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勇者の結婚式に参加してみた

今日はこの国で歴史に残る日になるだろう。



「いやぁー、ついにこの日が来てしまったか」



ユウガとミカナの結婚式、一瞬浮気騒動なんてあったけど、真相が明らかになると世間の声がなぁ。



勇者はミカナ様を溺愛している、一生離れることはない、離れたらどこまでも追ってくる。

……最後のやつホラーじゃねーか。



「紆余曲折あったけど、収まるところに収まったって感じだな」



子どもは秒読み段階だろう……なんてな。



「おっと、こんなこと考えてる場合じゃないな。さっさと準備、準備」



俺はタンスから衣装を取り出す。

あったあった、黒雷の魔剣士セット。



「なんかあったら困るからな。セシリアと考えた作戦だ。俺は陰ながら結婚式を妨害しようとするやつがいないか、監視しないと」



招待客としてユウガから招待状が本人から届けられたけどさ。

俺の立場的にも目立つわけにはいかん、黒雷の魔剣士として騎士団に協力という形で参加だ。



どうせ、結婚式が終わっても身内でパーティーとかやるんだろ。

埋め合わせはその時にするから、今回は悪いが不参加だ。



「レイヴンと打ち合わせもあるし、早く着替えないと……」



「ヨウキくん、起きてる!?」



「うおわぁっ!?」



ユウガの声が聞こえたので、とっさに黒雷の魔剣士セットをタンスの奥へと隠す。

声が聞こえただけだ、一体どこに……。



「あれーっ、まだ着替えてなかったんだ。早く、早く!」



「お前、人ん家に窓から侵入するなよ!」



目立ちまくりなんだけど俺の家。

近所迷惑にもなるから、止めてくんない? 



