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恋人の意見を聞いてみた

ミカナと話している内にユウガとセシリアが帰ってきた。

行きと違い引きずられておらず、ちゃんと歩いている。



セシリアの笑みは行く前と変わらずだ。

まだ、納得する形には至っていないのだろうか。

不思議に思っていたら、ユウガが綺麗な直角の姿勢で頭を下げてきた。



「この度は大事な秘密と知りながら、簡単に口を滑らせてしまい誠に申し訳ありませんでした!」



きちんとした謝罪である。

当然の対応なのだが、この謝罪の仕方はなんなんだろうか。

ユウガの隣でセシリアは笑みを崩さない。

つまりそういうことだろう。



「秘密にすると約束して間もないのにこの体たらく……新妻と旅行に来ていたとはいえ完全に浮かれていたのも原因です。大変ご迷惑をおかけしました」



誰だろうね、これ。

ミカナも見たことないユウガの姿に困惑している。

俺は……セシリア何を言ったんだろうって感じ。



ユウガの謝罪はセシリアの笑みが消えるまで終わらなかった。

横でずっと微笑んでるんだよね。



ユウガが頭を下げながら何度もセシリアをチラ見していたし。

充分に反省させるためなんだろう。



俺とミカナはユウガの謝罪姿よりもセシリアに視線を向けていた。

多分、俺と同じことをミカナも考えていたと思う。

あっ、まだ足りないんだ……ってな。



それから何度もユウガの謝罪は続いた。

もういいんじゃないかなって三回は思うくらいに……。



「これだけの誓いがあればもう間違ったことはしませんよね。勇者様」



「はい……」



ようやくセシリアからのお許しが出た。

ミカナは何だかんだで優しいな、すっかり憔悴しきったユウガに駆け寄って……,



「ちゃんと反省しなさいよ!」



追い討ちをかけていた。

まあ、それだけのことをしたということで。



「ヨウキさんは良いんですか?」



「いや、俺は……」



この状況で俺まで説教し出すのはちょっとな。

ユウガもなんだかんだで新婚旅行中だし……ん?

新婚旅行……。



「明日、帰る日じゃね?」



俺の何気ない一言に三人とも固まった。

旅行前はどうなるかも思っていた新婚旅行。

蓋を開けたら妻を放って別の男に夢中な夫から始まった。



そこから亀裂が入るも祭りで絆は戻り……からの無人島サバイバル。

一緒に来た騎士二人が行方不明になりくっついて。

今は速攻で約束を破った勇者への説教中と。



これがユウガとミカナ夫妻の新婚旅行ダイジェストである。



「今のところ記憶には残る新婚旅行だな」



子どもができても忘れないだろう。

歳を重ねてから話したらそんなことあったなぁ……ってなるくらいのネタは詰まっている。



「……まだだよ」



しかし、そんなんでこの勇者が満足するわけがない。

今のところ俺でも悔いが残るような新婚旅行だからな。



「まだ終わらせない。まだ昼間だよ。何かやるには充分な時間があるよ」



「正直アタシは眠いんだけど……」



無人島に二日もいたら疲れも溜まっているわな。

あくびをしながら背伸びをしている。



昼とはいえ出かけるって言ってもなぁ……まずはシャワー浴びてさっぱりしてきた方が良いんじゃね?

