決意してみた
「それで今後どう動いていくかなんだけど」
セリアさんが切り出した。
視線がセリアさんに集中する。
「このまま、ヨウキくんとセシリアの婚約発表するのは難しいわね」
「……セリアさん、最大の理由は何でしょうか」
「やっぱり、周囲の反応がねぇ。ヨウキくんとセシリアって世間的には接点があまりないことになっているでしょう。いきなり、どうしてヨウキくんと婚約になったって話にならないかしら」
親公認になったとはいえ、世間の当たりが問題か。
セシリアとの接点……ここは黒雷の魔剣士の出番ではないだろうか。
「あら、セシリアはヨウキくんが何を考えてるのか分かるのかしらね。覚悟を決めた目をしてるわよ」
「何となくですが……はい。ヨウキさんの案なら大丈夫です。全力で頑張りますよ、これも私たちのためですから」
何も言ってないのに、案が採用された。
……これが信頼されているってやつか。
セシリアの手を掴む、この手を離さないために……やることはやるんだ。
「セシリアの言う通り案はあります。Aランク冒険者、黒雷の魔剣士を使います」
「ふふふ、ヨウキくんのことよね?」
「はい、そうです。ソフィアさんの旦那さんに協力してもらって登録したんですが……明日から相棒をセシリアだと大々的に発表しようかと。それでセシリアと冒険者として活動します」
身元がばれなければ好き勝手できる。
黒雷の魔剣士なら、名前も通っているし。
セシリアと仲の良さをアピールしまくって、実績を上げる。
周囲の評価が上がったところで、正体を明かす。
完璧な作戦じゃないか。
「私もヨウキさんの案に賛成しましょう」
「えーっ!?」
「どうして驚いているんですか」
「いや、だっていつもならさぁ、こう……嫌な予感がします、みたいな」
できるだけセシリアの言い方に似せて言ってみた。
だって、俺が案を出したらいつも言ってるじゃないか。
正直、一度否定を待っていたのにすぐに賛成してくれたからさ。
意外でかなり驚いている。
まあ、俺はいつも完璧だと思える案を出しているので、賛成してくれるなら、それはそれで嬉しいという。
「ここまできたら、ヨウキくんとセシリアに任せるわ。頑張ってね」
「えっ、さっきは婚約発表は難しいとか、具体的な問題点を上げてくれたのに。俺の案については何もないんですか」
「私は現状での話をするだけよ。ここからどうするかはあなたたち二人で相談して決めないと駄目。家に来る変な人たちはソフィアがなんとかしちゃうから、安心してね」
「お嬢様に手を出すような輩がいましたら、丁重なおもてなしをした後、お帰りいただきます」
ソフィアさん、おもてなしって何をする気なんだろう。
頼もしい味方がバックアップについてくれたのは嬉しい。
ただ、俺すら恐ろしさを感じてしまうんだよな。
屋敷の周りにいる人たち、今からでも遅くないから逃げた方が良いよ。
「さて、話も大分まとまったし。ここからは二人の話をもっと聞いちゃおうかしらね。定番のどんなところが好きから始める?」
「へ?」
「お、お母様……」
それって何の拷問ですかね。
二人きりの時ですら、恥ずかしくてあまりやらないやつじゃないの、それ。
あとソフィアさん、俺だけに強烈な視線を浴びせないでもらえますか、色々と痛いんで。
まあ、恥ずかしくて言えないとかこの場では有り得ないけどな。
セリアさんのご期待に答えるとしようか。
「まず何といっても優しさですね」
「ちょっ、ヨウキさん!?」
セシリアが慌てているけど、ここは無視。
「はっきり言って死のうとしていた時期があったんですよ。こんなんじゃ、もう終わりかなーって思って。そんなどん底な俺にセシリアは手を差しのべてくれました。一目惚れだったけど、ぐっときたのはやっぱりそこかなぁ……」
俺は思い出に浸りながら、ぶっちゃける。
