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神父の話を聞いてみた

もう尾行止めてもいいのでは?

そんな考えが浮かぶくらい、今日の収穫は大きい。



こんなことしている自分が恥ずかしいと思いつつ、馬車の屋根に居座っていたりする。



俺がいないところでセシリアが俺のことをどう話すのかもう少し見てみたいと思う自分もいるわけで……。

空は晴れているのに俺の心は曇り模様。



気がつけば本日最後の目的地の孤児院に着いていた。俺も来たことあるわ、ここ。



「こんにちは、ダバテ神父」



「おお、セシリア様。お待ちしておりました。さあ、どうぞ中へ」



これまた見たことある神父とともに孤児院へと入っていくセシリアとその後を追う俺。

懐かしいなぁ、デュークの尾行デートで来た孤児院だ。



ここでセシリアの二つ名を知ったんだわ。

思うだけでも罪な二つ名である聖……辞めよう。

気配でセシリアに居場所がばれてしまう。



平常心を心がけてこっそりとセシリアの元へ。

授業を行うのかなーと思ったら子どもたちと遊んでいた。



セシリアは男女問わずに人気者。

ダバテ神父もこらこらと言いつつ止めていたが、セシリアに群がる子どもたちには効果が薄い。



セシリアはそんな中、一人一人の声を聞き、話しかけていた。

俺ならパニックになるけどな……。



「聖母様ー、お本読んでー」

「聖母様、一緒にお花の冠……」

「聖母様ー、旅の話ー」



全員聞きたいことやりたいことがあるため、収拾つかない状況になってる。

どうすんだろ、これ……。



「それではまず、本を読みましよう。読みながら花の冠を作ります。旅の話は本を読んだ後に……」



「えー」



旅の話を聞きたがっていた男の子は不服そうに口をとんがらせている。

まだ子どもだからな……ああいう反応するのも無理はない。



そんな不満そうな子どもの頭を撫でて優しく諭すのがセシリアだ。



「次回は旅の話を最初にしましょう。だから、今日は我慢できませんか?」



「う、うぅ……」



頭を撫でられて恥ずかしいのか男の子は顔を赤くして小さく頷く。

ああいう風に子どもをあやすのか。



俺ならどうしようか迷ってる間にわらわらと集まって収拾つかなくなるだろうな。

地雷だから言えないけど、こういうところも含めてセシリアの二つ名って広まったんだろうね。



様子を見ていて非常に子どもとの付き合い方について勉強になりました。



一人で子どもの相手をしてるからな……真似できんよ。

暗くなってきたところでダバテ神父がセシリア様そろそろ……と声をかける。



セシリアも帰る時間らしい。

子ども達も分かっているのかえー、という声が響いている。



帰って欲しくないんだろうな。

セシリアの服を掴んでる小さい女の子もいるし。



「聖母様……帰っちゃうの……?」



涙目の上目遣いという幼子の最強技を繰り出す。

これは断りづらい、ダメと言わねばならないがきつい。



セシリアはそっと女の子の頭を優しく撫でてまた今度ねと言い軽く微笑む。

それでも服を掴む手を離さない女の子だが、撫で撫での効果か少しずつ掴む手を離した。



「偉いね。また今度お話ししましょう」



「うん」



そんなやりとりをして全員教会へ入っていく。

ダバテ神父と次回来る日程や子ども達の様子について話し合ってから帰るみたいだ。



「本日もありがとうございました、セシリア様」



「いえ。皆良い子たちで話をよく聞いてくれるので助かりました」



「いやいや……元気な子ばかりで苦労をかけたでしょう」



「そんなことは……」



俺の目から見てもセシリア頑張ってたと思うけどな。

子どもたちの話聞いて宥めたりあやしたりと休んでる暇なんて無いように見えた。



まあ、疲れましたなんて言えるわけないんだろうけど。



「セシリア様自身も今は大変な時期でしょうに」



「大変な時期……ですか」



「ええ。黒雷の魔剣士……でしたかな。セシリア様と婚約されていると聞きました」



「……はい」



まさか、ここでその話するとは予想外。

ダバテ神父は反対派なのだろうか、聞いたらまずい会話なのでは。



「孤児院の子たちも気になっている子が何人かいるようでして。私からはそっとしておくようにと言いつけました。セシリア様のためというと皆頷きましたよ。子どもたちもセシリア様を困らせたくないという気持ちがあったようです」



「気を遣わせてしまったようですね」



「セシリア様の結婚を祝福しようと盛り上がっている子も何人かいます。もちろん、私もその中の一人なのですよ」



「ダバテ神父……」



「セシリア様の選んだ方です。きっと素晴らしい方なのでしょう。長身で顔立ち良く、清潔感があり心優しい……」



待て待て待て待て!

