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一緒に歩いてみた

付き合ってる男女ならキスくらいする。

前世の本かなんかでそんなことを知った。

俺自身もそりゃそーだろと思う。



ドキドキするような年齢かと言われたらそうでもない、前世の年齢はノーカウントでもな。

うん、そんな気にしたらダメだ気にしたら……。



「夜道を二人で歩くのは久しぶりなのでドキドキしますね」



早速ドキドキするってぶっこんでくるととか、わざとですかセシリアさん。

意識しちゃうよ、俺。

狐のお面のおかげで表情が隠れてるから良いけどさ。



「このままお祭りを回りましょうか」



「いやいや、俺たちは護衛として来てるんだし、あの二人の近くにいた方がさ……」



良いんじゃないと良いかけたら、セシリアが腕を絡めてきた。

えっ、何、理解できないんだけど。



「ちょっとだけですから」



反則じゃないの、それ。

初キスした恋人からそんなのやられて落ちない男はいないよ。



「そ、そっか。うん、俺もあの二人の位置はいつでも確認できるし、ちょっとなら良いか。ちょっとだからね、ちょっとだけ」



「我が儘を言ってすみません」



「いやいや、大丈夫。うん? 大丈夫じゃないのか。でも、あの二人なら大丈夫、大丈夫。勇者と魔法使いで新婚夫婦だからな」



「新婚夫婦は関係あるんですか」



「いや、ないね」



「ですよね」



こんな他愛ない会話でも笑ってくれるセシリア。

狐の面が本当に良い仕事をしてくれている。

着けてなかったら、顔緩んでるのばれてるからね。



「じゃあ、ちょっとだけ行きますか」



「はい!」



行く前からテンションが高いセシリアさん。

期待度が高そうな分、上手くいけるか心配になってきた。



「どうかしましたか」



「えっ、なんで?」



狐の面が俺の表情を隠しているはずなんですけど。



「……私はヨウキさんと一緒なら、何処に行こうと何があろうと大丈夫だと思っているので。変に気負わなくても良いんですよ、気楽に行きましょう」



天使かと思った。

同時に今後が大変かもしれないとも思った。

顔を隠しているのに気を遣うタイミングが完璧なんて……もうセシリアには一切の隠し事ができないのではないだろうか。

尻に敷かれる未来が見えるな。



「まあ、それも良いか」



「何がですか」



「こっちの話。さ、ぶらぶらしようか」



変なことに巻き込まれないようにと心の中で祈る。

そんな祈りが通じたのか。



「ヨウキさん、ボール当てやってみませんか」

「この甘くてふわふわした菓子は初めて食べました。美味しいですね」

「串焼きでもミネルバにはない物が売っていますね」

「私もお面買ってみたんですけど……似合いますか?」



もの凄く順調、怖いくらい何も起こらずにらぶら……ぶらぶらできている。

セシリアはこういった祭りを純粋に楽しんだことがないのか、はしゃぎっぷりがすごい。

正体がばれないかとひやひやしてるが、そんな気配はない。



普通にデートができている。

浴衣着てお面つけて、焼きとうもろこし片手に恋人繋ぎして歩いているのだ。

この状況は……デートである。



なんか裏とかあるんじゃないか、またセシリアが手を回しているんじゃないかと考えてしまうのは仕方ないだろう。

ここまでの道程は長いだけでなく困難の連続だったのだから……。



「どうかしましたか」



「何も起こらなすぎて逆に不安」



「以前は私が色々と根回しをしていましたが、今回は何もしていませんよ。何もないならないで良いと思います。こういう時に楽しみましょう」



確かにセシリアの言う通りだ。

ミネルバに戻ったらセシリアは忙しいし、周りの目があるしで素の状態でデートなんてできないだろう。

楽しむ時に楽しむか……そうだな。



「こんな日があっても良いよな」



「はい」



「じゃあ、祭りを純粋に楽しむか」



目に火が灯ったようだ。

カップル限定イベント、観客参加型イベント、ご当地特有イベントと周りの目を引いてしまいそうなものは自粛しようと考えていたが……解禁だ。



「よし行くぞ、セシリアー!」



「ヨウキさん、名前!」



「あっ、やべっ」



幸いにも注目は浴びていなかった。

