恋人の話を聞いてみた
どっちにしろ公園に来ることになった俺たちはベンチに座っていた。
いや、これどういう雰囲気なんだろう。
幸い人が少ないのはありがたい、子どもたちが教会に足を運んでいるからかね。
「……まあ、変だなーって感じてはいたけどさ」
「どこからですか」
ユウガの大活躍から、首を傾げたかったわ。
……あんな偶然ないよな、良く考えると。
ソフィアさんで確信したな、もうちょっとやり方なかったんですかね。
……俺に気づかせるために、わざとあんな分かりやすいことしたのか。
いや、すごい早業だったけども。
「うーん……ソフィアさんで確信に至ったけど、やっぱり、ユウガかね。いつも、トラブルを起こしているのに、何度も解決する側になるとかさ。人為的な何かを感じずにはいられなかった」
「私はここまで色々なことが道中起こると予想してなかったんですよ。まさか、こんな……」
セシリアが額を押さえている。
一回や二回くらいなら偶然で済んだだろう。
それが何度も続いたから……俺のせいなのか、俺が悪いんだよな。
最近、二人きりで過ごすってなかった。
絶対に誰かがいたり、目的があってすぐに離れたりと……駄目だな、俺。
「皆も協力してくれたんだな……」
「はい。私がその……ヨウキさんと何事もなく平穏な一日を過ごしたいので協力してもらえませんかとお願いしたんです。皆さん、快く引き受けてくれました。ヨウキさんには普段お世話になっているからと」
「俺だけじゃないでしょ」
セシリアだって、俺と一緒に頼み事聞いたり、手伝ってくれたりしたし。
むしろ俺よりセシリアの方が人望高いって。
「……はい。皆さん、ヨウキさんだけでなく、私のためにも協力すると言ってくれました。それで今日はこのようなことに……」
「あー、なるほどね」
そして、沈黙。
俺としてはどう受け止めれば良いのかわからないんだよ。
まさか、セシリアがこんなことするなんて、欠片も思ってなかったし。
セシリアは俺の反応を見てるんだろう。
だったら、俺がなんか言わないとならないな、うん。
「その……なんか、ごめん」
「何故、謝るんですか」
「いや、こう……気を遣わせたみたいで」
「私こそ……申し訳ないです。ヨウキさんに黙ってこんなこと……」
「ううん。俺も最近、二人きりの時間とか上手く作れてなかったからさ。その、セシリアを不安にさせたというか……こういった行動を取らさせた俺が悪いんだよ」
セシリアはいつもなんだかんだで、俺のサポートを引き受けてくれてた。
セシリアを中心に考えて行動をしないで、ひたすらに誰かの手伝いばかりをしてたから。
「いいえ。やはり、私ですよ。……別にヨウキさんが私をないがしろにしていたわけではないんですから。ヨウキさんはいつだって困ってる誰かのために行動してました。私を遠ざけていたわけではないんです」
「いやいや、そこで俺が恋人であるセシリアを第一に考えて行動をしていれば良かったんだよ」
「それではダメですよ」
「なんで!?」
恋人であるセシリアを第一に考えてはダメなんだろうか。
彼氏って彼女を第一に考えるものじゃないのかね。
約束した順番とか、そういうことを考えたら違う話になるかもしれないけども。
「……誰かが困ってるのに、それを無視してまで私を優先するヨウキさんを見たくないです」
「セシリア……」
「それでも、一日くらいは平和に過ごしたいって思っても良いですよね。何回も考えたんですよ。こんな風に皆さんに頼ってまで……」
「俺はこんな日が有って良い。いや、なくちゃダメでしょ。俺だって何事もなく、セシリアと一日過ごしたいし。つーか、最近が異常に忙しいだけだから!」
物語の主人公でもあるまいし、毎日トラブルを抱え込んでるわけじゃない。
俺としては平和にセシリアの入れた紅茶飲みながら、楽しく談笑してたいんだよ。
「私にはヨウキさんに、こう……引き付けてしまう力か何かが働いているのかと思いまして」
