会議してみた
イチャイチャしていろ、このやろーという気持ちで我が家を出て、屋敷へ向かう。
途中まではテンション高めでスキップしながら、屋敷に近づくとステルス行動を開始。
ソフィアさんに見つからないよう、細心の注意を払い侵入。
中々、警備の抜け目がなくて焦ったが、俺の力を嘗めてもらっては困る。
どうにか突破をして、セシリアの部屋にたどり着いた。
「来ましたね」
「警備強化されてるよね。人がいないところを通るのすごく苦労したよ。ソフィアさん、厳しいわー」
こうして無事セシリアに会いに来れたから良いけども。
「それでは行きましょうか」
「どこに?」
「……お母様とソフィアさんが待っています」
「……」
セシリアの言葉が死刑宣告に聞こえた。
いや、ちゃんと許可を得ているからそこまで言われない……言われないよな。
急に背中から嫌な汗が出てきた、しっとりしていて気持ち悪い。
「大丈夫ですよ、私もいますから」
俺を気遣ってか、優しくフォロー発言をするセシリア。
……こういうところも惚れた原因の一つかな。
セシリアに手を引かれて、招かれたのは客間。
夕食の準備までされており、セリアさんが既に座っていて、横にはソフィアさんが立っている。
「こんばんは、ヨウキくん。どうぞ、座って」
「あ、はい……」
娘の恋人とはいえ、侵入者に対しての扱いがこんなんで良いのかね。
戸惑いながら座ると、セシリアも席に着いた。
これから何が始まるんだろう。
「食事が冷めてしまうから、まずは食べましょうか」
セリアさんの一言によって食事が始まる。
食器の音しか聞こえず、会話はない。
俺から話を振るのはちょっと……セリアさんもセシリアも行儀よく無言で食べてるし。
出されて食べないなんていうのは失礼だから、俺も普通に食うけどな……あ、この肉料理美味い。
「それにしてもヨウキくん、すごいわねぇ。最近、屋敷の周りを変な人たちがうろついているから、ソフィアに警備の強化をしておいてねって頼んでおいたのに、まさかセシリアと密会していたなんて」
「……すみません。我慢ができなくて。迷惑はかけたくなかったから、絶対に誰にも気づかれないよう、頑張ってました」
セシリアも限界が来ていたけど、これは言わない方が良いよな。
はははは……と笑っていたら、今度はソフィアさんが口を開いた。
「お嬢様から話を聞いた時には耳を疑いました。警備体制を何度も見直し、強化に努めたのですが……こうしてヨウキ様が屋敷にいる。私の仕事が甘かったと反省せねばなりません」
「本当、来る度に警備の穴を探すのが大変でして。セシリアに会うためならと力を発揮したみたいなものかなーと……」
「侵入できたということは警備が甘い証拠です。これ以上の失態を重ねるわけにはいきません。ヨウキ様、是非今回使った侵入路を教えてもらいたいのですが、よろしいでしょうか。時間帯、警備の担当者等、細かく情報を伝えて頂けると助かります」
「は、はぁ……」
ソフィアさんの目がマジだ。
これは断れないな、あとで時間を作ろう。
もちろん、姿を消していることは伏せて説明をしないとならないけど。
「……ふふっ」
「え?」
セリアさんが俺を見て笑っている。
今、笑うところなかったよね、何でだ。
「俺、何か変なこと言いました?」
「いいえ、そんなことないわ。ごめんなさいね、気に障ったかしら」
「いや、そんなことはないですけど。……なんでかなって」
「そうねぇ。考えてみたら、変だなーって思ったの。ソフィアがこう何度も屋敷に侵入を許すなんて。ヨウキくん、貴方どんな方法を使ったのかしら」
「それはやっぱり、鍛えぬいた観察眼と勘ですね」
姿を消して強化した嗅覚と聴覚に頼りましたなんて言えるわけがない。
「う~ん。ヨウキくんが実力者なのは知ってるけど、家のソフィアも負けていないと思うのよ」
さらっと嘘をついたつもりだったが、セリアさんは納得がいかないようだ。
にこにこしながらも、俺を責め立ててくる。
俺はごまかすことしかできない。
「実は気になって調査したことがあるんだけどね。屋敷に行くまでの道程で誰もヨウキくんらしき人物を見たって情報がないのよ。今、こーんなに屋敷を囲むように人がいるにも関わらずね。……そんなことって可能なのかしら?」