あの嵐ならシャワーいらずだっただろうけどさ。



ユウガはミカナの様子を見て考え込んでいる。

ここで突っ走らないのは好評価。

これ以上の失態を晒すわけにはいかないもんな。

さて、ユウガはどんな答えを出すのやら。



「よし、決めた」



「どうするの?」



「今は身体を休ませよう。ミカナが疲れたって言ってるのに僕の我儘で連れ回すわけにはいかないからさ」



「ユウガ……」



これで感動シーンに入るとか、ユウガの譲歩ってどんだけ価値があるんだよ。

二人だけの世界に入ってるから、下手なツッコミは入れない。



まあ、ユウガだからな。

ちゃんとオチがあるよね。



「寝る前にお風呂に入って布団に入ろう。それからご飯を少しだけ食べて……」



「そうね。ユウガに任せるわよ。ここまできたら何が起ころうと許すわ。人に迷惑はかけちゃダメよ」



「わかってるよ。セシリアに沢山言われちゃったからね。二人きりになろう。そこで騒ぐ分には問題ないよね」



「休むんじゃないの?」



「休んでからだよ」



俺らいるんだけどなー。

ツッコミはしないと決めたからなー。

堂々といちゃつきながら、二人は部屋を出て行った。



休んでから騒ぐ……勇者ユウガに騒ぐタイミングを操れるのか?

疑問なんですけど。

自分を上手くコントロールできんのかな。



「なんか覚醒したみたいだから変な力が働かないか不安なんだが」



こっそりと見張ってた方が良いような気がする。

しかし、いつもならそうですねと言うはずのセシリアが何も言わない。



腕を組んで俺に納得していないような視線を送っている。

何か気に障ることを言っただろうか。



「そろそろ私たちも良いんじゃないですか?」



「何が?」



「……先程勇者様と話した時にですね。無人島ではあれが大変だった。これが大変だったという話をしたんですよ」



「まあ、慣れてないことを沢山したからだろうな」



「何だかんだで乗り切ったと、ミカナには益々頭が上がらないなと笑顔で話されまして」



説教中に惚気話をしたのかよ。

どういう話の流れでそうなったのか気になる……それと俺への視線、何の関係があるんだ。



「海なんて滅多に来れないと思うんですよ、私」



「そうだね」



「外を歩く機会を作るのも帰ってからじゃ難しいと思うんです。だから……少し出かけませんか」



「行きましょう」



セシリアの誘いを断るわけがない。

ユウガは……風呂入って寝るって言ってたし、その後出かけるとしても遠出はしないはず。



宿で起こすトラブルなんてミカナ関係ばかりだろう。

ユウガの騒ぐって言ってたのが気になるが……変なフラグになってないよな。



心配だが一々気にしていたらきりがない。

今はデートを楽しむことを考えよう。

水着に着替えて海で散歩だ。



「泳がずにのんびりとするのも良いもんだよね」



俺もセシリアも水着着てるけど上着を羽織っている。

ちらちらと視線がいくのは……男だからね、許してほしい。

黒雷の魔剣士で来ればばれなかったんだけど。



「どうかしましたか?」



「水着姿が新鮮で……」



上着の中身が気になりますって言葉はぐっとこらえた。

いくら恋人同士とはいえ……正直過ぎるのも良くないよね。



「水着姿は見ているはずですが」



「それは黒雷の魔剣士の時だから。今の俺はヨウキだから」



「そんなに変わるんですね」



笑われてしまった。

悔しいのでこちらからも攻めてみる。



「そりゃあ、セシリアが可愛いからね」



言った、言ったぞ俺。

セシリアの反応は……。



「そ、そうですか……」



急に顔を逸らされた。

悪くはなかったと思いたい。

適度にイチャつきつつ、このまま散歩していたい。



だが、こういう時に邪魔が入るのが我が宿命。

海には先客がいるんだよなぁ……。

誰かって言うとデュークとイレーネさんなんだけど。



もうパニックは収まったらしい。

上手くデュークが説明してくれたみたいだ。

お互いに水着姿で追いかけっことは……イチャイチャしてやがる。



「あと往復五回っす!」



「ま、待って下さい。デュークさーん」



「待たないっす。いつもすぐに慌てすぎなんすよ、イレーネは。心を鍛えるために特訓しないとダメっす」



全然思ってたのと違った。

恋人同士の追いかけっこじゃなくて鬼コーチと弟子の修行だったわ。

デュークさんや、それで良いのかい?

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