ばらしてみた
別に勝敗があるわけじゃないけど、盛り上がりはユウガの時が一番あったわけで。
囲まれる前にさっさと逃げてきたのは正解だったと思う。
そのままの姿はちょっとあれなので、変装してもらって一緒に歩いている……気づかれないことを祈りながら。
なんか二人が良い感じだし、宿に戻りたいのだがデュークとイレーネさんがどこに行ったのやら……ということで探している。
それにしてもあのユウガには……。
「負けたわ」
「いえいえ、私はヨウキさんの言葉嬉しかったですよ。……膝枕はその……考えさせてください」
「あっ、はい」
あの発言、なかったことにしたいです。
「ほら、さっさと歩く!」
「わ、分かったよミカナ」
すっかり手綱を握られているユウガ。
まあ、あんな大勢の前で予告なしでキスしたんだからな。
「ふ、ふん!」
「……なんで、時々目を逸らすのさ」
「情緒不安定にもなるだろう」
「ミカナの中では整理が追い付いていない状況ですね」
「嬉しいと恥ずかしいがごちゃ混ぜになってるんだろうな」
「慣れるまで大変ですね、ミカナ」
「笑顔で言わないでよ、セシリア……」
ミカナは複雑そうである。
うーん……でもなあ。
「慣れたところでユウガはその上を行くからな。慣れるなんて一生無理じゃないかね」
予想の斜め上を行き、進化を続ける勇者様のこれからを誰が予想し、慣れることができると言うのだろうか。
俺の発言にミカナはユウガを見て数秒停止……今後のことを考えているな。
「現実味を感じるわね、その意見。ユウガのことは誰よりも一番理解しているつもりなんだけど」
「大丈夫、飽きさせなんてしないから!」
「何がどう大丈夫なのよ、そんなところで気合いを入れないでよね。毎日びくびくしながら、生活しないといけないじゃない」
「ミカナのために毎日、頑張るから」
「そこは頑張らなくて良いところなのよ」
夫婦特有のイチャイチャを出しているな。
あんな会話、これから一緒に生活するって確定してないとできないだろ。
……なんで、あの二人のこと心配してたのかね、俺。
「今朝のけんかが嘘のようです」
「同感だ。心配するだけ損だな」
「それでも、ヨウキさんは放っておかないんですよね」
「セシリアよ。それは言ってはならない言葉だ」
付き合い続けた結果、この場所にいるんだからな。
これで今後何も起きないなんてことは絶対にない。
失礼な言い方かもしれないけど、ユウガだし。
悩まされる日々は続くだろう。
愛があれば乗り越えられるさ、うん。
「何よ、急に優しい目になって」
「いや、これからも頑張れよ」
「やっぱり、アタシが頑張らなくちゃいけないのね……」
「大丈夫だって、ミカナの分まで僕が……」
「延々と同じような会話が続くことになりますから、この辺で話題を変えませんか?」
セシリア、ナイスフォロー。
頑張る、頑張らないの話は終わりで次の話題は。
「ヨウキくんなら、絶対に黒雷の魔剣士に負けないよね!」
これである。
もう正体ばらして良いよな。
ミカナも目で合図を送ってきているし、セシリアも頷いている。
ばらしましょう。
「ちょっと、耳貸せ」
「痛い、痛いよ、ヨウキくん!」
力を込めてるんだから、痛いのは当然だろうに。
全く、不思議なことを言うやつだな。
「こんな強く引っ張らなくても……」
「良いから黙って聞け。……黒雷の魔剣士、正体は俺だ」
「えっ、それならなんで教えてくれなかったのさ」
「教えたわ。正体を明かしたのに妙な勘違いをしたお前が悪い。それで、俺とセシリアを心配し過ぎた結果がこの新婚旅行ってことだ。俺の正体についてはミカナから黙っててくれって頼まれたんだよ」
「ミカナが?」
「俺らよりどこまで自分のことを優先するか試したってことだ」
「そんな……じゃあ、僕はミカナをがっかりさせてしまっていたのか」
まるでこの世の終わりが来たような表情になった。
おい、内緒話しててそんな顔になったら、二人が心配するだろうが。
「まあまあ、ミカナはあれで満足しただろう。そういうことを理解した上で結婚したんだからさ。様子を見た感じだと悩みも無くなったっぽいし」
「僕が納得できないよ!」
元々、お前が撒いた種だろうが。
黒雷の魔剣士の話題、どこ行ったよ。
ユウガの目がさ……燃えてるんだよなぁ。
今から何かします、全力でやりますってオーラが溢れている。
ふむ、ならばアシストしてやろうじゃないか。
「……それでも祭りを二人っきりで歩いたっていうのは良い思い出になったと思うんだよ」
「それでも」
「分かってるさ、足りないんだろう。新婚旅行も折り返し地点に差し掛かってるのに二人っきりの思い出、少ないよな」
