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待ってみた

吹き荒れる風、止まらない雷雨、荒れ狂う波。

どう見ても嵐である。

いや、俺はこういうパターンは嵐が来ると思っていたよ。



ただ、本当に来るとは……って感じなだけ。

朝起きたらこんなんだからな。



「あわわわわ……外がすごいことなっていますが、勇者様たちは大丈夫なんでしょうか。心配です」



イレーネさんだけがテンパってる。

この娘、良い子だなぁ。

朝食を食べる手が震えるくらいだもんな。



様子を見たデュークが素早くエプロンを着せている。

服が汚れないようにという配慮だろう。

しかし、これは恋人っつーよりは親子って感じじゃなかろうか?



まあ、今はユウガのことについてだな。

うーん、そんなに心配はいらんと思う。



「勇者の力を侮るなよ。これくらいの嵐で心配することはない」



いざとなったら飛んで帰ってくるだろうよ。

ボート使えなくてもユウガには翼があるからな。

こんな嵐の中でもミカナをお姫様抱っこして帰ってくるだろうさ。



「イレーネさん。勇者様は長旅の経験もありますから。こういった天気で野宿をしたこともあります。ミカナもいるので大丈夫ですよ」



一緒に旅をしていたセシリアもこう言っているのだから、大丈夫さ。



「俺たちはここで大人しく二人の帰りを待つ、それだけだ」



こんな嵐の中、出かけてもずぶ濡れになるだけだ。

のんびりする以外やることがない。

大物感があるように見える座り方でも研究するかな。



「隊長、隊長」



「なんだ、デューク」



内緒話らしく、耳元に囁いてきた。



「隊長はこの後どうなると思うっすか」



「は?」



「いや、隊長ならこの後起こることが分かるんじゃないかなって思ったんすよ。ほら、こういう事態に慣れてるじゃないすか」



「慣れたくねーわ」



トラブルに慣れてるみたいな言い方は止めろ。

好きで巻き込まれるわけじゃない。



首を突っ込まざるを得ない状況にいつもなっているだけだ。

俺は悪くない……はずだ。



「まあまあ、予想でいいんで教えて欲しいっす」



「ふむ……」



無人島で取り残されている状況だろ。



「とりあえず、ボートはもうユウガたちのところにないかもな」



「えっ」



「流されている可能性が高い」



繋げていたロープが切れたとか転覆したとか、そんな感じの理由ね。



「あとは服がなくなって二人とも葉っぱでしのいでるんじゃないかね」



「どうしたらそういうことになるんすか」



「あくまでも可能性だ。そして洞窟に入り、火を起こすも寒いので二人で抱きしめ合って寝る……そんなところか」



「あー……結局そういうことになるんすね」



別に結婚してるから、やましいことでもなんでもないけどな。

寝る場所が洞窟の中かベッドの上かの違いである。

キャッキャウフフしていろという話だ。



男二人で密談をしているとイレーネさんとセシリアの声が。

あちらはガールズトークで盛り上がりを見せて……いない。



セシリアが困った表情でこちらを見ている。

あれは助けを求めているな、俺には分かる。



正直イレーネさんの相手は慣れていないので不安があるがセシリアのためだ。

頑張ってみよう。



「二人だけで盛り上がってすまないな。こちらはなんの話を?」



「勇者様たちの旅の話を聞いていました!」



目をキラキラと輝かせながら応えたのはイレーネさんだ。

おおぅ、勢いがすごいな。



「皆さんがあまり心配していないので、勇者様たちがどのような困難を超えてきたのか興味が湧いてきたんです。今回は無人島ですが他にも過酷な環境で旅をしてきたんだろうなと思って……」