意気揚々と語るダバテ神父の黒雷の魔剣士像のハードルが結構高いんだけど。



これ会いに行ったら失望されんじゃねってレベルだ。

セシリアもちょっと顔が引きつってるよ。



「ダバテ神父。私は男性にそこまで条件を求めはしませんが……」



セシリアが、ついにダバテ神父を止めた。

最終的に早寝早起き、歯磨きは一日三回、記念日は絶対に贈り物するとか言い出したからな。



「おっと、失礼しました。老いぼれの茶目っ気が出てしまったようで」



茶目っ気って……ダバテ神父どんなキャラなんだ。



「ダバテ神父のそういうところも子どもたちは気に入ってるんですね」



「堅苦しいだけのじじいでは子どもたちに嫌われてしまいますからね。皆、セシリア様の言うことしか聞かなくなってしまうと普段の運営が厳しくなりますので」



「私はそこまで特別なことは……」



「いやいや、セシリア様には皆心を開いていますよ。さすが、セシリア様です」



それは俺も思う。

これ以上突っ込まれたくないのか、セシリアは咳払いをして会話を切った。

俺としてはもうちょい見ていも良かったのだが。



「きっと黒雷の魔剣士……でしたか。彼もそんなセシリア様の魅力に惹かれた一人なのでしょう。セシリア様を動かす何かが彼にはあったのでしょうね」



俺に何かがあったのか。

セシリアは何て応えるんだろう。

聞きたいけど聞いてはいけない気がする。

これは俺が直接言われたい、隠れて盗み聞くのはダメだ。



セシリアが何か言う前に耳を塞ぐ。

俺には読唇術なんて使えないから、セシリアが何を言ってるのかはわからない。



ダバテ神父は黙って頷いてる……それだけだ。

セシリアが話し終えたところでそっと耳から両手を離す。

もう……終わってるよね?



「……成る程。彼は今悩んでる最中だと」



「はい。どうもそのようで」



「ふむ」



なんか思っていた展開と違う。

俺が悩んでる、そういう話をしたらしい。



セシリアを動かす何かについての会話だったんじゃないのか。



「私が追い詰めているのでしょうか」



いやいや、どうしてセシリアの口からそんな言葉が出てくるんだ。



「付き合う前から行動の読めなかった方なのですが……今回は本当に分からなくて」



やばい、セシリアが了承してくれたからって調子に乗ってた。

結果的にセシリアを悩ますことになっていたようだ。

……素直に謝るか。



いや、謝るだけでは違う。

次はこうしないようにするっていう反省も考えて行動で示さないと。



「ちなみに最近、セシリア様は変わったことをされましたか?」



「いえ、それは……その」



セシリアの目が泳ぐ。

まさか、半同棲状態ですなんて言えないよな。



「具体的には言わなくて結構。婚約する前より変えたことはありますか?」



「……はい。どうも世話を焼いてしまって」



完全に焼かれている状態です。

これはセーフだよな、焼かれてるだけだから。

ダバテ神父はそれだけ聞くと顎に手を当てて考え始めた。

そして、少しだけ頷いて口を開いた。



「彼は……焦っているのでは?」



「焦っている……ですか」



焦っている……まあ、合ってるな。



「はい。セシリア様と婚約するまで恐らく大変な道のりがあったのでしょう。……ありましたよね?」



「私の口から言うのも恥ずかしいですが……はい」



いや、本当に色々とヘタレで大変でした。



「セシリア様と距離が近づいて……改めてセシリア様の力に気付き自信を失っているのではないかと。そこからどうにかしないとと空回りをしているのではないでしょうか」



ダバテ神父の推理が当たり過ぎていて怖い。

俺なんかで良いのか……まではいってないが近いものは感じている。



「やはり私が追い詰めていたのですね……」



セシリアの表情が曇り始めた。

出てって土下座してそんなことはないよと声をかけたい。

そんなことをする方が迷惑になるけど……。



「セシリア様のせいではありません。かといって私は彼が悪いとも言えません」



「ダバテ神父……ではどうすれば良いのでしょう」



「二人で相談して解決する他ないですね」



それ一番先にやらなきゃいけなかったことじゃね。

セシリアもあっ、と声に出して固まった。



「結婚前にお互いによく話し合った方が良いですよ。結婚したら相手の知らなかった部分が見えてきます。良いところも悪いところもね。一緒になる前に解決出来ることはするに限ります」



正論過ぎて何も言えない。

そうだよな、こんな一人で悩んでストーキングするなら話し合えって話だ。



「セシリア様もお忙しい身でしょうが、一度彼とゆっくり話し合ってみてはどうでしょう」



気がつけば俺とセシリアは揃って首を縦に振っていた。

合わせたわけじゃないのだがな。

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