両手に花を見てみた
グラムさんと別れてぶらぶらしていたら、今度はシークたちに遭遇する。
会ったら会ったでシークにたかられるんだよなぁ。
「隊長ー、これ買ってー」
「はいはい。今日だけな」
普段構ってやれないから甘くなってしまう。
欲しがっているものも珍しい薬草とかだからな。
普通の子どもが欲しがらないものだし、研究に使うらしいから良いよな。
薬草売り場で目をキラキラ光らせている子どもなんて珍しいぞ。
「守り神様には何を買っていきましょう。装飾品が良いかな。いえ、守り神様は装飾品なんて付けなくても逞しくてかっこいいお方です。やはり、二人の部屋を飾る物が良いですね。ただ、守り神様よりも目立つことのない地味な縁起物を選びましょう」
ティールちゃんは相変わらず平常運転だ。
そんなお土産の選び方するんだな……。
フィオーラちゃんはシークの横に引っ付いてシークの買い物を見ているようだ。
それぞれが自由にこの旅行を楽しんでいるらしい。
良い息抜きになっているようで良かったわ。
俺の視線に気づいたフィオーラちゃんが珍しくシークから離れて俺の方へ寄ってきた。
どうかしたのか。
「なんか欲しいものでもあったのかな?」
「違うの。クインのことなの」
「あー……」
兄妹だし心配しているのか。
「最近、クインらしくないの。このままじゃクインが気になってクインのところに行きそうなの。でも、それは嫌なの」
「嫌なのか」
「クインは私に引っ付いてほしくないの。今回の件は特に嫌なはずなの。でも、解決しないままだと気にして引っ付きそうだから、早く吹っ切れて欲しいの!」
そういう理由かい!
まあ、心配しているっちゃしているのか。
「今、自分探しをしている最中だからもうちょい待っててやろうな?」
一応変な行動に走らないように釘刺しておくか。
わかったのーと言ってシークの背中に抱きつきに行った。
本当にわかったのか心配だ。
「全く……クインくんはどうしているのやら」
待ち合わせ場所にちゃんと来るのか心配になってきたので、こっそりと居場所確認する。
クインくんも意外と近くにいるみたいだが、誰かと一緒にいるようだ。
ブライリングに知り合いなんていないよな、誰だ?
三人は仲良くしているし、ちょっと離れると伝えて様子を見に行くことにした。
雑貨類が売っている店の前で話しているな。
やたらと二個セット売りされているものが目立つ。
恋人と一緒に買ってって下さいってか。
店員と話しているみたいだな。
……あの顔は見覚えがあるぞ。
「そうなんですか。身分差があって……」
「そうなんだ。昔の素行の悪さもあって先生に相談しているんだけど上手くいかなくってね。ははは……お爺様に認められるにはまだまだ時間がかかりそうだよ」
話し相手はショットくんだった。
おいおい、三男坊とはいえ領主の息子が何で店員の格好して働いているんだ。
「僕は絶対に諦めない。そのためにもまずは誠意を見せるところから始めないといけないんだ。こうして街を活性化させるために新しい事業を先生と進めているわけで」
「先生って……あの廃城に住んでる方ですか」
「そうだよ」
ショットくん、君は昔カイウスを吸血鬼扱いしてユウガに討伐してもらおうとしていたのに。
まあ、カイウスが吸血鬼なのは事実だけど。
そんな相手を先生と言い慕っているとは……何があったんだ。
いつだったかショットくんの恋愛相談が上手くいってないとかミネルバにカイウスが来た時話していたな。
ショットくんも諦めないのか。
グラムさんはああ言っていたし、あとは本人同士の問題になっているのかも。
「先生からまずは相手を知ること。そして変わろうとしている僕を知ってもらうことが大切だと」
「それでこうして働いているんですね」
「ああ。先生の偉大さを広めるためにも頑張るよ。あと、ブライリングのためにもね」
ブライリングはついでかよ。
なんか、カイウスの信者みたいだな。
ここまで変わったところを見ると怖いんだけど。
「あっ、ヨウキさん」
