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恋人を説得してみた

男子会で得たものを無駄にしないために俺は行動しないとならない。

セシリアのため……いや、俺とセシリアのためだ。



まず俺は俺が知らないセシリアを知るべきだ。

そこからどうフォローするかを導き出す。

そのためにも俺は……。



「セシリアの一日を知りたいんだけど」



男子会から数日後の朝。

俺は屋敷にいるセシリアを訪ねていた。



「私の一日ですか。今日は色々と予定があるので……どういった理由があるのか分かりませんが後日お話しますよ」



「いや、俺は実際にセシリアの一日を見たいんだ。自分の目で実際に見た方が話を聞くよりも見える景色が違うというか……」




「はぁ……それでは魔剣士さんとして私の仕事に付いてくるということでしょうか。それならば、出かけ先の責任者の方々に予め説明しておかないといけませんよ」



日程も調整しないとと考えているセシリアだが……そんな心配は無用である。



「大丈夫だセシリア」



「大丈夫とは?」



「今回の頼み……セシリアに負担はかけさせない。何故なら、俺が魔法で姿を消して勝手に密着するからだ!」



「……すみません。少しだけ時間を下さい。時間はないんですけど整理したいです」



セシリアは頭を押さえため息をついた。

うーむ、説明不足……。



「密着って言っても着替えを覗くとかそういうことはしないから。ただ、セシリアが普段どう過ごしているかをね。ほら、俺がいたら変に意識するでしょ」



「今、姿が見えていなくても見られている。横にいられるよりもそっちの方が意識が向きますよ」



「うっ……」



確かにその方が気が気でない。

あいつ近くで見てるんじゃねぇかなんて状況になったら俺でも警戒するだろう。



「私の私生活の情報を何に使うのか知りませんが……後日、予定を合わせますので」



ここで分かったと言ったら終わってしまう。

セシリアも今日は予定があるのだ。

あまり長居していられないが諦めるわけにはいかない。



ここは多少強引にもと気持ちが逸り、セシリアの両手を掴んで迫る。



「絶対に邪魔しないから」



「はぁ……」



「そんな近くにいないし、遠巻きから見る感じにするからさ」



「えっと……」



「俺にとってどうしても必要なことで……」



「ヨウキさん、ヨウキさん」



「うん?」



「その……近いですよ?」



「はっ!?」



気がつけば結構な距離まで接近していた。

セシリアの顔が近い。

急いで手を放して離れねば……いや、そんな焦って離れるのもおかしいか。



セシリアの顔をまじまじと見つめる。

まつ毛長くて目の色も綺麗だよな。



……いやいや、このままじゃ目的変わっちまうわ!

