元ライバル候補と話してみた
「セシリアさん、あちらの方が貴女を探していましたよ。何でも彼と一緒で旅の途中、お世話になったらしく、お礼が言いたいそうです。行ってあげた方が良いのではないですか」
冷や汗もんだったが、ソレイユから助け船が出された。
確かにセシリアに向かって、頭を下げてるご婦人が見える。
手を振っている女の子もいるな、多分、あの子の治療をしたとかかね。
「そうですね。では、失礼します。ソレイユさん、ヨウキさん」
セシリアは俺たちに軽くお辞儀をして去っていった。
よし、俺も退散しよう。
そそくさとその場から去ろうとしたんだけど……。
「待ってください」
引き止められた、まじかよ。
やっぱり追及されるか、どう切り抜けたものかね。
このタイミング、絶対セシリアだけこの場からいなくさせて、俺と二人きりになろうとしてやがったな。
自然に自分の望んだ展開に持ち込むか……知的な見かけ通り頭脳プレーを仕掛けてきたか。
「貴方は何者でしょうか。先程の目配せ、親しい間柄ではないとできないものです。ごく自然な動き……親しい間柄と見ました。おそらく、セシリアさんの立場を考え、あまり親しくない振りをしていましたね?」
こいつ探偵か何かか。
目配せだけで、そんな確信を持って言い切れるか普通。
いいぜ上等だ、こっちもとぼけまくってやる。
「いやいや、偶々そう見えただけじゃないかな。セシリア様とは何度かお会いしたくらいで……気にしすぎだと思いますが」
「まず、貴方の口調が不自然だ。普段の話し方をしたらどうです。あからさまに作っている感があって、それではごまかそうにも、ごまかせませんよ」
眼鏡をくいっと上げて、勝ち誇っているような言い方だ。
頭良いアピールかそれは、どうせ俺は魔王城で引き込もってただけの中ボス。
知識量やこういう駆け引きはソレイユが何枚も上手だろう。
だったら、見せてやろうじゃないか、この俺の本気を!
「ふっ、だったらどうだと言うんだ?」
厨二スイッチを入れた、ソレイユは俺の雰囲気が一気に変わったというのに、眉をピクリと動かして見せただけだ。
その冷静な顔がいつまで持つか、試してやろう。
「ソレイユ……だったな。俺にどんな答えを求めているのか知らんが、俺はただの冒険者だ。勇者パーティーの面々とはたまたま知り合いなだけだ」
「セシリアさんだけではない……そんな、ただの冒険者が魔王を倒した勇者パーティー全員と知り合いだなんて。ますます、興味が湧いてきましたよ、貴方に」
「ふん、男にそんなことを言われても全く嬉しくないな。初対面の相手の交遊関係に興味が湧くとは……もっと別のことに目を向けた方が良いのではないか」
「確かに僕は君のことよりも他に優先すべき事項が何個もある。ただ、セシリアさんは僕にとって救世主だ。近くにいる男がどんな存在なのか。興味が引かれてしまってね。君はどうかな、気になる女性に知らない男の影が見えたら、黙っていられますか」
「黙っていられるわけがないだろう!」
「えっ」
会話をしていて初めてソレイユの表情が変わった。
少しだけ驚いた表情を見せたな、次期領主だけあって、すぐに戻った。
「ただ、好きな相手の幸せを本当に願ってるならば……時には姿を見せないことも手だろう。熱くなるだけでは相手のことを想ってるとは言えないからな……そういうことだ」
俺はソレイユに背を向け、片手を上げひらひらと少しだけ振ってその場から去る。
「……はっ、待ってください。貴方、論題を段々ずらしていって、最後にまとめた風を装って逃げようとしましたね」
くそっ、気づかれたか。
心の中で舌打ちをする、まさか、厨二スイッチを入れてもごまかせないとは思わなかった。
今まで厨二スイッチを入れて場が解決しなかったことはなかったんだけどな。
ソレイユか……想像以上の強敵らしい。
腕を掴んでまで妨害しやがって、どうしたもんかね、助けを求めようにもセシリアは行ってしまったし、軽く周りを見渡しても知り合いの姿はない。
つまり俺だけでこの強敵、次期領主ソレイユの詮索を掻い潜り、黒雷の魔剣士としてこの式場に来なければならないと。
これもユウガのやつが原因だ、あの野郎……今度会ったらどうしてくれよう。
……ああ、すぐ姿を見ることになるのか。
幸せ感満載な笑顔で出てくるんだろう、人の苦労も知らずに。
幸せになってろ、リア充勇者!
