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勇者の嫁に話してみた

既に正体を知られているとはな。

セシリアを交えて……まあ、その方がスムーズに説明できそうだ。

口ぶりからして悪いようにはしないだろう。



「……セシリアを呼んでこよう」



「あら、どうして?」



「その方が良いと判断しただけだ」



「ふぅん、そう」



特にシリアスな場面ではないはず。

お互い探り合いをする必要はない。

まずはセシリアを呼ぼう。



「ダメです、勇者様! ミカナは体調を崩しているんですよ!?」



「だって、旅先ではこれを入れた粥が病人には効くって」



「それは別の薬草ですよ!」



扉を開けたらセシリアとユウガの言い合いが聞こえてくる。

かなり苦戦しているみたいだ。



ミカナのこととなって空回りしているんだろう。

台所からそんなやり取りが聞こえてきたせいか。



「……ふふっ。ユウガったら」



「セシリアのあんな声は久し振りに聞くな」



「昔から変わらないわよ。あの感じ」



「大変だなぁ、セシリアも」



「その役目はもうアタシの役目なんだけどね。今回はセシリアにお願いしちゃったわ。悪いわね」



「なんで俺に謝るんだよ」



「だってセシリアがああいう風に手を焼くのはもうあんたが相手でしょ」



「俺ってそんなに困らせてる?」



「自分の胸に手を当ててみることね。……それで、セシリアは忙しいみたいだけど」



ミカナの言う通りセシリアが忙しいのは見に行かなくてもわかる。

俺はそっと扉を閉めた。



「セシリアを呼ぶのは無理だから、俺だけで話すわ。まあ、想像している通りだと思うけど」



「アンタ、あの時の魔族よね」



「正解」



「まあ、そうよね、うん」



自分から言っておいてその歯切れの悪い返事はなんなのだろう。

ある程度の察しはついていたんだよな。



「そんな軽く正体ばらして良いわけ?」



「別にばらすのは今回が初めてじゃないし。ある程度信用して言っているんだからな?」



「そう……そうよね。はぁ……」



「そのため息はなんだよ」



「色々と言いたいことがあり過ぎるのよね。散々全滅させられたこと。セシリアのこと。アンタの取り巻きのこと。これからどうするのかとかね」



なんだ、色々って言っておいてそんなもんか。

簡単に答えられる質問ばかりだぞ。



「魔王城では立ち位置的に仕方なかった。セシリアのことは一目惚れだ。死のうとしたら救われてもっと惚れた。取り巻きってデュークたちのことだろ。俺の元部下だよ。これからは……指輪は用意してあるからあとはプロポーズだけだ、以上!」



「簡潔に説明してくれてありがとう。……さて、何から詳しく聞けば良いのかしらね」



「何か引っかかることがあるのか?」



「魔族と魔物が王都に入り込んで生活しているのよ。普通に考えたら大問題じゃない。……普通ならそうなんだけど」



ミカナからの視線が……こう、なんと言えば良いんだろう。

脅威を脅威と捉えられない的な。



「分類的には敵なんだけど中身は……って言う感じなのよね」



「おい、今の間はなんだ」



悪意を感じる間だったぞ。



「何か企んでるとか微塵も思えないのよね。今までの行動を振り返ったらどう考えても遠回りになってるし。敵だとしたら何がしたいのよって話になるのよ」



「俺がしてきたことってそんなに多くないぞ」



「アンタは冒険者として働く、身分を隠して危険な依頼も受ける。そして、勇者パーティーの面々の恋愛の手助けをしてきたじゃない。アタシが把握していないだけで他にも色々しているんでしょう。セシリアから話は聞いてるわよ」



