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副ギルドマスターの愚痴を聞いてみた

「これは俺が実際に体験した話なんだがな……」



何を怖い話風にしようとしているのか。

つーか勤務中だろう、こんな話をしてて大丈夫なのかよ。



そんな心配をしていたら、クレイマンの後ろで式神が代わりに働いていた。

いや、自分の力かもしれんけどさ。



汗水流して働いてる他の職員は何も言わない辺り許されていることなのだろう。

シエラさんも特に気にしてないしな。



「勿体ぶらなくて良いから、パパッと話してくれよ」



「おう」



それはある日、クレイマンが帰った夜のこと。

いつものように挨拶をすると仕事から帰ってきた父親を労いに妻や子は……来なかった。



妻は淡々と家事をこなし、長男は本を読み、長女はソファーに寝っ転がったままだ。

……うん、想像しやすい。

パパお帰りーなんて言うようなキャラじゃないよね。



まあ、クレイマンもそんな光景には慣れてるわけで渋々自分で上着を片付けて。



「ソフィアの作った飯を食ったら、子どもと触れ合いたいだろ。それなのにあいつらときたら、クインは今忙しいって本を優先するしフィオーラは寝てるし。ソフィアに構ってもらおうとしたら、家事の邪魔ですって一蹴されるしよ」



もっと家庭を支えてる大黒柱を敬ってくれたってなぁと頬杖ついて愚痴るクレイマン。

いや、敬うって言ってもさ。



この式神に仕事を任せているような状況でどう敬えと言う話。



「でも、結婚生活も長くなれば一々構ってられなくなるもんじゃないのかね」



「そ、そうなんですか。つまり……飽きられてしまうと」



「シエラさん、その言い方やめて」



その結果、浮気だの冷戦状態だのと暗い話にいくらでも持っていける。

今俺は幸せな生活をおくっているのだから、ネガティブな発想はしたくない。



冷え切った家庭、朝起きたら朝食の用意はなく、金だけ置かれており、帰ってもちらっと見ただけで何も言わないとか。



食事中お互いの顔色を伺いながら食べるとか、ああ、うんだけしか言わなくなるとか。

マイナスな思考が俺を襲っている。



「最近はクインもフィオーラも変だしよー。クインは空を眺めてることが多くなったし、フィオーラは妙に張り切ってる日があるし。あの二人の性格が逆になったみたいで父親としては心配なんだよな」



「そうなんですか。ギルドに遊びに来ている時はいつもと同じように見えますけど」



「親にしか分からないもんがあんだよ」



二人の様子がおかしいのは多分俺の元部下が原因かと思われる。

クインくんはハピネスが好きになっちゃったっぽい。



子どもが少し年上のお姉さんを好きになるってのはよく聞く話だ。

クインくんには悪いがハピネスにはレイヴンがいる。



幼い内に失恋を学ぶのは良いことだ。

クインくんは努力家だしいつか報われるだろう。

俺からはそれしか言えない。



フィオーラちゃんはシークに興味を持っている。

興味を持ったら突っ走るタイプだからな。

フィオーラちゃんが飽きるまでシークは頑張らないと。



ティールちゃんの相手もしないといけないからな。

あの年で両手に華とはシークも隅に置けない……本人は逃げ回ってるけど。



「ガキの心配もしなきゃならなくなるしな。結婚に浮かれてばかりいると、気がついたら自分の逃げ場がなくなってるぞ」



「逃げ場って……ソフィアさんから逃げる予定あるのかよ」



「あるわけねーだろ」



即答しやがった。

なら、今までの話はなんだったんだよ。

別に結婚生活に不満ないんじゃないか。



「ふん。大体あのソフィアから逃げられるわけねーだろうが。メイド装備でも俺より脚速いんだぞ。鬼ごっこしたら、速攻で捕まる自信があるぞ、俺は」



「情けない発言を堂々とすんなよ」



「いや、お前は本気のソフィアを知らないからそんな他人事のように言えるんだ。若かりし頃、式神を修得した俺はだらし無さに磨きがかかり、生活のほとんどを式神に任せた」



今もそうじゃねーのかというツッコミをしそうになったが、ぐっと堪える。

一々反応していたら話が進まないからな。



「ある日、泊まっていた宿にソフィアが来てな。式神に全てを任せソファーに寝っ転がっていた俺に説教してきたんだが、適当な言葉を返しまくっちまってよ。やべーと思った時は手遅れだった。窓から逃げた、式神で足止めもした。だが、無駄だった。修得したばかりの式神じゃあ、ソフィアを止められなかったんだ」



「それで……捕まったんですね」



「ある程度は式神に任せても良いと思うが……全てを任せるのは良くないと。人としてダメになるってな。そんな話をされて最終的に一緒に住もうってことに……」



「まさかの同棲!?」



クレイマンのだらけが原因で同棲が始まったのか。

何がきっかけになるか分からないもんだな。



「同棲始めた頃はけんかすることもあったぞ。やっぱし、お互いにそれまでしてきた生活があるからな。合わなくて言い合いになったりもした」



「それってどっちが折れるんですか?」



「場合によるな。俺が折れる時もあったしソフィアが引く時もあった。全く別のもんにしようってなった時もあったわ。そんな感じで二人で生活して……結婚したんだ。そんでクインとフィオーラが産まれて……現在に至ると」



「そう聞くと……やっぱりクレイマンさん羨ましいですよ。結婚して家族がいて。文句言うなんて贅沢だと思いますよ。今日だって奥様からお弁当頂いてるんじゃないですか?」



「うっ……」



クレイマンの視線が後ろの休憩スペースに向けられた。

どうやら貰ってきているようだ。



「奥様だってお仕事があるのに毎日朝早く起きて支度してくれているんですよ。そう考えたら感謝こそしても文句なんて……」



「いや、そりゃまあ……そうだな。おう……」



形勢不利な状況に陥ったクレイマン。

同じ女性として思うことがあるのかマシンガントークが止まらない。



仕事に来たのに仕事を斡旋してもらえないんですけど。

ヒートアップが進み気が付いたら周りから大分注目を集めてしまった。



そこから結婚なぁ……結婚かぁ、と独身冒険者のため息混じりの呟きや既婚冒険者の最近家族と過ごす時間が減ったなぁという後悔混じりの呟きがあり。

それは互いの恋愛感の話にまで飛躍した結果。



「前から良いなって思っててよ……仕事前に飯行かないか?」



「……うん、良いよ」



何故かカップル成立の瞬間を目撃することになった。

いや、合コン会場じゃねーんだぞ。

何でパーティー関係なく入り乱れて自己紹介とかしてんだよ。



とてもじゃないが依頼はないかと聞ける雰囲気ではなかったので出直すことに。

ちょっと時間を置けば落ち着いているだろう。



「ただいまー」



というわけで家に帰ってきた。

合コン会場状態のギルドで待っていても地獄だしな。



声をかけられたら断らないとならんし、かけられなかったらそれはそれで惨めな思いになるという。

ああいう場所って色々と大変なのよね。



「おかえりなさい。忘れ物ですか?」



俺にはこうして家に帰ってきたら迎えてくれる人もいるわけで。

文句とかさ……。



「すみません。まだ二階の掃除に取り掛かっている最中なんですよ。散らかってはいませんが床拭きしている途中なので滑りやすいかもしれないので注意してください」



「ああ、了解。ありがとね」



セシリアにあるわけないよな。

セシリアがどう思っているかは別だけど。

もう結婚も秒読み……なんて思っている俺の考えは甘いのだろうか。

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