友人に提案してみた
「それじゃあ、伝えてくるから引き続き仕事頑張れよ。セシリアもまた今度」
「……さらば」
「はい、ヨウキさん。お気をつけて」
二人に別れを告げてアクアレイン家を出た。
今度はレイヴンへ伝言か。
今、会いに行っても修羅場な気もするけど。
早く安心させてやりたいし、向かうことに。
騎士団に来たらもう建物からピリついているオーラが漂っていた。
予想通りなんだけども……中で何が行われているのやら。
入りたくないけど入らないといけないんだよなぁ。
足が中々進まないなーと思っていたら見知った顔がこそこそと出てきた。
「おーい、デューク」
名前を呼んだだけなのにビクッと体を震わせてゆっくりとこちらを見てきた。
何その反応、俺なんかした?
俺だとわかってからは全力で走ってきたけどさ。
何かに怯えているのかね。
「た、隊長じゃないすか。ちょうど良かったっす。これから見回りなんすけど、一緒にどうすかね」
「なんで俺がお前と見回りに行かなきゃならないのか」
そういうのは騎士の仕事で俺は騎士ではない。
大体、デュークにはいつも行動を共にしているイレーネさんがいるじゃないか。
「騎士団だけでなく別の意味でも相棒になったイレーネさんがいるだろう。それとも相談したいことがあるのか。俺はレイヴンに用事があるから、そっち優先になるんだけど」
「ああー……急に出し始めたレイヴンのやる気はそれが原因なんすか。最近、働き詰めでハピネスに会えなくて……って人のこと気にしてる場合じゃなかったっす!」
あたふたしているデュークを見るのは新鮮だ。
それだけの危機が訪れているということか。
イレーネさん連れていないし、彼女関係だろう。
自分の黒歴史がばれたとか、急にハイスペックな婚約者が現れたとか、勢いでアホなこと言って会うこと禁止にされたとかかね。
……まあ、全部俺が経験したことなんだが。
「どうしてそんなに慌ててるんだ」
「いや、イレーネがっすね……」
「私がどうかしましたか、デュークさん」
どうやら遅かったらしい。
デュークの後ろには見回り準備万端なイレーネさんが立っている。
これは逃げられない。
「先に行くなんて酷いですよ、デュークさん。私が迷子になったらどうするんですか!」
自分の職場で迷子になるのかよ。
デュークは心細い思いをさせたと謝っている。
いやいや、まさか迷子になったことあるのか。
「もう迷子にならないっすよ。俺よりも先輩なんすから。ほら、早く見回りに行くっすよ」
さっきと言ってることが全く違っているんだが、どういうことだろうか。
理由は……イレーネさんの前だし聞かない方が良いんだろう。
二人はいちゃついたりはせず、適切な距離を空けて見回りへ行った。
付き合う前と特に変わった様子がないように見える。
デュークは何を恐れていたんだろう……。
「それは俺もデュークから相談を受けたぞ」
どうしても気になったのでレイヴンなら何か知っていないかと、本題の前に聞いてみた。
大量の書類を処理しながらの会話だ。
早めに要件だけ済ませた方が良いんだろうけど。
「どうやら、イレーネは仕事中にかなり我慢をしているらしい」
「我慢とは?」
「デュークに飛びかかって抱き着きたい気持ちを必死になって押さえ込んでいるんだとか。仕事と私的な時間の分別をしないとと考えているようだが……本能がそうもいかんらしくてな」
意外とイレーネさんは肉食系ということがこの前の旅行で発覚したからな。
「つまり、抑え込んでいるけど気持ちが収まっているわけではないと」
「ああ。仕事で二人きりの時間が多ければ多いほど休みの日や帰りの時間に溜まったものが爆発するらしいぞ」
「だからデュークはさっき……」
普段通りの二人だったなぁ。
仕事が終わったらどうなるんだろうか。
今度デュークにさらっと聞いてみようかね。
「まあ、そういうことだ。……それで、ハピネスは何か言っていただろうか」
本題に入るようなので、ハピネスからの預かり物を懐から取り出す。
ハピネスのスケジュール表である。
