仲良く説教を受けてみた
大変遅くなりました
「何を考えてるんですか」
多分、何も考えてなかった。
その場のノリで判断していた。
「ここはミネルバに近い森なんですよ」
それも知っていた。
「私が来たから良かったものの」
本当に来てくれて助かった。
「あのまま、闘っていたら余波で森がどうなっていたことか。最悪、騎士団が来て大騒ぎになるところですよ」
「すみません」
「ごめんよ、セシリア……」
角と翼が生えた魔族と神々しい光を体から放っている勇者が仲良く並んで正座している光景なんて中々見られないだろうなぁ。
目の前には腕組みして淡々と説教するセシリアがいる。
勇者も魔族も敵わない。
最強はやはり……。
「話し合いで解決すると思っていたのに何故こうなったのか。何故と思っているのに説明は不要というのもおかしな話ですが、この状況を見ると何となく察してしまう私がいます。ええ、慣れてしまったんですよ。だから、説明は不要なんです。次にこうならないようにどうすれば良いのか考えねばなりません。勇者様はヨウキさんの正体を知り、勇者様に新しい力が宿ったことをヨウキさんは見たはずです。両者で闘うとどうなるかをしっかりと考え、行動しなければいけないということをですね……」
完全に説教モードに入ってるようで、目を閉じて淡々と話してくる。
これは長くなりそうだ。
「ヨウキくん、ヨウキくん」
セシリアに聞こえないようにユウガがひそひそと話しかけてきた。
説教中に話しかけるとか正気か!?
「ごめんね、僕が熱くなったせいで、こんなことに……」
「まあ、お互いに慣れたもんだろ」
「あはは……セシリアに聞かれたら時間延長だね」
ばれたら笑えないからな?
「僕はヨウキくんの正体を知れて良かった。ヨウキくんのこと、不思議な人だなあとは思ってたんだ。セシリアと知り合った経緯も謎でさ。事情を聞く前に色々あって仲良くなって今更ってなってた」
「そうか」
ユウガも気にはなっていたんだな。
「僕はミカナと結婚してヨウキくんはセシリアと結婚……する前に話してもらえて嬉しかったよ」
「まだプロポーズしてないけどな」
「ヨウキくんなら上手くいくよ、きっとね。これから大変だろうけど僕はヨウキくんたちの味方だからさ」
「勇者が魔族にそんなこと言っていいのか?」
ユウガがあまりにもかっこいいことを言ってきたので、ちょっと意地悪してみた。
そんなこと言われるとは考えていなかったのか、目を丸くしている。
まあ、目を丸くしていたのはほんの少しだけでくすっと笑われてしまった。
「僕は僕としてヨウキくんとセシリアを祝福したいんだ」
祝福したいねぇ……ユウガにも立場があるだろう。
勇者ではなく個人としてって意味だな。
気持ちはとても嬉しいが。
「いざとなったらどうするよ」
また意地悪な質問をしてみたら。
「何とかするよ、ヨウキくんがね」
けろっとした顔で言ってきたよ。
「いや、そこはお前が何とかしてくれるところだろ」
「最終的に何とかするのはいつもヨウキくんでしょ。そういうことだよ」
どういうことだよ。
「なんかあれだな。別に闘う必要なかったよな」
「発端はヨウキくんでしょ」
「確かにそうだが……よくわからん力を解放して第二試合を要求してきたのはお前だろう」
そこからぎゃーぎゃーと揉めたのが良くなかった。
ひそひそ話は何処へやら、お互いに顔を合わせてどっちが悪いから悪くないかの言い合いか勃発。
ふと、背筋に寒気がして前を向くと……。
「そうですか。二人の気持ちはよく分かりました。どうやら、わたしの声は届いていないみたいですね。お望みなら届くまでお付き合いしますが……それとも態度を改める気はありますか?」
笑顔なんだけど目は全く笑っていないセシリアがいて……二人して土下座。
