厨二で解決してみた
「二人ならやれる、行くぞ。蒼炎の鋼腕!」
返事は聞かない、腕を引っ張ってミラーに前進する。
「直線的だねぇ!」
腕からビームもどきか、それは見切っているぞ。
俺はミラーの後ろに着地できるよう、力を調整して蒼炎の鋼腕を投げ飛ばす。
「うおおぉぉぉぉぉぉ!?」
ビームもどきを右ストレートで相殺し、突っ込む。
蒼炎の鋼腕も無事に着地したようだ、こちらの意図を察してくれたらしく、ミラーへと斬り込んでいる。
ふははは、これで挟み撃ちだ。
「見よ、これが黒雷の魔剣士と蒼炎の鋼腕の連携攻撃だっ!」
「甘い甘い!」
ミラーの全身から眩い光が放たれる、くそっ、面倒だな。
これにはたまらず、後退する。
蒼炎の鋼腕も攻撃を止めたようだ。
「そんなんじゃあ、僕に攻撃は届かないね」
この俺の前で余裕ぶるとは、良い度胸だ。
しかし、どうにも攻撃が上手くいかない。
なんとかあの顔面に一撃を入れたいところだが。
「……おい」
蒼炎の鋼腕がこちらに戻ってきた。
ふむ、作戦会議は必要だからな、良い判断だ。
「いきなり投げ飛ばすのは止めて貰えないか。着地に失敗していたら、俺の正体がばれているところだぞ」
「ふん、貴様はそのようなへまを踏むようなことはしないはずだ。力を見込んでの作戦だったんだが……不満か?」
「いや、そういうわけではない。ただ、万が一の可能性がだな」
「俺たちは正体を知られたら終わりだ。だからこそ、万が一……なんていうことにならないよう、鍛練を積まねばならない。ここで正体がばれるようなら、蒼炎の鋼腕はその程度の存在だった、ということだ」
俺はこのヘルメットが取れないように、注意を払っている。
留め具も自分で改造していて、対策を施しているのだ。
半端な覚悟でこんな格好はできないぞ、正体がばれたら待っているのは社会的な死だからな。
「ほらほら、相談している暇なんてあるのかな」
またビームもどきか、それはもう効かないとわからないのか。
「狙いは君じゃないよぉ」
ミラーの腕が天井に向けられている。
天井を崩落させてダメージを与える気か。
そんなもの簡単にかわせるが……そもそも射たせたらまずい!
そんなことさせたら、結婚式がめちゃくちゃだ。
いや、もう結構めちゃくちゃな気がするけど。
式場の天井に穴なんて開けさせたら……。
「くそっ!」
攻撃を止めさせなければと、突撃しようとしたところで、俺の横を何かが通過していった。
「やっと来たねぇ」
ミラーに突撃したのはユウガだった。
光を纏って飛び、聖剣で斬りかかったみたいだ。
「僕も参加するよ。これは僕とミカナの結婚式だからね」
「おい、勇者ユウガ。ここは俺と蒼炎の鋼腕に任せろ。貴様はこの式の主役だろう」
「だからこそさ。彼は僕の……僕たちが幸せになるための最後の障害なんだよ。ミカナの前なんだから、かっこよく決めるさ」
なんだあれは……本物の勇者じゃないか。
新郎であるユウガを見つめるミカナも……あれは完全にヒロインだ。
花嫁衣装を着たヒロインだぞ。
ミカナは全く祈ってるような素振りがなく、見ているだけ。
ユウガが勝つと確信しているのだろう。
これはミラーに勝って、二人は結婚式の最終局面へ、末長く幸せに暮らしましたとさ、という流れではないか。
「ほらほら、もっと……もっとだよ!」
「くっ、僕は負けない。二人でこの日を待ちわびていたんだ。それを邪魔する君は絶対に許さない!」
随分と派手な戦いをしているな、周りに攻撃の余波がいかないように気を付けてもらいたい。
ユウガは気にしているみたいだけど、ミラーは全くしてないからな、あいつ本当に勇者なのか。
「おい、黒雷の魔剣士。俺たちはどうする。招待客たちを守るか勇者ユウガを援護するか」
「守りは騎士たちに任せよう。俺たちはミラーだ」
ユウガも善戦してはいるが決定打を与えられてない。
このままでは新郎がボロボロの姿になってしまう。
本気を出してはダメだろうか、五秒でぼこぼこにして河に捨ててこれるぞ。
