予測されてみた
また一ヶ月やらかしました
はっきり言おう。
俺は二人を舐めていた。
「こちらが黒雷の魔剣士についてまとめた地図です」
「こっちはここ最近の依頼をこなした数です」
「この日から急に増えていますね」
「セシリア様の連休と黒雷の魔剣士さんが活動していなかった時期が重なっていますよ」
「何か関係がありそうですね……」
少し足を動かしただけなのにさ。
こいつら何でここまで早く情報調べられるんだよ。
さすがにまずいと見当違いの方向に誘導してもさ。
ソレイユにそれは関係ないでしょうとぶった斬られて終わり。
ウッドワンの場合はそれも調べてみますか、といい笑顔で疾走していくし。
こいつら組むの駄目だろ、反則過ぎる。
「さてと。聞き込みもここで最後にしますか」
「でも、ここで情報って得られるものなんですか。以前、僕も取材のためにと特攻して返り討ちにされたんですけど」
今、俺たちはギルドに来ている。
ここで聞き込みしてもなあ。
ギルドは信用のためにしっかりと個人情報を管理しているから何も教えてくれないぞ。
「ダメ元、という言葉もあります。行きましょう」
もっと理知的な行動をしてくれると俺は信じていたぞ、ソレイユ。
まあ、普通のギルド職員は黒雷の魔剣士についてそこまで詳しくないだろうし。
何を聞かれてもよくわからないで済むだろう。
そんな軽い気持ちでギルドに入ったわけだが。
「黒雷の魔剣士さんについて教えて下さいぃぃぃ」
「貴女が何度か黒雷の魔剣士の依頼を受理したことのある職員さんですよね。少しだけどお時間をもらえませんか」
「えっ、ええと……」
こいつら早速シエラさんをターゲットにしやがった。顔見知りな俺に何とかしてくれという視線が。
いや、俺を頼られてもな。
「ほらほら、二人ともシエラさんだって仕事があるんだし」
「取材のためです。情報料支払いますから」
そんなことしたらシエラさん仕事クビになるわ!
「そうですね。金銭を渡すのは良くありません」
「だよな」
「とはいえ、ここで引いてしまってはもう打つ手がなくなります。……勇者パーティーの一員の証と次期領主の肩書。どちらが効果的でしょうか」
ソレイユもソレイユで腹黒いこと考えてるんじゃねぇよ。
シエラさん、大ピンチ。
だから、涙目で俺を見ないでくれ。
こいつら奔走している原因は俺だけどさ。
「何だ何だ。面倒なことになっている雰囲気出しやがって」
「ク、クレイマンさーん!」
頬杖つきながら式神を使い物凄い速さで書類整理をしていたクレイマンがこちらに興味を持ったようだ。
今日はやる気を出しているのか、珍しい。
「全く、何でか最近ソフィアの機嫌が良いから、怒らせねぇようにと私生活を正している期間だっていうのによ」
問題起こすなよと俺を見て言うクレイマン。
いや、俺が原因っていうわけでは……うん。
まあ、俺のせいかなぁ?
「それで要件は?」
「黒雷の魔剣士についてなんですが」
「そいつに聞け、以上!」
おい、さらっと俺を売るな。
二人が驚いた表情でこっちを見てやがる。
シエラさんまでどういうことですか、と混乱中。
「成る程、隠し事をしていると思ってはいましたが……貴方、黒雷の魔剣士と深く関わりがあるんですね」
「そういえば初めて会った時も黒雷の魔剣士さんが近くにいた時でしたよ」
まずいまずいまずい!
これは完全にバレたろ。
「クレイマァァァァン」
俺は恨みのこもった目であくびをしているクレイマンを睨みつけた。
「当事者のお前がなんとかしろや。俺にどうしろっつーんだよ。副ギルドマスターってのはそんなに暇じゃないんだぞ」
「そんな、クレイマンさんが副ギルドマスターらしいことを言ってる……」
「シエラ、お前今日残業な」
「す、すみませんでした」
「式神五体分の働きをしてから帰れよ」
クレイマンが珍しく厳しくしているが、そちらにツッコミを入れる余裕はない。
俺は追い詰められていた。
「貴方の行動は前々から引っかかっていました。セシリアさんと親しく、実力もそこそこあり、黒雷の魔剣士とセシリアさんの仲について関心を持たない。これだけの情報が揃えば言い逃れはできませんね」
不敵な笑みと共に壁際へと俺を追い込み逃げ場を無くすソレイユ。
ウッドワンはキラキラした目でメモとペンを用意して待機しているな。
……うん、これは詰んだわ。
「貴方の正体は……黒雷の魔剣士の付き人ですね」
……うん?
