さらに勇者に説明してみた
普段の俺ならおいおい……みたいな感じになり玄関で文句を口にしていただろう。
だが、今日は気分が良いので思うだけにして口には出さないことにする。
それだけ、昨日の出来事が良かったということなんだが。
「何かありました? 口元が緩んでいますよ」
「おっと、悪い悪い。ちょっとな……思いだしにやけを」
「何ですか、それ」
ソレイユが気味悪そうな視線を向けてくるが、気にしない。
その程度、今の俺には通用すると思ったかと言いたくなる。
「ふむ、中々良い家じゃないか」
「まあな。苦労して手に入れた俺の城だ。大切にしているつもりだよ」
「ほほぅ。一人で管理するのは大変そうだな。早く身を固めるのも悪くないんじゃないか? 私の助言が必要ならいつでも相談にのるぞ。はっはっは」
「カイウス、気持ちだけ受け取っておくよ」
今は相談することがない。
あっても、最初はカイウスじゃなくてセシリアのところに行くだろうしな。
俺の表情から何かを察したのか。
成る程と言って優しく肩を叩かれた。
さすが恋のキューピッドである。
これでカイウスはこっちの味方と見て良いだろう……問題は。
「ヨウキくん、座って」
この勇者である、自分の家かよ。
座ってって、それは俺の台詞だわ。
「あー、適当に座ってくれ。今、お茶入れるから」
ユウガはスルーして素早くお茶の準備に取りかかる。
手慣れている……わけではないが、危なげなくカップを四つ用意しテーブルに置いた。
「あっ!」
「どうしたんですか?」
「ユウガ、これ」
「何かな」
「請求書」
俺がユウガに渡したのは新調したテーブルの請求書だ。
この前、破壊して帰っていったからな。
買った時の値段をメモし、とっておいたのである。
「あ……前日の」
「ああ、お前が帰った後、買いに行ったから。一人で持って帰ってくるのは大変だったぞ」
本当はそんなに大変じゃなかったけど、苦労したということを伝えておく。
ないとは思うが、また同じことされたら困る。
家具は大事にしましょうや。
「ご、ごめん……。これで」
「確かに」
「勇者ですよね。どのような事情があったかは知りませんが、家具を壊すとはどうも……気を付けた方が良いのではないでしょうか」
ソレイユがユウガに軽い説教を浴びせる。
勇者関係なく、人の家の家具を壊すのはダメだけどな。
ソレイユがセシリアポジを担当するのか、ユウガが小さくなってしまった。
「うん、反省してます。ごめんね、ヨウキくん」
「まあ、今後気を付けてくれれば良いけどさ。……で、今日は何をしにきたんだ?」
俺は普通に要件を聞いただけだ。
それなのにユウガときたら、しゅん……としていた態度から一変し、熱い感情をぶつけてきたのである。
「そうだよ、ヨウキくん。この前の話、僕は納得がいってないんだ!」
「お、おう。……って、顔が近い!」
テーブルが叩けないからって、別のことで興奮を表現するな。
俺にそっちの趣味はないと、ユウガを突き放す。
あー、びっくりした。
下手したら取り返しのつかないことに……勘弁してくれよ。
まだ、金で弁償できるテーブルにしてくれ、心の傷はいくら払われても癒されないから。
「もう少しでキスするところでしたね」
「言うな! 気色悪い」
「ヨ、ヨウキくん。それはいくらなんでも言い過ぎ……」
「あ?」
「いや、ごめんなさい。気を付けます」
かなりの怒気を込めたぞ、今。
危うく、我が家で初キス相手一号がユウガになるところだったんだからな。
言われても仕方ないだろう、胸キュンじゃなくて胸バクだっつーの。
「で、本題は?」
両手をクロスさせて顔をガード、軽くトラウマになってる。
「そうだった。ヨウキくん。やっぱり、君は間違ってる。というか、本当にそれで良いの?」
「それで良いって、何が?」
「黒雷の魔剣士についてだよ」
「それは説明したじゃねーか」
正体は俺だってば、何の問題もないぞ。
むしろ、順調にことは運んでる。
妨害もなく、正体ばれもしていないのか俺の周りをうろちょろしているやつは見かけない。
黒雷の魔剣士状態でミネルバを歩いてたら、尾行してくるやつはいるが、全員撒いてる。
俺に尾行なんて通用しないし、見ばれしないように注意を払ってるからな。
そんな状況でどうして、ユウガが文句を言いに来ているのやら……。
「もっと僕たちは話し合った方が良いと思うんだ」
「いや、必要ないだろう」
「一人で悩み、抱え込んで決めたことじゃないの。第三者の意見は必要だと思うんだ」
一人で抱え込んでるって……そんなに俺の厨二が痛々しかったとでも言うのかね。
何回か見せていた気がするけどな。
俺が嫌々でやっていて、抱え込んでるのかって話だったら違うぞ。
一人で決めたことでもないし。
ソレイユの前だと言いづらいので、ユウガの耳を引っ張る。
「痛い痛い! 何々!?」
喚くユウガの耳元を無視して、ひそひそと話す。
「安心しろ。これはセシリアと相談して決めたことだ。別に俺が暴走しているわけじゃない。二人で話し合った結果、決めて行動してる。頼むから、必要以上に大事にしないでくれ」
これだけ言えば、もう黙ってるだろう。
用がなくなったので、ユウガの耳を離す。
ユウガは驚いた表情をしていた、なんで?
