」
「それは褒められているんですか?」
「あったかい方が美味しい。でも、セシリアの料理は冷めていても美味しい」
「どういう理屈でしょうか。あと、ハピネスちゃんと一緒に作ったことをお忘れなく。ヨウキさんはレッドボアが好きとハピネスちゃんから聞いたので入れてみました」
「ハピネスが俺に気を利かせた……だと?」
何か後でねだってくるつもりだろうか。
裏がありそうだな。
「そんなに疑わなくても大丈夫ですよ。私が聞いたんですから」
「あっ、そうなんだ」
「これからのことを考えてヨウキさんが何を好きで何が嫌いなのか把握しておこうかと。胃袋を掴んでおいて損はないですから」
「俺はすでに掴まれている気がするけどな」
「家庭料理を振る舞ったことは少なかったかと思います。……期待してくれて良いんですよ?」
「するする!」
二人で料理について盛り上がっていたら。
「あの……」
「喋っても良いですか?」
いつの間にか二人が復活していた。
心なしか気まずそうである。
固まり過ぎたことを反省しているのか。
「何を今更かしこまっているんだよ。ほら、食べようぜ。セシリアの料理は冷めても……」
「それは先程聞いてましたよ」
「あっ、そうなの」
割と最初の方でしていた会話の内容だよな。
実は固まってなんかいないで起きていたのか。
「あー、なんかごめんな。俺とセシリアだけで盛り上がって。じゃあ、改めて食おうか」
「食おうかじゃないですよ」
「あの、セシリアさんも含めて二人に聞きたいんですけど。僕たち邪魔ですよね」
おや、質問攻めされると思ったら予想外の反応が返ってきたぞ。