ばれないように見ていたのだが、クインくんに気づかれてしまった。
ここで去るのは不自然なので合流する。
「君は……ユウガと一緒にいたよね。ユウガは元気かな。結婚式には予定が立て込んでいて参列できなかったから気になっていたんだ」
そういえばユウガとは友達と言っていたな。
「あー……ユウガは元気だぞ。ミカナと仲良く新婚生活を満喫している」
「そうかい。ユウガは元気なのか。彼には以前申し訳ないことをしてしまった。どれ、この店で一番おすすめのペアカップを贈ろう」
ユウガへのお土産ということで渡された。
俺が帰ったら渡す流れかぁ。
この前から会ってないし、新婚旅行後の生活は順調か気になる。
「了解。確かに渡しておくよ」
「頼むよ。それじゃあ、僕は店に戻るね。サボっていたらここにいる意味がなくなるから」
ショットくんはそう言って店の奥に消えていった。
残されたのは俺と難しそうな顔をしているクインくん。
何を考えているのやら。
「ヨウキさん……カイウスさんは僕の想像の上をいく方なんでしょうか」
まさかの質問である。
カイウスは二百年以上恋のキューピッドをしていて俺にも掴めないところがある。
クインくんも年の割に知識人なのはわかるけど、カイウスには敵わないだろう。
それでも俺はこんな質問をする。
「どうしてそう思う?」
「その……街を回ったら恋のキューピッドについて話している方が多くて。観光客だけでなく地元の人も噂しているんです」
カイウス、今じゃ地元でも有名人なのか。
ショットくんの宣伝効果もあるんだろう。
「カイウスさんの助言は正しいのだと。僕は思いました」
「だからって鵜呑みにしたら駄目だぞ。最後は自分で結論付けないと」
「もちろん、それはわかっていますよ」
会話しながら再度シークたちと合流を目指す。
「なんかよく遭遇するなぁ」
今度はカイウスと遭遇した。
相変わらずの棺桶を背負っているスタイルだ。
クインくんは口を開けて呆然としている。
「やぁ、まさかこんなところで会うとは奇遇だね。少年、心の整理はついたかな?」
「あ、まだです」
「そうかい。まあ、簡単に片がつくなら私のところまで来ていないね。ゆっくり考えるといい」
「か、棺桶には……」
クインくんが恐る恐る尋ねるとガタガタと揺れて丸の書かれた札が飛び出してきた。
うーん、やっぱり慣れないと不思議な光景だわ。
固まっているクインくんは回復するまで放置。
「さっき出かけるって言ってたけど、何か用事の最中か?」
「ああ。今日は打ち合わせかな。新しい指輪のデザインをいくつか見てもらいに……」
「指輪だと。それ詳しく!」
ブライリングに来て良かった。
最近、広めようとしている事業の中に結婚指輪の取り扱いも含まれていたらしい。
シアさんがデザインした指輪もあるようだ。
食い気味に話す俺にもカイウスは笑みを崩さず。
事情を聞いていたシアさんもいくつかデザインの候補を棺桶の中から出してくれた。
値段も書かれていて見やすい。
……どうやって棺桶の中で書いたんだろう。
「君もついに結婚か。式には是非呼んでくれよ。祝福と迷える子羊の導きを約束しよう」
「その時は男性が多くなりそうだぞ」
俺が結婚して泣く女性なんていないからな!
セシリアは人気者だから羨む男が沢山いるだろう。
上手い具合に解決しないと俺が袋叩きに合ってしまう。
「はっはっは、私は男女平等に相談を受けているから大丈夫さ。恋に迷える者の前に男性も女性もないからね」
「恋のキューピッドの名は伊達じゃないな」
「いつからかそう呼ばれていたけど男性からも女性からも呼ばれているからね。つまり、そういうことなのさ」
男女どちらからも支持を受けているってすごいな。
目線が広く、心情を理解できるからできるのだろう。
「あの、ヨウキさん」
黙っていたクインくんが俺の腕を引っ張ってきた。
棺桶のショックからようやく戻ってきたか。
「ヨウキさん、誰かにプロポーズするんですか」
さて、どうやって誤魔化そうか。