「何それ怖い。俺呪われてんの?」
「呪いだったら、私が解呪しますよ」
「あ、そっか。セシリアは勇者パーティーにも選ばれる僧侶だもんね」
「そうですよ」
「そうだった」
二人揃って笑った。
そこからはいつもと変わらず、会話だ。
ユウガの抱き枕事件の話をして、セシリアは苦笑。
後日、ミカナには勝手に古着を使ったことを話すとか。
浮気じゃなかったし、愛されてる証みたいだから、大丈夫だろう……うん。
レイヴンもハピネスと上手くいってるようだ。
屋敷でハピネスが話していたらしい。
ハピネスがデレながら彼氏自慢……そんな姿、見たことないぞ。
女性同士じゃないと、話せないことってあるんだろう。
あと、クインくんがフィオーラちゃんの付き添いでよく屋敷に来ているらしい……。
シークはフィオーラちゃんとティールちゃんの二人から引っ張りだこ。
あいつも大変だな。
「そう言えば、しばらくデュークさんを見かけていませんが」
「デュークなら、ミサキちゃんとの誤解が解けてイレーネさんと組んで騎士団で頑張ってるよ」
事情をどう話したものかと頭を抱えていたが、なんとかなったらしい。
イレーネさんをどうやって納得させたのかは謎だ。
「ん……結構話し込んだみたいだ」
気がつけば暗くなってきている。
そろそろ、夕食を食べないと帰りの時間がきつくなりそうだ。
「そうですか。もう、そんな時間なんですね……」
「思った以上、俺たち喋ることに集中してたんだな」
「あまり、意識していませんでしたね」
「ほとんど、自分たちの話じゃないっていうね」
「はい……でも、私たちはこれで良いんだと思います」
「その言い回しだと、俺たちいつも人の話をして笑ってるカップルになるけど」
「それはちょっと……」
「だよね。……夕食食べに行く前にさ。寄りたいところがあるんだけど良いかな」
「良いですよ」
セシリアの了承を得たところで、俺たちはベンチから立ち上がった。
今から向かう場所は予定を組んでいた時から決めていた。
今日、絶対に向かわねばならない場所である。
そこはある店だった。
サプライズ的な感じにしたいので、セシリアには直ぐ行くからと言って待ってもらう。
店主に代金を支払って、物を受け取り、待ち合わせの場所に戻った。
「一体、何の店に行ってきたんですか」
「ああ、注文してたこれを受け取りに行ってきたんだ。いやぁ、今日じゃないと無理って言われてさ」
俺は店で注文していた物をセシリアに渡した。
……大丈夫だよな、引かれないよな?
「……鍵、ですか」
「俺の家の合鍵」
セシリアに渡したのは合鍵だった。
直ぐに作るのは無理と言われて、デート当日というギリギリな日程になったが、間に合って良かった。
「簡単に家の合鍵を渡すことは関心しませんが」
「いやいや、信用しているし。……セシリアと家具とか小物選びした日。俺、家に帰ったらすごく寂しくてさ。ガキっぽいって思うかもしれないんだけど。……いつでも来ていいからってことで、受け取って下さい」
言い終えると同時に頭を下げる。
まじで、あんな広い家で毎日一人は辛い。
遊びに来てくれるだけで良いから、俺に出来る限りのもてなしはする、絶対。
「……では、これは受け取っておきます。夕食は……外食せずにヨウキさんの家で食べましょうか。早速、この鍵を使いたいので」
よっしゃぁぁぁぁあ!
心の声は口に出さない、出したら迷惑である。
家に食い物あったかな、まだ開いている店から買ってかないと。
「食材、買ってきましょう。まだ、開いているお店があるはずですから」
「えっ、作るの?」
「今日は充分楽しませてもらいましたし、こんなプレゼントも貰いましたから。任せてください。きっと、ヨウキさんのお腹を満足させますから」
「……よろしくお願いします」
その日、セシリアが作ってくれた手料理はやばいくらい美味かった。




