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さらに恋人を見守ってみた

セシリアの昼食風景とはどのようなものなのか。

教会を出たセシリアは馬車に乗り、何処かへ向かっているようだった。



俺はちゃっかりと屋根に乗って一緒に移動している。

弁当持ってきていると思ったんだけど、違うのかな。

一度屋敷に戻って食べるとか……いや、屋敷とは方向が違う。



セシリアがミネルバのレストランで食べるイメージがないんだけど。

疑問が解決されないまま馬車に揺られていると見覚えのある店が見えてきた。



「あー……成る程」



着いたのはアミィさんとマッチョパティシエ、アンドレイさんのケーキ屋だった。

最近来ていなかったがここに来るとはな。



セシリアを見ると馬車の中に用意していたのか変装用の眼鏡と帽子を装備し店へと入っていった。

昼食にケーキを食べるのか……?



そんなことないよなと思いつつ俺もケーキ屋に入った。

お菓子の甘い匂いが漂う店内で何も食えないという状況を何とか堪えながら、セシリアの様子を伺う。



食べているのはケーキではなくパンケーキだった。

アミィさんと何か話しているな……。



「このお店は私が来ても騒ぎにならないので助かりますね。教会でも声をかけてくる方がいるので」



「セシリア様は有名人ですから。私もこんな気軽に話して良いのかなと思っているんですけど」



「気にしないでくれると助かります」



「お客様の要望にはできる限りお応えするのが両親の教え。私で良ければ」



「ありがとうございます」



アミィさんといい感じで話していた。

最近、俺は来ていなかったがセシリアは一人で通っていたのか。



ここは作戦会議やデートでもお世話になった思い出深い店。

ああ……そんなこと考えていたら甘い香りが余計に鼻の中に入ってくる。

帰りに寄って買っていこう。



「本当にアンドレイさんには助かりましたよ」



セシリアがマッチョパティシエに感謝をしている。

何かあったのか。



「兄も両親の教えを受け継いでいるので当然のことをしただけと話していました」



「それでも、私がこうして休んでいられるのも……」



セシリアがそう言いかけたところで店に男性二人が入ってきた。

セシリアだとか本物とか言ってセシリアに詰め寄って行く。



絡みに行くつもり満々か、こっそりと転ばせでもしてやろうか。

いや、セシリアとの約束がある。



拳を握りしめて眺めていたら、厨房からエプロン姿のマッチョが飛び出してきた……二人も。



「お客様、別のお客様のご迷惑になる行動は控えて下さい」



「お客様皆様が安心して食事をできる環境作りのためにご協力お願いします」



エプロン姿のマッチョ二人に詰められて言葉が出ないらしい。

だが、視線はセシリアへと向いている。

諦めきれてないのだろう。



「す、少しだけ……お話を」



「したいかな……と」



男性二人がセシリアを見て何とか言葉を絞り出した。

マッチョ二人の目が怪しく光る。

何が起きるんだ……。



「かしこまりましたお話ですね」



「ご案内いたします」



「いや、俺たちはセシリア様と……」



「では、こちらへ。談話室がありますので」



抵抗は無意味、男性二人はマッチョ二人によって連行されていった。



「本当に良いのでしょうか」



「良いんですよ。兄もケーチさんも軽く注意するだけですし」



新しいマッチョはケーチというのか。



「注意が行き過ぎたら私が出向くので気にしないでください」



「本来は私が対応するべきなのですが」



「良いんですよ。セシリア様はこのお店を選んで来てくださっているんですから。このお店に来ている時はゆっくりしてください。それが店員としてセシリア様に提供するサービスです」