「セシリアが俺の話を?」



「アタシもユウガの話をしていたからね。女二人で集まったら。お互いに好きな相手の自慢話もするわよ。もちろん、自慢話だけじゃないけどね」



あっ、これ以上は聞いちゃいけないやつだわ。

自慢話だけじゃないってことはその逆もあるからな。

色々とやっちまってるという自覚がある分、聞くのが怖い。



「そ、そうか……」



「何よ。その歯切れの悪い返事。……まあ、良いわ。そういう訳でアンタが魔族だろうとアタシは特に何かする気はないから」



「助かる。ところでユウガは俺の正体知っていたりするのかな?」



「知らないでしょうね。話したら厄介なことになりそう。聖剣持って飛びかかるかもしれないわよ」



「俺とユウガの間に友情というものは存在しないのか……」



「その割には棒読みなのね」



「真面目な話をすると予想つかない。でも、レイヴンも知っていることだしさ。ユウガにだけは話さないっていうのはちょっとな」



勇者ってリーダー的な役割なのに報告が一番後回しとかどうなんだろ。

うーむ……した方が良いよな。



「アタシはユウガへの報告よりも優先すべき大事なことがあると思うけどね。どうせ服の中に入ってるんでしょう?」



にやにやしながら聞いてきやがって。

思わず指輪の入ったポケットを確認してしまった。

セシリアだって待っているんだよなぁ。

待ってくれてるんだよ、こんな甲斐性なしな俺をさ。



「最初に相談したのはアタシだし強く言えた義理じゃないけど、優先順位を考えた方が良いわよ?」



「うっ、わかってるよ。……ただ、セシリアには指輪のことがばれているからちょっとさ。どう演出すべきなのか考え中で」



男としてはサプライズ感を出したいんだよ。



「ばれたのはあんたのせいでしょう。自分の都合で相手を待たせるんじゃないわよ」



「俺だって必死に考えての行動だったんだよ」



「いや、気づかれるってわかるでしょう」



「ばれないように頑張ったんだよ」



「ばれたら意味ないでしょ!」



「結果、セシリアからの期待感は上がったよ」



「だったら、とっとと期待に応えるようなプロポーズしなさいよ」



「今、そこで足踏みしているんだろうが」




こんな感じで口喧嘩が始まった。

俺が悪いんだよ、色々と。



でも、そこまで言われる筋合いないよねって思ったら止まらなくなった。

言いたいことを言い終えてお互いに息を整える。

ぜーぜー、と息を吐いて……冷静になった。



「とにかくプロポーズは近々するよ。ミカナが俺の正体については伏せといてくれるみたいだし。その辺はレイヴンも知っていることだからさ。時間あったら相談しておいてくれ」



「そうね。ユウガに話すかどうかも剣士と相談してみるわ。アタシは秘密にしておいた方がいいと思うけどね。ユウガって妙なところで真っ直ぐだから」



「確かにな……」



どうするかもう少し相談しようとしたら、扉が開きユウガが入ってきた。



「ミカナ、大丈夫? 消化に良い物を作ったから食べてね」



ユウガが持ってきたのは鍋。

多分、粥だろうけど味はどうなんだろう。

後ろに控えているセシリアは何故か目を逸らしている。



どうして、何も言わないんだ。

ミカナもセシリアの態度が気になるようで俺に視線を向けてきた。



大丈夫だ、ユウガはミカナのことになると不思議なパワーを発揮する。

料理もきっとその力の対象に入っているはずだ。



「熱いから気をつけて食べてね」



「え、ええ……」



見た目はいたって普通の粥。

シンプルに塩だけで味付けかね。

隠し味に何か入れてたりとかしていないよな。

ミカナが意を決して一口。



「……美味しい」



その言葉が聞きたかったのかユウガに笑みがこぼれる。

セシリアが小さくガッツポーズをしている。

もしかして……こうなることを知っていたのか。



「良かった。セシリアの指導のおかげでちゃんと作れたんだ。ミカナの口に合って良かったよ」



「あ、ありがと……」



「今日は僕が何でもやるからさ。ミカナは気にせずにゆっくり休んでね。それじゃあ、食器は後で取りに来るから」



言い終えるとユウガは俺を掴んで部屋の外へ。

ここは抵抗するところではないので大人しく連行される。



ミカナは……なんか罪悪感でいっぱいなのか複雑な表情をしていた。



「さて、僕はミカナの分も家事を頑張るよ」



やるぞーと燃えているユウガ。

そんなユウガにセシリアは熱くなりすぎないようにアドバイス。



ミカナのことを考えて静かに最小限のサポートをするように話していた。

うーむ、これはラッキースケベどころではなくなるだろうな。



説明も終えたところであとは二人にしてあげましょうとセシリアから声がかかったので撤収。

ミカナの仮病から悩みは解決したのかは今度会う時に聞こう。



「セシリアはさ……もう少し待ってくれる?」



「何がとは聞きませんが……仕方ありませんね。待ちますよ」



「ありがとう」



どっかで食事してその帰りにって思ったけどさ。

それじゃあ、俺らしくない。

少しだけ考える時間が欲しかった。



あと、やっぱりモヤモヤするからさ。

話すことにしたわ、ユウガに。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユウガとはどうなるだろうなあ 楽しみです ミナカ、ヨウキの元部下が魔物だって、よくわかったな
[気になる点] 以前の話(好きな子の昔話を聞いてみた・92話)でユウガがミカナより料理ができると話していたのですが、今話(298話)でユウガは料理経験がないとの発言がありましたがこれは・・・?
[一言] ミカナの初期からの成長がすごいですね。すっかり頼れる姐御って感じに。笑
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