知ってみた
予約投稿一日ミスって投稿しました。
ユウガが出て行ったからとはいえ、安心はできない。
計画の全てがソレイユにばれるのは時期的に早いのだ。
この勘の良い面倒な次期領主様をどう回避するか。
「結局、今回はどんな集まりなのでしょう。主催者のユウガさんは帰ってしまいましたし。何か聞いていたりしますか?」
「突然、訪問者が現れて驚いていた俺が何か聞いてるわけがない」
「そうですよね」
おし、段々とやることないなら帰ろうぜ的な空気になってきた。
このまま塩対応続けたら帰るんじゃね。
「僕もミネルバには遊びで来ているわけではないので、特に何もないのなら、お暇しようかと」
「そっか。ユウガに拐われて大変だったな。二度と同じようなことがないよう祈ってやるよ」
効果はないだろうけどな。
このまま家帰るんだろうなーと軽く手を振ったのだが、一向に出ていく気配がない。
ソレイユは怪訝な顔で俺を見ていた……これ、不味いやつだ。
「……気のせいでしょうか。随分と僕には早く帰ってもらいたいようですね。何か不都合でも?」
面倒臭そうなスイッチが入っちゃったよ。
「貴方。今、嫌な気持ちになりましたね。眉間にしわが寄りました。拳にも少し力が入ったみたいです。下唇を噛んだのも見えましたよ」
こえーよ、何なのこいつ!?
人の細かい仕草をチェックしないで欲しいんだけど。
次期領主ってこんな芸当も覚えないといけないのか。
腹の探り合いとか得意じゃないんだよ。
まあ、俺が苦手だろうがソレイユがぐいぐい、迫ってくるのは止めてくれないわけで。
「何か隠し事……あったりしますよね」
「あったとして何か問題があるのか。そんなに深い仲でもないだろう」
「おや、ちょっとムキになりました。でも、ユウガさんと話していた時とは違って見えますね。……セシリアさんですか」
いつからホラーな展開になったのだろうか。
今だけは思うわ、ユウガ戻ってきてくれ。
厄介極まりないこいつを何とかして欲しい。
「僕もミネルバに着いてから知りましたよ。セシリアさんと黒雷の魔剣士の噂をね。貴方は……どうするつもりですか」
どうするも何もない、黒雷の魔剣士は俺だからな。
ばらすわけにはいかない。
「どうするも何も、俺は……」
「待った。それ以上は言わなくても良い」
ここで救世主カイウスが待ったをかけた。
恋のキューピッドとはいえ、この切れ者眼鏡ソレイユを止められるのだろうか。
「先程から気にはなっていたのですが、貴方は何者でしょうか。彼とは何度かお会いしていますが、貴方とは初対面ですよね。ユウガさんの勢いに負け、聞くタイミングがありませんでしたが……」
「私はブライリングという町の近くで恋愛相談を受け持っている、カイウスだ。人々は私を恋のキューピッドと呼ぶ」
「恋のキューピッドですか、成る程。つまり、彼もユウガさんも貴方を頼った経験があると」
別に良いだろう、恋愛相談したって。
ユウガは最初別の目的だったけどさ。
「その通りだ。君も自分の心が揺れる相手を見つけ、足が動かなくなった時は遠慮なく、私を訪ねると良い」
「でしたら、貴方にはもっと早くお会いしたかったですね。……いや、結果は変わらなかったでしょう」
セシリアのこと言ってるよな、セシリアのこと言ってるよね。
えっ、こいつ諦めてないの、嘘でしょ。
まだライバルなのかこいつ、障害としてカウントした方が良いのか。
「殺意を感じたのですが」
「気のせいだろ」
俺はわざとらしく、口笛を吹いてソレイユから視線を逸らした。
自然に出てしまったのだから、仕方ないよな。
「まあ、気にしないことにしましょう。それで、恋のキューピッドさんでしたか。残念ながら僕の立場的にですね。誰とでもは結婚できないんです。失礼ですが、頼りにすることはないかと」
「ほほぅ。つまり、君は結婚がゴールだと考えているわけだ」
「そうですが、何か」
「例え、望まない結婚であったとしても、関係を良くしたいと訪ねてきた夫がいた。けんかして妻を怒らせてしまったと慌てた様子で訪ねてきた夫もいた。たまには妻を笑顔にしてやりたいんだ、と相談途中で顔を真っ赤にしていた夫もいた。……結婚した後も悩みは出てくる。まあ、こんな話をしてみたが……どうかな。何か困ったことが出てきたら、私のことを思い出すと良い、相談にのろうじゃないか!」
