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友人とカップルになってみた

「……ヨウキとカップルの振りをするということか」



「そういうことになるな」



俺の言葉を受けて黙るレイヴン。

いや、そりゃあすぐにわかったって言えないよな。

俺だって身を削るような行為だってわかってる。



お互いに彼女持ちなのに、何が悲しくて男同士でカップルの振りをしなければならないのか。

俺としては悩んでいるレイヴンのためなら、人肌脱いでも良いかなと。



「……これも指輪を買うために必要なことだ」



しばらく考えて出した結論は俺の作戦に乗る、というもの。



「後悔はしないな?」



「……ああ。騎士団で変装して捜査をすることもあるからな。これも良い機会だと割り切ろう。何より……ハピネスのためだ」



「よし、じゃあ早速準備しよう」



「……今からか?」



「ああ。服とかの用意も俺が全部するから」



「……それは有難いが」



「俺は黒雷の魔剣士をこの世に放った男だぞ。レイヴンの女装だって……やってみせるさ。というわけで色々買ってくるから待っててくれ」



レイヴンに別れを告げ、俺は家を出た。

今日は幸いにも市場が開かれている。



女性物の服が売っている店には入りにくいが、露店なら色々売っているから買いやすい。



レイヴンという素材を活かせそうな服を探し、脳内でコーディネート。

俺の分も服を購入し、家へと戻る。



不安そうなレイヴンにいいから任せろと言って変身の時間だ。



まず顔はあんまりゴテゴテにせず眼鏡をかけるくらい。



服は女性らしいものは選ばず、働いてる女性が着ていそうなスーツっぽい服を選択。



但し肩幅等、男性らしい体形が目立たないようにゆったりしたサイズをチョイス。

髪は後ろにまとめてポニーテールにして完成。



レイヴン要素は残ってるかもしれないが、気づくやつはいないと思う。



「…….本当に大丈夫なのかこれで」



「絶対にいける。ばりばり働いてるクール系の美人にしか見えないもん」



下手に可愛いい系のファッションにしたら、変に見えるから、レイヴンに似合いそうなクール系の服を選んだのは正解だろう。

違和感そんなにないから、真面目に。



「あとは俺だけど……」



まず身体強化で身体のバランスを変える。

これだけで普段のヨウキ感は消えるからな。

さらに身長が高く見える靴を履いて、服は半裸スタイルで完成。



「……普段よりも体格を良くしたんだな」



「俺がゴリゴリになることで隣を歩くレイヴンを女性らしく見せるという作戦だ」



「……成る程な」



俺にも考えがあるんだよ、レイヴン。



「ああ。あとレイヴンは手を見せるの禁止な。火傷したとか理由つけて包帯を巻いておこう」



毎日剣を振っているせいか、レイヴンの手はゴツい。

そういう女性もいないわけではないだろうけど、念のためにな。



「……わかった。あとは話し方だな。普段の口調だと俺とばれる恐れがある」



「そうだな。身近な女性の話し方とか参考にしてみたらどうだ?」



騎士団には女性騎士も少なからずいるだろうから、イメージしやすいのではないか。



「身近な女性、ならば……それではヨウキさん。準備もできたことですし、そろそろアクセサリーショップへ向かいませんか?」



「それはやめてくれないかな」



セシリアを参考にするのはダメだよ。

お淑やかな感じで首を傾けるのも余計にセシリアを意識してしまう。



「……そうですか。ヨウキさんはセシリアと一緒にいることが多いので、この方が落ち着くと思ったのですが」



「レイヴン、一回黙ってくれ、本当に」



そういう口調の女性がたくさんいるのは分かってるけど、カップルの振りをすること考えたら耐えられない。




「……そうか。仕方ないわね。ほら、とっとと行くわよ」



「それも止めろ!」



今度はミカナかよ。

下手したらユウガが飛んでくるって。

レイヴン、もしかしなくてもおちょくってるわけじゃないよな。



「何で参考対象が勇者パーティーの面々なんだよ。もっと他にいないのか?」



「……参考にできる程関わったと言えるのはセシリアとミカナくらいだ。ハピネスもいるが俺が拒否する」



「そりゃあ、俺だって拒否するわ」



恋人のためのサプライズプレゼントを恋人の振りをして男友達と買いに行くって意味分かんない行為だよ。



「それにハピネスはあまり言葉を話さないだろう。長年の付き合いとハピネスの性格を考えて、何を言いたいのか分かるけど、レイヴンがやってもなぁ」



「……それもそうだ。まあ、やれと言っても拒否は拒否だ。絶対にやらんぞ」



レイヴン、ハピネスの真似は断固拒否と。

だが、今の否定の仕方はわるくないんじゃないか。



「もうこうなったらキャラを決めてしまおう」



「……キャラを決める、とは?」



「言葉の通りだ。俺は筋肉モリモリだが、気弱でレイヴンには逆らえない。レイヴンは上からの命令口調。俺を罵るくらいの勢いでばんばんダメ出しするクール系鬼嫁でいこう」



「……どうしてそんな癖があるカップルの設定にする必要があるんだ」