「内緒話は終わりでしょうか」
「んー、まあな。多分、こいつが大変だ、協力してほしいとか言って集まったんだろ」
「その通りです。偶々、用事でミネルバに来ていたんですが、町を歩いていたら捕まりまして。空の旅はもう二度としたくありませんね」
笑ってるけど、目は笑っていない。
確か、俺と一緒でユウガも背中に翼が生えるパターンだ。
運ばれ方は……昨日、俺がセシリアを運んだ時と一緒だろう。
俺の代わりにソレイユが犠牲になったようだ……どんまい。
「私も緊急事態だと手紙が届いてね」
「手紙……届くんだ」
カイウスの住居って廃城だよな。
あそこまで運んでくれる人いるんだ。
「彼の友人が届けてくれたよ」
「あー……ユウガの友達の」
カイウス吸血鬼疑惑でユウガに討伐依頼を出したあの坊っちゃん。
ショットくんだったかな。
あの老夫婦は元気だろうか、気になるな。
「ああ、そうだよ。彼からは未だに相談が終わらなくてね。どうにも難航していて」
ショットくんの恋愛事情はそんなに興味ない。
反省しているみたいだけど、孫はやらんっておじいさん言ってたからな。
叶わぬ恋があるっていうのも勉強として知るべきでは。
「頻繁にきては熱心にどうすれば良いのかと聞いてくるのでね。相手の迷惑にならない程度にアプローチするようにと助言しているよ」
「諦めろとは言わないんだな」
「それは相手に失礼じゃないか。恋に悩む者へ簡単に諦めろなんて言えるわけがない。相談しに来るというのは、それだけ悩んでいるという証だ。そんな言葉をかけるようでは恋のキューピッドの名が泣くよ」
「そ、そっか」
「彼も大分反省……まあ、変わろうとしている最中なんだ。相談者が納得のいく解決をするまで、私は見届けようと思う」
「恋のキューピッドって大変だな」
「好きでやってることさ。大変だとか思ったことはないよ。ただ、最近、私にも悩みができてね」
「カイウスが?」
「棺桶に次はどんな機能を付けてあげようかと」
「ああ、そういう……」
棺桶以外で運ぶって選択肢は生まれないのか。
二人で決めてやってるなら、何も言わないけども。
この前、話した感じでは棺桶入るの大好きって感じじゃないように思った。
カイウスは楽しそうに考えてるし、止めない方が良いんだろう。
俺にできるのは変なこと言って、カイウスが閃かないよう、黙ってるぐらいだな、
「棺桶に機能? 何故そのような話になっているのかは分かりませんが、私で良ければ力になりましょうか」
「ほう。是非、聞かせてもらおうじゃないか」
ここで困ってる人がいたら、手を差し伸べましょうのスキルが発動してしまうのか。
ソレイユの言葉を聞き、相槌を打ちながらメモを取るカイウス。
ソレイユならまともな案を出すだろうけど、それを受けてどんな風に棺桶を改造するのはカイウスだ。
この場にはいないけど……シアさん、すみません。
心中での謝罪を終えてから、視線を放置していたユウガへ。
もうさ、理解したよね。
なんか、棚を凝視してるけどもテーブルの次は棚を狙ってるのか。
その中には思い出の品々が仕舞われてる。
壊したら、ミネルバで魔族ヨウキVS勇者ユウガってことになるぞ。
「おい、ユウガ……」
「ヨウキくん!」
「うおっ!?」
声かけたら、急に両肩を掴まれた。
これさっきのパターン……。
「僕はヨウキくんを信じていたよ」
「お、おう。まあ、分かってくれたなら良いんだ」
「うん。ヨウキくんも辛いだろうけど。僕、頑張ってみるからさ。それじゃ、ね」
「いや、辛いじゃなくて大変だけど。……ちょい、待て。頑張るってなんだ、おい!」
静止も聞かずにユウガは家から飛び出して行った。
あの様子、嫌な予感しかしない。
「おや、ユウガさんはもう帰ってしまったんですね。集まろうと言ったのはユウガさんなのに。何か急用を思い出したのでしょうか」
「そうなら良いんだけどな……」