二人っきりでいる時間が長ければ良いかって話ではない。
満足しているかどうかも重要なのだ。
「ミカナは満足そうな顔をしているかもな。ユウガが迎えに来てくれたんだから……ただ、お前はその程度では終わらないだろう」
勇者ユウガは今まで予想の斜め上を行く男だ。
迎えに来て祭りを一緒に回りましたで終了……そんなわけがない。
「ユウガならもっと楽しませてやれる、もっと心に残る思い出を作れる……俺はそう思うんだよ」
「ヨウキくん……」
「もちろん、好き勝手やれって話じゃあないんだ。ミカナのことを……違うな。自分のことも含め、二人のことを考えてお前の行動力を爆発させてみろ。そうすれば……絶対良い結果になるからさ」
「ヨウキくん!」
俺の言葉に感動したのか両手を強く握ってきた。
「おい止めろ、そんな強く握られたら……」
妙な勘違いをされると言いたかったが、遅かった。
ミカナとセシリアの視線が刺さる。
「あのさ、アタシの旦那取らないでくれない」
「ヨウキさん、それは良くないと思います」
「んなわけあるかぁぁぁぁぁぁあ!」
もちろん、冗談だったみたいで二人は大声を出した俺を見て笑っていた。
ちょっと、笑えない冗談なのでやめてほしいです。
「僕は何か間違ったことをしたんだろうか?」
「知らないなら知らないままにしとけ」
別に生きていく上で絶対に必要な知識でもないからな。
「そっか……でもヨウキくんが黒雷の魔剣士だったなんて」
「そんなに意外か?」
俺のキャラじゃないとでも思われているのかね。
最近、スイッチ入ってないし入れてやろうか。
「セシリアのこと考えたら同一人物だなんてことくらい、すぐにわかることじゃないのよ。何でわからなかったわけ?」
「いや、それはちょっと……」
ユウガが言い渋っている。
一体、どんな理由なんだ。
「ヨウキくん、怒らないよね」
「今更、そんなこと気にするのかよ。色々と解決したんだから、多少のことは大目に見るぞ」
「そっか……実はね。ヨウキくんがあんなに強いだなんて思ってなくて」
「ほほぅ」
「ほら、ヨウキくんてセシリアにもあまり強く言わないし、今回、一緒に来てる騎士の彼やレイヴンの彼女とか知り合いからの扱いもさ……ね? だから、その……同一人物だとは思えなくてさ」
「成る程」
「……怒ってないよね」
ユウガが恐る恐る聞いてきた。
「別に怒ってなんてないさ。……ただ舐められてるってのは良くないよなぁ。新婚旅行で浮かれてるところ悪いけど、帰ったら特訓付き合えよ」
「これは……魔王以上の威圧感を感じるよ。こんな経験、以前にもあったような……」
やばい、調子に乗り過ぎた。
そこまで、ばらす気はないぞ。
セシリアからの視線が突き刺さる……そうか!
「それはあれだろう……何かやらかしてセシリアから本気の説教を受けた時のことだろう」
「……確かにその状況はかなり絶望感が漂うね」
「あの逃げること叶わない、脱出不可の空間を思い出せ。逆らおうなんて思えない圧倒的な……これ以上は語らなくても良いだろう」
「わかる……わかるよ、ヨウキくん!」
納得したらしい。
ありがとうセシリア……と感謝の思いを込めて目配せしたらさ。
選択肢を間違えたみたいだ。
そこにはとても優しげな表情をしたセシリアが腕を組んで立っていた。
「……ミカナ、新婚なのに申し訳ないのですが、旦那さんを少しだけ借りますね」
「良いわよー」
「ちょっとミカナ、納得するの早い……」
ユウガの抗議は届かず、セシリアに首根っこを掴まれる。
もう逃げられない。
「では、待っていてください。すぐに戻ってきますので」
「ミ、ミカナ。ミカナー!」
「いってらっしゃい」
手を伸ばす旦那を何食わぬ顔で見送る嫁。
無事に帰ってこいよ、ユウガ。
「……何、他人事のように見てるのよ」
「は?」
「ユウガが帰ってきたら、次はあんたの番よ」
「あ、やっぱり」
「当然じゃないの。アタシを一人にさせないためにセシリアが気を遣っただけよ。先に口走ったのはあんたなんだから、覚悟しておいた方が良いわよ」
「……はい」
彼女のことを考えて発言しないといけないというのを学んだ日だった。
あ、イレーネさんとデュークは特に何もなかったらしい。
この祭りの警備状況について語っていたんだとか。
色気無しの会話じゃねぇか。
こっちはホテルの部屋で二人きりだぞ。
「さて……圧倒的な、何なのでしょうか。是非、続く言葉を教えてもらいたいのですが。どうなんですか、ヨウキさん」
「……すみません」
相互理解って大切ね、発言する前に考えないとだめだわ。




