厨二で式場を回ってみた
「待たせたな。俺は来た。黒雷の魔剣士参上だ!」
「……遅いぞ」
これでも急いで来たつもりだったんだが。
ソレイユと別れた後、念のために姿を消して家に戻り、着替えを済ませて集合場所まで跳んできた。
黒雷の魔剣士、依頼は確実にこなすことをモットーにしていたのに。
経歴に傷がついた……だが、言い訳はできない。
この場にはレイヴンだけではなく、普通の騎士団員もいる。
「……すまん、皆は持ち場に行ってくれ。俺は遅れてきた魔剣士殿と打合せをする」
ありがたい騎士団長の一言により、騎士たちは持ち場へと駆け足で向かっていった。
「ふっ、助かったぞ。これで安心して話ができる」
「……何があった。約束の時間を間違えていたわけじゃないだろう。まさか、何者かの襲撃を受けたのか」
「さすがだな、わかっているじゃないか。その通り、厄介な妨害にあってな。なんとか、解決してここまで来た」
「聞くぞ。セシリア関連か」
レイヴンは神妙な表情で聞いてくる。
俺のことを良くわかっているじゃないか。
しかし、残念ながら……。
「半分正解だ」
「……あと、半分はユウガか」
今度はややげんなりした表情だ。
……ユウガのこともわかっているな。
「正解。さすがだ」
「……ヨウキが合流にここまで時間がかかるなんて、よっぽどのことがないとあり得ん」
「俺のことをわかっている。……ただ、一つ言わせてほしい。今の俺は黒雷の魔剣士だ!」
「……そうだったな。では、黒雷の魔剣士殿と警備についての打合せといこうか」
前々から話は進めていたので、話すことはそんなにない。
俺がやることは式場に怪しいやつが紛れていないか捜査することだ。
騎士たちは二人一組で予め決められた場所を警備するが、俺は独立して動き回ることを許可されている。
そうして、怪しいやつを見つけ次第捕縛、レイヴンに報告だ。
「俺はユウガとミカナの近くにいる。何かあったら、デュークごしに連絡をくれ。式場内で動くときはなるべく姿を消すか……いや、ヨウキとして入ってきてくれ」
「何故だ。今の俺は黒雷の魔剣士。二つの顔を操り任務に挑むなど」
「……遅れた理由の半分はユウガだと言ったな。どうせ家まで迎えに行ったんだろう。そして、一度式場に来て、セシリア関連の出来事が起こったんじゃないのか」
全部見ていたんじゃないかと疑いたくなるような推理力だ。
「騎士団長は洞察力だけでなく、推理力もあるらしい」
「……セシリアとヨウキ、それとソレイユ殿が話しているところを遠巻きに見ていたからな。ユウガはまあ……そんなところだろうと」
少しは見ていたようだ。
何の情報も無しに想像するのはやはり、無理があったらしいな。
まあ、ユウガのことは簡単に想像できたみたいだ。
付き合いの長さあってのことだろう、頼りになる。
「さて、そろそろ始めるとしようか。この式場に巣くっている愚者を一人残らず見つけ出して鉄槌を浴びせてくれよう。晴れ舞台に相応しくない者たちは相応の場所に案内するべきだ」
「気合いは充分らしいな。尤も、事件が起こる可能性は低い。俺たちの警備だけでなく、各国からも屈強な護衛たちが来ている。ソレイユ殿も含め、他国の勇者パーティーも来る予定だ。……勇者もな」
そんな中、馬鹿なことをできるやつがいるとは考えられないということか。
……黒雷の魔剣士の出番はないと。
「前も言ったかもしれないが、何も起こらないのが一番なんだ。そこのところを理解して警備に当たってくれると助かる」
不満な表情は出していな……いや、ヘルメットを被っているから見えていないはず。
俺が無意識にそういった空気を出してしまい、レイヴンはそれに気づいたのか。
俺もまだまだらしい、どんな依頼でも迅速に完璧にこなす、それが黒雷の魔剣士だ。
例え見せ場がなかろうとこの結婚式が無事に終わればそれで良い。
俺は握り締めた拳をつき出して宣言する。
「俺の力の全てを使って、この式を無事に成功させよう」
「……頼んだぞ。俺は騎士団長として一番厄介な場所の護衛に着く」
「自ら危険な場に身を置くとはな。して、その場所は?」
「……ユウガだ」
「厄介だな」
実力、判断力、忍耐力がないとそこの護衛はできない
ユウガは何を起こすかわからないので、常に気を張っていなくてはならないし、咄嗟の出来事も瞬時に判断して動かねば間に合わん。
最悪、実力行使もやむを得ない場合を考えると厳しい場所だ。
「……新郎、新婦を守るのは当然なんだが、どうも心配でな。俺の目の届くところにいないと不安というのが正直な話だ」
「成る程、理解した。外はこの俺に任せてもらおう」
