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勇者を警戒してみた

「……というわけだから、お前も協力よろしくな」



「まじっすか。大丈夫なんすか、それ。変なことになる前に正体を明かした方が良いんじゃないすか。その方が絶対、安全っすよ」



ミカナとセシリアとの密談が終わり、俺はデュークに事情を説明した。

イレーネさんとユウガをかわし、二人きりになるのは厳しかったな。

ユウガはともかく、イレーネさんはデュークにくっついてるから引き離すのに時間が……。



「えっ、デュークさん。騎士は二人以上で行動を共にするのが義務なんですよ。私一人で警戒するのは騎士としての職務を全うできるか……」



「大丈夫っすよ。イレーネは俺の先輩騎士なんすから、ちょっとくらいは一人で護衛をできるはずっす」



「え……でもでも。背中を預ける相手がいないのは厳しいです」



「少しの間、打ち合わせをするだけっす。ほら、俺の代わりにセシリアさんが付いてくれるっすから。勇者パーティーの一員と一緒に護衛なんて、良い経験になるっす」



「う~……あっ、緊急時の物資を積んだ荷物は二人で均等に持っていますよね。何かあった時、合流するのが万が一遅れたら……」



「いやいや、別行動とは言っても近くにはいるんすから」



「だったら、この場にいて話を……」



「寂しがりやかぁぁぁぁぁぁぁ!」



借りてくぞと言って強引に連れてきた。

先輩ならしっかりしてくれよ……セシリアが苦い顔で笑ってたぞ。



「隊長、聞いてるんすか!?」



「ああ、悪い。イレーネさんのデュークへの依存度について考えてたわ」



「なんすか、それ。今はイレーネと俺のことは置いておくっすよ。それよりも、勇者のことを……」



「しっ!」



デュークにそれ以上口を開かないように合図を送る。

なんでかっていうと、やつが近づいて来たからさ。



「警備の相談かな」



ユウガである、足音出さないように近づいてくるとか勇者のやることかよ。

まあ、俺には効かないけどな。



この護衛では周りに誰がいるのか把握しておかないと、非常に不味い。

常に感覚強化をして周りに気を配っているのだ。



「そんなところだ。勇者殿は何か用事か」



「いや、別にそういうわけじゃないけど……」



席をはずせと言わんばかりにデュークをガン見している。

俺と二人きりで話したいということか、良いだろう。



「デューク、そろそろ相棒のところへ戻ってやれ。心配しているだろうからな」



「そうっすか。それじゃあ戻るっすけど……無理せずに」



小声で忠告をすると、デュークはイレーネさんのところへ向かっていった。

この場に残ったのは俺とユウガのみだ。



「……何か」



「君はセシリアと恋人……なんだよね」



「そうだが」



「……いつから、かな」



いつからとは、また面倒な質問をしてきたな。

答え方をミスったらセシリアが二股かけていたことになるぞ。

それだけは絶対に避けねば。



「そうだな。依頼を何度か共にし、彼女が何やら悩んでいたので、相談にのった。確か……勇者殿の結婚式後、会う機会が増えた。そこで彼女を……好きになったというところだ。告白は俺がした」



これが無難な解答だろう。



「そっか。その……セシリアは告白された時に何か言ってなかったのかな」



これは黒雷の魔剣士ではなく、ヨウキを気にしてのことか。

その時、気にかけていたかを知りたいのだろう。



「大分悩んでいたな。返事を後日に……と言われた。最終的に良い返事をもらえたわけだ」



「悩んでいたんだ……セシリアも」



口を押さえて考え込むユウガ。

俺が相談した結果とか言ってしまったからな。

複雑な感じになっているのかもしれない。



まあ、考えたって何もないから杞憂に終わるんだよなぁ。

ここまでしっかり悩んでいる姿を見ていたら、申し訳なくなってくる。



「君はセシリアのことはどれくらい好き?」



真面目な顔でそれを聞いてくるか。

深く考える必要はない、気持ちを自然と口から吐き出せば良いだけだ。



「彼女を慕っている者、憧れている者、好いている者は沢山いるだろう。俺はその中で一番、彼女を想っていると断言できる」



「それが君の答えか。でも、僕は君以上にセシリアを想っている人を知ってるよ」



俺のことだよな、俺だよね。

ユウガのやつ、俺にそんな評価をつけてくれるのか。

少し感動したわ。



「この旅行で君がどんな人なのか知りたい。君からしたら関係ない話だし、迷惑だと思う。それでも、沢山迷惑をかけて、助けてもらった二人のためにできることを僕はしたいんだ」



