探してみた
遅いですが明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「何でこうなるかね……」
俺は食堂で首を傾げていた。
今、食堂にいるのは俺とセシリアのみである。
朝起きて食堂で待っていても二人が来ないので部屋に行ったらもぬけの殻だった。
出かけるなら一言かけろよ。
「困りましたね。勇者様とミカナも戻ってきていませんし。何も言わずに外出なんて」
「外がこんなんなのに出かけるかね。あの二人は何を考えてるんだ」
昨日に引き続き嵐は続いてる。
こんな天気にデート……ないない。
デュークがいながら無断外出とは考えにくいんだが。
実際にしているからなぁ。
「ヨウキさんはデュークさんから何も聞いていないんですよね」
「何も聞いてないな。昨日は話しかける余裕なかったし」
ボードゲームが白熱し過ぎて二人の世界を作っていたからな。
違う理由で二人の世界を作れよ。
お互いにこいつは良きライバルって感じで見つめ合ってた。
違うからな、そこはラブロマンス的な意味で見つめ合えよ。
君たちはカップル予定、ライバルじゃないはず。
「そうですよね。私もイレーネさんに絡まれることがなくなりましたし」
「二人で宿をうろうろしてたよな」
最初は二人の戦いを観ていたんだよ。
でも、勝った負けたを繰り返して終わる気配がないから、食堂を抜け出したんだ。
「まあ、見るところも少なかったし。すぐに部屋に戻って話してたからなぁ」
「昼食、夕食時もデュークさんとイレーネさんはボードゲームの戦略について談義していましたから。その時、特に変わったことを話してはいなかったと思います」
俺もセシリアと同意見だ。
となると何故、二人は消えたのか。
あと、ユウガたちはどうして帰ってこないのかだな。
「デュークたちも謎だけど……ユウガたちもなぁ。とっとと聖剣の力で翼生やして帰ってこいよ」
「まさか、こんな嵐の中で無人島で二人きりという状況を楽しんでいるわけではないですよね」
「すれ違いからの極限サバイバルって新婚旅行で体験することじゃないと思うんだけど」
記憶には残る。
一生忘れないわ、そんな新婚旅行。
「結婚式も色々ありましたよね……」
「そういう星の下に生まれてきてしまったんだよ、ユウガはさ……セシリアさん、その同類を見るような目は止めてくれませんかね」
ヨウキさんも人のこと言えませんよ、と目で訴えてきてるのがわかる。
まあ、そうかもしれないんだけどさ。
「ヨウキさんのことは後日話し合うとして」
「話し合うの!?」
「今は勇者様たちのことですね」
「そうだよなぁ」
後日どう話し合うかはさておき。
四人についてどうするか。
「ユウガたちは無人島にいるとしても、デュークとイレーネさんはどこに行ったのやら」
「ヨウキさんでも探せないのですか」
少なくともこの宿にはいない。
外に出て探すのは無理だ。
「この嵐じゃあ、嗅覚、聴覚強化しても無意味だからさ」
俺の捜査能力が役に立たないのよね。
「では、宿に何か情報が残っていないか確認しましょう」
「だな」
セシリアと二人でなんか手がかりがありそうな場所を調べる。
まずは二人が泊まっている部屋を調べたんだが、特に気になるところはなかった。
鞄はあったけどさすがに私物を漁るのはちょっとな。
テーブルの上に置き手紙でも残されているもんじゃないかと思ったけど、そんな物はなかった。
「ヨウキさん、他に心当たりはないですか」
「うーん……あの二人が関係してるとしたら、あとはあそこかなぁ」
俺はセシリアを連れてある部屋へと向かった。
「何ですか、これは」
「いやぁ、急いで準備したからごちゃごちゃしててごめん」
俺が案内した部屋には一昨日、祭りで使った変装グッズ等が置かれた部屋。
色々準備してここにしまっておいたのである。
「そうですか。しかし、色々準備したんですね」
「まあ、時間なかったからね」
「でも、これはダメですよ。片付けはしっかりやらないと。借りている部屋なんですから」
物が乱雑に置かれた部屋の惨状はセシリアにとって許せないものらしい。
うん、これはないよね。
「ごめんなさい。すぐに片付けます」
決めたらすぐに行動する俺。
手早く物を分別していくと見覚えのあるものが。
「これは……」
「どうかしましたか?」
後ろにいるセシリアには俺が陰になっているからか、見えていないらしい。
俺はゆっくりと振り返り……
「模造品じゃないよね?」
ユウガの聖剣を見せた。
「……」
セシリアも唖然としている。
俺も見つけた瞬間、訳が分からなくて口開けて停止したからな。
武器の中に埋もれていたユウガの聖剣。
さてここにあるのはどういうことなのやら……。
「そういえば一昨日デュークに武器預けたな。ユウガの聖剣も含めて」
ばれないようにとデュークには荒くれ武器商人をやらせたからな。
その後の片付けって誰に頼んだっけ。
ユウガがすぐに無人島の話をして準備にかかったから、全員ばたばたしてたんだよ。
「しかし、これでユウガたちがどうして帰ってこないのかがわかったな」
「はい。帰ってこないのではなく来れなかったんですね」
「ああ。聖剣がないユウガは最早、使い手のいない聖剣みたいなもんだ」
「それは言い過ぎでは……」
「評価としては間違ってないと思う。これは完全にユウガの不注意だからな」
「それはそうですが……」
セシリアも庇いきれない部分があるとわかっているのだろう。
強く反論してこない。
正論だからね。
「まあ、俺がこっそりとユウガたちのところに行って聖剣届けてくれば解決だけど。デュークたちの手がかりがないんだよなぁ」
「はい。どこに行ってしまったんでしょうか」
「とにかくユウガたちの方を解決してしまった方が良いかも。これ届けてくるよ」
嵐の中を飛ぶのは少し抵抗があるけど、仕方ない。
ボートにでも入れとこう、不自然かもしれんがこれ以外方法が思いつかん。
「見送りしますよ」
「いや、外は嵐だしセシリアは宿でゆっくりしてても」
「私が見送りしたいからするんです。ヨウキさんは雨にうたれながらも行くんですよね。せめて見送りくらいさせて下さい」
濡れるからダメと抵抗したものの、セシリアを納得させることはできなかった。
かなり抵抗はしたんだぞ。
風邪ひいたら困る、すれ違いになるかもしれないと理由を述べたのだが……負けた。
どうしてだろう、俺の理由はもっともなものばかりだったのに。
二人で宿を出て海岸へと向かっているのは俺が弱いからか、セシリアが強いからか。
もっと強くならないと将来が心配である。
「風も雨も強いですね」
「ああ。昨日は明日になれば少しは止んでるかなーって話してたけど。止んでないわ」
波も荒ぶってるし、何かがお怒りなんじゃねぇかなって思ってしまう。
そんなことを考えていたら、海岸に気になる物が落ちていた。
「あれは……」
俺は急いで駆け寄り落ちていた……見覚えのある兜を拾う。
「隊長じゃないすか。良かった〜」
「良くねぇよ!」
やっぱりデュークだったか。
兜は俺が用意した物だからすぐにわかった。
しかし、なんでまた首だけなんだ。
「どういう状況か簡潔に説明しろ」
「イレーネと遭難中っす」
「お前らもかい!」
やっぱり二人は遭難していた。
三組のカップル中、二組が遭難て。
新婚旅行中に起きるイベントじゃねぇぞ……。




