表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
288/420

失恋話を聞いてみた

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」



俺は買い物を終えてアクセサリーショップを出た。

その表情は暗い。



手に持っている物はもちろん指輪……ではなくブローチ。



指輪を買えよって話なんだけどさ……買えなかったんだよな。



この前女装レイヴンと来た時に対応してくれた店員が俺のことを覚えていたわけで。



贈り物を買いにきたんですよって誤魔化してセシリアに似合いそうなブローチを購入。



うーむ、前回は変装が甘かったか。

黒雷の魔剣士で行くわけにはいかなかったし。

ミネルバには他のアクセサリーショップもあるけど。



どうするか考えていたら、見知った顔が歩いているのを発見。

レイヴンの記事で世間が騒がれている中、一人だけ重苦しいオーラを発している。



うん……あれはクインくんだな。

諸々知ってしまっていたし、今回の記事でとどめ刺されたか。

ほっとくのも可哀想なので声をかけてみる。



「クインくんじゃないか。こんなところでどうした?」



「あっ、ヨウキさん……どうも」



声に張りがない。

相当、ショックを受けているな。



「昼飯奢るから、その辺で話さないか」



「……良いんですか?」



「大人の余裕ってやつだな」



良いから付いて来いと少々強引にクインくんを連れて適当な飯屋へ。

席に座って適当に注文したところで本題に入る。



「ハピネスのことか」



直球から入ってみる。

回りくどい言い方はしない。

クインくんはびくっと身体を震わせてからゆっくりと首を縦に振った。



「やっぱりか」



「はい……情けなくてすみません。本当は祝福すべきなんですよね」



やっぱりハピネスのことだったか。

でも、某令嬢の使用人て見出しだったよな。

ハピネスが言いふらすわけないし。



「なんでハピネスってわかったんだ?」



「わかりますよ。休暇から帰ってきたハピネスさんはキラキラしていたんです。ああ、彼氏さんと上手くいったんだなって思ったくらいでしたけど……見ちゃったんです」



「何を?」



「ハピネスさんがこっそり指輪を見たり指にはめたりしてにこにこしている姿を……です」



ハピネスのやつ、ちゃんと隠れてやれよそういうことは!