「普通の普通のって考えて頑張ってたらボロが出るかと思ってな。それなら多少は癖のあるカップルの方が演じやすいんじゃないか」



役になりきることで本来の自分を封印するんだ。

俺は普段から黒雷の魔剣士をやっているから、大丈夫。



レイヴンがやりたい放題して、それに合わせるのが良いだろう。



「……ふむ、クール口調で鬼嫁。セシリアとミカナを足してそこに……」



「だから、二人を参考にしようとするなって!」



お互いの掛け合いや偽名の決定。

さらに会話の練習にアクセサリーショップへ入ってからの動きをシミュレーションする。



レイヴンはレイン、俺はヨージという偽名を名乗りいざアクセサリーショップへと向かう。



「ほら、行こうヨージ」



レイヴンに手を引かれる。

セシリア以外の女性と手を繋いで歩く……いや、女性じゃないか。



「浮気じゃない、浮気じゃない……」



「安心して……これは浮気じゃない。必要なことなの。だから一緒に行きましょう」



レイヴンさんや、鬼嫁設定を早速忘れてないですかね。

頼りになる姉御キャラなんですが。



まあ、俺はレイヴンに従う気弱な筋肉質腰巾着夫で行くので構わない。



「待ってくれよレイン。わかったから、一緒に行こう」



「覚悟を決めてくれたみたい。それじゃあ、堂々と歩きましょう」



目指すはアクセサリーショップだ。

レイヴンの女装に気合を入れすぎたせいか、すれ違い様に二度見してくる男が何人かいる。



聴覚強化してみたら、すごい美人、彼氏持ちかぁという呟きが。



「レイン。結構、君を見ている男性の視線が多いね。さすがだよ。これもレインの美しさが原因かな」



男の視線が多いので、変装は完璧。

レイヴンの素材が良かったんだなという意味である。



「そうみたい。でも、私の視界には一人しか映っていないから」



確かに見られている、だが、俺にはハピネスしか映っていない、と。



お互いに言葉へ込められた本当の意味が伝わる。

少し笑いそうになるのを堪えた。



レイヴンとも付き合いが長くなってきたし、言葉の本質を読めるようになってきたな。



まあ、今の言葉が読みやすかったって部分もあるけどさ。



カップルの振りは全くボロが出ずに無事、アクセサリーショップへ着いた。



あとは店員に聞くなり、自分たちで探すなりしてレイヴンのお目当ての指輪を買うだけだ。



「レインは気に入ったやつはあるかい。それとも、もう決まっていたり」



「いや、そういうのはまだ……」



店の外から眺めるだけじゃイメージ湧かないよな。

レイヴンが選んだ指輪ならハピネスは何でも喜ぶと思うけど。



「お客様、お困りでしょうか」



二人で店内をふらふらしていたら、イケメン店員が話しかけてきた。

接客スマイル完璧、スーツをびしっと決め、仕事ができそうな雰囲気を感じる。



「指輪を探しているんです。婚約指輪」



「成る程。婚約指輪と言ってもデザインがかなり豊富です。少々、お待ち下さい」



イケメン店員はそう言って、その場を離れる。

帰ってくるといくつか指輪を持ってきた。



「こちらの中でどのデザインが気に入りましたか」



「これかな」



「こちらのデザインが気に入ったとなりますとこちらに似たデザインの指輪がございますので、ご案内致します」



仕事のできるイケメン店員のおかげであまり迷わずに買うことができた。

値段、デザイン等の質問も親切に答えてくれたし。



もっと迷ったりすると思ったが、レイヴンもすんなり決めたな。



「レイン。随分とあっさり決めたんだね」



「身につけている姿を想像してみたら、これが似合うと思ったの」



「そういうことか。何はともあれ無事に目的が達成されて良かった」



あとは帰るだけなんだけど……いつもここから上手くいかないんだよな。



「ここから考えられることは……」



「ヨージ。今は私と一緒にいるんだから、私のことだけを考えて」



余計なこと言ったら、実際に何か起こるかもしれないから何も言うなと。



確かにここでユウガが飛んできたら面倒だ。

セシリアが来たら合わせる顔がない。



ミカナは……まあ、別に良いんじゃね。

色々と心配はしてるが、それでもこの近くには来ないさ。



ユウガとミカナは既に結婚してるから、指輪を買いに来ることはないだろう。



アクセサリーを買いに来ることはあるかもしれないが……ミカナがアクセサリー着けてるところを見たことないし。



それなら他の場所へデートに行くだろう。

セシリアも行くなら俺と一緒に……なんてな。



「考えられるのは全くアクセサリーとは無縁な……」



「たーすーけーてー」



知り合いの声が聞こえた。

やはり、俺は巻き込まれ体質なようで何も起こらずに帰宅というのは神様が許してくれないらしい。



「ヨージ、彼は……」



「少し鍛えた、身長は靴のおかげと言えば誤魔化せるだろう」



「どうしてあんなことに」



「モテる男は辛いってやつさ」



俺の視線の先にはティールちゃんとフィオーラちゃんに腕を引っ張られるシーク。



そんな三人を見てため息をこぼしているクインくんの姿があった。

シークと目があったからな、スルーできん。

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