「……覚えておきます」
二人で視線がばちばちとぶつかってたりしないよな。
カイウスは素だからな、これ。
ソレイユが一方的にカイウスを敵視した感じか。
ソレイユはカイウスと相性が悪いっぽいな、カイウスは何も感じてないだろうけど。
「しかし、ユウガさんが貴方に恋愛相談していたとは、驚きですね。ユウガさんの周りには女性が絶えない状況でユウガさんもそれを受け入れているようでした。ミカナさんとは幼馴染みで気心の知れた仲とはいえ……ね。今回の結婚に至るのは貴方の影響が強かったりするのでしょうか」
「君は不思議なことを言うな。私にやれることは話を聞き、背中を押す、それだけさ」
「ですから、貴方が背中を押したからこそ、二人が結婚する理由になったのだと」
「背中を押されても、足は一歩、二歩しか進まない。そこから歩み続けることを決めたのは彼自身だ。その想いに応えたのも彼女さ。誰に助言を受けようと恋愛や結婚は最終的に判断するのは当人だけだからね」
これにはソレイユも言葉が出ない。
カイウスを相手にするのはなぁ、人生経験が違う。
ソレイユも数々の修羅場をくぐってきたんだろうけど、この分野ではカイウスに勝てないな。
「これ以上話しても貴方のペースにのせられるだけのようですね。仕方ありません、今日はこれで失礼します。どんな答を出すのか、楽しみにしていますよ」
勝てないと判断したソレイユは捨て台詞を残して去っていった。
カイウスがいたからこそ、誤魔化すことができた。
「悪いな、助かった」
「私は当然のことをしたまでさ。君たちはもう自分たちの力でゴールしようとしている。今、何をしているのか気にならないわけではないが……それはゴールしてから、ゆっくりと聞くことにするよ」
カイウスってイケメンだな。
「それじゃあ、私は帰らせてもらうよ。棺桶の改造をしないとね」
これがなければなぁ……すっげぇ良い笑顔だもん。
「出歩く方法を考えた結果だってのは分かるけどさ。もう少し何とかならんかったのか」
「あれは私が悩みに悩んでたどり着いた結果さ。今でも彼女のためにどうすれば……と悩みは尽きない」
笑みが怪しいんだけど……あ、視線に気づかれた。
「私は長年、彼女の寝ている表情を眺めてきた。笑いかけても彼女の表情は変わらない。声をかけても返ってこない。手を握っても握り返してもらえない。そんな生活が続いた……」
「カイウス……」
辛かった期間を思い出しているのか、カイウスは瞳を閉じて、額を押さえている。
そんな状況になったのは自分が関係していると話していた。
自分を責めているんだろう。
……でも、会話の流れに合ってなくね。
「おい、カイウス」
「何かな」
「それと棺桶の話はどういう……」
「つまりだね」
「おう」
「彼女の困った表情も私は見たいということさ!」
「よし、チクってこよう」
最低だよ、こいつ。
シリアスかと思ったら、違ったわ。
「待ちたまえ」
「待ちたまえじゃねーよ。さすがにシアさんが可哀想」
「この件は彼女も知っている」
「……あ、そうなの。ふーん」
困らせていることを知っていて、困らされていると……え、何それ。
「私は彼女の色々な表情を見たいのさ。笑ったり、怒ったり、困ったり……泣き顔は別だが。私は彼女が目覚めることをどれだけ待っていたか」
「いや、それは分かるけど」
「これは愛故の行動だよ。私のくだらないドッキリでも彼女は楽しんでくれるからね」
「これはもうカップルのイチャつき話を聞いてるだけだな」
「はっはっは、そう言うな。君も私のことを強く言えるような立場ではないんじゃないか」
「うっ、確かに」
最近は少なくなったけど、セシリアを困らせることは俺にもある。
カイウスだけの問題ではない。
「好きな子に思わずイタズラをしてしまう。そんなものだよ、種族の壁があってもね」
「うわー……心当たりがあるから、嫌だな」
「そんなものさ。それじゃあ、次に会う時には良い報告ができることを祈っているよ。さらばだ」
後ろ手ばいばいでカイウスも去っていった。
……今日って結局何で集まったんだろうな。
ツッコミ不在ってきついということが分かった一日だった。




