取材を受けてみた
「何度も確認してすんません。本当に僕がこんなところに来ていて場違いなんじゃないでしょうか」
「……気にするな。ここは貴族御用達というわけでもない。俺が誘ったんだから堂々としていろ」
「……美味」
俺は何故、あんなに逃げていた相手と会わせないようにしていた相手と夕食を共にしているんだろうか。
ウッドワンはさすがに恐縮しているがレイヴンが上手くフォローしている。
ハピネスはレイヴンの隣で料理にご満悦。
なんなんだ、この状況。
「セシリア。俺は軽く取材を受けるもんだと思っていたんだが。どうして夕食まで共にしているんだろうか」
「時間帯もありますが……走り回ってお腹が空いていたでしょう。良いではないですか。抱えてもらっていた時にお腹が鳴る音も聞こえていましたし」
「黒雷の魔剣士も空腹には勝てないな!」
恥ずかしい音を聞かれていたようだ。
深く追及される前に口に料理を詰めまくる。
これでこの話を深く掘り下げることはできないだろう。
もぐもぐと口を動かしつつ、セシリアを見るとにこにこしながらこちらを見ていた。
まだ、何かあるというのか。
「美味しそうによく食べるなと思っていただけですよ」
「また心を読まれたか……」
得意げに微笑むセシリアを見れたから良いか。
各々夕食が進みデザートを食べ終えたところで本題へ。
「あのー、それで取材を再開したいんですけど。そのどちらから……」
俺とレイヴンを交互に見るウッドワン。
レイヴンが目で俺から行くぞと語りかけてきた。
成る程、先手は譲ろうじゃないか。
「……俺から行こう」
「レイヴン騎士団長からですね。それじゃあ、彼女さんとの出会いとか」
「……出会いか。あれは……」
レイヴンはゆっくりとハピネスとの出会いを語り始めた。
助けた時のこと、自分の声のこと等をハピネスの正体はもちろん隠して。
途中でハピネスへの想いが語られてハピネスが下を向く時があった。
ウッドワンは相槌を打ちつつ、カリカリとメモしていく。
レイヴンが一息ついたところで今度は俺とセシリアの番になった。
「それでは黒雷の魔剣士さんもまずは出会いから」
「そうだな。あれは……」
語ろうとしたところで口が止まる。
いや……語れなくね?
魔王城で副隊長していて引きこもっていたところ、勇者パーティーの一人だったので乗り込んで来た時に出会った。
うん、これは記事にできないやつだわ。
レイヴンもハピネスもどうする気だという視線を俺に送ってきている。
何とか誤魔化す方向でいかねば……。
「魔剣士さんとの出会いは衝撃的でしたね」
俺がエピソードをでっち上げようとしたらセシリアが話し始めた。
目を閉じて当時を思い出しているかのようだ。
とても落ち着いていて余裕があるみたいだし、任せても大丈夫かな。
「最初は対立していて私は負けてばかりで」
「えっ、そうだったんですか」
うん、嘘はついていない。
「そうした日々が続いて急に告白されたんです」
まあ、嘘はついていない。
「最初はお断りしました。魔剣士さんのこと全然知りませんでしたし、当時は男性とのお付き合いとか考えていませんでしたので」
「それがどうして今はこのような関係になったんでしょうか」
「そうですね。まあ、ほっとけないっていうのはありますね。突発的な行動が多いのでひやっとした場面が何度も」
ハピネスが無言で頷いているのがイラッとしたが、事実なので何も言えない。
「でも……魔剣士さんて誰かに相談されたら断ったりしないんですよ。何だかんだで関わって解決するんです。偶に自分が損することもあるはずなんですけど」
「ミネルバでも黒雷の魔剣士さんは有名ですよね。依頼の達成率に速さ。指名依頼もそつなくこなす。依頼を迅速に完璧にこなすと自ら断言している。まさか、私生活もその道を歩んでいるなんて」
「それが魔剣士さんという方なんですよ」
語られているのは自分のこと。
この場にいるのが恥ずかしくなってくる。
出会いからこんな話に発展するとか思わなかったんだよ。
このまま俺だけの話をされるのは納得いかんな。
強引に話に割り込もう。
「セシリアの言ってることに間違いはない……俺はそういう男だ。そんな俺が好きになったのがセシリアだ。対立していた頃、どうしようもなかった俺に救いの手を差し伸べてくれた。まさに聖……いや、女神のような存在だったわけだ」
危うく禁句を口走るところだった。
危ない危ない……一度呼吸を整えてと。
まだ俺のターンは終わらんぞ!
