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恋人の覚悟を見てみた

「あの二人は思っていた以上に清いお付き合いをしていました。聖女様、どうか邪な想像をしてしまった哀れな俺を罰してください」



姿を消し、誰にも気づかれないよう屋敷に戻ってきた俺はセシリアに懺悔していた。



大変よろしくなかったと恥じている。

一人で反省してもな……ということでセシリアに打ち明けてみた。

聖母ではなく聖女、これ大事。



「レイヴンさんとハピネスちゃんですね。まずは何をしたのか聞きましょう」



「ここを使ってくれと用意した客間にベッドを一つしか用意しませんでした」



「成る程。ヨウキさんはどのような気持ちでベッドを一つしか用意しなかったのでしょうか」



「半分悪ノリで半分はこれを気に二人の関係が進展すればという余計な後押しです」



「確かにそれは余計でしたね」



「でも、なんか良い感じになったみたいです」



家で話を聞いた限りではベッドを一つにしておいて良かったと思う。



「それは結果論というものですね。貸すと言ったからには家主として最低限の準備はしておくものですよ」



聖女様の前ではこんな言い訳は通用しない。



「いや、その、狙ったというか……」



「何をでしょうか」



「えっ」



「何を狙ったのかと聞いてるんです。聖女である私は貴方の全てを聞く義務があります。教えてくれますよね? さあ、何を狙っていたんですか」



ベッドを一つしか用意しない狙いなんて、その……ねぇ?

聖女様は俺の邪な考えから生まれた企みを許してくれるのだろうか。



今のセシリアは心優しき聖女様だ。

ならば、正直に告白すべきだろう。

俺は罪悪感を勇気に変えて、口を開く。



「あわよくば二人が……」



この後、俺は長時間、正座をすることになった。

セシリアは怒らず、優しげな微笑みを浮かべながら、淡々と俺に罪の深さを知るようにと言ってきた。

無理に焚き付けるのは良くないと俺は学んだ。



セシリアのありがたい話は昼まで続いた。

というか、ソフィアさんが昼食だと声をかけに来てくれたから終わったんだよな。

昨日の話し合いの続きはどこへやら、もう午後である。



「さて、先程の続きですが……」



「もう、学びました。今後は気を付けますので、お許しを」



「……本当ですか?」



セシリアが疑いの眼差しを向けている。

恋人から信用されないなんてショックだが、色々と前科があるから仕方ない。



しかし、この話を延々と続けていたら俺たちの問題が解決しないのだ。

セシリアには悪いが実力行使といこう。



「とうっ!」



「えっ?」



セシリアに接近してタオルで目隠しをする。

ベッドに押し倒し掛け布団を被せてと。

こんな拘束にもなっていないイタズラ、すぐに解除して起き上がるだろう。

その僅かな時間に俺は……。



「……ふう。全くいきなり何をするんですか。今のはさすがに驚きました、よ」



セシリアが掛け布団を押し退け、身を起こす。



「ふっ、黒雷の魔剣士、参上!」



いつものポーズを取る俺を目にし、固まるセシリア。

実は黒雷の魔剣士に素早くチェンジできるよう、密かに練習していた。

その結果、少しの時間があればこの通り、早着替えが可能になったのだ。



「着替えるためにわざわざこんなことを?」



「悪いがいくらセシリアといえど、着替えるところを見られるわけにはいかない」



これは気分の問題だ。

素顔を晒したまま着替えて黒雷の魔剣士参上、とは言いづらい。



「別に私はヨウキさんだと分かっていますし、良いと思うのですが。まさか、着替えを見られたくない、と。まあ、私も率先して見ようとはしません。着替えるから、部屋を出てほしいと言っても良かったかと」