アミィさんが良い笑顔でとても素晴らしいことをおっしゃってる。

今度さりげなくお礼言わないとダメだな。



ここでマッチョ二人が男性二人を連れて戻ってきた。

セシリアを見てはいるが必要以上に関わろうとはしないことにしたようだ。



どんな説得をしたんだろう、セシリアとアミィさんの会話を聞くことに夢中になって気にしてなかったな。



「兄さん、ケーチさんお疲れ様」



「ああ、お客様も筋肉で説明すると事情を理解してくれてな」



アンドレイさん、ちょっと何を言ってるか分からない。



「兄さん……またですか」



アミィさんには通じている。

またって何だよ、何回も客と筋肉で会話してるのかよ。



「百の言葉を並べるよりも筋肉一つで解決する。……素晴らしいとは思わないか我が最愛の妹よ!」



「分かったから、午後のケーキの仕込み終わらせてきてほしいな。ほら、行く」



「さすが、我が最愛の妹だな……」



白い歯を輝かせてアンドレイさんは厨房へと消えていった。

相変わらずキャラ濃いなあ、アンドレイさん。



「ケーチさんも兄に引っ張られてませんか。兄が暴走していると思ったら止めて下さいね」



「天使アミィ、俺も分かってはいるんだ。だけど、アンドレイの兄貴の背中を見せられたらついその背中を……」



「追わなくて良いから止めて下さいよ。あと天使じゃなくて店主です」



「重ね重ね申し訳ない、店主アミィ」



「いつも間違えてるんですから、そろそろ覚えてくださいね。それじゃあ、ケーチさんも兄の手伝いをお願いします」



「はい。お客様、失礼します」



セシリアに頭を下げてケーチさんも厨房へと消えていった。

アミィさんもマッチョ二人を抱え込むとは大変だな。



ただのマッチョじゃなくて癖のあるマッチョだからなぁ。



「兄が良い人材を見つけたと連れてきた時にも驚いたんですけど、未だに驚くべきことが多いです。ケーチさん、いつも私のこと天使って言うんですよ。会った時から天使って。それを言うなら店主ですよねって説明したのに」



癖って中々直らないんでしょうかと首を傾げている。

……ケーチさんとアミィさんの話を詳しく聞けばただの言い間違いかどうか分かりそうだが。



「それはケーチさんがアミィさんのことを良く思っているからこその言い間違いなのではないでしょうか」



「ケーチさんがですか。兄が連れてきた時は兄共々結構しごきましたよ。初心者ではなかったんですけど雑なところが見られたので。繊細な作業を心がけるように繰り返し指導しましたが」



「人の何処を見て憧れを持つかはその人次第ですよ」



「そうですか。セシリア様がそう言うならそうなんでしょうね。うーん……新作として考えてるケーキでもご馳走してみようかな」



いくつかケーキの候補があるのか指を折って数えている。

恋する乙女の顔ではなく職人の顔でだ。



セシリアはそんな様子を慈愛の笑みを浮かべて紅茶を飲んでいる。

俺もあそこに加わりたい、一緒にゆっくりお茶したい。



今は隠れて様子を見ていることしかできないが、いつかまた二人で……。




「そう言えばセシリア様は……その、前に一緒に来ていた方とは来ないんですか。最近、ご来店がないのですが。以前はセシリア様だけでなく騎士様とも来ていたんですけど……すみません、気になってしまって」



噂をすればというやつだろうか。

黒雷の魔剣士は俺だがイコール俺という方程式はまだ公表していない。

セシリアは何て答えるんだろう。



「……すごく元気ですよ。おそらく、すぐに顔を出すと思います。甘い物嫌いじゃないですし、色々と巻き込まれたり巻き込んだり、自分のことで必死だったりで来れなかったんですよ」



「そうなんですか。なら、ご来店をお待ちします。来てくれるお客様は大事にしたいので」



アミィさん、そんなこと言われたら行くしかないだろうに。

不自然だろうがケーキ屋へと明日行くことを決める。

何を食べようか、セシリアが食べていたパンケーキにしようかな。



「今はまだ来ることはできませんが……また、二人で来ますよ。今の発言はこれでお願いします」



セシリアが人差し指を口に添えて秘密ですよとアピールする。



今、俺がいないとはいえさ……不意打ち過ぎるわ。

俺は額を押さえて悶絶、アミィさんは満面の笑み、何故。



「その時は絶対に新作のケーキを振舞いますね」



「楽しみですねケーキも……二人で来る日も」



セシリアはそう言ってパンケーキと紅茶を見つめている。

……そんなセシリアに見惚れる俺であった。

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