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ギルドで恋人宣言をしてみた

俺とセシリアは冒険者ギルドの前に立っている。

すでに注目を浴びているが……知ったことではない。

人気のない適当な場所に下りて魔法を解除し、ここまで歩いてきたからな。



最早、人目等気にしてはいない。

腕を組んだり、手を繋ぎまではしていないが俺とセシリアの距離は近い。

これだけで察するものは察するだろう。



もちろん、言葉にしなければ分からない者もいる。

そういう者たちにはギルドに入ってから証明してやろう。

横にいるセシリアを見ると無言で首を縦に振ってくれた。



「ふっ、では……行こうか」



俺は勢い良く扉を開けた。

視線が俺たちに集まり、がやがやと騒がしくなる。

そんな視線には興味がないと言わんばかりに、無視をして歩く。

目指す場所は決まっている。



「依頼を受けにきた。二人でな!」



びしっとポーズを決めたのはクレイマンの受付の前だ。

隣の席のシエラさんは固まっているというのに、クレイマンは表情を変えず。

いつも通り、だるそうな感じで対応してくれた。



「おー……二人な。どんな依頼がお望みだ? いや、要望聞くとか俺らしくもねぇな。これで良いだろ、これで」



俺たちにだからこそできる、適当な接客だな。

依頼書を受け取り、内容を確認すると簡単な町の手伝いばかりだった。



セシリアも俺の横で依頼書を確認している。

顔が近いんじゃ……とシエラさんが小さく呟いた。

ほほう、そう言うということは俺とセシリアの仲が気になると捉えて良いんだな。



「何か問題があるか?」



シエラさんはかなり、周りには聞こえない程度で呟いたつもりだったのだろう。

だが、俺の強化された聴覚の前では無意味。



シエラさんを虐めるわけではないが、ここできちんと周知するべきだ。

悪いが、付き合ってもらうぞ。



「えっ、その、私……」



「今、顔が近いんじゃ、と呟いたな。悪いが俺は僅かな呟きでも聞き逃さない。黒雷の魔剣士はそういう存在だ。覚えておくと良い」



「は、はぁ……分かりました」



「俺の名は黒雷の魔剣士。知ってはいるだろうが依頼を迅速かつ完璧に遂行する者。そして、我がパートナーは紹介せずとも知っているだろう。だが、あえて紹介するぞ。勇者パーティーの一人として活躍した心優しき聖……ごほんっ。セシリア・アクアレインだ!」



紹介中、無言の圧力が飛んできたので言い切れなかった。

そこもセシリアの魅力なので良いと思う。



さて、ぽかーんと口を開けた間抜け面を彼らはいつまで披露するつもりだろうか。

クレイマンだけ、頬杖をついて書類整理している。



「……やはり、いきなりその発言は過激だったのではないですか」



「初回はこれぐらいのインパクトが必要だ。あれくらいなら、間に割って入れるんじゃないかと思う輩が出ても困るからな。まあ、出てきたところで割って入ることを許す俺ではないが」



「これは喜ぶべきところなのか、悩みますね」



「俺なりに独占欲を出したつもりなんだがな。普段は抑えている……と受け取ってもらえると助かる」



今の俺なら何でも言える。

黒雷の魔剣士は己に忠実なのだ。



普段なら……今は考えないようにしよう。

我が名は黒雷の魔剣士、セシリア・アクアレインの恋人だ。



「普段は我慢しているんですね」



「ふっ、黒雷の魔剣士たる者、仮の姿でいる時は相応の態度でいるべきだ」



「私は恋人に我慢をさせてしまう程、頼りにならない女性なのでしょうか」



「……っ!?」



思わず素の声が出そうになったが、何とか止める。

まさかの反撃を受けてしまった。

こんな展開になるとは……周囲は俺の反応を待っているらしい。



注目されるのは慣れている、黒雷の魔剣士はこんなところで狼狽えてはいけない。

セシリアからの挑戦状は受け取った。

ならば、俺も応えようじゃないか。



「分かっていないな、セシリアよ。君はとても魅力的な女性だ。だからこそ、抑えなければならない。俺は獣になる気はないからな。まあ、先程は普段抑えている分、溜まっていたものがつい漏れてしまったと思ってくれ」



