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宿へ戻ってみた

念のために感覚を強化して周りに誰もいないことを再確認。

確認したらすぐに解除する。



嗅覚強化したらほら……セシリア近いし。

聴覚強化したらほら……心臓の鼓動がさ。

俺的にアウト判定なので周りにいないことだけを確認できれば良い。



セシリアも許してくれているんだし……もうちょっとこのままでいるのもありかなと。



「……そろそろ宿へ向かいませんか?」



なんて思っていたらセシリアから帰宅宣言。

まあ、もう遅いから宿に行くっていうのもわかる。

レイヴンたちもそろそろ戻ってきてるかもしれないし……でもなぁ。

勿体ない、まだこうしていたいという気持ちも。


「その……夜中とはいえ誰かが通りかかるということもあるでしょう。部屋に戻ったらそんなことないですし……」



「採用!」



部屋に戻ったら何も気にせずに済むからね。

俺も堂々と顔を晒せると。

部屋の中というのはいつも通りだが、宿の部屋だ。



それも豪華な宿の部屋だ。

……普段とは違ったシチュエーションで談笑も悪くない。



「それじゃあ、宿へ向かいますか」



「はい」



仮面を被って黒雷の魔剣士に戻り、セシリアと歩く。

……二人部屋で泊まって良いんだよな。

ベッドは二つあったし大丈夫、大丈夫……。



「今回は何もありませんよね……」



「遭難しそうな夫婦もドジっ娘もいないから大丈夫だって」



「その言い方はどうかと思いますが」



「だって実際に起こった話だし」



つい最近の話なんだけど。



「ハピネスとレイヴンならきっと勝手にイチャイチャしているさ」



何といってもあの二人は久しぶりに会うんだから。

俺からも二人に焚き付けたし。

お互いに火がついているはず。



宿に着くと相変わらず屈強な黒服を着た方々が並んでいた。

夜の防犯も完璧ということか。

さすが、高級宿である。



話をつけて宿の中へと入る。

どうやら、レイヴンとハピネスは先に戻ってきているようだ。



やはり、話し込みすぎたのか。

いや、今回は二人の時間が早いようで遅いようで短いようで長く感じたんだよ。

こんな感覚は初めてってくらいにな。



……部屋の中ではこれからについて話したい。

そして、指のサイズを測らないと。



さっきはほら……なんかそういうこと考える余裕がなくなってしまったからさ。

部屋の中でこの雰囲気を大事にして調べればいける。



部屋一緒でいいよねとか言わずに腕を引いて逃がさない。

セシリアも嫌がってないから……良いってことよね?



心の中で気合を入れて扉を開ける。

すると部屋の中には哀愁漂うレイヴンの後ろ姿があった…えっ?