成る程、そういうことか……そういうことね。



「ふむ、それは数々の修羅場をくぐってきた黒雷の魔剣士である俺も興味があるな。ということでこっちに……」



セシリアの右手を引いて連れ出そうと試みる。



「あっ、ずるいです。話を独り占めする気ですね。そうはいきません」



イレーネさんがセシリアの左手を掴んでしまった。

お互いに譲らず引っ張り合いの図になる。

いやいや……普通真ん中の位置になるのって男なんだけど。



「こういう状況は孤児院で慣れているので構いませんが……」



セシリアが諦めた表情で呟く。

慣れるまで体験するもんかね。

人気者は辛いということか。



こういう時は先に離した方が本当に相手のことを想っていると聞く。

イレーネさんにセシリアを譲ると……。



「ふっ、例え相手が女性と言えどもセシリアを譲るわけにはいかない。簡単に俺とセシリアの絆を断ち切れると思うなよ」



「わ、私が先に話を聞こうとしていたんですよ。横入りはいくらなんでもずるいです!」



正論で返された。

イレーネさんなら言いくるめられるんじゃねと思っていたんだがな。



まさか、冷静にツッコミを入れてくるなんて。

普段のイメージからして誤魔化せると思ったのに……どうしよう。



「ほらほら、イレーネ。こっちにくるっすよ」



「デュークさん。でも、私……」



「宿にボードゲームがあったから勝負するっす」



どこから持ってきたのか。

デュークがボードゲームを抱えてイレーネさんの肩を掴み誘っている。



チェスみたいなやつかね。

それでイレーネさんを釣れるのか。



「エルフの頭脳を見せてもらいたいんすよ。まあ、自信がないのなら、良いんすけどねぇ……」



いやらしいこと言うなぁ。

でも、こんな分かりやすい挑発に乗るかね。



「むかっ。良いでしょう。受けて立ちます」



乗っちゃったよ。

むきーっ、とデュークを威嚇しながらテーブルへと向かうイレーネさん。



デュークもイレーネさんをなだめつつ、テーブルへ。

顔だけ振り向いて親指をぐっ、と立てていた。

ほんとさすがデュークだわ。



今の内にセシリアを食堂から連れ出した。



「助かりましたよ……」



「やっぱり、旅の話はきつかったか」



「はい……夢を壊すような真似はしたくなかったので」



そこまで言うかね。

いや、そこまで言う程だったんだろう。



「実際、話すとしたらどんな感じになる?」



「野宿となるとですよね。まず、私が調理担当ですね」



それは知ってる。

あとはレイヴンが騎士団仕込みのワイルドな料理をしていたとか。



「レイヴンさんは食べられる野草の知識が豊富だったので食料調達をしていました」



「現在遭難中のお二人の役割は……?」



「ミカナが火の番、勇者様は周囲の警戒です……」



サバイバルできなくないか。



「まあ、死にはしないだろう……」



「生き死にがかかる事態までには発展しないにしてもですよ。せっかくの新婚旅行なのに」



新婚旅行中、無人島に行くことを決行した二人にも責任があるから。



「まあ、嵐が治まったら帰ってくるだろ。いざとなったらユウガは飛べるんだからさ。お姫様抱っこしてすっ飛んでくるって」



覚醒したユウガの力は信用しても大丈夫。



「問題はイレーネさんだな。どう誤魔化そう。いっそのこと嘘ついても良いんじゃないか」



ミカナだって結婚したんだし、当時よりは料理スキル上達しているだろう。

ユウガもミカナのためなら、色々パワーアップできる勇者だから。

多少話を盛っても後で言い訳できるって。



「そうですかね。……ヨウキさんがそう言うなら試してみましょうか」



反対してくるかなと思ったが……良いのか。



「もしかして私がどうして反対しないのかって思ってますか?」



今の俺は黒雷の魔剣士、仮面で顔は見えていないのにどうやって心を読んだのか。



「変な間がありましたから。ヨウキさんが止まる理由はそれかなと。分かりやすいですよね、ヨウキさんって」



「……全く。黒雷の魔剣士でもセシリアには敵わないとはな。修行が足りないのか」



「私もヨウキさんに勝てないところがたくさんありますよ」



「どっちが敵わないところが多いか。今度、調べてみるか」



「その勝負は終わりが見えなさそうなので、なしで」



「なら、毎日が勝負ということで」



「それは疲れるでしょう。……が、私も最近、ムキになることが増えてきたような気がします。ふふっ、もしかしたら引かないことがあるかもしれませんね」



……そんな日が来ないことを願います。



「では、戻ろうか」



「はい」



相談も終わったので、食堂に戻ったのだが……なんか白熱してる。

二人とも目がガチだ。



やってるボードゲームのルールが分からないので正確なことは言えないが……互角っぽい。

デュークは四人で暮らしていた時、相談役。



ハピネス、シークと狩りに行く時と戦略を練っていたのはデュークだ。

そのデュークと互角って……イレーネさんが?



「おい、デューク」



「今は話しかけないでほしいっす」



「あ、すみません」



集中しているらしい。

気を逸らす行為がまさかのガチバトルに発展するとは。



「イレーネさん、その……」



「すみません、少しだけ待ってほしいです」



「そ、そうですか」



イレーネさんもデュークと同じ感じ。

もうほっといていいかな、この二人。



「俺たちはユウガたちの無事を祈っていようか」



「そうですね」



しかし、祈りが届くことなくユウガたちが帰ってくることはなかった。

翌日、イレーネさんとデュークが宿から消えた。

……遭難?

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