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勇者に説明してみた

ユウガの襲来は全く予想をしてなかった。

こういう事態になると予想するべきだったんだ……いや、できたはずだ。



浮かれていたからか、完全に見過ごしてしまった。

セシリアも何も言ってこなかったし……俺と同じ理由だったら嬉しい、なんて。



俺のことをちゃんと知っているガイやカイウスたちは説明しなくても俺だって察してくれるだろう。



ユウガは俺の正体を知らない。

ヨウキは黒雷の魔剣士という方程式を作れない……だからさ。



「ヨウキくんはどうしてそんなに冷静でいられるんだい。まさか、噂を知らないなんて言わないよね。今、ミネルバを騒がしている一大ニュースをさ。セシリアが黒雷の魔剣士と仲良く歩いていて、黒雷の魔剣士はセシリアをパートナー宣言! セシリアはノリノリだったって話だし……どうしてこんなことに。セシリアにはヨウキくん以外、仲良くしてる男性が見えなかったはずだ。どこで知り合ったんだ。大体、黒雷の魔剣士って何者なんだろう。僕とミカナの結婚式では助けられたけどさ。それとこれとは話が別だよ!」



止まらない、ユウガの話が全く止まらない。

ぜぇぜぇと息を整えているなーと思っていたら、飲み物をくれるかいと言ってきた。



ずっとしゃべりっぱなしだからな、喉も乾くだろう。

無言で果実水を渡すとがぶがぶと一気に飲み干した。



「んっんっんっ……ぷはぁっ! 僕はね、ヨウキくんにかなりお世話になったと思う。君がいなかったら、ミカナをずっと悲しませたままだった。セシリアにもかなり迷惑をかけたのに、支えてもらった。そんな二人には幸せになってほしい。セシリアがどうして黒雷の魔剣士……さんを選んだのはわからないけど。ヨウキくんはそれで良いの!? 確かにセシリアのことを考えたら、会うのは難しいと思うけど」



「まず、落ち着け。そして言いたいことをもっと簡潔にまとめろ」



長すぎて聞き取りづらいわ、色々と優しくないから。



「だって重要なことだよ!」



ダンッ、と握り拳をテーブルに振り下ろすユウガ。

おい、買って日が浅い家具を壊そうとするなよ。



「そりゃあ、そうだけど」



「ヨウキくん、必死さが無さすぎるよ。そんなじゃあ、セシリアを取られるって。頑張っていたんじゃないの、恋人でしょう!? ヨウキくんのその態度は許せないよ」



胸ぐらを掴まれて何度も揺らされる。

どうしよう……今までの俺の態度からしたら、正論だわ。

頭を揺らされている割りに冷静な思考ができているな、俺。



「付き合ってるって言ったじゃないか。好きなんでしょう。だったら、略奪でも何でも考えなよ!」



勇者が言っちゃいけないことを口走っているぞ。

略奪って……そこまでしろと。

いや、俺たちのことを思っているからこそ、こんな考えてくれているんだな。



……別にユウガやミカナにも事情を話して良いか。

レイヴンにだって話しているんだし。

てっとり早いのは黒雷の魔剣士が俺っていうことを伝えることだな。



「よし、分かった」



「ついにセシリアを拐いに行く決心を……」



「してねーわ。話を最後まで聞けよ」



なんでそういう道に誘導しようとするんだこいつ。

勇者がそんな提案したら、ダメだって。



「大丈夫、僕に任せて。ヨウキくん一人くらいなら、運べるからさ。周りの目が気になるんだよね。僕がヨウキくんを抱えてセシリアの部屋に突っ込むよ。聖剣の力を最大限に解放すれば……光でヨウキくんを隠せる」