「何も言わないということは、やはり、ごまかそうとしていたんですね。ここまでして、頑なにごまかす必要がある。誰にも話せないような深い事情があると見ますよ」
考え事をしてたら、ソレイユが俺に止めを刺そうとしていた。
もう振り払って家に帰ろうかな、いや、それだとセシリアに詰め寄るようになるだけだ。
こいつの鋭い眼光……勢いだけじゃ駄目だった。
だったら、勢いだけではなく誠実さも入れるぞ。
「……悪いが、会ったばかりの男には何もないとしか言えない。それに俺はこれから用事がある。行かねばならないんだ。それでも……俺がいなくなってから、彼女に追及するのは止めてほしい。今日は喜ばしい日だ。悩み事を増やしたくないだろうからな、セシリア様は……」
そう言ってセシリアを見る。
少し目を離していただけなのにいつの間にか囲まれていた。
ほらな、セシリアは忙しいんだ。
ソレイユもセシリアが忙しそうにしているのはわかるはず。
あれを見ればセシリアの負担になるようなことをしようとは思わないだろう。
「勇者様とミカナ様のご結婚、大変めでたいことですな。聖母様はどうなのですか。お相手はお決まりなのでしょうか。もし、良ければ家の愚息と一度……」
「いやいや、聖母様。ここは家のと……」
「聖母様、もしよろしければ……」
成る程、そういう関係の集まりで囲っていたと、そーか、そーか……あいつら全員顔を覚えとこう。
「どうかしましたか。随分と恐い顔をしている。私はそんなに不快な気分にさせてしまったのでしょうか。違いますよね。貴方は明らかに言い寄られているセシリアさんを見て苛ついている」
……やっちまった、こいつの前で感情が顔に出てしまうなんて。
どうしよう、苛ついたのは事実でごまかしようがない。
なんて言ったら良い、勢いだけでも、誠実さが入っても……ごまかしきれない。
適当にキレて帰る……それじゃ関係を認めたようなもんだ、万策つきたか。
「……貴方がセシリアさんとどんな関係かはまたにしましょう。このまま問答を続けても意味がなさそうだ」
なんでいきなり引き下がってんだ、こいつ。
「不思議だと言いたげな表情ですね。お答えしましょうか、貴方の顔に書いてあるからですよ。話す気はない、とね。徒労に終わるとわかったので、引き下がることにします。僕もそこまで暇ではないので」
すごくムカつく言い方だが、見逃してくれるならありがたい。
俺はとっとと、着替えてレイヴンと打合せしないとならないんだ。
解放してくれるなら、どんな皮肉でも聞いてやる。
「一つ、忠告をします。彼女は諦めた方が良い」
「良くわからない発言だな」
黙ってられなかったわ。
なんで、こいつにセシリアを諦めろなんて言われなきゃならんのよ。
お前、セシリアのなんだよこんちくしょーって言ってぶん殴ってやりたいわ。
見合いしたからか、諦めたんじゃないのか、ライバル発言か。
ユウガ結婚で安心するなと神は俺に言いたいんだろう。
恋にライバルは必要だと、そういうことなのか。
「そんな怒った顔をしないでください。いや、それだけにセシリアさんへの想いが強いんですね。だったら、尚更伝えた方が良さそうだ。今から言うことは確定情報ではありません……無闇に言いふらすことはしないと誓ってください」
「会ったばかりの俺にそんな約束ができると」
「できますよ。貴方のセシリアさんへの想いは本物でしょうから。セシリアさんが不利になるようなことはしないと考えます」
こいつ、カイウスと一緒に恋のキューピッドやれば良いんじゃねぇか。
洞察力有りすぎだろ、それかよっぽど自分に人を見る目があるっていう自信があるかだな。
……つーか、誰にも言えないようなセシリアに関してのことってなんだよ。
まさか、俺が知らない……旅をしていた時期の情報だったり。
「……話してくれ」
「良いでしょう。……君もミネルバに住んでいるなら、名を聞いたことはあるはずです。黒雷の魔剣士、彼はおそらくセシリアさんと深い関係にあると僕は睨んでいます」
「……」
「何も言えなくなるのも当然ですね。彼は何の前触れなく現れ、難易度の高い依頼を軽くこなし、ミネルバにその名を広めて見せた。実力は勿論、依頼を完璧にこなすことを心がけているという正体不明の謎多き冒険者。極秘情報ですが、彼とセシリアさんは親しい関係のようです」
「……」
「恥ずかしい話になりますが、僕は彼に勝てないでしょう。僕もセシリアさんと未来を歩みたかった……でも、彼には勝てないと悟りました。僕がここまで言うほどの人物が相手なんです。……諦めた方が良いなんて失礼なことを言いました。ただ、相手は強大だと知っておいた方が良い。……話は以上です、引き止めてすみませんでした、失礼します」
言いたいことを言い切るとソレイユは去っていった。
俺は黙っていることしかできなかった。
だって……普通の表情にしていることに精一杯だったからな!
「よし、着替えてこよ」
悩み事が増えなくて良かった。




