友人と元部下の橋渡しをしてみた
「ヨウキさん。どうかしましたか。何やら悩んでいるようですが、私に言いたくないことでも?」
「いや、それは……」
やばい、浮気がばれてどう言い訳するか悩んでるみたいな構図になってる。
でも、正直に言ったら言ったでさぁ……。
それでもセシリアに不安を抱かせているってことを天秤にかけたら、サプライズ失敗も仕方なしか。
正座したまま考えているとセシリアからもういいですと言ってきた。
「ヨウキさんのことですから、また何かに巻き込まれたんでしょう。問題にならない程度に頑張って下さい」
そして、いつものようにお茶やお菓子の準備を始めたセシリア。
……えっ、それだけ?
「あの……セシリア。俺としては正直聞かないでもらえて助かるんだけど。変なこと聞くかもしれないけどさ……良いの?」
責められても仕方ないと思うことしてるよね、俺。
実際は女装したレイヴンなんだけど。
理由話したら誤解解ける話。
でも、俺としては指輪のことは言いたくない。
「確かに誰と会っていたのか気になりますけど。ヨウキさんが今更、浮気するとか思えませんし」
準備する片手間で言ってくる。
セシリアの雰囲気からシリアス感もない。
「私としてはいつものヨウキさんの行動だと思っています。私に詳しく話せないのはその人のためにと考えてのことなのでしょう。万が一極秘の依頼だったりしたら話せないのは当然、というものです。……ほら、いつまで正座してるんですか」
話している間にいつもの談笑セットが用意し終わっていた。
こういうところはさすがセシリアと言いたい。
「今日の予定は?」
「レイヴンからハピネスへ伝言あるからそれを伝えるくらいかな」
「そうですか。ハピネスちゃんなら夕方に休憩があるのでその時に話しかけるといいかもしれません。ハピネスちゃん、いつでも休暇が取れるようにと仕事頑張っていますから」
「あ……そう」
いつでも休めるようにって……情報通りハピネスが寂しがってるってのは本当らしい。
レイヴンの話を聞かせてやって安心させてやるか。
ハピネスの休憩時間までセシリアとティータイムを楽しんだ。
会話内容はまあ……いつもの俺のくだらない話を聞いてセシリアが笑ってくれたりなんだけど。
セシリアの話題はミカナとユウガについてだ。
ミカナと会ったらユウガとの新婚生活についての話をしているらしい。
新婚旅行前はあまり構ってもらえず沈んでいたが、今度はユウガの接近がすごいんだとか。
結婚したんだから、ラッキースケベも許容すべきではとセシリアに言ったら微妙な視線を浴びたので慌てて謝罪。
どうやら、女性としてもその辺は結婚しようがデリケートなことらしい。
それでもミカナならユウガ相手なら許すんじゃね。
まあ、俺もミカナに毎日抱きついて寝てるってのはどうかと思うけど。
最近は変な行動はないようだが、イチャイチャしたがり夫と化していると。
変な行動も取らず家事にも積極的に取り組みどんどん技術を吸収しているんだとか。
さすがミカナのためなら聖剣覚醒もやってのける勇者である。
「もうあの二人に関しては一生イチャイチャしている気がするけどな」
「ミカナが朝食を作るために起きたらミカナの気配に気づいてすぐに勇者様も起きるそうです。そして、一緒に朝食を作るんだとか」
「あの二人に関してはその手の話を聞き出すときりがなさそう」
「私もそう思います。でも、それだけ幸せに暮らしているって捉えることができますよね」
「そういうことだ。……そろそろ時間?」
結構話し込んだし、ハピネスも休憩に入ったんじゃないか。
「そうですね。一度使用人の休憩室に行ってみましょうか」
セシリアの部屋を出て二人で休憩室へと向かう。
廊下で何人か使用人とすれ違ったのでハピネスの事を聞くとちょうど休憩に入ったとのことだった。
やはり、時間感覚に狂いはなかったと思いつつ休憩室へ。
ノックをしたんだが、返事がない。
着替え中とかではないよな、俺にラッキースケベのスキルはないぞ。
聴覚強化しても衣擦れの音とか聞こえないし。
「ハピネス、俺だ」
「……返事がありませんね。倒れているとかではないですよね。心配になってきました」
「入ってみよう。先にセシリアが中を確認してくれ」
「わかりました」
セシリアが静かに扉を開けて中を覗く。
「寝ているみたいですね」
「えっ?」
セシリアの頭の上に顔を乗せて部屋を覗くとテーブルに突っ伏しているハピネスの姿があった。
休憩中とはいえ、寝ていいのか?