周りを見渡してもハピネスの姿はない。

待て待て、ハピネスの部屋は隣だぞ。

ここにレイヴンがいるってことは……。



「……私は隣の部屋に行きますね」



そう言い残してセシリアは隣の部屋へと入っていった...。

悲しいが俺も部屋の中へ入ろう。



「……ヨウキか」



中へ入っても反応がなかったので心配していたが気づいていたらしい。



「セシリアもいたよな。本当は一緒の部屋で泊まろうとしていたんだろう。済まないな」



「謝られても……何があったんだ。つーか、聞いても大丈夫?」



「……なんという事はない。ただ俺には駆け引きというものが不向きだった、それだけの話だ」



心なしかレイヴンが真っ白に見える。

本当に何があった。



「詳細は?」



「ヨウキとセシリアと別れた後にな……」



俺とセシリアと店で別れた後、俺たち同様に二人も街を当ても無く歩いていたらしい。



ハピネスの様子がおかしかったというがそれは俺のせいな。

席の件もそうだけど、ハピネスも緊張していたんだろう。



そんなことを知らないレイヴンはどうにかしようとハピネスにガンガンアプローチ。



結果、ハピネスの許容量がオーバーしてしまいこの状況に至ると。



「……なあ、彼女のことを考えずに迫る彼氏なんてベッドから転げ落ちて頭を打ってしまえばいいと思わないか?」



レイヴンの悩みは深刻らしい。

騎士団長がそんなこと言わないでくれ。

団員が見たらどう思うか。



しかし、ハピネスに意識させたのもレイヴンを焚きつけたのも俺なんだよ。

……せっかく二人が久々に会ったっていうのにこんなすれ違いはないよなぁ。



「今日はともかく明日になればハピネスも落ち着いてるんじゃないか」



「……明日も騎士団の用事で出かけるんだ。今日よりも遅くなりそうで夕食の時間も取れそうになくてな」



「おっとっと……」



仕事なんだしそれはどうしようもない。

だが、がっくりと項垂れているレイヴンを見るとそんなことを言うのもな。



仕方ないなんて言葉で済ませられない。

このまま終わらせるのもちょっと……。



「まだ旅行は始まったばかりだしさ。ほら、ずっと仕事なわけでもないんだろ。そこで挽回しよう」



「……そう、だな」



言葉では納得しようとしているけど、表情が死んでる。

明日まじで何とかしないと。

そう決意した翌朝。



「……じゃあ、行ってくる」



「私も行ってきますね、ヨウキさん」



セシリアも用事ということでレイヴンと一緒に宿から出発。

俺とハピネスは見送りだ。

ちなみにハピネスは俺の背中に隠れて顔だけ覗かせている。



なんか、前夜のこともあって気まずいらしい。

すごい力で俺の背中に引っ付いて離れない。

こんな時に頼ってくるのはどうなんだ。



セシリアに視線を送ると何とかしてあげて下さいという感じだ。

レイヴンは……無、だな。



とりあえず頑張れよーと手を振っておいた。

ハピネスも小さく手を振っていたからさ。

こうして二人は出かけていった……さてと。



「とりあえず部屋に戻るぞ」



「……ん」



「ついに返事が一文字になったか」



重症じゃねーかと思いつつ、部屋の中へ。

一文字では付き合いの長い俺でも意思疎通は不可能なのでこちらから聞き取りをする。



まあ、大体予想通りな感じだった。

緊張し過ぎて俺の話を思い出し勇気が出なくなり頭から湯気が出たという話。



恥ずかしさと申し訳なさもあってレイヴンと顔が合わせづらくなっていると。



「何とかしよう」



「……策」



「あるとも。俺は黒雷の魔剣士……じゃなかった。今はハピネスと付き合いの長いヨウキだ。レイヴンも友達だしな。任せとけ」



「……感謝」



「するのはまだ早いぞ。さて、出かけるか」



「……場所」



「行く場所はな。レイヴンのところだよ」



「……拒否!」



逃げようとするハピネスの首根っこを掴む。

恋人のところに行くって言ってんのに逃げようとするとは。



ここまできて恥ずかしがってるなんて大問題なんだからな。

さくっと解決するぞ。



「今更恥ずかしがるのが悪い。覚悟を決めろ」



「……理解」



口だけこう言ってるが行動が不一致だ。

昔から頭は良く俺をおちょくることに長けているハピネス。



ここまで普段のやり取りをしていないことから、余裕の無さがわかる。

だからといって掴んでいる手を離す気はない。



「ハピネスにはレイヴンの仕事振りを見てもらおう」



「……仕事?」



「ああ。ハピネスとの時間を作るためにどれだけレイヴンが頑張っているか。そして……自分が好きになった男がどんなやつか詳しく知る良い機会だ」



仕事の話なんてあまりしていないだろうし、レイヴンの仕事姿を見たらハピネスの気持ちの整理をつけられる……はず。



渋るハピネスを無理矢理連れて行くのは困難だったが、どうにか宿の外へ。

本当に手のかかる妹のようだ。



「……逃走、逃走、逃走」



「ふっ、この俺から逃げられると思うなよ」



たとえ逃げたとしても俺の追跡能力の前では意味はない。

それに……口だけだろう、逃走なんて。

ぐいぐいと俺の腕を叩いているが本気で逃げようとしていないし。

しかし、ペチペチと腕を叩かれるのは良い気分ではないが。



「良いから大人しくしろって」



「……拒否」



街の中を歩きながらそんなことをしていると、周りから注目を浴びるのも当然で。

野次馬から誘拐、無理矢理、逃避行……という犯罪を匂わせる言葉が飛んでくる。



知り合いだし犯罪じゃねーからとツッコミを入れようとしたら。



「すみませーん。取材させて下さい」



人混みの中から見たことある記者の姿が。

確かウッドワンだったかな……なんでここにいるんだ。

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