「それからの日々は確かに友人との騒動があったりと前に進んでいないなと感じる時もあった。それでも気持ちは変わらず、そんな俺の告白をセシリアは受け入れてくれたというわけだ」
「成る程、成る程……こんな話、噂も聞いたことないですよ。本当に記事にしても良いんですか?」
「ああ」
「あ、ありがとうございます。絶対に良い記事にすると約束します。……あの、ちなみに素顔を拝見させてもらったりは」
「まだその時ではない。来たるべき時が来れば自ずと貴様は真実にたどり着くことができるだろう」
びしっとポーズを決めるとウッドワンだけがわかりましたと尊敬の眼差し。
レイヴンは小さい声でぼそっと、ヨウキらしいな、と呟き、ハピネスからは鼻で笑われた。
セシリアはというと。
「それが魔剣士さんですよね……」
セシリアも味方だった。
なんか胸に刺さる優しさだわ。
俺が感動していると今度はレイヴンがウッドワンに呼びかけた。
これ以上のネタがあるのか?
「……そうだ。ハピネスの名前は俺から発表したいので言わないでほしい。ただ、これのことは書いても良いぞ」
レイヴンが見せてきたのは薬指にはまった指輪……って。
「なん……だと」
ハピネスも控えめに左手を見せてきた。
そこにはレイヴンと同じデザインの指輪がはまっている。
これには俺もセシリアも驚きを隠せず呆然。
「……覚悟はある。正式な発表はまだだが」
「そ、それはレイヴン騎士団長がハピネスさんと婚約を結んだということで。えっと、ハピネスさんの仕事は……」
「……ハピネスはセシリアの屋敷の使用人だ」
「では、そのような形で書かせてもらいますね」
昨日の夜か今日のデート中か。
二人は急接近したようだ。
指輪買って旅行にきて濃密な夜を過ごしてプロポーズか。
レイヴンに先を越された気分だ。
「俺は昨日セシリアの指輪のサイズを知ったばかりなんだけどな……」
ぼそっと呟いたのだが、先ほどのレイヴンのように上手く呟けなかった。
ウッドワンには聞こえていたようで。
「すんません。黒雷の魔剣士さん、今の情報を詳しくお願いします!」
「あっ、いや、今のは」
「これも記録に残る記事になるんで」
セシリアに確認の目配せをすると仕方ないですよと言わんばかりに首を横に振っていた。
もう、なるようになれということで俺の苦労を赤裸々に語り取材は終了。
「絶対、皆さんに損をさせないような記事を書きますから。楽しみにしていて下さい」
店から出るとウッドワンは頭を下げて去っていった。
「……良かったのか、レイヴン。ミネルバに戻ったら大騒ぎだろうに」
「……俺ごときでそこまでの騒ぎにはならんさ。ユウガとミカナも結婚したんだし。俺が続いても問題ないだろう」
そう言ってハピネスを抱き寄せるレイヴン。
ハピネスも身を預けているし……この旅行でかなり関係が進んだと見えるな。
「……幸福」
「そうか。迷いが消えて何よりだ」
「……感謝」
「……ヨウキは困ったら相談に乗ってくれて頼りになる自慢の家族、ということらしい。だから、お礼を言っている……うわ、どうしたんだハピネス」
大人しく肩を抱かれていたハピネスがぽかぽかとレイヴンの胸を叩き出した。
そこまでハピネスは思っていないってことだな。
「ふっ、幸せにな」
「……ヨウキもな」
「あっ……」
「人の事を気にするのはヨウキさんの良いところです……が、私のことも気にしてほしいですね」
ちょっと不機嫌なセシリアを宥めるのがこの後大変だった。
ウッドワンから逃げることを考えなくて良くなったので、旅行はお互いのカップルでいちゃついて終了。
ミネルバに戻ったら案の定、レイヴンのことで騒ぎになった。
ハピネスの正体についてはまだ知られていないが時間の問題だと思う。
ハピネスは変装しないでレイヴンと会ったりしていたからな。
それでもレイヴンはハピネスのことを幸せにするために守る。
泣かせたら俺とデュークとシークが黙っていないから。
ところでウッドワンの書いた記事はどんな物になったのか。
気になったので記事を購入。
今日は休みでイレーネさんとは珍しく別行動のデュークと共に我が家で見ることに。
「ふんふん、レイヴン騎士団長、旅行先でプロポーズ。お相手は某令嬢の使用人。自分のコンプレックスと向き合わせてくれた人、っすか。中々良いこと書いてるっすね」
約束通りハピネスの名前は伏せられている。
エピソードもいくつか省略されているものもあるが、誇張されているところはない。
問題は……。
「黒雷の魔剣士、セシリア様の指のサイズを確認。結婚は秒読みか……ね」
俺とセシリアの出会いのエピソードも細かく書かれている。
しかし、見出しがどうしてこれよ!
「なあ、デューク。これじゃあ、俺が間抜けに見えないか。レイヴンは指輪渡してプロポーズ。一方、俺は指のサイズを確認だぞ?」
「比較されていて良いじゃないすか。記事の大きさもレイヴンの方がでかいっす。仕方ないっすね」
「そんなことになる?」
「この記事の比較は布石っすよ。次、この記事にでっかく隊長たちが載るのは……隊長がセシリアさんにプロポーズするかヘルメットを取った時になるんじゃないすか」
デュークの言葉に何も返せない。
とにかく……指輪を用意しよう。