クインくんは頭が良いからそこから色々と察してしまったのか。



「まさか……ハピネスさんの彼氏さんがあの騎士団長レイヴン様だったなんて。所詮、叶わぬ恋だったというわけですよ」



乾いた笑みをこぼしてクインくんは窓の外を眺めだした。



空を見ているらしく、その目に光は灯っていない。

初めての失恋か……どう言っていいものか悩んでいると料理が運ばれてきた。



「まあ、あれだ。とにかく食え。食って頭をすっきりさせよう」



「はい。お気遣い感謝します」



子どもの言う台詞じゃないぞ。

行儀正しく食べ始めたのだが、そのペースは一切衰えない。



俺はとっくに食べ終えているのに時々、虚空を見つめてから食事を再開している。

この前奢った時、こんなに食っていたかこの子。

適当に注文した料理を全て平らげたところで。



「ご馳走様でした……えっ!?」



ようやく自分の食べた量に気づいたらしい。



「す、すみません」



「いや、気にしなくて良いよ。育ち盛りだしさ」



そういう問題ではないのだが、こうでも言わないと謝り続けそうだ。



「育ち盛り……そうですよね。僕はまだ子どもなんですよね。早く……大人になりたいです」



言葉に重みを感じる。

クインくんはシークと同い年くらいか。



あははーと笑っているあいつと比べるとしっかりしているがその分、こういうことの気持ちの整理の付け方は知らないんだろう。



どうにかしてやりたいものだが……俺には荷が重そうだ。

プロポーズしようとしているやつの言葉が初めての失恋をした少年に届くだろうか。



「クインくん……」



「ははは……気持ちの整理が上手くできたら、笑顔でハピネスさんにおめでとうございますって言いたいんです。僕にできることなんてこれくらいですから」



実はレイヴンの背中を押したことにクインくんも一役買ってるんだよなぁ。



女装レイヴンへの情報が旅行へ行くきっかけにも繋がったわけで。



このことは言わない方がいいよな。

俺の胸の中にそっとしまっておこう。



今は彼の傷心をどうするかだ。

こういう時はその道のスペシャリストに頼むのが一番。



「クインくん、ちょっと一緒に出かけないか?」



「ヨウキさんとですか」



「ああ、今の君にうってつけのところがある。泊まりがけになるけど」



「うーん。僕は良いんですけど母が何と言うか」



確かに遠出の宿泊は親の許可が必要か。

……クレイマンの許可はいらないのね。



「それじゃあ、確認しに行こう」



「えっと、わかりました」



急な話だから断られると思っていたんだけど。

セシリアの屋敷へ行ってソフィアさんに事情を説明してみたら。



「構いませんよ」



一発で了承を得ることができた。

あまりにも呆気なく許可が下りたので驚いていると。



「ヨウキ様なら大丈夫でしょう」



「そんなんで良いんですか」



「お嬢様が認めた方ですよ。私もヨウキ様と依頼を受けたことがあるので一定以上の実力の持ち主だと承知しています。……あの子が珍しく悩んでいる様子。私が聞いても話さない、そういった悩みかと。申し訳ありませんが息子のことをよろしくお願いします」



ソフィアさんもクインくんのことを心配しているのか。

これは任されるしかないな。

悩みを解決するのは俺じゃないけど。



「はい。どういう結果になるかはわかりませんがきっと良い方向に進むかと」



「成る程。それで行き先は何処へ?」



「ブライリングです」



「ブライリングですか」



恋のキューピッドならクインくんのことも相談に乗ってくれるだろう。



「頼りになる友人がいるんで」



「そうですか。では、頼みましたよ。……そういえば泊まり込みになるんでしたね。お嬢様に声をかけて行った方が良いのではないですか」



ソフィアさんの言葉に動揺はしない。

そんなことは当たり前である。

お土産もあるし、以前の俺とは違うのだ。



「わかってます。セシリアは私室にいますよね」



「はい。私はクインに旅支度をするように伝えてきます」



クインくんは屋敷に着いたらシークのところに預けてきたからな。

ソフィアさんにクインくんのことを任せて俺はセシリアの部屋へ行って事情を説明。



「そうですか。クインくんがハピネスちゃんのことで」



「このままほっとけなくてさ」



「ヨウキさんはいつも通りですね。そういうことなら気をつけて行ってきてください。戻ってきたら一緒に美味しいお茶とお菓子を楽しみましょう」



戻ってきたらの楽しみができて心の中でガッツポーズを取る。

舞い上がってるところで……さっき買った物を取り出した。



「これ……プレゼント」



「ブローチですか。ありがとうございます。嬉しいですが……なぜ急に?」



確かになんのプレゼントだよって話。

アクセサリーショップの件はちょっと……説明したくないかな。



「その、あれだ。二人で記事に載った記念的な」



「何か理由があるんですね。言いたくない理由があるなら無理して聞こうとはしません」



速攻で見破られました。

下手な嘘はもはやセシリアには通用しないことを学んだはずなのに。



「知らない方が私に都合が良さそうなので何も聞きません。こんなこと恋人なのに言うのもおかしいですがもう少し隠す努力をしてください」



「それはセシリアの能力的な問題もあって無理かと」



「努力……」



「します!」



いつ実るか分からないけどな。

セシリアへの挨拶も無事に済ませたし……クインくんを連れて行きますか。

カイウスのところに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 久々にあの男が登場するのか…楽しみw
[気になる点] クイン君は将来はやはりギルド職員? [一言] 今行ったらカイオスからは商売敵みたいな扱いを受けそうな気がしますが、大丈夫なんでしょうか。変態はペンよりもつよし?
[良い点] 次回!カイウス回!テンション上がってきたーーー! 全裸で正座して待ってますから更新はよ!はよ! [一言] まあクイン君はこうなるって分かってた事だしね ハピネスに恋しちゃったのが運の尽き?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