覚悟してデートしてみた
待たせたくせに短いです
ついにこの日がやってきた。
天候は晴れ、風も強くない。
出かけるには最高の天気だ。
自然も俺に味方してくれているのだろう。
なんとしても成功させねば!
「今日はどこへ連れて行ってくれるんですか?」
「えっ、ああ。えっと……」
もうセシリアが隣にいるのに気合い入れ直してる場合じゃねぇ!
「まあ、楽しみにしてもらえると助かる」
「そうですか。確かに予定を聞いてしまうのはもったいないですね。ヨウキさんも予定を考えてきたのですから、聞かないでいるのが正しいと」
期待していますよと言って前を向く。
いやいや、プレッシャーなんだけど。
弱気になったらいかん、強気に強気に。
最初に行く場所はアミィさんとマッスルパティシエアンドレイさんのケーキ屋だ。
周りの目もあるので何とか貸切できないか相談。
試作品作りが難航しているとのことで味見役をすると交渉したら了承を得られたのである。
しかし、まあ難航しているとは聞いていたが。
「どうぞお召し上がり下さい」
目の前には所狭しとテーブルに並べられたケーキがずらり。
これには俺もセシリアも目を丸くしてしまう。
何十種類新作作ったんだよ……ツッコミは心の中でしてと。
「アミィさん、これは一体……」
申し訳なさそうにお盆片手に立っているアミィさん。
予想外過ぎるよ。
「味見役が増えたと知り気合いが入ったみたいで……」
気合い入れなくて良いよ。
貸し切りケーキバイキングとか聞いてないぞ。
「この量を二人で食べ切るのは無理ですね」
「無理せずにいこう」
「どうぞご賞味あれ」
ご賞味あれじゃねーよ。
プロポーズしようとしてるのに腹パンパンで動けずに終了なんて嫌だぞ。
「偶にはこういうのも悪くないですね」
「セシリア!?」
真面目に言ってるのか。
普段はお茶菓子に紅茶をゆっくり飲みながら、談笑するスタイル。
テーブルに乗り切らないくらいのスイーツに囲まれるなんていう経験は確かにないが……。
マッスルパティシエ、アンドレイさんも遠慮なくどんどん作っているのが見えるし。
「久々のフードファイトと行こうか……?」
「ヨウキさん、ただ食べるのではなく、しっかりと感想も伝えないといけませんよ」
「任せてくれ」
一口ずつ食べていき感想を話す。
とは言っても俺はスイーツに詳しくない。
甘すぎるとか物足りないとかふわっとした感想しか言えないのである。
セシリアはもっと具体的な感想を言っていたけどな。
「いや、やっぱり甘いものはそんなに食えないわ」
「この辺りで止めておかないと後の予定に支障が出ますね」
俺もセシリアも限界である。
「お二人ともありがとうございました。兄も喜んでいたみたいです。特にセシリア様の話が大変参考になったらしくて。兄が詳しく話を聞きたいと……」
「構いませんよ」
セシリアはマッスルパティシエの元へ行ってしまった。
えっ……プロポーズ前に他の男のところへ行かれる俺ってなんなの?
深く考えると悲しくなる。
セシリアの背中をぼんやり見ていたら、アミィさんが軽く頭を下げてきた。
「すみません」
「いやいや、俺の感想が薄かったのは事実だから」
「いえ、そうじゃなくて。……兄からの伝言です。もし、お祝いのケーキが必要になったら最高の物を用意すると」
「なぬ!?」
お祝いって……まさか!?
「兄が察したみたいで……私も怪しいかなって思ってました。頑張って下さいね」
「あ、あはは……応援ありがとう」
企みがばれていたとはなぁ。
ここで予定を考えていたこともあったし、常連なのもあってか俺の変化に気付いていたのかね。
ちらっと見たらアンドレイさんと目が合った。
無駄に白い歯を輝かせて親指を立ててきた。
わかった、頑張るよ……。
そこそこお腹一杯になった俺たちはというと。
「次は旅芸人のところへ行きます」
「旅芸人……ですか?」
「うん」
ミネルバは王都なだけあって見るところが沢山あるんだけど。
セシリアは俺よりもミネルバ暮らしが長い。
付き合いとかで有名な場所には行ってるだろうからさ。
偶々、旅芸人の方々がミネルバに来ていたのでこれだと思い誘った。
「良いですね。旅をしていた頃に見かけたことはありますがきちんと見たことはないです」
「俺ももちろんない。二人で初体験だな」
「そうですね」
二人で会場に入る。
飼い慣らした魔物と人でショーをするらしい。
「魔物って大丈夫なの?」
「きちんと許可を取っているのでしょう。そもそもヨウキさんがそれを気にするのですか?」
「確かに」
ミネルバは許可を取ってない魔物が何体もいるからな。
今更である。
火の魔法で作った輪を獣型の魔物がくぐる……って、これ前世でも観たことあるやつ!
さすがに普通の動物とは違い、回転しながらくぐったりランダムに配置された輪をくぐったりと魔物ならではの動きを見せていた。
その度に湧き上がる拍手の嵐。
「ガイならもっと過激なことができるぞ……」
「何を言っているんですか。ガイさんが怒りますよ」
「いや、ティールちゃんがブチ切れて結果的に俺が可哀想な目に遭う」
「安心して下さい。治療してあげますから」
それ、どの辺が安心できるの?
怪我する前提なのか、でも治療してくれる辺りセシリアは聖……。
「何か?」
「いや、別に」
心の中で思うだけでもアウトなのがセシリアの二つ名なのである。
「全く……もう」
なんかセシリアの機嫌が少し悪くなった。
二つ名が原因かな。
でも、寸止めしたしそこまで怒ったりしないよな。
「こらこら今はお前の番じゃないよ」
「グルル……」
いきなり舞台に出てきたグレイウルフ。
飼育員が出てきて撫でながら脇へと消えていった。
可愛いーと周りから声が上がっている。
お前の番じゃない……ね。
「本来良くないことですが、あのグレイウルフは可愛いですね。早く舞台に立ちたくてうずうずしてしまい出てきてしまったんでしょう……ヨウキさん。何か閃いたような顔をしてどうしたんですか」
「いや、何でもない」
つまり、あれだ。
今、セシリアは自分に集中して欲しいのではないか。
俺としたことが迂闊だった。
今日は大事な日なのだからセシリアを中心に考えないと。
そこからはなるべく知り合いの名前は出さず、無難に会話をした。
急に話題の振り方が変わったためかそれはそれで気にしていたようだったが……。
まあ、ショーも無事に終わった。
あとは厄介ごとに巻き込まれないようにと祈りつつ、食事をしてから雰囲気のある公園で指輪を渡す。
「ヨウキさん、ちょっと寄りたいところがあるんですけど」
「寄りたいところ?」
まあ、夕食にはちょっと早い時間だ。
予定調整を地味にミスった俺としては有り難い。
「はい、付いてきてください」
「わかった」
さっきまで俺がエスコートしてたんだけどな。
立場が逆になったと思いつつもセシリアに付いていく俺であった。




