守り神と少女に協力してみた
「じゃ、俺は帰るな……」
もう登録は済ませてしまったんだから、手遅れになったし。
いい加減、完全に引っ越し作業を終えたいんだよ、俺は。
こそこそとギルドの入り口に向かっていたら、がしっと肩を掴まれた。
「待て」
「いや、待てって……もうどうしようもなくねーか」
「守り神様、私の意思は変わりませんよ?」
ほら、ティールちゃんもこう言ってるぞ。
あとは二人で話し合って解決して欲しい、俺は帰って引っ越し作業を終えたいし。
「……ぬうぅ、我輩、納得ができん。何度も言うが冒険者は危険が付き物なのだぞ。冒険者になった姿を見たら、ティールの祖母はどんな顔をするか、想像してみろ。きっと心配だろう」
「おばあちゃん……」
ガイも良くあの手この手を考えるな。
亡くなっているティールちゃんのおばあさんの話までするなんて。
さすがにティールちゃんも少し考えている、心配かけるっていう言葉に反応したか。
まさか、これで折れたりするのか……。
「……わかりました」
「うむ、考え直し……」
「里帰りしておばあちゃんに報告します」
「は?」
「私は守り神様と共に頑張って生きていきますって、報告するんです。あれから帰っていないですし」
「お、おい。ティール」
「守り神様も着いてきてくれますよね」
「……」
ここで俺を見ないで欲しい。
俺には着いていかないっていう選択肢は見えないけどな。
ティールちゃんを見てみろよ、すごくキラキラした瞳でガイを見ているぞ。
こんな目で見られたら拒否できないって。
「守り神様?」
ティールちゃんによる可愛らしく首を傾げるという、とどめの一撃をくらったガイはゆっくりと頷いたのである。
「それでは行きましょう。本当は守り神様と依頼に行くために取った休暇ですが、久しぶりに里帰りします」
ガイは分かるけど、なんで俺の腕まで掴まれているんだろう。
二人から掴まれていて、逃げれないんですけど。
「ティールちゃん、俺も行く感じ?」
「……守り神様と私だけだと村の人たちから何か言われると思うんです。ヨウキさんには守り神様のことを村の人たちに上手く説明してほしくて」
確かに突然全身を仮面やらコートやらで覆い隠した男と里帰りしたら、怪しまれるか。
俺の説明が入れば納得する……かな。
「わかった。ガイのことは俺の知り合いってことで村の人たちに話そう」
「ありがとうございます! 良かった、守り神様。これで村の人たちから、変な目を向けられずに堂々と歩けますね」
「う、うむ、そうだな。説明を頼むぞ、小僧……」
ガイの奴、諦めたのか、声に張りがないな。
冒険者のことは今後、二人で相談して決めてもらいたい。
村の人たちへの説明は俺がするさ……ここまで付き合ってやんよ。
「また……先伸ばしになるなぁ」
いつになったら、引っ越しが完全に終わるんだろうな。
乗り合い馬車に揺られている間、景色を見ながらずっと考えていた。
「久しぶりに里帰りをしました」
道中、魔物に襲われることなく、無事にダガズ村に到着した。
確かに久しぶりだなぁ……なんて言ってる場合か。
「もう夜だぞ。今日はゆっくり休んでティールちゃんのおばあさんへの報告は明日にしよう。二人とも慣れない馬車に乗って疲れているだろうしさ」
「うむ、そうだな。想像以上に揺れて満足に眠れなかった。今日はもう休みたい」
ガイが今日はもう休むに賛成と、だったらティールちゃんも……。
「そうですよね。私も慣れない馬車に乗って少し疲れが出たみたいです。守り神様と一緒ですね。さあ、私の家に行ってすぐに休みましょう」
全力でのっかってくるのは当然だよな。
その勢いに押しきられるような形で、ガイは腕を引っ張られてティールちゃんと共に去っていった。
「さて、宿を探すか」
置いていかれることなど、想定の範囲だった俺は宿で部屋を取り一晩を明かした。
翌日、俺はガイとティールちゃんと合流した……昼過ぎに。
「遅いぞ」
「私はもっと遅くても良かったです」
ティールちゃん、説明のために俺を連れてきたんじゃなかったの。
このままだと、村をうろつけないけどそれでも良いと。
……ガイと二人きりになりたいのはわかるけどさ。
「遅くなったのはちゃんとしたわけがあるんだよ」
二人とも自分勝手なこと言いやがったので、ティールちゃんの家に来るまでの経緯を説明する。
いつも通りの時間に起きたので、寝坊はしていない。
準備をすぐに終わって、問題が起きたのは宿を出てからだった。
どうやら、村人のほとんどが俺を覚えてくれていて、声をかけてきたのである。
まあ、話した内容のほとんどは盗賊討伐のお礼だったんだけど。
「今日、聖母様はいらっしゃらないんですね。会いたかったなぁ……」
「聖母様は来てないのか。残念」
「おやおや、聖母様はいないのか、残念。今度来た時に素敵なワインを用意しておきますよと約束したのですが」