ヒートアップしたらダメなんだって。
「ごめん、本当にごめん。きちんと、しっかり、セシリアの言葉を胸に刻む込むから!」
「僕も熱くなりすぎたんだ。ごめんよ、セシリア」
「……今回だけですよ?」
誠心誠意謝罪して何とか許してもらった。
「ヨウキくん、さっきも言ったけどさ。僕はヨウキくんたちの味方だよ」
爽やかな笑みを浮かべてセシリアをちら見。
「多分、近い内に似た境遇になって似た悩みを抱えることになると思う。その時は相談に乗るから。もちろん、乗ってもらう時もあるけどね」
「言ってろ」
絶対、ユウガからの相談が多いだろう。
まあ、その時は聞いてやらんでもないさ。
似た境遇……旦那仲間ってやつだな。
お互いに頑張ろうと自然と握手をしようとしたところで。
「そうだ、勇者様。お知らせがあります」
「お知らせ?」
「……勇者様も父親になる日が来たみたいです」
「えっ!?」
「は!?」
ちょっと待って、理解が追いつかない。
俺とユウガが停止している中、セシリアが丁寧に説明してくれた。
俺とユウガが出て行ってミカナの様子を見て明らかにおかしいと感じ、伝手を使って診てもらったらしい。
結果は……確定だったと。
体調が悪い振りをしていたバチが当たったのだと思っていたミカナも結果を聞いて放心状態になったと。
今も現実味がないようでベッドの上で口を開けぽかーんとしているんだとか。
「一刻も早く勇者様には帰宅してミカナへ声をかけてもらいたかったので迎えに来たんです。そしたら、あの現状だったので、ミカナには申し訳ないと思いましたがあまりにも目に余り……」
「やった……やったよ、ヨウキくん!」
嬉しさの余り、セシリアの言葉を遮って俺の手を取りぶんぶんと振っている。
「僕が父親になるんだ。ミカナとの子どもだよ。名前とかどうしよう。ミカナと相談しないと」
気持ち悪いくらいの笑顔で将来設計を始める勇者。
これが……父親になるってことを知った男がする姿なんだな。
「ああ、おめでとう。俺はユウガを祝福するよ」
「どうして棒読みなのさ」
そりゃあ、ユウガとの距離が遠のいた感覚がしたからだよ。
「済まないユウガ。今、俺とお前では埋めることができない溝ができてしまったようだ」
「なんで!?」
なんでもだよ。
「ほら、俺なんかに構ってないでパパになるんだから、さっさと嫁のところに行ってやれ」
「いやいや、さっきまでヨウキくんとの友情が深まったと思ったのに……」
それはお前の気のせいだ。
「ほら、行け」
しっしっ、と手を振ってアピールすると酷くない、と文句を言いつつミカナことが心配なのだろう。
翼を展開して飛び立とうとしているじゃないか。
「今度またゆっくり話をしようね、ヨウキくん。セシリアもわざわざ知らせに来てくれてありがとう。……それじゃあね!」
言いたいことだけ言って飛び去っていった。
「もうユウガの人生に敵とかいらないわ」
後は順風満帆なエンディングを迎えるだけじゃね。
「勇者様の敵は敢えて言うならば自分自身ではないかと」
「……確かに」
今回、強引にまとめたけどさ。
ミカナからの相談がまた来るんじゃないかね。
「まあ、友達だしなんかあったらその度に話を聞いてやれば良いんじゃないかな」
「ヨウキさんは寛容ですね」
「ふっ、何を隠そう俺は……」
「それでは帰りましょうか」
「いや、最後まで言わせてくれよ、セシリア……」
俺への扱いが雑。
まあ、セシリアが笑っているから良いかな。
それにしてもユウガが父になるとは。
俺はいつまで指輪を温めておくつもりなのかと思ってしまう。
だったらさあ……。
「セシリア、ちょっと頼みがあるんだけど」
「何ですか?」
「俺に休日二日任せてくれないか?」
もう勝負に出るしかないのである。