祭りの音にかき消されたらしい。



やっぱり、ちょっとは警戒しないとダメだな。

適度にはっちゃけよう……適度に。

だが、カップル限定イベントに出たのが不味かったな。



「なんでいるかね」



「いやぁ、思い出を残したくって」



参加者としてユウガ、ミカナ夫妻がいました。

お前らカップルじゃねぇだろ。



「こういうイベントだと堂々とミカナへの愛を囁けるからね」



「そういうキャラじゃないだろ、お前は……」



「新婚旅行、新妻に愛を届けるよ、僕は」



「他に参加者いるだろ、交代で」



何をするのか知らんけど、俺が何をやっても霞む気がする。

ユウガ、正体ばらしてるからギャラリーのテンションが高いのよね。

ここに俺が入るとか、きついっす。

対抗できる気がしないよ。



「逃げるのかい。ヨウキくんとセシリアは顔を隠しているんだから、これはチャンスだよ。君のライバル、黒雷の魔剣士はきっとどこかで見ているはずだ。セシリアに純粋な想いをぶつけるんだ!」



想いをぶつけるんだと言われてもな、さっきぶつけたばかりなんだが。

黒雷の魔剣士へのアピールって言われてもさ……俺だし。



交代はユウガもギャラリーも許さないだろう。

狐の面が俺に力を貸してくれているし、やってみるか。



「で、何をやるんだ……って、ええっ!」



ステージの上で彼女への愛を叫べと書かれた看板が立ってる。

祭りだし、こういう催しが好まれるのか。

この人数の中で彼女目の前にしてやるのかよ。



「俺はーっ、いつも朝昼晩の飯を当たり前のように用意してくれる彼女が好きだー」

「僕は毎日、さりげなくおはよう、おやすみをかかさず言ってくれる君が好きだー」

「俺は仕事の帰りが遅くなって家に帰ったら、包丁研ぎつつ女の子と飲んで遅くなったわけじゃないよね、と聞いてくる君が好きだー!」



三人目やばいやつ!

あっ、人混みの中にすごく手を振ってる女の子いる。

あの娘だな、間違いない。



「ほらほら、順番に並んでいるんだから、気を抜いてるとヨウキくんの番が来ちゃうよ」



「分かってるっつーの。ふん、まあ見てろよ」



ユウガよりも俺が先に言う番だ。

俺のセシリアへの想いをこめた叫びを聞いていやがれ。

決意を固めていると俺の番が回ってきた。

ギャラリーの注目が集まる中、俺は一歩前に出て叫んだ。



「俺は俺の側にいてくれる彼女が好きだー!」



言ってやったぜ、シンプルで伝わりやすい叫びを。

どうだと周りを見たらなんか微妙な反応。



何故だと思ったら、普通じゃねと言う声が聞こえる。

普通ってなんだよ、お前らへ向けたメッセージじゃないんだよ。

俺はセシリアに伝われば良いんだからさ。



「えっと……この前してくれた膝枕、すっごく嬉しかった、です」



狐面をつけた俺はそれだけ言うとぺこぺこと頭を下げて、後ろに下がった。

羨ましいぞこのやろー、狐野郎降りてこいやと罵声が聞こえるが無視。



俺はやりきった。

さあ、俺以上の罵声が浴びてみろ、ユウガ。



「僕はミカナへの感謝を言葉で表現することはできません。あまりにも語ることが多すぎて僕の喉が枯れてしまうからです」



真剣な顔で何を言ってるんだ、この勇者。

ギャラリーもしらけてるぞ、すごいこと言ってくれると期待していたのに。



「だから、僕は行動で示します。あちらをごらん下さい」



そう言って、ユウガがギャラリーの後ろを指差した。

俺もつられて確認するが、そこには何もない。

よく目をこらして見たが……うん、やっぱり何もないぞ。



「はい、こちらに注目!」



ユウガに目を向けたら、ミカナと指を絡ませており、キスまで三秒前くらいの距離。

馬鹿な、気を緩めていたとはいえ俺が察知できなかったなんて。



「不可能に見えることもミカナのためなら僕はやってみせる! これが僕のミカナへの想いを行動で示したものです」



そのまま公衆の面前でキスしやがった。

悲鳴と罵声が飛び交う中、触れ合うだけの優しいキスが終了。



「これが僕の気持ちだー!」



ユウガは右腕を上げて叫んだ。

……顔を真っ赤にしプルプル震えているミカナが握り拳を作っているとも知らずに。

もちろん、ユウガは歓声を浴びた途端に殴られたのであった。

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