「ヨウキさん、何故私の頭の上に顔を……」
「セシリア、ハピネスがあんな風に寝るのって珍しいんだけどさ」
「このまま会話するんですね」
だって扉の隙間が狭いから良いかなって。
「相当無理しているとかじゃないよね」
「使用人の仕事はしっかり時間が決まっていますから睡眠時間は充分取れるはずですよ。使用人の健康管理にはソフィアさんが気をつけているので」
確かにソフィアさんが自分の部下に無理させるような仕事の割振りはしないよな。
ということは、仕事終わってから何かしているのかね。
「まあ、寝ているハピネスには悪いけど。ハピネスにとっては良い知らせなんだし起こすか」
部屋の中へ入りハピネスへ強襲。
耳元でレイヴンからの伝言だぞって伝えたら飛び起きるだろう。
早速行動に移そうとしたんだが……机の上に乗っている物を見て手が止まってしまった。
「どうかしたんですか、ヨウキさん」
俺に続いて部屋へ入ってきたセシリア。
突然、止まった俺を見て不思議がっているのだろう。
だって、こんなの見たらさぁ……。
「こりゃあ、レイヴンが言い出さなくても近々自分から行動起こしてたな」
テーブルの上にはメモが乗っていて、いつ休めるかが書かれていた。
他にも乗合馬車の時間帯や近辺の都市で行われる祭りについて等が書かれている。
きっと近い内これをレイヴンに渡す予定だったんだろう。
「ハピネスちゃんも何処かに行きたいんですね」
「最近、行けてなかったし。レイヴンも焦ってるけどこの紙を見たらさらに焦るだろうな」
ハピネスがどれだけ二人でデートをしたいかがわかるもんな。
レイヴンの事情があるからと我慢していたんだろうけど……限界が来たか。
「……二人に協力してあげる気なんですよね。私にもできることがあれば協力しますよ。二人にはお世話になっていますし」
「それじゃあ、まずはハピネスを起こしますか」
当事者に聞かないと何も始まらないし。
ハピネスの背中を揺すると早い段階でむくりと起き上がった。
「……敵襲」
俺の顔を見るなり何を言ってるんだ。
「敵じゃないわ。今日は用があってだな」
俺の言葉を聞くよりも急いでメモを片付けるハピネス。
見られたくない物だったようだ。
俺の視線に気づいたのか、こちらを見て。
「……変態」
「さすがにそれは理不尽じゃね」
「……通報」
「どこにだよ……って、今日はこんなやり取りをしに来たんじゃねーんだよ」
「ハピネスちゃんにとって嬉しい情報ですよ」
「……信用」
セシリアの言葉のが信用できると。
本当、俺の扱いがさぁ……まあ悪意があるわけじゃないから良いけども。
「レイヴンがハピネスとお出かけしたいからいつ休暇が取れるか知りたいらしい」
「……本当?」
「お前の言い方で言うなら……事実」
「……返事」
そう言って俺に渡してきたのは先程急いで片付けたメモだ。
さっき見た感じだとこれを渡しただけでレイヴンに伝わるだろう。
「……伝言」
「レイヴンにか?」
首をこくこくと縦に振るハピネス。
いつもは感情を表に出さないハピネスが珍しく頰を緩ませているのだ。
恐らく、伝えるのは気持ちのはず。
「喜んでたって伝えれば良いか?」
「……正解」
「あいよ。そうだ……レイヴンに会ったらしたいことも言っておいてやろうか」
ちょっとした悪ふざけで聞いてみた。
セシリアからはヨウキさん……と呆れ顔。
いつも弄られてるんだから、偶には良いじゃないか。
ハピネスから速攻で突っ込みが飛んでくると思ったら、意外にも口に手を当てて考え出した。
これには付き合いの長い俺もびっくりである。
「……閃き」
伝える言葉が思いついたらしい。
さて、どんなことを要求するのかね。
「……秘密」
「うん?」
「……閃き、秘密」
「……成る程」
俺に知られたくないってのもあるんだろうけど。
それは随分とレイヴンには酷な伝言だぞ。
セシリアはどういうことかわかってないみたいだが……俺にはハピネスの考えがわかる。
これは寂しい想いをした分の……ハピネスなりの意地悪なのかもしれないな。