「……目立つなよ」
「当たり前だ。今日の主役はあの二人。俺は喜んで影になろう……」
レイヴンにそう言い残した俺は魔法で姿を消した。
この方がかっこいいだろう。
ただ、レイヴンは表情変えずに式場へと向かっていった。
……俺も真面目に見回りするか。
暗殺者、刺客、諜報員、この式場にいる闇を俺が駆逐してやろう。
「そんなことを言っていた時が俺にもあったな……」
式場の屋根で寂しそうに呟く俺こと黒雷の魔剣士。
能力をフル稼働してこの式場をチェックした。
そりゃあ、明らかにこいつ嫁探しに来てるようなやつとか、腹の探り合いをしている腹黒い輩はいる。
しかし、それくらいは許容範囲、事件性がありそうかと問われるとそうでもない。
「むむむ……どうしたものか。これでは活躍の場がないぞ」
式場にいる黒いやつは俺だけ、場違いなのは俺一人。
考えてみたら、結婚式に真っ黒な格好とはいかがなものか。
式場内では盛大な結婚式が執り行われているのだろう。
何も起こらないことは良いことだ。
「ふっ……」
中の警戒も必要だよな、レイヴン。
「ほほぅ」
黒雷の魔剣士からヨウキに戻ったが、念のために姿を消して式場に入った。
花嫁姿のミカナの隣には花婿姿のユウガがいて、二人とも幸せそうな顔をしている。
周りにはどっかの国のお偉いさんか知らないが、高そうな服やアクセサリーで着飾った人たちがたくさんいる。
全員がユウガやミカナの知り合いってわけじゃないんだよな。
本当の意味でこの二人を祝福しているのって何人いるんだろうか。
政治的な目的で来た輩がほとんどだったら嫌だなぁ。
まあ、二人が幸せそうにしているからそれで良いのか。
レイヴンはユウガが何か起こすかもってはらはらしているのかね、視線が定まっていないぞ。
……あ、ユウガが理由じゃなかったな、ハピネスを見ていたのか。
一応、セシリアに頼んで式場のスタッフとして潜入させたんだよ。
レイヴンも式場の人間の動きチェックしてたはずなのに、心配なのかね。
ハピネスはソフィアさんが仕込んでるから、ミスなんてしないって、安心しろ。
ちなみにシークもセリアさんと一緒に来ていたりする。
この式場には俺の息のかかった元部下が何人もいるのだ。
ふっ、この式場で何かをするというならしてみるが良い。
この磐石な布陣の中では何をやっても無駄だがな。
そう……何があっても、俺が、俺たちが解決する。
急にお腹が痛いと泣き出した子どもがいれば。
「は~い」
シークが持っている薬を与え、別室で休み回復。
何人かのご婦人が目を光らせていたのを俺は見逃さなかった。
式場スタッフのハピネスが言い寄られていたら。
「……今日は勇者ユウガとミカナの晴れ舞台だ。水を差すような行動は控えてもらいたい。別室へ案内する」
デュークにユウガを任せたレイヴンは男を連行していった。
あれが静かにキレるってやつか、ハピネスをナンパしたやつはどんまいとしか言えない。
今度はユウガに憧れていた女性。
婚約者にまだユウガへ未練があるんじゃないかと指摘され、泣き崩れてしまう。
その反応はどっちなんだと微妙なところだが、俺はその辺の対策も済ませていた。
「はっはっは、恋に迷える子羊たちよ。今は結婚式。結婚式とは恋の終着点であり、二人の新たな道が始まる場所だ。君たちの悩みは別室で私が聞こう。行くぞ!」
カイウスを呼んでおいて良かった。
ユウガは決着つけたって言ってたけど、恋愛トラブルってどこで起きるかわからんからな。
無理矢理、二人を引き連れていったけど、カイウスなら丸く納めるだろう。
これが俺たちの力だ、どんなトラブルも別室対応で解決へと持っていく。
俺の出番はまだ来てないが、ユウガが目線を動かし、ミカナに何か聞いている。
これは出番かもしれない、会話内容を探るか。
「ミカナ、ヨウキくん見なかった」
「え、アタシは見てないわよ」
「おかしいなぁ、家まで迎えに行って一緒に来たはずなのに」
「はぁ!? 式当日に他の男に会いに行ってなんて……酷いわ」
「いやいやいや、ほら、ヨウキくんのことだから、寝坊とかしてるかなって思ったんだ。僕にはミカナだけだから、機嫌治して」
「……馬鹿ね、本気で言ってないわよ」
「良かった」
熱々新婚夫婦の会話を聞いてしまった。
聞くんじゃなかったとすごく後悔している。
ただ、俺の姿を探してたのか、厄介だな。
一度、ユウガの前で姿を現すか。
そして、自然に消える感じでいこう。
この式場広いし、一回姿を見せればユウガも変に思わないだろうから。
結婚式、相当難産になりそうです……。