「セシリアさんと親しいのは黒雷の魔剣士を通じて知り合ったのでしょう。彼の付き人ならばそこそこの実力を持っているのも頷けます」
ウッドワンは自信満々に語るソレイユの推理を一言一句聞き逃さずメモしている。
「黒雷の魔剣士の付き人としてセシリアさんと会う内に……貴方はセシリアさんに恋慕を抱いてしまった。それを知った黒雷の魔剣士と貴方でセシリアさんを巡る戦いをして……貴方は最近、敗れたのでしょう」
「最近というと?」
「彼との対決が一段落したから黒雷の魔剣士は活動を活発化させたのでしょう。本来は貴方が依頼の調整をしていたために過剰な働きをしたのかと」
「えっ、今も彼は黒雷の魔剣士さんの付き人なんじゃ……」
「黒雷の魔剣士は人格者です。きっと距離を置いているんでしょう。……これが僕が導き出した答えです」
どや顔で出した答えですって言われてもなぁ。
シエラさんは口を押さえて何も言えないみたいな感じ。
ウッドワンは新しいスクープの発見に手を震わせて感動していて。
クレイマンは笑いを堪えるのに必死で……俺はどういうリアクションを取れば良いのか分からず困惑。
ソレイユ……俺はお前に何て声をかければ良いのか分からないよ。
「とりあえず……飯行くか」
もう夕食時だし。
俺の言葉に笑いを堪えられなくなったクレイマンは大爆笑。
三人は口を開いて呆気にとられていたが……ソレイユがすぐに回復した。
「なっ、ここで夕食ってどういうことですか」
「腹減ったからだよ」
「いや、どう考えても言うタイミングがおかしいですよね」
「何言ってんだ、もうそんな時間だろ?」
次期領主様は忙しくて食う時間がばらばらかもしれないがこっちはある程度決まった時間に食べているんだよ。
「というわけで一旦終了な」
二人の腕を引きずってギルドを出る。
離せと聞こえるが無視だ。
仕事する気もないのにこれ以上いても迷惑だし。
「ほら、シエラ。あいつら帰ったし仕事しろ。式神五体分だぞ」
「あ、あれ本当の話だったんですか」
「当たり前だろ。まあ、安心しろ。今からお前が死ぬ気で頑張れば定時に帰れるはずだからな」
「はずって何ですかぁぁぁぁ……」
シエラさん、頑張ってくれ。
俺は心の中でささやかなエールを送った。
「あんな中途半端なところで止めるなんて酷いです。記者として納得できませんよぉぉぉ」
「そうですよ。僕の推理から逃げようとしているだけなのでは?」
ぎゃーぎゃーと煩い二人だ。
適当な酒場にでも入ろうと思ったけどこの調子では店に迷惑だな。
食材は確か家に残っていたはずだ。
仕方ない、作るか。
二人を引きずったまま家へと向かったのだが。
「……おや、貴方の家。灯がついていますよ」
ソレイユの言う通り、何故か俺の家の灯がついている。
おかしい、戸締りはしてきた。
となると……。
「家から歌が聞こえますよ。これ、最近ミネルバで流行ってるやつですね。僕、詩人さんに取材したので覚えてます」
「ああ、ミネルバの広場でも歌われていましたね……って、ちょっと!?」
俺は二人を放り出して走り出した。
この綺麗な歌声は間違いない。
勢い良く家の扉を開けて俺は叫んだ。
「ハーピネース!」
わざわざ人の家に来てまで嫌がらせしに来てんじゃねぇぇぇぇ。
頭わしゃわしゃの刑……はレイヴンにばれたら怖いので軽くデコピンでもしてやろうと居間に行こうとしたら。
「おかえりなさいヨウキさん」
なんとセシリアが出迎えてくれた。
エプロン姿で調理器具片手にな。
夕食の準備をしてくれていたらしい。
「ああ、ただいま……って、えっ?」
今日、来る予定だったっけ。
まあ、嬉しいからいっか。
「全く、無理やり引っ張ってきたというのに急に放り出すとはどういう……」
「酷いですよ。いきなり……」
二人が家に入ってきて固まった。
俺も固まった。
「……石化?」
遅れて登場したハピネスの一言。
うん、全員石化してるよ……。