セシリア目当てのやつがやたらと多くて、かなりイライラした。
特に約束したとか言ったやつには、帰り際に闇討ちを仕掛けてやろうかと考えたくらいだ。
また、セシリア目当ての輩だけではなく。
「あら、シークくんはいないのね」
「今日はあのかわいい子来てないんですか?」
「えーっ、シークくん来てないの!」
若い女の子だけでなく、奥様にまで気に入られていたシーク。
なんで俺が今日は来てなくてと言って、申し訳ない感じで頭を下げねばならないのか。
俺もあの時、結構頑張って盗賊討伐したよ、治療も手伝ったんだよ。
まあ、俺のことをちゃんと覚えてくれていて、感謝してくれた人たちもいたさ。
「ヨウキくん、久しぶりじゃのう」
「おお……あの時に助けてくれたお兄さんじゃないか」
「あなたのおかげでおじいさん、今でも元気よ。感謝を忘れたことはなかったわ」
最終的に村の年長者に囲まれた。
確かに年配の人たちを治療してたのは俺だったからなぁ。
囲みを抜けるに抜けられず、しまいには昼食を食べていきなさいと言われたので、遠慮なくご馳走になったと。
「……というわけで昼過ぎになった」
「それならば仕方ないな」
「守り神様と同意見です。村の皆の感謝を無下にしてまで来ていたとしたら、私、ヨウキさんに失望していたでしょうから」
「いやいや、俺、そんなことしないから。むしろ、お土産物まで貰っちゃって、俺が感謝しないといけないくらいだから」
干し肉を、干し野菜を持ってけと言われて受け取ってしまったのだ。
セシリアとシークにも渡しますと言ったら、頼むよと優しい笑顔で見送ってくれたのが、記憶に新しい。
気分が良いな、来て良かったわ。
ティールちゃんから少し引かれるくらい上機嫌になった俺は、三人でガイを紹介するために村を回った。
最初はガイに警戒する人も多かったけど、次第に少なくなっていったな。
ティールちゃんの深い愛にガイが困惑している姿を見たら……。
「守りが……ガイさんを悪く言わないで下さい。この人は私の命の恩人。とても大切な存在で本当は片時も離れたくないくらいなんです。ガイさんと一緒に過ごす時間がとても楽しくて、毎日が輝いている、そう言い切れるくらいの。だから、ガイさんを怪しんだりしたら、私……許さないです。だって、ガイさんは……」
「もういい、もう止めろ、ティール。それ以上は不要だ」
「なんでですか、守りが……ガイさん。村の人たちにわかってもらわないと困るじゃないですか。だから、私のガイさんへの愛を村の人たちが理解してくれるまで、ずっと、ずーっと、話さないと」
「いや、そこまで話す必要はない。あとは我輩と小僧の二人で話すから、ティールは久しぶりに故郷を一人で歩いて……」
「駄目ですよ。ガイさんに何かあったらどうするんですか。村の人たちがガイさんに何もしないって根拠はありますか。絶対なんて言えませんよ。……もちろん、ガイさんのことは信用しています。でも、嫌です。久しぶりの里帰り、ガイさんと一緒に歩きたいんです」
「ぬ、ぬぐぐ……」
「えーっと……あとは俺が説明したいんですけど、構わないですよね。まあ、この状況を見て、まだ何か思う人は……」
うん、いなかった。
誰もが、末永くお幸せにって顔をしている。
俺はいつも見てる光景なので、動揺なんかしない。
その後、ガイの出生に関して聞いてきた人はいたものの、俺の作った話をすると納得してくれたので、安心した。
中には大変だったんだねぇと涙する人もいて、ガイが困っていたな。
俺はすごく申し訳ない気持ちになったけど。
そうして村の人たちへの理解も得られたところで、ティールちゃんのおばあさんへ挨拶しに行こうと提案したんだが。
「もう、行きましたよ。ヨウキさんが来るの遅かったから……朝早くに守り神様と二人きりで」
「朝早くにって……俺のこと待つ気ゼロでしょ」
「小僧、すまぬ」
「いや、謝るようなことでもないし、別に良いけど。どうするか……そうだ、ガイの祠にでも行くか」
「それは、良い考えですね。あそこは私と守り神様の出会いの地であり、とても思い入れが強い場所です。守り神様、行きましょう」
ガイの腕を取り、ぐいぐい引っ張っていくティールちゃん。
恋人……なんだろうか、俺には休日、娘に振り回されている父親に見えなくもないんだけど。
ティールちゃんの前で言ったら、絶対に厄介なことになりそうだから、思うだけにしておこう。
俺は俺のペースで二人に着いていけば良いんだよ、今回はさ。
そんなことを思っていた時期が僕にもありましたって……思う時ってあるんだな。
ガイの祠に着いたんだけど……残念なことに破壊されてるんだよね、俺が作った像だけでなく、祠まで。
ティールちゃんから、見えちゃいけないオーラが出てる。
これは平和に終わらないな。