「おいおいおいおい!」



なんつー作戦立ててんだよ。



「僕が何か言われたら、セシリアに会いに来ただけです、って言うだけだからさ」



「お前は新婚の身で堂々と浮気発言する気か」



黒雷の魔剣士も加わって噂がややこしくなるから、止めてくれ。



「だって、そうでもしないとヨウキくんがセシリアに会えないよ!」



今まで通りのペースで会ってるんだけどなぁ。

これ以上話を聞いていてもユウガがヒートアップしてしまうだけだな。

もう言ってしまおう。



「いいか……良く聞けよ」



「何かな」



「真面目な話だ。冗談じゃないからな。実は……黒雷の魔剣士の正体って俺なんだよ」



シリアスな雰囲気を作ってからの告白だ。

悪ふざけ感はゼロ、完璧。

黒雷の魔剣士は俺、セシリアと付き合ってるのは俺。

これで何も言われることはない、頑張ってと応援されたりとか……。



「嘘だ!」



強く叩きすぎたせいか、机に限界が訪れた。

真ん中から、真っ二つである。

弁償の話はとにかく置いといてだ、なんで嘘つき呼ばわりされるのか。



「嘘も何も俺が黒雷の魔剣士だって」



「そんなわけないよ、だって……うん、絶対に違う。ヨウキくん、僕が言い過ぎたみたい。また、日を改めて来るよ」



追い詰め過ぎたせいで変なこと言い出したとか思ってるよな、こいつ。

まじか……なんでここまで信用ないかね。

うーむ、黒雷の魔剣士が俺だって分からせれば良いはず。



でも、この前黒雷の魔剣士セット、アクアライン家の屋敷に置いてきちゃったんだよなぁ。



仕方ない、すっごくきついが俺とセシリアとここまで親身になってくれているユウガのためだ。

……衣装無しでいきましょう。



「ふっ、いい加減に認めてもらいたいものだな」



「へっ?」



たったこれだけの仕草と台詞でユウガは分かりやすいくらいに動揺しだした。

よし、このまま厨二スイッチを入れろ、黒雷の魔剣士を呼び込むんだ。



「何を間抜け面している。これが貴様が知りたかった真実の姿。今、ミネルバを騒がす黒雷の魔剣士とは……俺のことだ」



「そ、そんな……」



「悪いがそういうことなんでな、納得してもらおう。ああ、このことは絶対に広言するな。俺とセシリアの幸せのためと思って伏せておいてほしい……」



やばい、素の姿で全力の厨二披露はきっつい。

素の状態での厨二は久々だからかな。

黒雷の魔剣士は顔が隠れてるし……うん。



「分かったよ。そういうことなんだね」



俺の説得が効いたのか、ユウガも安心したらしい。

身体を張って良かった。



「それじゃあ、僕は帰るよ。また、来るから……」



「いつでも来い……と言いたいところだが、新婚の身だ。今は妻を大事にすることだな」



さっきの発言を聞いたら心配になった。

俺らの心配も良いけど、ミカナを大事にしろよ。

結婚したての時期って不安定になるって聞くし。



ユウガとミカナなら大丈夫だと思うけどさ。

あの告白だし、杞憂だろうけども。



「そうだね……そっか、そうだよ! じゃあね、ヨウキくん!」



何かを閃いた様子でユウガは走り去っていった。

……何故だろう、嫌な予感がする。



まあ、黒雷の魔剣士が俺だということは知ったし、妨害はしてこないはず。



「あっ、テーブル」



弁償の話するの忘れてた。

結局、テーブルだったものを片付け、新しいテーブルを買いに行った。

今度会った時、請求してやろう。



そんな出来事から数日、俺はセシリアと会っていた。

毎度のようにセシリアの部屋に不法侵入してである。



「この前はユウガが噂を聞き付けたみたいでさ。家に押し掛けてきて大変だった」



「……勇者様には何も説明していなかったですからね。ミカナからは何もないので察してくれてるのだと思いますが」



「あー……そうなのかな」



「ヨウキさんの正体についてはともかく、黒雷の魔剣士がヨウキさんだということは気付いてると思いますよ」



「だったら、ユウガに説明してほしかったな」



「気付いてる……とはいっても確証はないですし。私たちが話さないので秘密裏に動いてると考えて、余計な手を出さないようにしているのかもしれません。勇者様が何をするか分かりませんから」



言われてるぞ、勇者よ。

でも、よく考えたら話したの不味かったかも。



ユウガが何をするかなんで、予測不可能だし。

今の段階で俺が黒雷の魔剣士だとばれるのは良くないぞ……。



「どうしよう、セシリア。俺、自分が黒雷の魔剣士だって言っちゃったよ」



「……勇者様の反応はどうでしたか?」



「えっと、そんなに取り乱してはいなかったかな。すぐに家を出ていったよ。あれから何もないし……大丈夫じゃないか。万が一何かやらかそうとしたら、ミカナが止めてくれるだろうし」



ユウガはミカナと緒に住んでいるんだ。

何かしようものなら、先にミカナが察知して止めるさ。



「それもそうですよね」



「うん、大丈夫だよ」



「ところで、ヨウキさん。その……最近、魔剣士さんとしか出掛けていませんよね」



「そうだな」



周りを黙らすために依頼を受ける毎日だ。

それでもまだ足りないし、セシリアの周辺にはまだ情報屋が付いて回っている。



「少しだけ、人気のない森の中で良いので……出掛けませんか?」



「弁当を準備しよう」



ユウガ、俺は俺で幸せだから気にしないでくれ。

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