「ごめん、でも……ヨウキくんが寝坊していたらって思ってさ。来ちゃった」



「来ちゃったじゃねーよ! なんで今日の主役がこんなところにいんだよ。さっさとミカナのところに帰れ!」



「いや、ミカナは今ウエディングドレス着てるから……さすがに部屋の中に入るわけにはいかないよ」



「部屋の外で待ってろ!」



大体、俺とこんな風に話してる場合でもねーだろ。

こいつ普通の服だからな、自分だって着替えないといかないのに、何してんの。



「部屋の外で待ってたら、そういえばヨウキくんちゃんと来てくれるかなって心配になって……」



「ああ……」



思わず、頭を抱えてしまう。

俺はお前にとって何なんだよ、ミカナを第一優先にしろよ。



俺なんて今日は忘れていいから、大人しく祝福されてろ、俺も陰ながらするから。



「わかったよ。じゃあ、ヨウキくんも準備して。僕が送ってくからさ」



「あああ……」



こうなったら、もうスーツを着るしかない。

ただ、飛んでいくユウガに送ってもらうなんてごめんだ。

俺は担がれる方ではない、担ぐ方だからな。



ユウガが飛んでいく中、俺はスーツ姿で街中を走り抜けた。

ユウガに不思議がられない程度の速さでな。



「おお……壮大だな」



教会前にセッティングされた式場はすごいものだった。

式場周りには騎士が配置、入場門では招待客の入念なチェック。



食事も前日、チェックを受けた料理人のみが厨房に入ることができ、今までの経歴も全てが調べられているらしい。

俺も黒雷の魔剣士として、前日立ち合ったから会場を見ていたのだが……こんなところで式を挙げるんだな。



ユウガが俺めがけて空から降りてくる、やべっ、疲れてるふりしとかないと変かな。

汗を拭って、息切れしないと。



「ぜぇーっ、ぜぇーっ、おう、ユウガ。式場……着いたな……」



「うわうわ、ヨウキくん大丈夫。だから、送ってくって言ったのに。ほら、会場に入ろう。もう、食事の準備とかされてるから、水も置いてるからさ」



逆効果だった、ここから急にしゃきっとするわけにもいかず。

ユウガに案内されて会場へと入る。

入場門前にいる式場スタッフに招待状を見せて、入場。

……入っちゃったよ。



「ああ……ここからは一人で大丈夫だから。お前はもう行けって」



「本当に大丈夫なの? 気分が良くなるまで一緒にいるよ」



「主役のお前がこんなところで招待客の看病してることの方が大丈夫じゃないだろ。良いから、行けって。ウエディングドレス姿のミカナも待ってるぞ」



ミカナで釣ればユウガも動く。

案の定、ユウガはわかったよ、無理しないでねと言い残して去っていった。



騒ぎにならんで良かった……まあ、普通のスーツだったし、まさか、招待客もこんなところで今日の主役がうろついてるなんて思わんだろう。



ユウガはいなくなったし、早く家に帰って黒雷の魔剣士になって戻らないと。

……いや、せっかく来たんだし、ちらっと招待客の様子を見ていこう。



怪しまれないよう、食事するふりをして周りを探る。

うーん……明らかな金持ちってやつもいれば場違いだって言われそうな武器屋のおやじみたいなのもいる。



勇者だからか、やはり交遊関係は広いようだ。

……美女、美少女もいるな、ユウガの元ハーレムか。



確か、ユウガは決着つけたって言ってたな。

本人たちは純粋に祝福しにきたって顔だ……問題ないと思いたい。



ただ、女性は腹の中で何を考えてるかわからないって言うし、慎重に判断した方が良いだろう。



まあ、まだまだ招待客は来るから、警戒はしとくべきだ。

さっとだけど、会場も目を通したし家に戻るか。



「ヨウキさん……!?」



「あっ……」



声をかけてきたのはセシリアだった。

セシリアに似合う水色のドレスを着ていて髪も……なんて言うんだろうか。

髪を……アップスタイルって言うのかな、わかんねぇ。



とにかく、髪を紐かなんかでまとめてるんだろう。

ソフィアさんがやったのか、セシリアが自分でやったのか。

どちらにしろ……めっちゃ可愛い。



「何故、ここにいるんですか」



「はっ、見とれてる場合じゃなかった!」



こそこそと会場の目立たないところに移動して事情を説明。

家で準備中にユウガが襲来、強制連行された、以上。



「そうだったんですね。まさか、家に迎えに行くとは……私の配慮が足りなかったようです」



セシリアが申し訳なさそうに……って、それはさ。



「いやいやいや! あいつの行動は予測不可能だって、仕方ないよ。俺、急いで家に帰って仕度するからさ」



だから、そんな顔しなくて良いから。

誰かに見られてたら勘違いされる。

こんなにたくさんの人が来ているんだ、情報好きなやつだっている。



それを仕事にしているやつもいる。

変な勘違いをされたら、セシリアの立場的にも不味い。



「そ、そうですね。ヨウキさんとは親しくないような感じにした方が良いですね」



「ああ、旅の途中、たまたま怪我を治してもらった冒険者ってことで」



即興で作った設定だが、こんなもんで良いだろう。

事前に相談なんてしてないからさ、元々俺はヨウキとしてこの式場に来る予定なかったんだし。



まあ、もういなくなるから設定も無駄になるけどな。

さっさと黒雷の魔剣士になって戻ってこないと。



「セシリアさん、お久しぶりですね」



セシリアと早めに別れれば良かった、まさか、話しかけられるとは。

まあ、話しかけられたのはセシリアだ、俺はこのまま自然に去れば良い。

どうせ、俺の知らない勇者パーティー時代の関係者だろ。



「お久しぶりですね。ソレイユさん」



蒼炎の鋼腕来ちゃったよ。

もちろん、あの格好じゃなくてきちんとした正装だ。



ユウガとは違ったタイプのイケメンで、隣国の次期領主。

結婚相手として超優良物件なソレイユは、蒼炎の鋼腕としてミネルバを騒がせたんだった。



こんなところで会うなんて……勇者繋がりで呼ばれたのか。

どうしよう、ソレイユとは初対面じゃないけど、初対面なんだよな。



ここでセシリアが話している間に退場しよう。

そうしないと……面倒なことになる予感がする。



いい加減、黒雷の魔剣士としてレイヴンのところに行かないと最終的な打ち合わせもできないし。



「セシリアさん、話していたそちらの方は……?」



「あ、はい。こちらの方はですね。私が勇者パーティーの一員として旅をしていた途中に助けた冒険者のヨウキさんです」



ソレイユが俺に注目してしまった。

セシリアが無難な紹介をしてくれたので、俺も無難に答えるか。



「どうも、セシリア様には道中、怪我をしていたところを救われまして……また、その頃は自分の生き方にも迷いを持っていたんですが。セシリア様に相談して救われたんです」



必殺、嘘に事実を混ぜる。

言ってることはほぼ実際にあった話だ、疑われる筋合いはない。



セシリアも安堵した表情、俺がボロを出すとか思っていたのか。

……単純に心配していただけかな、セシリアだし。



だからかね、無意識にこれで良いよなっていう合図を目でしてしまったんだよ。

いつもの癖がピンチを招いてしまう、慌てて目を逸らしたけど大丈夫だったかな。



セシリアも一瞬、やってしまいましたねって顔をしたし。

どうしよう、勇者パーティーの目はごまかせなかったらしい。

ソレイユがすごく俺を見てくるんだけど……。

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