「そうですか」



ふっ、勝ったな。



「ですが、一人で溜め込むのは身体に良くないですよ。私はいつでも相談に乗りますから……パートナーですし」



セシリアの言葉に撃ち抜かれたのは俺だけだろうか。

あまり見せない、フェードアウトしていくような呟きに俺は固まった。。



周りの冒険者たちも固まっている、セシリアのこんな姿を見たことがないからか。



デレた……と言って良いのかは分からない。

ただ、この空間が静寂に包まれたのは確かだ。



「おら、受付はイチャつく場所じゃねーぞ。やるなら違うとこでしろ、違うとこで。お前らも手が止まってんぞ。仕事しろ、仕事!」



クレイマンの言葉により、固まっていた人たちが動き出した。

俺としたことがこれくらいで硬直してしまうとは。



いや……これくらいじゃないな、ちょっと無理だわ、平静でいるの。

何とか黒雷の魔剣士を維持しないと……くっくっく、ふっふっふ、はーはっはっは……良し!



「危ない、危ない。全く、もっと自分の魅力に気づいてほしいな。見ろ、今の仕草を見ただけで冒険者たちはセシリアに釘付けだ。そこは自重した方が良いんじゃないか?」



「……そうですか。こういうことは二人きりの時、言うとしましょう」



「……………………そうだな」



俺よりもセシリアの方がノリノリじゃないか。

話し合いしてた時は穏便にって話をしていたと思うんだがな。



石化状態が連発しているし、クレイマンからも再度注意がきてしまう。



「では、行こうか」



「はい、そうですね。それではお騒がせして、すみませんでした。失礼しますね」



「また来るぞ!」



「おう、頑張ってこい。おら、いい加減正気に戻って仕事しろ。んでもって、俺の仕事を減らせ!」



実にクレイマンらしい周りへの激励だ。

俺は小さく笑うとセシリアの腕を引き、ギルドを出た。



建物を出ても周りからの視線は変わらない。

注目されているが構うものか。

なんて思っていたら、セシリアがぽつりと呟いた。



「やり過ぎましたかね」



「ここにきて反省か」



「はい。魔剣士さんよりもその……アピールし過ぎたかなと。最初は止めていたはずなのにどうしてあんな言動をしてしまったのか。私らしくありませんね」



「俺は嬉しかった」



ああいった公の場で俺が恋人だとアピールしてくれたのは純粋に嬉しい。

やり過ぎて良いくらいなんだよ、俺はそうしようと勧めていたのだから。



「反省すべきこと等、ない。人間、素直が一番だ。俺はこの大通りでも愛を叫べるぞ」



今の俺に羞恥という言葉は存在しない。

なんなら、広場の中央で優雅にダンスでもしようか。



「……遠慮しておきます。今は依頼ですよ。仕事をしないと」



「おっと、そうだった。黒雷の魔剣士は依頼を迅速かつ完璧に遂行しないとな。イチャつく前にやることをやらねば」



これはデートではない。

ギルドの依頼でもあるのだから、しっかりしないと。

やることをやってからだな、うん。



「依頼を終えたからといって、イチャイチャするとは限りませんよ」



「それを決めるのは今じゃない。依頼を終えた時の俺たちが決める……さあ、行くぞ。この俺に着いてこれるか、セシリア!」



「これでも勇者パーティーの一人ですよ。魔剣士さんこそフォローされ過ぎないように、気を付けた方が良いかと」



勇者パーティー時代の話を聞かされている身としては、確かになと思う。



「頼りになる。さすが、セシリアだ。しかし、俺にも黒雷の魔剣士としてプライドがある」



「ここはプライドよりも連携を優先しましょう。私たちはパートナーなんですから」



よし、プライドは捨てよう。



「分かった。パートナーがいることがこんなにも心強いとはな。今ならどんな依頼もこなせそうだ」



「今、受けてきた依頼は低ランクのものばかりです。しかし、こういった依頼をきちんと達成していくのは、ミネルバにとって良いことだと私は考えています」



「なら、人々に感謝されに行こうか」



俺はセシリアと色々な依頼をやった。

町中で宣伝するように周り、依頼を完璧に終えていく。

あまりの早さにクレイマンが文句を言うほどであった。



今日一日だけで大分噂が広まっただろうが、まだまだである。

継続的に依頼を受けて達成し、顔を広めるんだ。

俺の正体がばれないよう、慎重に計画を進めていかないとならない。



ただ、セシリアとの噂が広まっていく中、この男が黙って指をくわえて見ているだけなわけがなかったのである。

セシリアと活動を始めて数日後。



「ヨウキくん、大変だよ!」



俺の家に新婚ホヤホヤの勇者が来襲した。

……忘れてたわ、どう説明しよう。

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