レイヴンにならハピネスがいつ休みかとか、それ以外の色々なことも伝わりそうだ。
「まあ、これを見てくれ」
受け取ったスケジュール表を凝視するレイヴン。
見ているレイヴンの表情がころころと変わる。
後悔して驚いて嬉しそうにし、何かを決心した感じだ。
そういえばハピネスの伝言も伝えないとな。
「そういや、ハピネスにレイヴンへ伝言あるかって聞いたんだよ」
「……ハピネスはなんと?」
「俺が喜んでたって伝えれば良いかって聞いたら、正解って言ってた。つまり、そういうことだ」
「……仕事が理由とはいえ、こんな俺の誘いを聞いて喜んでいたと?」
「ハピネスから受け取ったメモを見たら分かるだろう。ハピネスはレイヴンに合わせられるように仕事を頑張ってこんなメモまで作ってたんだからな。それでレイヴンに会ったらしたいことはあるかって聞いたらさ。ハピネスのやつなんて言ったと思う?」
「……それは俺が聞いて良いことなのか」
「安心しろ。閃いた、秘密って言ってたから」
「……そうか」
なんか妙に安心しているけど、ハピネスの言葉の意味がわかっているのかね。
「レイヴンや」
「……なんだ」
「ハピネスが秘密って言ったんだ。あいつはそれなりの要求してくるぞ」
「……ああ。俺はできるだけハピネスの要望には応えるつもり」
「甘いな。これはな……ハピネスからの挑戦状なんだよ」
「なんだと?」
「しばらく会っていないでお互いに色々と思うことがあるだろう。さっきのイレーネさんの話に似ているな。直接、顔を合わせていない分何をしようとされることを願おうと……だってしばらく会ってなかったから……で通じるわけだ」
久々の再会でテンション上がっちゃってさ……でいけるだろう。
レイヴンもそんなことが可能なのか、驚いている。
ハピネスが狙っているのはそういうことなんだよ。
「……つまり、大胆に攻めていくべきということか」
「ハピネスもきっと大胆な攻めをしてくるはずだ。男の見せ所ってやつだな」
「……大胆に攻めるか。激しい斬り合いのようだな」
その例えはどうかと思うけど、真剣に作戦を練っているみたいだし別に良いか。
「日程とかはどうするんだ?」
「そうだな……ハピネスの休みが取れそうな日に丸をつけた。どの日が良いか聞いてほしいんだが、頼めるか?」
「ここまできたら最後まで面倒を見てやるよ」
レイヴンからハピネスのメモを渡される。
立場を隠すなら二人をこっそり人気のない海か山に連れて行くことも可能だが。
シケちゃんの事件があった港町でもそこまで騒動にならなかったし、堂々と旅行に行っても良いような気もする。
「……今回はヨウキとセシリアの予定も合わせてほしいんだが」
「俺とセシリアも?」
一緒に旅行に行くってことか。
それはかなり目立つんじゃないかね。
人気のない山か海コースになるぞ。
「大丈夫か、そんな面子で出かけて」
「……世間に俺とハピネスの仲を認めさせるためにも接点が必要だと思ってな。そのためにも……協力してくれ」
そう言ってレイヴンは頭を下げてきた。
いやいや、そんな頼み方しなくてもさ。
俺は協力するぞ。
「セシリアにも機会を作って頭を下げる。……どうだ?」
「別にここまで協力してるんだから、今更しないなんて言わないって。セシリアも断らないと思うぞ」
「そうか。そう言ってもらえると助かる」
「それよりもどういう計画を考えてるんだ?」
「ああ、それはな……」
レイヴンから旅行の計画を、聞いたが……悪くないと思った。
確かに堂々と街中を歩いても問題はないかな。
屋敷に戻ってセシリアとハピネスにレイヴンの考えた旅行の計画を話したら、二人とも了承してくれた。
早速予定を詰めないといけませんね、とセシリアもハピネスも忙しそうにしていたので俺はそのまま帰宅。
ユウガとミカナの新婚旅行の次はハピネスとレイヴンの旅行に付いて行くことになるとはな。
まあ、この旅行でやらねばならないことが俺にもある。
上手く知りたい情報を調べられると良いんだけどな。