理性を総動員してゆっくりとセシリアから離れる。



「へ、返事は?」



「……良いですよ」



了承もらえました。

さすがセシリアさん、理解を得られて助かる。



「見ているだけなんですよね。何があっても介入してこないと約束して下さい。姿を隠しているヨウキさんに何かをされると誤魔化すのが難しくなるので」



「それはもちろんわかってるよ」



「……例えわたしが男性に言い寄られたとしても手出しは無用ですからね」



「それは……」



即決できる問題ではないかな。



「考えないで下さいよ!」



セシリアからのつっこみが入った。

このままではせっかくいいと言われたのにダメと言われてしまう。



「何もしないって約束はするよ。でも……」



「でもではないです」



「自分の恋人が言い寄られてるところを黙って見てますってすぐに判断できる程、俺のセシリアへの気持ちは軽くない」



「その気持ちは充分に嬉しいのでヨウキさんの要望に応えるためにもここは何もしないと約束して下さい」



「……はい」



どうやら我儘が過ぎたらしい。

元々無理を言っているのだから当たり前だ。

了承は得られたのだ。



セシリアも忙しい身なのだからそろそろ退散しよう。

それじゃあ……と窓から出て行こうとしたらノック音が聞こえた。



「お嬢様、そろそろ時間ですが」



ソフィアさんの声だ。



「……ヨウキ様がいらっしゃっているのでは?」



どうしてばれているんだ。

セシリアに聞こうとしたら、その前に扉が開けられソフィアさんが部屋に入ってきた。



「お嬢様、朝食の準備が整っております。ヨウキ様の対応は私が代わりますので」



「分かりました。実はですね……」



セシリアはソフィアさんに耳打ちしている。

俺が来た理由を話しているのだろう。

ソフィアさんが対応代わるってどういうこと。



こんな朝っぱらからお嬢様のところに押しかけないで下さいと説教されるのだろうか。

言われてもおかしくないよな。



俺が何をされるのかびくびくしていると話が終わったらしく。



「それではヨウキさん。また」



手を振ってセシリアは部屋を出て行った。

残されたのはソフィアさんと俺。

扉が閉まる音が響いた後、どちらも言葉を発さず沈黙が流れる。



お互いの出方を窺っているとかそういうわけではない。

俺はソフィアさんのお叱りを受けるつもりなのだが……こちらをじっと見てくるだけで何も言ってこない。

先に沈黙を破ったのはソフィアさんだった。



「お嬢様からある程度、事情は聞きました」



「はい」



「必要なことなのでしょう。私としては女性の私生活を隠れ見る等、とてもではありませんが了承できません。全力で阻止したい思いです」



ソフィアさんの瞳が光った気がした。

やばい、これは狩人の瞳だ。

やっぱり怒ってるんじゃないかと色々と諦めようと考えたところ、ですがと言葉が続く。



「お嬢様とヨウキ様で決めたことです。今後のために必要なんだと……お嬢様が納得しているのに第三者の私が口を挟むわけにはいきません。それにヨウキ様がお嬢様の信頼を裏切るような真似はしないかと」



ある程度信頼されてるようだ。

俺だって遊びでやるわけではないからな。



俺なりに悩んでまずセシリアをもっと知ろうと思い、行動に移すことにしたわけで。

やましい気持ちよりもただセシリアを知りたいんですよ、本当に……。



「迷惑はかけないってセシリアと約束しました。例えセシリアが男に言い寄られていても傍観すると」



「お嬢様はヨウキ様と出会う前からも男性からの誘いをかわしてきたので心配は無用かと」



「それでも思うことはあるんですよ。ソフィアさんだってクレイマンが……」



「女性を見て鼻の下を伸ばしていたらその鼻をへし折りますが?」



先手を打たれた回答に黙る。

クレイマン、ないとは思うけど気をつけてくれよ。



「まあ、夫に限ってそんなことはないでしょう」



「信頼しているんですね」



「夫のことで心配しているのはしっかり仕事をしようとしているかですね」



「しようとしているかなんですね……」



やることはやるけどその過程がという話か。

だるそうにしつつも仕事は済ませてる。

クレイマンが本気出したら周りが付いて行くのに必死になるからな。



「あの人はやる気を出せばもっと周りから評価されるというのに出さないんですから。昔からムラがあるんですよね」



多分、やる気になったのはソフィアさんが関係しているんだろう。



「男って意外と単純な生き物ですよ。ソフィアさんが応援したらやる気になるんじゃないですかね」



「ヨウキ様がそういうのならば今度試してみましょう。それでは少々お待ちください」



ソフィアさんが懐からペンとメモを取り出して手早く書き出し渡してきた。

時間帯と場所、誰と会うか等の情報が細かく書いてある。



「これは……」



「お嬢様の本日の日程です」



「えっ!?」



「用事は手早く済ませた方が良いでしょう。お嬢様にはヨウキ様は帰ったと伝えておきますので」



それではと言い残してソフィアさんは出て行った。

一旦、出直して後日にしようと思っていたんだけど。

まさか、ソフィアさんが協力してくれるとはな。



守護霊にでもなった気分で付いて行こう。

俺は魔法で姿を消して慎重にセシリアの元へと向かった。

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