「勇者ユウガ、魔王を倒したっていうわりにはがっかりだよ。全力を出さないでさ。周りを庇いながらじゃないと戦えないわけ? だったら俺がさぁ、解決してやんよ」
ミラーのやつ、容赦なくミカナにビームもどきを撃ちやがった。
本当に勇者のやることではないな。
ああいうのはユウガが止めに行くべき……ああ、剣で受け止めた。
「くそっ、またミカナを狙って」
「なんだか、長引きそうね。アタシも手伝うわよ」
「いやいや、ミカナはドレスも着てるんだし。僕が絶対に守るから、ここにいてほしい」
「大丈夫よ、杖があるから援護するわ。早く終わらせましょう」
どこに隠していたのか、ミカナが杖を持ち、前に出ようとしている。
おいおい、準備よすぎだろう。
「えっ……ミカナ、杖なんてどこから出して……」
「ユウガと何年一緒にいると思ってるのよ。アタシだって、平和に結婚式が終わるなんて思ってないわ。ほら、さっさとアイツ追っ払うわよ」
「でも、せっかくの結婚式だし、ミカナまで巻き込むのは……」
「さっさと行動しなさい。蹴るわよ」
勇者なのに嫁に一喝されてるな。
結婚したら尻にしかれることになるだろう。
その方がユウガにとっては良いことだ。
「ほらほら、もっと俺を楽し……ぐえっ!?」
そろそろ、この煩いやつには黙ってもらうべきだ。
俺の拳を顔面にくらったミラーは、何故避けられなかったとでも考えているのだろう。
セシリアから何を言われるかわからないが……少しだけ本気を出す。
「お前の身勝手な理由であの二人の結婚式が邪魔されていると思うと怒りが込み上げてくる。依頼に私情を挟んだりはしないが……こんなにも腹が立つのは初めてかもしれん。貴様は俺を怒らせた」
光るのが厄介だから、光る前に殴る。
抵抗される前に馬乗りになって、あとはもう殴る。
気絶するまで殴る、これに限る。
「ぐあっ、うぐっ、ぶっ……このぉ、調子に……乗るなっ!」
ビームもどきを撃ってきたので、体を逸らして回避。
相当タフだな、まあ、こうなってはもう……な。
お前の出番はそろそろ終わり、退場願おう。
俺はミラーの足を掴んでユウガとミカナのいる方へと投げ飛ばす。
最後は美味しいところを持っていけということだ。
「ユウガ、地面に叩きつけて」
「わかった」
ユウガが飛んできたミラーを剣で叩きつけた。
峰打ちとかじゃねぇぞ、死んでるだろ、あれ。
地面に打ち付けられたミラーに杖を握りしめたミカナが近づいていく。
「あんたの、せいで、せっかくの、結婚式が、台無しよ、この、馬鹿勇者っ!」
杖でミラーをぼこぼこにしている、魔法はミラーに効かないからな。
打撃は有効、それにしたってあれはむごい。
ミラーから呻き声が聞こえた時はまだ良かった。
ただ、体が痙攣を起こし始めてからはユウガが止めに入った。
生きてるか、あれ?
「まだ殴り足りないわよ!」
「ミカナ、もう彼は戦闘不能、満身創痍、決着は着いたんだ。さあ、結婚式の続きを始めよう……」
イチャイチャし始めたか、これで安心だ。
ミラーさえ倒れればユウガが場を収めてくれるだろう。
ここまできたら、ユウガはミスをしない。
物語の最終局面という段階で主人公は間違った選択をしないし、これ以上の面倒事を呼び込まないはず。
俺の役目は終わった。
今は何だかんだで抱き合ってキスしているユウガとミカナに招待客の視線が向いている。
目立たずに消えるなら、チャンスだ。
「おい」
蒼炎の鋼腕、こいつがいたか。
「俺の役目はもう終わった」
「黙って去る気か」
「結婚式に参加することは依頼に含まれていない。招待もされていない俺はもうこの場には不要だ」
早くヨウキとして戻らないと話がこじれる……というかソレイユが怪しむ。
先程、ミラーをぼこぼこにしたし、招待客が俺に興味を持ち始める前に消えねば。
「貴様もだ、蒼炎の鋼腕。正体を知られたくなければ、今の内に消えろ。わけ有りなら、すべき行動だろう」
「まさか、貴様俺の正体を……」
「さて、どうだろうな」
俺は背を向け、跳躍する。
「待て、貴様は一体……」
「ふっ、俺は黒雷の魔剣士だ」
捨て台詞を残して立ち去った、面倒事はごめんだ。
あとの処理はレイヴンに任せる。