まだエピソードは沢山あるので話そうとしたら、セシリアが慌てて
口を押さえてきた。
「ヨウキさん、それ以上喋らないで下さい。私も嬉しいんですけど……せめて私のいないところでお願いします。お母様とソフィアさんの前でそういうのはちょっと」
「あらあら、嬉しいなら良いじゃないの。恥ずかしがらずに聞いていれば」
「で、ですが、お母様。こういうのは二人きりの時に話す話題ではないでしょうか」
セシリアが食い下がった、珍しい。
恥ずかしいのかね……普段俺がこういうこと言わないのも悪いのか。
きっと耐性がないのだろう。
でも、二人きりの時にお互いのどこが好きかなんて話題に出さないしな。
……今度からそれとなく、振るようにしよう。
「私もソフィアも聞きたいのよね。ソフィアもそうでしょう?」
「……お嬢様の魅力をヨウキ様はしっかりと理解されているのか。確認のためにもお話を続けて欲しいですね」
「ソフィアさんまで……」
セシリアに味方がいなくなってしまった。
二人とも聞きたいなら、いくらでも聞かせてやろうじゃないか。
俺は口を押さえていた手を優しく握り、胸の辺りに下ろす。
セシリアも覚悟を決めたのか、俺の誘導に従ってくれた。
「えーっと……それじゃあ、話しますか」
俺は語った。
二人して耳が真っ赤になっていたと思う。
俺の話を聞いている時、セリアさんとソフィアさんは笑ったり、頷いたりとリアクションは様々だった。
セリアさんがセシリアを茶化して、ソフィアさんが宥めたりということもあったな。
まあまあ盛り上がりを見せた分、時間が流れるのも早いわけで。
「あら、もうこんな時間なのね。続きは明日聞かせてくれるかしら」
にっこりと笑みを浮かべるセリアさん。
まだ聞き足りないのか、結構話したつもりなんだけど。
セシリアはソファーにあった枕で顔を隠していたりする。
そんなに恥ずかしかったのか……こういう反応されるとは思っていなかったな、ぶっちゃけ過ぎたか。
親公認の許可みたいなものをもらったからか、調子に乗りすぎたかもしれない。
「続きはなくてもいいです、お母様……」
「俺はまだまだ話足りないですね!」
普段とは別のスイッチが入ってるらしい。
明日になっても羞恥を感じずに語れる自信がある。
「ヨウキさん、もう私には充分伝わったので……大丈夫ですよ」
セシリアの笑顔がここで出てきた。
これはいい加減にして下さいねという意味がこもっているな。
「……はい」
「セシリアったら、もう……」
セリアさん、セシリアの笑みに気づいたのか。
親子だし、やはり分かるのだろう、セシリアの笑みの意味が。
「これくらいで恥ずかしがってちゃ、先が思いやられるわね。ヨウキくんも少しは抵抗しないと」
「いやぁ、俺はこれはこれで良いかなと。こんな感じでここまで来た感じがするし」
「そうです。私たちには私たちのつきあい方があるんです、お母様」
「あら、そうなの」
「……人によってつきあい方は様々。その点は私も同意します。夫が夫なので、私も苦労してきましたし」
ソフィアさんが表情を崩さずに言った。
俺とセシリアの視線がソフィアさんに向く。
クレイマン……もっとしっかりしようぜ。
「だからといって、夫と一緒になり後悔はしていませんが」
「ソフィアは何だかんだ言って、旦那さんのこと信頼してるからねぇ。ヨウキくんもセシリアにこれくらい言われるように頑張らないといけないわね」
「は、はい」
なんか、クレイマンに負けた気分。
悔しいが俺はまだまだこれからだ。
「ヨウキさんは今でも充分頑張っていますよ?」
「いやいや、俺なんてまだまだだからさ。明日から頑張る。いや、二人で頑張ろう」
「……そうですね。二人で頑張りましょう」
改めて決意表明だ。
明日から黒雷の魔剣士、セシリアコンビで俺たちの絆の強さを証明しよう。
周りを黙らせてから……その時はってやつだ。