「良くないな。少し目を離すと、そこにはもう黒雷の魔剣士がいる。駄目か」



「少し目を離しただけで、別の人物がいるのは最早ホラーではないでしょうか」



セシリアの言うことにも一理あるな。

かっこいい演出だと思ったんだが。



「ふむ……改善の余地あり、だな」



忘れないように記憶しておこう。



「それで、魔剣士さんはこれからどうするつもりなのでしょうか」



本来は昨日から平行線のままで解決していない話し合いをする……だ。

セシリアは慎重に、俺は積極的に行動すべきだということで意見が割れている状態。



腕を組んで考える。

いつもなら、セシリアを抱えてギルドまで跳んでいくパターンだ。

しかし、二人で相談すると約束したからな。



強引過ぎるのはちょっとと考えてしまう。

何もしない俺を見て、セシリアは小さく息を吐いて。



「いつも通りで構いませんよ」



セシリアが出掛ける準備を始める。

冒険者風な装備……セシリーモードだ。



しかし、眼鏡は掛けていないし髪型もそのまま。

これではばれてしまうと言ったがセシリアはいいんですとばっさり。



「昨日あれだけ話し合いをしたんだぞ。勢いのまま連れ出しては結局今までと変わらない。それでは駄目だと」



「覚悟はできています。連れ出すために魔剣士さんになったんじゃないんですか。その格好になった時点で話し合いをする、という選択肢はないかと」



「いや、しかし……」



セシリアは食い下がる俺には目もくれず、リュックを背負う。



「焦れったいですね。いつもの魔剣士さんはどこに行ったんでしょうか」



準備ができました、と言って窓を開けた。

部屋に風が入ってきて、髪がなびいている。

棒立ちしている俺に向かって、セシリアは両手を広げ。



「さあ、連れ出して下さい」



と言ってきた。

恋人にここまでやられて、うだうだ言うのは彼氏としてどうなのか。

考えている時間が勿体ないな。

俺は望み通りに動くまでだ。



「ふっ……そうだな。俺らしくもない。そこまで言わせて申し訳ないと思う。反省すべきだな。……行こう、セシリア」



俺はセシリアを抱き締めてから、お姫様抱っこをする。



「えっ、今日はこれですか」



「やはり、最初が肝心だからな。思う存分アピールしよう」



「……覚悟はできています」



「良く言った……が」



俺は魔法で姿を消した。

周りからは俺たちが見えないだろう。

姿を消したことに気づいたのか、セシリアは驚いている。



「初日から屋根を跳び回る姿を見られるのはよろしくない……」



「まだ理由がありますね」



「やはり、お披露目はギルドでやるべきだ!」



「そういうことですか」



「ああ。それと……いや、何でもない」



「何ですか、それ」



やはり、騒がれることなくこの状態でいたい……なんて言うのは口に出しづらい。

黒雷の魔剣士でも口に出せることと出せないことがある。



腕の中のセシリアがじと目で見てくる。

視線が辛いがスルーしよう。



「絶対に離すことはないが、掴まっていてくれ」



「なら、掴まらなくて良いのではないですか」



「分かっていないな、セシリア。ぎゅっとされると俺の能力値が大幅に上昇されるからだ。あと、危ないから念のため」



「言う順番が逆かと思いますが……魔剣士さんらしいので、気にしないことにします。それでは失礼しますね」



首に回された腕に力が入るのを感じた。

テンションが上がっていく、今なら何でもできるな。

眼前には青い空、目指すは冒険者ギルド。



「行くぞ、これが俺とセシリアの記念すべき第一歩だ。はぁぁぁぁぁぁぁあ!」



「ヨ、ヨウキさん。跳びすぎ、跳びすぎですよ!」



目一杯強化した足による跳躍は凄まじかった。

今までこんなに高く跳んだことはない。

テンション上げすぎたな。



いくら姿を消しているとはいえ、着地の衝撃は誤魔化せない。

人がいたら、何もないのに地面が揺れて驚くこと間違いなしだ。



「これは不味いな」



言いつつも俺は冷静だった、すでに対策は思い付いてるからだ。

腕の中のセシリアはそうでもないようで、焦った表情で俺を叱責する。



「どうして、加減をしなかったんですか!」



「舞い上がっていたからだ。……よし、前方に風の魔法を撃つ」



魔法を撃った反動で人気のない場所に着地できるように調整する。

なんとか、騒ぎになりそうな場所に着地することは防げた。



「ふぅ、危なかったな」



「危なかったな、ではないですよ……。ドキドキしました」



「鼓動が伝わってきたから、知っている。気を付けよう」



「……記念すべき第一歩からこれでは先が全く見えないですね」



「何を言っている。これが俺たちらしさ……だろう」



「そういうことにしておきましょう」



「さて、行こうか」



今度はしっかりと加減をして跳躍する。

ギルドではどう反応されるだろうか。



まあ、どんなことを言われて、何をされようが……障害は全部乗り越えてみせる。

どこの主人公様だと笑いをこらえつつ、ギルドに向かった。

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