「こうして勇者ユウガの結婚式は無事に終わった……ってか」
黒雷の魔剣士からヨウキに戻り式場へと向かっているわけだが、足取りはゆっくりとしたものだ。
設定としてはミカナを庇ってビームもどきをくらい、気絶した俺を黒雷の魔剣士が救った、こんな感じだ。
わざわざ腕に包帯巻いて、地面を転がってきたからな。
やられた感を演出しないと。
「うわっ……」
式場の前にはソレイユがいた。
俺を待っていたかのように、こちらを見て駆け寄ってくる。
もう今日は疲れたよ、これ以上駆け引きとかしたくないんだけど。
「無事……とはいえないようですね。大丈夫ですか」
「黒雷の魔剣士に助けられたさ」
「そうですか。貴方も彼に……ね。貴方がやられた後、蒼炎の鋼腕、黒雷の魔剣士、ユウガくんとミカナさんがガリス帝国の勇者ミラーを無力化。彼をどうするかは国同士が話し合うようです」
もうあいつ首に鎖でも巻いて、どっかに幽閉しろよ。
どう考えても危険だろ、魔王様よりもやばいって。
「そうか。結婚式は中止にならなかったんだな」
「貴方がミカナさんを庇った時には驚きましたよ。ミラーが何をやろうとしているかわかったんですね」
「あれは見たらわかるだろ。あとは体が勝手に動いたんだ、それだけだよ」
「……本当に残念です。もし、貴方の想う相手がセシリアさんでなければ、僕は応援することができたでしょう」
いきなり、なんだこいつ、失礼じゃないか。
さっき、それは散々言っただろ、振り返さなくていいよ。
笑いこらえる身にもなれよ。
「王様がとんでもない発言をしました」
あの自由そうな王様か、俺のアホな発言に笑っていたくらいだ。
何を言ったのか、怖いんだけど。
「勇者パーティーへの報酬がまだだったな、勇者ユウガと魔法使いミカナの結婚を承諾したんだ。騎士団長レイヴン、聖母セシリアも結婚相手は自由に選べよ。周りは私が黙らせるからな……と」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
あの王様、何言っちゃってんのさ。
そんなこと言ったら、貴族とか関係なしに俺、私にもワンチャンあるんじゃね、っていうやつらが二人に押し寄せるって。
「その驚きよう、やはり貴方はセシリアさんを……」
「うるせー。これ以上詮索するな」
「動揺し過ぎではないですか。貴方の素が出てしまっていますよ」
やべぇ、素で話してた。
もう遅いよなぁ……これから誤魔化しても無駄だろうし。
セシリアやレイヴンの様子も確認するために式場に入りたいんだよな。
「……セシリア様には恩がある」
「偽りはなさそうですね。何を言ってもその決意は変わらないのでしょう。普通、今日会ったばかりの男の忠告を聞く、なんてこと中々しませんし。ですが、いずれ立ち塞がるであろう壁は強大な存在です。黒雷の魔剣士、まだまだ実力が未知数でセシリアさんと親交が深い彼が相手では……」
それ、俺だっつーの。
言いたいけど言えない、こんな時どんな表情すればすれば良いのやら。
とにかく、シリアスな雰囲気を出しておけばいいか。
「誰が相手かは重要じゃない。黒雷の魔剣士と勝負って話ではないからな。セシリア様に失礼だろ、そんなの」
「それでも、貴方の行く道は厳しいものかと思いますよ。……僕は諦めてしまいましたから、こんな風に発言ができるのでしょう。誰が相手でも諦めない。そんな人が僕にも現れれば、貴方の気持ちが少しは理解できるのでしょうか」
「その辺は自分で考えることだろう。じゃあな」
これ以上ソレイユと会話していたら、変なボロを出してしまいそうだ。
会話を強引に切ったにも関わらず、ソレイユは追いかけてこなかった。
助かったとほっとするも、式場に入り絶望した。
「なんだこれは……」
セシリアとレイヴンに長蛇の列。
おいおい、嘘だろ。
ユウガとミカナの結婚式だぞ、せめて日を改めるとかさ……。
二人は気にせずにイチャイチャ……いや、セシリアとレイヴンが大丈夫かって感じで心配してるよ。
元凶の王様の姿はなし、静めろよこの状況。