訂正、今すごく感動しました。

結婚しても勇者は勇者か。

良い方向に変わったなぁ、こいつ。



個人的には俺やセシリアのために動いてくれているんだから、嬉しい。

ただ、それは勇者としての話だ。



「一つ、聞かせてもらおう。今回の旅行はそれが目的か?」



「そんなことはないさ。今回の旅行は僕とミカナにとって第二の出発点とも言えるようなものなんだからね。夫婦で一緒に末永く頑張っていくんだよ。僕なりにやることはやるつもりさ」



「そうか。その言葉を聞いて安心したぞ」



ユウガならやれるだろう。

同じ男として信用したい……。



「信用したかったんだがなぁ……」



村の宿にて重苦しい空気の中、作戦会議は行われていた。

参加者は俺とセシリアとデュークだ。

ミカナも誘おうとしたのだが、セシリア曰くユウガが許さなかったらしく不参加である。



「お忍びがばれて騒動が起きそうになったのは村に着いてからだな」



「はい。村長さんにだけ予定を話していたのですが、勇者様が大きな声でミカナを呼んでしまったので」



テンションが上がったのか、村の真ん中で堂々とミカナを呼んだのである。

まあ、同姓同名なんて珍しくもないがその後がな。



「フォローに入ろうとしたら、イレーネが勇者様と言ってしまったのも悪かったっすね。本人は部屋で反省中っす」



イレーネさん、悪気はなさそうだった。

あれは素の行動なのだろう、デュークからしっかり注意はされたので俺とセシリアからは何もなしだ。

騒動はなんとか収めたから良いものの……。



「ユウガはしきりに俺のヘルメットを取ろうとしてくるし」



「ミカナは構ってもらったり、もらえなかったりの状態で微妙な感じですし」



「イレーネもちょいちょいやらかしてるんすよねぇ」



三人でため息をつく、この状況。

移動だけでこれである、旅行先に着いたらどうなることやら。

考えるだけでぞっとする。



確か海がある温泉宿が行く場所だったな。

王様御用達ということで貸し切りにして、一般客もいないと。



ただ、近くには小さな無人島があったり、雰囲気やばげな洞窟があったり、温泉が混浴だったりとイベントには困らなそうである。

本当にさ……どうしようね。



「宿に泊まっているとはいえ、交代で見張りをした方が良さそうだな」



「そうですね。何が起こるか未知数です」



「二人で交代制にする感じっすね」



「俺とセシリア、デュークとイレーネさんで」



連携の取りやすさとデュークのことを考慮した結果の組み合わせだ。

……イレーネさんを俺じゃ止められる気がしないし。

というわけで見張り……と言っても部屋で起きてるだけだけど。

警戒はしている、でもティータイムくらい取ってもかまわないだろう。



「旅行が長い」



「頑張りましょう」



「ユウガが怖い」



「ヨウキさんなら大丈夫です」



「予測ができない」



「何が起きても対応できるように対策を練りますか」



「セシリア、すごく前向きだね」



「これも二人のためですよ。……まあ、私たちのためとも言えますが」



「それ言うの反則じゃないの」



そんなこと言われたら弱音吐かずに頑張らないとってなるよ。



「さて、私は事実を言ったまでですね」



俺の抗議を軽く受け流してカップに口をつけるセシリア。

だったら、こちらもドキッとするようなことを……。



「はっ!?」



「何かありましたか」



「夜、それぞれの部屋に戻ってからユウガが攻めに来ていない」



一日中、隙あらばヘルメットを奪ってやるスタイルだったのに、何故だ。



「夜はミカナと過ごしているのでしょう。黒雷の魔剣士の正体はまた後日に……と勇者様は考えているのではないでしょうか」



「成る程。つまり、明日も大変ということだな」



「そうでしょうね。ミカナのためにもまだ正体を知られるわけにはいきません。頼みますよ、魔剣士さん」



「頼まれました」



明日も頑張らないとな……本番は明日だろうし。

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