「それは……やっぱり、気合い的な」
苦しい、苦しすぎる言い訳だ。
セシリア、どうしようかとちらっと視線を向けると平然としていた。
いやいや、なんで焦ってないのさ。
「ヨウキくん、セシリアの状況って今、とても大変なの」
「それは、知ってます」
「このまま、中途半端な状態にしておくのはすごく不味いことなのよ。本当はセシリアに婚約者がいて、長い眠りについていて、起きるのを待ってるとか、変な噂も出てきているみたい」
その話は実際にあった話だ……って、そんな噂まで出てきているのか。
「私はセシリアとヨウキくんを応援しているから、そのままゴールしちゃっても構わないのだけれど……やっぱり、親として気になるじゃない。娘が選んだ相手はどんな人なのかって」
「……そう、ですよね」
まあ、今まで聞かれなかったのがおかしかったんだよな。
こんな状況じゃあ、さっさと腹を括らないといけない。
セリアさんは認めてくれるだろうか……俺の話をしても。
「大丈夫ですよ、ヨウキさん。不安にならないでください。いざとなったら、私を拐うくらいの気持ちでいてくれないと」
「いやいや、母親の前でそれ言う?」
「セシリアも言うようになったわねぇ。娘の成長を見れて嬉しいわ」
「万が一のために備えておきましょうか、奥様」
「備えるって……」
一番最悪の未来は俺がセシリアを拐おうとして、止めにきたソフィアさんと戦うことか。
ないだろ、ないよね、うん、ないよ、絶対。
だからソフィアさん、足を床にトントンてやるの止めてもらって良いですか。
それって戦闘前にやるウォーミングアップですよね。
「全力でいきますので、その際にはお覚悟を」
「その際なんてないです。……いや、時と場合によりますかね。もう、後には引けないし」
ここでびびるわけにはいかない。
どんなことがあっても、セシリアを諦める気はない。
だから……頑張って説得するんだ。
セシリアも手伝ってくれるだろう。
「話します。俺とセシリアがどこで出会ったか。俺が何者なのかを」
魔王城での生活、俺の正体、セシリアとの出会い。
基本、俺が話してセシリアが補足する形で進んだ。
二人は表情を崩さず、話の腰を折ることなく、俺たちが話し終わるまでただ聞いていた。
「……以上です。それで俺は特殊な魔法が使えるんで、誰がどこにいるかを特定して動けるので、侵入したわけです」
「そう……ヨウキくんが魔族で魔王城でセシリアに一目惚れして撃沈して。そんなセシリアに誘われてミネルバに来て、仕事をしながらセシリアにアピールしていたってことよね」
「そ、そんな感じです」
「セシリアもすごいわねぇ。種族の壁を越えるなんて、想像していなかったわ」
「お母様……」
「色々と問題も起きそうねぇ……」
セリアさんが深く考え込んでいる。
俺とセシリアは黙ってうつむいていた。
まるで結婚を認めてもらいに来たかのような緊張感である。
「でも、黙っていればばれないわよね」
「えっ」
そんな軽い感じで言われても。
娘の将来に関わってることなのに、そんなんで良いのか。
「今までもそうしてきたんでしょう。王様も決めた相手なら、誰でもって言っていたんだし、魔族でも大丈夫よ。ソフィアもそう思うでしょう?」
「個人的な意見を述べさせてもらいますが、ヨウキ様の性格ならばお嬢様を不幸にすることはないかと。困らせることは多少、ありそうですが」
「あらあら、少しは困らせられる方がセシリアには合ってるわよ、ねぇ、セシリア?」
「それではヨウキ様を甘やかすことにつながるかと。時には厳しく接することも必要ではないでしょうか」
「セシリアなら上手く飴と鞭を使い分けられるわ。私の娘だもの」
セリアさんとソフィアさんによる、セシリアの俺への対応議論。
……もっとシリアス展開になると思って打ち明けたのに、何故こうなったし。
「私は束縛する気はありませんが、言うべき時には言いますからね」
「はい、肝に銘じておきます……」
このタイミングで俺とセシリアの間に約束事が生まれた。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。




